百合園女学院

リアクション

空京の名所のひとつ、ミス・スウェンソンのドーナツ屋。
通称『空京ミスド』では、
シリウス・バイナリスタ（しりうす・ばいなりすた）とリーブラ・オルタナティヴ（りーぶら・おるたなてぃぶ）、
そしてミルザム・ツァンダ（みるざむ・つぁんだ）が紹介を行っている。

「ミルザムとはここで初めて出会ったんだよな。
踊り子シリウスとしてよく踊ってたっけ。
あのころは、話すとすっごく紛らわしくて面白かったな！」
「ふふ。私も、今でもとても不思議な気持ちです」
シリウスにミルザムがうなずいた。

外見もそっくりで、踊り子の時の「シリウス」の名も同じ。
ゆえに、どっちがしゃべっているのか、
周りの者はよく混乱しただろう。

「わたくしは、今でも実はよくお世話になっていますわ」
シャンバラ宮殿で女官として勤めているリーブラが言う。

「昔はフードをとると剣呑な空気によくなりましたね……。
スウェンソンさんにはよく庇っていただいて、お世話になってばかりですわ」
リーブラもまた、ティセラとよく似た外見である。
昔の女王候補を巡る争いのことを思い出し、ほうっと息をつく。

オーナーのヨハンナ・スウェンソンは、
微笑を浮かべると、３人にコーヒーのお替りを入れてくれた。

「リーブラさん、お気に入りのメニューはあるんですか？」
ミルザムの問いに、リーブラがうなずく。

「バラのジャムのポンチュキはいかがですか？
わたくしたちの家……ポーランドの伝統料理なんですよ。
毎年、季節のイベントでこれを食べる日があるんです」
「ああ、節分の恵方巻や、
ひな祭りのひなあられみたいな感じだな。
うまいからって、ついつい食べ過ぎると大変なことになるけどな」

グルメ番組のようにお菓子が紹介される中、
なぜかバックでは、変熊がミスドのドーナツを食べている。


「今、ここで踊ってもかまいませんか？」
「ああ、オレはかまわないが……大丈夫か？」
ミルザムに言われ、シリウスが目くばせすると。

「もちろんよ！　視聴者のみんなも喜んでくれると思うわ！」
理子がうなずく。

こうして、東京都知事ミルザムは、踊り子シリウスとなる。

もう一人のシリウスの
バックミュージックの歌に合わせ、
踊り子シリウスが踊り終えると。

「どうもありがとう。また、上達されましたね」
「ミルザムこそ、さすがだぜ。
いつか、バンドやろうぜ。約束だ」
「はい。人生、どうなるかわかりませんし。
都知事をしながらでも
私は踊り子としての活動を忘れたことはありませんから」

激務にあっても毎日、踊りの練習をしているというミルザムに、
同じく、歌の練習や曲作りを続けているシリウスがうなずく。
「ああ、あきらめちゃダメだよな。
オレたちがこれまで、いつでもそうしてきたように」

「ええ、踊りは、私の人生そのものなんです。
だから、この姿を通して、皆に何かを伝えられたら。
それが私の望みです」
「ああ、そのためにも平和な世界を維持しないとな！」
ミルザムとシリウスはうなずきあうのだった。


その後、一行は、空京ミスドを出て、
少し離れた繁華街の通りにやってくる。

「ここは、オレも話でしか聞いてないんだよな」
「はい、わたくしが紹介させていただきますね」
シリウスに、リーブラがうなずく。

「ここはわたくしがミルザム様を初めて護衛した通りですわ。
当時は不思議な顔をされましたけれど……。
今は当たり前みたいになっていますね。
未来をみたような、不思議な縁でしたわ」

「そうですね。シャンバラ建国まではいろいろなことがありましたから。
そのあとも、たくさんの危機があって……。
でも、今、こうして笑っていられる。
だから、私は幸せなんです」
ミルザムはリーブラの手を取る。

「今も、いつも助けてもらってばかりですが。
でも、私は私にできる形で、皆様にお返しをしていくつもりです。
だから、これからもよろしくお願いします」
「ミルザム様、そんな改まって……こちらこそよろしくお願いしますね」
リーブラもシリウスに微笑を返した。