校長室
【四州島記 外伝 ニ】 ~四州島の未来~
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【西暦2029年 6月某日】 〜幸せの二乗〜 「やっほ〜!やっし〜♪」 「おー、オリバー!」 駅前で五月葉 終夏(さつきば・おりが)と待ち合わせしていた日下部 社(くさかべ・やしろ)は、しばらくぶりに会う恋人を、笑顔で出迎えた。 ここの所、社も終夏も仕事が忙しくて、中々二人で過ごす時間を作れずにいた。 つい先日、写真週刊誌に交際をスッパ抜かれたため、会うのを少し控えていた、という理由もある。 社は改めて、終夏を見た。 今日の終夏は、水色のワンピースに、薄手の白のカーディガンという、清楚な出で立ちである。 最近の終夏は髪をロングにしているが、くせっ毛なのはいつも通りだ。 (やっぱ、オリバーは綺麗やなぁ……) などと一人で悦に入りながら、社は終夏を車へと誘う。 「今日はすまんかったなぁ、遠いトコロ。疲れてないか?」 「ううん、大丈夫よ。それより、今日は何処に行くの?『どうしても、一緒にいきたい所がある』って行ってたけど……」 「それは、行ってからのお楽しみや♪」 社は終夏を助手席に乗せると、車を出す。 こうして日本に帰ってくるのは、終夏も社も、久し振りだ。 車は駅前の商店街を離れ、郊外へと進む。 「着いたで、ここや」 ものの10分も走らない内に、社は車を止めた。 「ここ……、神社?」 「そうや。ほな、行こうか」 社は終夏を連れて、鳥居をくぐる。 「ここなの?やっしーが来たかった所って……?」 「まあ、ここっちゃあここやけど……。もう少しかな」 社は、終夏を誘うように、参道を歩いて行く。 いつになく無口な社を少し不審に思いながらも、その後に続く終夏。 (この神社に、何かあるのかな……?) そんな事を考えながら、周りの様子に注意を払いながら歩いていく。 程なくして、社殿の前に出た。 今日は平日という事もあってか、社殿の前には誰も居ない。 社務所の窓も閉まったままだ。 「ほな、取り敢えずお参りしよか?」 「う、ウン……」 社に促されるままに手水舎で手と口を清めると、賽銭箱の前に、社と並んで立つ。 何気なく顔を上げ、神社の扁額が目に入った時――。 (あれ……?) 終夏は、違和感を感じた。 改めて、境内をぐるりと見渡す。 「私……。ココ、来た事あるかも……」 「何か……思い出したんか?」 「ウン……。私、この神社、来た事ある……。ここで確か、男の子と遊んで……」 独り言のようにそこまで言って、不意に終夏は振り返り、改めて社を見た。 「あれ……。もしかして……?」 「そうや。あの時一緒に遊んだんは、オレや」 「エエッ!ウソーー!?」 「『ウソ!』やないで、もう!もうちっと早く、思い出してくれよ〜!チョードキドキしたやんか〜!」 「だ、だって、そんな昔の事……しかも、一度来たきりだし……。でも、あの時の男の子が、やっしーだったなんて……」 終夏は、未だに驚きを隠せない。 「でも、ホンマ良かったわ〜。思い出してくれて〜。ここまでして思い出してくれへんかったら、正直どないしよーと思ったわ〜。まーでも、良かったよかった」 笑いながらそう言うと、社は、上着のポケットから、小さなビロードの箱を取り出して、終夏に差し出した。 「それじゃ、頑張って思い出してくれたオリバーに、ご褒美や」 「ナニナニご褒美って?」 「開けてみて」 少し胸をドキドキさせながら、小箱を開ける終夏。 そこには、プラチナにダイヤをあしらった、小さな指輪が入っていた。 「えっ……。これって……!」 終夏の胸の鼓動が、一際高くなる。 社の手が、終夏の両肩を、そっと包んだ。 自然と終夏の瞳が、社の瞳と重なる。 「――世界で一番愛しとるで、オリバー。俺と、結婚してくれ」 社は、終夏の瞳から目をそらさずに言った。 終夏の目に、一瞬涙が浮かび――。 そして、はちきれんばかりの笑顔で言った。 「はい!」 終夏は、社の胸に飛び込んだ。 それから事態は、急転直下に進んだ。 突然、社務所に連れて行かれた終夏は、社の父親と母親と引き合わされたのである。 「な、なんでやっしーのお父さんとお母さんがココにいるの!?」 と驚く終夏に社は、 「なんでって……。ココ、オレの実家やもん」 と事も無げに告げ、 「終夏さん、出来の悪い息子だけど、よろしくお願いしますね」 「いや〜。雑誌で見たときもべっぴんさんやと思ったけど、ホンモノは、もっと美人やね〜!」 と、告白の一部始終を社務所の中から隠れてみていたという社の父と母に、大歓迎された。 そうして事態はあれよあれよという間に進み、あっという間に結婚式の日取りまで決まってしまったのである。 もちろん式場は、この神社である。 「さ、さすがはやっしーのお父さんとお母さん。スゴいパワフルだね……」 「スマンなぁ。親父もお袋も、すっかりはしゃいじゃって。結婚式の件も、嫌やったらそう言ってくれていいんやで」 「ううん、それは大丈夫。どうせ元々、結婚式は日本と四州と両方でやるつもりだったし」 「そやなぁ。四州でやらん訳にはいかんやろなぁ。御上先生とかお嬢とかにも、出てもらいたいし」 「でも、ホントにびっくりしたなぁ。あの時の男の子が、やっしーだったなんて。まるで運命の出会いみたいじゃない?」 「『まるで』やないで〜。きっとアレは、ホンマに運命の出会いやったんや。オレはそう思う」 「そっか……運命の出会い、か……。でもそうやって考えると、なんだか私達、まるでお話の主人公みたいな人生だね?」 「そやなぁ……。子供の時運命の出会いをして、突然パラミタなんていう別世界がやってきて、オリバーと再会して――」 「色んな事があったよね。二子島で金鷲党と戦ったり、空京万博でグランプリ取ったり――」 「それから四州島に行って、オリバーと付き合い始めて……。今じゃオレら、英雄やで?」 「そうだよね〜……。なんか、夢みたい……」 「夢みたいやけど、夢やないんや――夢だったら、困る」 社は、終夏の手をギュッと握りしめる。 まるで、それが夢でない事を確かめるように。 「ウン……。それは困るな、私も……」 月明かりの下、どちらからともなく見つめ合う二人。 やがて二人の顔が、ゆっくりと近づいていき――。 「いるのは分かってるんやで!出て来い、未来!!」 いきなり、社が叫んだ。 「えっ!ウソッ!?ばっ、バレてた!?」 庭木の間から声が上がり、響 未来(ひびき・みらい)が姿を現す。 「やっぱりいおったな、未来!いつから覗いとった、正直に言え!!」 「え、えっと……。マスターとオリバーが境内に入って来たトコロから……」 バツが悪そうに、そっぽ向く未来。 「オマエ、そんな前から覗いとったんか!この間の写真週刊誌の件といい、今度という今度は許さへんで、未来!」 「の、覗きじゃないわ!!私はただ、マスターのオリバーの愛の軌跡を記録に残そうと――」 「それを覗きっちゅうんや!!」 「か、かくなる上は……。逃走!!」 脱兎の如く逃げ出す未来。 「アホぅ!悪魔が主から逃げられる訳ないやろ!!」 「ず、ズルいわマスター!いきなり《召喚》するなんて!これじゃ逃げられないじゃない!!」 「ズルいもへったくれもあるか!そのカメラをよこさんかい!!」 「だ、ダメよ!私には、これをなずなちゃんや円華ちゃん達に報告する義務が――」 「そんな義務は負わんでいい!!」 「いくらお話みたいだからって、ギャグ要素はいらなんだけどな……」 いつも通りのドタバタを繰り広げる社と未来に、終夏は大きなため息を吐いた。 『リンゴ〜ン、リンゴ〜ン』 晴れ渡った空に、教会の鐘の音がどこまでも高く響いていく。 「オメデトー!」 「おめでとう!」 「お幸せに!!」 人々の拍手と祝福、そしてライスシャワーの中を、社と終夏が、腕を組んで歩いていく。 社の実家の神社で、親族だけの神前式を挙げた二人は、予定通り、四州島でも結婚式を挙げた。 初めは、二人にとって思い出の場所である首塚大社で結婚式を挙げようかとも思ったが、『2回目はウェディングドレスを着たい』という終夏の希望で、四州島に出来たばかりの教会で、結婚式を挙げたのだった。 「それじゃ、みんな行くよ〜……。そ〜れっ!!」 天高く、ブーケを投げ上げる終夏。 ブーレを狙って、女の子達が一斉に手を伸ばす。 ところが、終夏の投げたブーケは、女の子達の手の遥か上を通り過ぎ――。 「えっ……?エエッ!?」 後ろの方で、御上と並んで立っていた、泉 椿(いずみ・つばき)の手の中に、スポッと収まった。 「ど、どうしよう真之介さん!アタシ、ブーケもらっちゃった!!」 「いや、僕にどうしようって言われても……」 「そりゃ、結婚するしかないでしょ!」 「け、けけけ結婚!?」 未来に結婚と言われ、目を白黒させる椿。 「これは、『椿さんを、いつまでも待たせていてはいけない』という、神のご意志でしょう」 「いよいよ年貢の収め時ですね、先生」 「茶化さないでくれよ、二人とも〜」 御上の反応に、大笑いする円華と峯城 雪秀(みねしろ・ゆきひで)。 二人は既に昨年、結婚式を挙げていた。 「もしかして……狙ったんか、オリバー?」 「ちょっと♪」 「やっぱり……」 周りから、一斉に囃し立てられる椿と御上。 椿は、もう耳まで真っ赤だ。 「結婚するかな、御上さんと椿ちゃん」 「さ〜、どうやろなぁ〜」 二人に対する『結婚!』コールは、鳴り止むばかりか、ドンドン大きくなっている。 すると、御上が意を決したように、椿の方に向き直った。 「今まで、随分待たせちゃったけど……。椿さん。僕と、結婚して欲しい」 「は、ハイ……!」 コクリ、と頷いて、御上の胸に飛び込む椿。 「「「やったーーー!」」」 会場中から歓声が上がる。 「おおっ!プロポーズしたで、御上さん!!」 「やったーー!!」 抱き合って喜ぶ、社と終夏。 「やっぱ、オリバーは最高やな!……愛してるで、オリバー♪」 いきなり、終夏にキスをする社。 「……私もだよ、やっしー♪」 二人はもう一度、今度はさっきよりも長く、キスを交わした。