リアクション
更科家のジャイアントビッグピヨからのテレパシーは、全シャンバラのピヨに伝達されていた。
そしてそれは、リンドバーグ家のピヨにも間違いなく伝わっていたのだが。
「どうかしたの? ピヨちゃん」
ミーナ・リンドバーグ(みーな・りんどばーぐ)は突然ぴたりと動きを止めて、宙をじっと見つめているピヨを見つけて声をかける。
「ピヨちゃんってば」
「ピヨ? ピヨっ」
何度目かの問いかけに、ようやくピヨは動き始める。
ミーナを振り返り、くりんと首を傾けて、まんまるの目でミーナを見つめた。
きゅぅぅぅぅうううん、という音が聞こえた気がするくらい、ミーナの胸が締めつけられる。
「やーんもう、ピヨちゃんったらかわいいっっ」
衝動的、ミーナはピヨにとびついた。
両手で持ち上げて、見るからにふわっふわのわた毛にほおをすりすり。
日の当たる窓の前でひなたぼっこしていたものだから、太陽の光をいっぱい吸い込んだわた毛はふっくらとして気持ちがいい。
もふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふ
もふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふ
もふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふ
ふもっふ
「わーん、ふわふわが気持ちよくて、止まらないよ〜」
ミーナはうれしい悲鳴をあげつつ、ピヨをもふる。
しかしピヨは、今ジャイアントビッグピヨから伝えられた重大事件(?)を、この家のみんなに伝えなくてはいけなかった。
ミーナの様子を見て、これはちょっと無理そう、と思ったのか。ピヨはぴょいっとミーナの両手から飛び出した。
そしてそのままてってけてーーーと部屋を出て廊下を走る。
ピヨはすばやい。
「あ、待ってー」
ピヨが向かった先は台所で、そこではミーナのパートナーでリスの獣人の立木 胡桃(たつき・くるみ)がテーブルの上でクルミをかじっていた。
ピヨは勢いそのままに胡桃の大きなシッポに激突する。
ぼよよよよよ〜〜〜〜〜〜〜〜ん
胡桃のシッポはふわっふわ。
もっふもっふのふかふかだ。
全力のピヨがぶつかったのに、びくともしない。
だけどシッポから伝わる衝撃に、胡桃はしっかり気づいて、『んっ?』というふうにクルミを食べるのをいったんやめて振り返った。
「ピ?」
「きゅ!?(いつの間にかボクのしっぽにピヨちゃんが!?)」
「ピーピピッ」
「きゅ〜(今度はボクにもふらせてね)」
ピヨは絡まっていたもっこもこのシッポからどうにか抜け出し、胡桃に伝えようとするが、すぐ胡桃にもふられてしまう。
「ピーーーーヨーーーーーッ」
「みゃっ?」
ピヨの鳴き声を聞いて、フクロウのギフト――じゃなくて、ミミズクのギフトのジーク・シーカー(じーく・しーかー)が、止まり木から飛び立った。
すーっと音もなく滑空し、ピヨの声のした台所のテーブルへ舞い降りる。
「みゃ〜」
「ピヨっ!」
ジークなら、ジークならきっと分かってくれる! 話を聞いてくれる!――と思ったかどうかは知らないが、そんなふうにピヨはジークを見た瞬間もがいて胡桃の腕から逃れた。
そしてジークの元へ走る。
「ピヨーーーッ」
「きゅきゅっ(あー、ボクもするー)!」
ジークに走り寄るピヨの姿に、胡桃は察しをつけて自分も走った。
そして2匹同時にジークのおなかへ飛びつく。
「きゅーっ(わーいっ、おしくらまんじゅうだよーっ) ♪ 」
胡桃とジークの間に挟まれたピヨは目をグルグル回しながら高く鳴いた。
「ピーーーーッ(汗」
「あー、いいんだぁ」
小さな胡桃が小さなピヨをもふっている。
台所に来て、その姿を見た瞬間、ミーナはうらやましそうに言う。
そして反対側からは、ジークがピヨの羽(?)づくろいまでしてあげてて。
もういたせりつくせりだ。
最初のうちは仲良し3匹を見て、ほっこりしていたミーナだったが、ジークと胡桃のしまりのない笑顔を見ているうち、とうとうがまんできなくなって、つい叫んでいた。
「ピヨちゃんと遊ぶジークくんと胡桃ちゃん、かわいいよー。
ミーナも、ミーナもいっしょに〜」
実はミーナもとっくにピヨにメロメロなのだった。
それは小春日和の、ある日の出来事。
※ ※ ※
桜葉 忍(さくらば・しのぶ)は夢を見ていた。
夢のなかにはパートナーの
桜葉 香奈(さくらば・かな)や
織田 信長(おだ・のぶなが)、
桜葉 春香(さくらば・はるか)がいて、忍と一緒にどことも知れない部屋で、車座になっていた。
目線は下を向いている。
香奈も、春香も、笑顔でクスクスと楽しげに、まさしく鈴を転がしたような笑声を響かせている。
それが耳に心地よくて、忍も信長も自然と笑顔になっていた。
「いっぱい、いっぱい食べて、早く大きくなってね」
香奈はエサ皿に、まるでピラミッドのように種もみを山盛りにして――それが何かは忍にも分からなかったが、それがピヨのエサだというのは直感的に理解していた――ずずいっとピヨの目の前に差し出す。
ピヨは自分の背丈をはるかに超えたその種もみの山を見上げ、気後れするようなためらいの間をあける。
けれどおいしそうなにおいにつられて、すぐにパクつきだした。
「ふふっ。かわいー」
春香はすぐにおなかがいっぱいになって、前よりコロコロ丸くなったピヨたちを両手ですくい上げ、頭をなでなでする。
もっふもふでふっかふかな手触わり。
ピヨも頭をなでられるのがうれしいのか、目を気持ちよさそうに細めて自分から頭をすりつけていく。
「いろいろな色がいるし〜 ♪」
「うんうん」
「もふもふだし〜 ♪」
「もふもふ〜」
いつしか2人はたくさんのカラフルピヨに囲まれていた。
ピヨたちは2人の手や肩に乗ろうと、懸命に2人の体を登ろうとしている。その様子がなんともいじらしい。
ふふっと同時に笑って、そのことに気づいて互いを見合う。
春香も香奈もほっこりにこにこだ。
「2人がピヨを可愛がっている姿を見てると、なんともいえず、癒されるな〜」
「ああ。まさしく」
しみじみと忍が言った言葉に信長も同意する。
と、ここで信長が突然膝を打った。
「さぁて。ではここで一発、相撲としゃれこもうではないか」
「相撲?」
春香が眉をひそめる。
「ああ、気にするでない。何もおまえたちにとらせようというのではない。
ピヨ相撲じゃ」
「ピヨ相撲?」
「なにそれ。面白そう!」
春香も香奈も目を輝かせて身を乗り出してきたことに信長は気をよくして、さっそく前もって準備してあったらしい、相撲の土俵を書いた紙を胸元から引っ張り出して広げた。
「さあわれこそはと思う名乗りを上げよ!」
「ピイッ!」
「ピッ!」
表情を鋭くしたピヨが、われもわれもと列を成すのを見て、信長は満足そうだ。
「よしよし。二手に分かれよ。ちゃんと同数にだぞ?」
信長のいいつけを守って紙の土俵の左右に分かれるピヨたちを見ながら、信長は忍に言った。
「忍よ、さあどのピヨが勝つと思うか?
おまえはどちらに賭ける?」
「そうだなあ……。
そう言う信長は? もう目をつけてるんじゃないのか?」
「私か? ふふふ。
さて、どのピヨが勝つじゃろうなぁ」
楽しげに笑う。
一生懸命相撲をとるピヨ。
それを、手に汗握って応援する、みんな笑顔で、みんな楽しげで。
目が覚めてからも、その気分は忍のなかに残っていて、長らく忍を幸せにしてくれた。
そして、うちにはピヨがいないことを少しだけ残念に思ったのだった。