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リアクション
【駐屯地にて・5】
「で、結局あなたはジゼルとミリツァ、どっちを選ぶつもり?
女の子の気持ちに応えない男なんて最低だけど、二股かける奴はそれ以下よ」
ソラン達と入れ替わりで桜月 舞香(さくらづき・まいか)に唐突に詰め寄られて、アレクは困惑を眉顰める表情にして返した。
己の変態性癖(に近い何か)が問題なのは分かっているが、何故こういう事に成ったのだろうと近頃思っていたのだ。
――何度ミリツァは血縁の妹でありそのような気は起こらないと弁解すればいいのだろう。
しかし、舞香が続けた言葉は他の人間とは少々異なっていた。
曰く、「妹だろうと家族だろうと関係ないわ」と。
これにはアレクも目を丸くするしかない。
「女の子にとって大事なのはね、誰があなたにとっての一番なのか、って事よ」
『男嫌い』と公言する彼女の言葉は遠慮も容赦も無い為分かり難いが、つまり小姑と妻とどっちを取るのよこん畜生みたいなものだろうか。
舞香は、理想の前に現実を突きつけられて向こう側で(理想の奥様)歌菜に慰められながらどんより落ち込んでいるジゼルを示した。
「どっちも泣かせたくない、なんて男の身勝手な理屈だわ。
そういうのが一番傷つくのよ。
男なら刺されるの覚悟で、本命の子にキスしてあげなさい」
「ちょっと痛いくらいなら我慢出来るけど、俺刺されるのか? 話の展開的には……妹に?」
眉を顰めながら真剣な顔で質問してくるアレクの反応に、舞香が唖然として息を吐き出していると、丁度同じタイミングで佐々良 縁(ささら・よすが)が佐々良 皐月(ささら・さつき)を伴いやってくる。
「どうしたのアレきゅん。顔が白いよ」
「俺元々白いけど」
「そうじゃなくて」
むうと音に出した縁の顔を見て、アレクは舞香の言葉をストレートに受け取り過ぎて逆に歪曲した解釈を口に出す。
「縁ちゃん、俺刺されるんだって。妹に。
別にマゾヒストじゃないから刺されるのは厭だけど、慣れてるし平気なんだよね。死ぬ訳じゃないなら笑って受け入れるべきかな? でも――そしたら場所はちゃんと指導しないと駄目だよな。動脈はマズい。首は脳に空気回らなくなるし、この辺も――」
肺や肝臓辺りを指しながら話しているアレクが果たして本気で言っているのかボケているのかは知らないが、これ以上聞いていても無駄だと舞香は向こうへ行ってしまった。
縁の方は眉を上げながら皮肉めいた笑顔を浮かべている。先に話を切ったのはアレクだ。
「裏行くって?」
「うん、お掃除がんばってくるね☆」
「そうか。掃除機なら幾らでもあるから、ヤバくなったら遠慮なく使ってくれ」
「分かった」
軽く手を振って、その場を後にする縁に、皐月は「もう」と頬を膨らませる。以前アレクに対してつっけんどんな態度をした事を謝罪し仲直りしたいと言っていた縁なのに、あんな軽い調子で会話を終わらせてしまった事に反応しているのだ。
「お仕事おわったら、ちゃんとアレクさんとお話しないとだめだよ? 縁」
そんな風に言われながら縁は頷いているが、頭の中ではまだアレクへ言葉を向けている。
(いつかは、大事な人の手を離さなきゃいけない時も来るけどそれは今じゃないものね。
今までの分、ちゃんと繋がないとね。
これでお別れたら、不本意だもの。
……ね、アレク、君の宝物はみんなで取り返すから)
*
殆どが他所へ向かう仲間への応援や雑談で終わっていった時間の中で、南條 託(なんじょう・たく)だけはアレクに具体的な言葉を向けた。
「あー、オス何とかってのアレクさんの前に引きずってきたほうがいい?」と。
(最後はアレクさんに〆させた方がいいのか、見えないままで終わらせたほうがいいのか)
微妙なところだと託は考え倦ねて、結局本人にストレートに問いかけたのだ。
「うん、俺が殺すよ」
返しもストレートだった。
「そりゃそうだよね」
「俺が前にあれを教導団に引き渡したのは情報の提供をする事で立場を優位にする為と――」
打算を明瞭に口に出したアレクに、託は笑う。
「それからジゼルの為だ。
ジゼルはあの時ゲーリングを殺さないで欲しいと言った。殺人に対して迷いがあるのも分かっていた。だから俺は殺さなかった。
でも今回違う。今度は多分……ジゼルも殺すなとは言わない」
ふむと頷いて、託は未だ少し離れた位置に居るジゼルを見る。託がこのロビーにやってきてから、彼女の視線は常にアレクを追いかけていた。つまり彼女には今、一人の男しか見えていないのだ。確かにあの状態なら他の男の言葉など頭をすり抜けるだろうし、そいつがどうなろうと関係無いだろう。お友達な訳でも無いし。
「りょーかい」
「でも託がやってもいいよ。
結局この作戦において重要なのはヤツではないからな。具体的には施設で『何が行われ、今後どうするつもりだったか』が分かれば良い。その為に必要なのは、情報。情報提供者。
ゲーリングの持ってる大事な情報なんてもう教導団がとっくに引き出しただろう。
搾り滓、脱走犯の元幹部なんてどうでもいい。『間違って殺っちゃった』で問題ない。ヒヒッ」
そんな感じでパートナーが危ない笑顔を浮かべているのを知らずに、ジゼルはキアラの所へ向かう歌菜と羽純を見送って、アレクの隣に戻ってくる。
顔を見上げては笑顔を浮かべる彼女に、託の質問を同じ様にぶつけようかと考え居ていたアレクはそれを引っ込めて同じ笑顔で返すのだった。
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