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リアクション
試着室近くのテーブルにて。
(若葉分校のユニフォームがパン…………なわけない、なわけないっ)
風馬 弾(ふうま・だん)が首をぶんぶん横に振る。彼は今年も煩悩と戦っていた。
(去年のパン…まつりから1年。そう、1年経って、世界の状況や積み重ねた経験、アゾートさんや色々な人との人間関係とか、沢山の変化があったんだ)
前回のパン…まつりでは、パンの後の「…」が気になって惑わされてしまい、パーティに集中できなかった。
でも、成長した今なら。
「今回は同じ失敗は繰り返さないッ!」
精神統一をして、弾はパーティを楽しんでいた。
間違っても「…」の部分を、「ツ」などと妄想しないようにと。
しかし。
「パン…パーティ楽しんでるか!? 総長の(が焼いた)パン…だぜ、ヒャッハー!」
テーブルを回っている若葉分校生が、弾の背をバンバン叩いて行った。
「楽しませてもらってます。パン…………パ……ティ」
言った途端、弾の顔がカッと赤くなる。
(パン…パーティだと…? パン・パーティー……パンパーティー……パンツどころか、パンティー……?!
あうぅ、いけないいけない!)
慌てて、また首をぶんぶんぶんぶん左右に振る。
「あ、あのね今日は僕もパンを焼いてきたんだっ」
パンを焼いてきたのは、恋人のアゾート・ワルプルギス(あぞーと・わるぷるぎす)のためでもあり、煩悩を打ち払うためでもあった。
だけど。
「……真っ黒で炭のようになってるけど、アンパンとクリームパンとジャムパン……なんだ……」
声を震わせて、弾は言った。
「ちょっとオーブンで焼き過ぎて焦げちゃっただけなんだ……」
次第に情けなくて涙声になっていく。お陰で煩悩はふっとんだ。
「食べてね、ノエル」
といって、弾はノエル・ニムラヴス(のえる・にむらゔす)の皿と自分の皿に焦げたパンを乗せた。
アゾートには既にパンが置かれているテーブルから、焼きたてパンをとってきて渡してあった。
「あ、飲み物こちらにお願いします! アゾートさん、何飲む?」
「緑茶が飲みたいな。このパン…に合いそう」
「そうだね、パン………に合いそうだね。それじゃ、緑茶を人数分お願いします」
給仕をしている分校生を引き止めて、お茶を貰い、皆に配ったり。
側でノエルがそっと指導してくれたからでもあるけれど、弾はアゾートに常に注意を払い、気を配っていくのだった。
(私にはパンを貰ってきて下さらないどころか……炭化パン……だと……?
……リア充め爆発しろッッッ!!!)
一方、ノエルは炭化したパンを前に心の中で絶叫していた。
(……はっ。
いけませんわ、私としたことが。オホホ)
そして心の中で我に返って、コホンと咳払いをした。
「黒いパン…ボクも少し貰ってもいい?」
「え、ええ!? これ人が食べるものじゃないから」
突然のアゾートの言葉に、弾は驚いて炭化したパンを両手で隠した。
「おほほほほ(人が食べるものじゃないものを、食べてとくださったのですね、弾さん)」
ノエルは微笑みながらパンを裂いた……中は焦げてはいなかった。苺のジャムの形跡も残ってる。
「中は食べられそうだね。苺のパン…もらっていいかな」
「そ、それはもはやパン、じゃなくてパ……パン……」
パンじゃないパン…をつい思い浮かべてしまい、弾が赤くなっていく。
「どうぞこの苺パン…食べてください。あと、アゾートさんは、どんなパン…が好きですか? 形に拘りますか? それとも肌触りですか?」
「ボクは……」
「う、うううう……」
ノエルのアゾートへの質問により、弾の頭の中は色々なパン…でいっぱいになっていく。
「あっ、あちらでパン…の試着会やっていますよ。色々なパン…が見えますね」
「えっ!? パン…見え…」
ノエルの言葉に振り向きかけた弾だが、すぐにテーブルに自分の頭を打ち付ける。
(煩悩ー頼むから、消えてー)
ごんごんごんごんと打ち付けていく。
「どうしたの? パン…のこと気にしてるの? 中、見せてもらったけど、素敵な作りのパン…に見たよ。キミのパン…ますます欲しくなった」
「あ、アゾートさん、そ、そんなこと……言われたら。あーうううっ」
更に、弾の脳内がアゾートとパン…でいっぱいになっていく。
(アゾートさん、中、見せて……素敵なパン……ああ、あああああ……!)
「弾さんに良い被り物を持ってきました。これで頭を覆えば、妄想も落ち着くと思いますよ。目を閉じてください」
「う、うん! お願い」
ノエルを信じて、弾はギュッと目を閉じた。
「どうぞ」
ふわっとした感触のそれは……。
「う、うわーーーーーっ!」
若葉パンツ、女性用だった。
「あああああああーーーーっ」
それが何だか察した途端、弾は会場から猛スピードで飛び出した。
――そして数十分後に、井戸で頭を冷やして、髪の毛びちょびちょ状態で戻ってくるのだった。
「ここで皆に、若葉分校の新ユニフォームを発表するぜ!」
カラオケマイクを手に、ブラヌが大声を上げた。
「さあ、モデルの皆さん、こちらへどうぞ〜♪」
試着室のカーテンが開き、会場の奥に設置した小さなステージに、女の子が2人あがった。
「似合うかな?」
「若葉マーク付きのTシャツだよー」
若葉Tシャツを着た、美羽と瀬蓮だった。
「うん、似合ってる。可愛いよ2人共」
ワインを飲みながら、アイリスがそう言い。
「綺麗に撮るからね」
コハクは高性能デジタル一眼レフカメラで、2人の姿を撮っていく。
「パン…もあるよ、パン…もネ!」
可愛い女の子に紛れて、若葉マークのパンツを履いた人物もステージに姿を現した。
「今なら試着し放題ナノヨ! しなきゃソンソン」
ステージでくるりと回ってみるが、誰もその人物――キャンディスのことなんて見ていなかった。
「これなんか、刺激的じゃナイ?」
際どいショーツをはいているのだが、可愛い女の子2人のTシャツ姿に何故か敵わないのだ。
「Tシャツとパンツと……それから公式海パン…も作らないとネ! アレナさんはどんなデザインがいいのカシラ?」
ひらひらの下着姿で、キャンディスは友人のアレナに尋ねる。
「そんなの決まってるだろ。アレナちゃんの水着は、若葉で大事なところを隠すだけの水着だ」
分校生の一人が、アレナの肩に手を伸ばして抱き寄せる。
「えっ!? そんな水着が好きなのですか……! それなら、分校生のスクール水着は、それに決定ですね。ろくりんピックもその水着で参加すると思いますけど、宜しくお願いしますね」
「葉っぱで一枚の水着でシンクロナイズスイミング……。面白そうだけど、放送禁止なコトになってしまいそうネ……」
「むしろてめーのその格好こそ放送禁止だろ」
「魅力的すぎたカシラ?」
くるっくるっと回って、ウインクをするキャンディス。
「うげっ、サンプルが伸びるだろ、脱げ」
「てめぇが試着できるサイズなんて用意してねーよ」
「あ、やめて。そんな、よってたかって、ミーからパン…を脱がそうナンテ……ア〜レ〜」
哀れ、キャンディスは倒されて、クロールのようにバタバタ暴れながら、若葉分校生にパン…を脱がされた……。
ユニフォームのお披露目が終わった後。
「写真のデータ、後で送るね。それから、僕達の結婚式の招待状も2人に送るから、来てほしいな」
コハクは美羽と並んで、アイリスと瀬蓮に言った。
「結婚式、行ってもいいの? ありがとー」
「おめでとう。瀬蓮と一緒に、出席させてもらうよ」
アイリスと瀬蓮は笑顔でそう答えて、2人を祝福した。
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