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真紅の花嫁衣裳

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真紅の花嫁衣裳
真紅の花嫁衣裳 真紅の花嫁衣裳

リアクション

「パッフェル! はなむこ、はなよめモデルだって! いこう、いっしょうにいこう!!」
 パーティに訪れていた円・シャウラ(まどか・しゃうら)は、幼児モデルの話を聞き、パッフェル・シャウラ(ぱっふぇる・しゃうら)を誘って式場へと向かった。
「走ると危ないですよ。慌てなくても大丈夫ですから」
 子供達のお世話をしているロザリンド・セリナ(ろざりんど・せりな)が2人についていく。
 ロザリンドは大人の姿のままだが、今回はパッフェルと一緒に円も5歳の女の子と化している。
 卒業生としてパッフェルと遊びに来ただけのはずだったのだが、リーアからもらったドリンクを飲んだら、何故か幼児化してしまったのだ。事故だ。そう事故なのだ。
 ということで、ボランティアは無理なので他の子達と一緒に、幼児として林間学校を満喫していた。
「りょうほうともはなよめはだめー?」
 円が式場のスタッフにお願いすると、花嫁さん2人でも全然構わないという返事が返ってきた。
「やった! パッフェル、レアなしゃしんとれるよ!」
「……うん」
 円とパッフェルは手をつないで衣裳部屋へと入っていき、スタッフとロザリンドにも手伝ってもらい、それぞれ幼児用のウエディングドレスを着せてもらった。
 2人とも、ピンクフリルのついた、黒色のかわいいドレスだ。
「撮影を終えた後、外に連れて行っても良いでしょうか? ドレス汚さないよう、食事はさせませんし、写真を何枚か撮ったら連れて戻りますので」
 ロザリンドはスタッフと交渉をして、ドレス姿のまま、2人を連れ出す許可を得た。

「ロザリン、しゃしんとって、このおはなのところで」
 円はパッフェルと一緒に花壇の前に立った。
「てか、ロザリンにもついっぱいだね。おみやげたくさん、えらい!」
 ロザリンドは山籠もりでもするのかというほどの荷物を持っていた。
 地球の大学で起きた事件の経験を元に、医療や救急道具を大量に詰め込んできたのだ。
「ふふ、おみやげではないのですよ。でも、自由時間が終わった後で、美味しいおやつを作ってあげますから、楽しみにしてくださいねー」
「う……っ、なぜかすなおうによろこべない」
「わたし、てつだうから……」
「うん、おねがい、パッフェル」
 円とパッフェルが小声で相談している間に、ロザリンドは背負っていたリュックの中から、カメラを取り出した。
「二人ともとっても可愛いです。同じくらいの年齢ですが、パッフェルさんの方が少し大きいのですね、姉妹のようです。さ、撮りますよー」
「うん」
「……おねがい」
「パッフェル〜」
 円はパッフェルにぎゅっと抱き着く。
「まどか、かわいい、まどか、かわいい」
 パッフェルも円を抱きしめて、頭を撫でる。
「こっちみてくださいね、はい」
 2人がレンズに目を向けた瞬間に、ロザリンドは2人の姿を写真に収めた。
 それからふと……花壇の先。パーティの方向に目を向ける。
 そこには、挙式を終えたばかりの、花婿花嫁の姿がある。
「ん? ロザリン、パーティきになるの?」
「え? ……ええっと……自分はどうなるのかなーと少し、考えていました」
 ロザリンドは子供の円に少し恥ずかしげに言った。
「しずかさんとは、もうすぐけっこん? よんでね!」
 円がそう言うと、ロザリンドは円のほっぺをツンツンとして「もうおませさんなのだからと」微笑んだ。
 小さな花嫁の2人。
 そして、パーティ会場にいる新婚の2人をみて、ロザリンドは将来の自分の姿を思い浮かべる。
 いつかはお嫁さんになれたらいいなーと。
 その時自分の表情はどうなのかなーと。
 円の様に笑っているのだろうか。
 パッフェルのように、表情は控えめだけれど嬉しそうなのだろうか。
 ……パーティ会場の花嫁の様に、幸せそうな笑みを浮かべているのだろうか。
(静香さん、元気になっていますでしょうか)
 そして、大切な人のことを、思い浮かべる。
「……よし、ロザリン、パーティいこう! あ、たべたりのんだりはしないよ!」
 円がロザリンドの右手をひっぱり、パッフェルが左手を引っ張って、パーティ会場へと入っていった。
 その会場で幸せそうにしていた花婿と花嫁が誰なのか、解らなかったけれど。
 どこかで見たことがある気がした。
「パッフェル、けっこんしきのうた、うたえる?」
「……うん、わかる」
「それじゃ、いこう!」
 円はパッフェルと一緒に、花嫁さんの方へと走って。
 可愛らしい子供の声で、結婚式の歌を歌い、新婚の2人を祝福した。
「ありがとう、ありがとね」
 花嫁が2人に嬉しそうな顔でお礼を言う。
「おねーさんとおにーさん、どこかでみたことがあるよーなきがするからね!
 かんしゃしてねー」
「おめで、とう……いつまでも、なかよく、おしあわせに」
 円が得意げに言い、パッフェルが自分達の結婚式でも沢山もらった言葉を2人に言った。
「うん」
「ありがとう」
 花嫁(晴海)、花婿(レスト)は、幸せそうに微笑んでいた。

○     ○     ○


「リンちゃーん、ゼスタくーん、式場の敷地より外に出たらだめですよー!」
 ボランティアのヴァルキリーの女性が、大声を上げているが、無視してリン・リーファ(りん・りーふぁ)は石碑の後ろに隠れ続けていた。
「いいのか、もどらなくて」
「いいよ、そとにでてないしー。これたべたらもどるしね。はい、ぜすたん」
 3歳児と化したリンは、ロールケーキを一切れゼスタ・レイラン(ぜすた・れいらん)に差し出した。
 テーブルクロスを引っ張って、落して手に入れたものだ。
 ゼスタは5歳くらいの男の子になっている。見かけはリンより結構お兄さんだ。
「ふーん。……お、これうまい! もっともらってこようぜ」
「うん、おいしーね。あとでもらってこよ〜。っと、そのまえに! ぜすたんいこう!」
 食べたら戻ると言ってたのに、リンはゼスタの手を引っ張って、今度は写真を撮っている子達のところに飛び込んでいった。
「はいとりますよ」
 カメラマンが写真を撮る瞬間に。
「はい、わらってわらってー」
 と言いながら、飛び込んで一緒に写真を撮ってもらったり。
「あ、いたいた、リンちゃん、ゼスタくん! 皆のところに戻りなさいー」
「あっかんべー! おばちゃんのいうことなんてきかないもーん」
「おば……こ、こらーっ!」
「キャーっ」
 追いかけてきたボランティアのお姉さん(外見20歳前後)をゼスタと共に振り切って逃げる。
「リン、さすがにあれくらいのおねーちゃんをおばちゃんってよんだら、ダメだとおもうぞ。おまえ、もとにもどったら、おばーちゃんっていわれちゃうぞ」
「いいよ、べつに。だれにもそーみえないしね」
 リンは数百歳なのだが、魔女なので永遠の少女なのだ。
「それよりぜすたん、さっきのケーキ、なくならないうちにもらわないとっ」
 そしてまた、ゼスタの手を引っ張って、リンは走り出す。
 軽井沢に来てからずっとこの調子で、リンは引率者達のいうことは聞かず、好き放題勝手し放題だった。……でも、一緒に幼児化したゼスタとだけは離れなかった。
「こんどはおれがとってくるから、リンはまってろ。……どこかにいくなよ」
「うん、わかった」
 テーブルの上に手が届かないリンに代わって、ゼスタがパーティのテーブルに近づいて、椅子にのっかった。そして、テーブルの上のケーキやお菓子を確保して、ジャンプして下りる。
 リンはその間、新婚の2人を見ていた。
(どこかでこういうのみたなあ……)
 思い浮かんだのは、エリュシオンのハーフフェアリーの村で行われた婚約式だった。
 幼児化しているせいで、記憶が曖昧で……断片的にしか思い出せなかったけれど。
 あの時、自分が言った言葉だけは覚えている。
『健やかなるときも病めるときも、喜びのときも悲しみのときも、富めるときも貧しいときも、愛し、敬い、慰め、助け、命ある限り、真心を尽くすことを誓います』
「はい、リンちゃん。せんりひんー」
 お菓子を抱えてにかっと笑っている男の子の顔を、リンはじっと見つめて思う。
(ぜすたんはもうわすれちゃったかもしれないけれど、あたしはこのことばをちがえずにいたらいいなー)
「ん? どうかしたか」
「ううん、なんでもないよ。ええっと」
 リンは大きく息を吸い込んで。
「ふたりともおめでとーーーー!」
 大きな声で花婿と花嫁を祝福した。
 2人はこっちに目を向けて、ありがとうというように、お辞儀をしてきた。
「リンちゃーん!! こんなところに!!!」
 大声をあげたせいで、ボランティアの女性に気付かれてしまった。
「おおっ、ぜすたん、おにみたいなかおして、おばちゃんがおってきたから、あっちいこー!」
 リンはまたゼスタの手を掴んで、パタパタと走っていく。

 そして今度は木陰に隠れて、2人でお菓子を食べる。
「しゃしんをとってたみんな、かわいかったねー。はなよめさんたちも、きれいだったねー」
 もぐもぐお菓子を食べながらリンが言うと、ゼスタはちょっと悪戯気な顔をして言う。
「リンもはなよめさんになりたくなった? おれのおよめさんになるか?」
「ぜすたん、およめさんにしたいひと、たくさんだよねー。そーちょーさんとか、すいせんのことか、としのかずのこたちとか? あたしもそのひとりかなー」
 リンが笑いながら言うと、ゼスタもちょっと笑みを浮かべた。
「おれんちのおよめさんは……すぐいなくなっちゃうから、リンはおよめさんじゃなくていいや」
 彼の母親は何人もいて、何度も変わっている。――何人も、ナラカに行ってしまっている。
 今のままでは、本当にずっと一緒にいたい子と一緒にいれないことが、子供の心でもわかっていた。
「あはは、リン、かおにクリームいっぱいついてるぞー」
「いいの、さいごになめるなら。さいごのおたのしみ!」
「そっか、それじゃそのおたのしみ、うばっちゃうぜ〜」
 ゼスタがリンの肩を掴んで、顔を近づける……。
「こ、こらー! 何してんの、あなたたちーーー!」
 瞬間。顔を真っ赤にして、ボランティアの女性が飛び込んできて、ゼスタを抱え上げた。
「ぜ、ぜすたん……!」
 ゼスタが捕まってしまったため、リンも観念してボランティアの女性に捕まり、コテージに連れていかれた。
 その後こんこんと説教を受けたのだが、2人とも半分眠っていて全く聞いていなかった。