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終わりなき蒼空、涯てることなきフロンティア

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終わりなき蒼空、涯てることなきフロンティア
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●数年後の僕たちは、かわらずいい夫婦です

 本日は、ちょうど五回目の結婚記念日になる。
 騎沙良 詩穂(きさら・しほ)と、吸血鬼の少女 アイシャ(きゅうけつきのしょうじょ・あいしゃ)の。
 子どもは二人いる。女の子が二人。
 同性同士ではあるのだが、技術の革新により、カップルが望めば科学的な方法で子どもを授かることができるようになったのだ。いわゆる試験管ベビーであり、両方女の子なのはたまたまだ。
 顔だけ言うなら、姉のほうはアイシャに似て、妹のほうは詩穂に似た。なのに性格は、アイシャ似の姉のほうが詩穂的な性格で、妹のほうはアイシャ的になったのだから面白い。
 家は明るい。詩穂とアイシャはずっと、仲の良い夫婦だ。口論のひとつもしたことがないというのだから、相当なものだろう。
 ところで、仕事のほうはけっこう忙しい。一週間のうち三日も顔を合わせられないときもある。けれどできるだけ、休みはあわせるようにしていた。すれ違いだらけの人生だとしたら、なんのため結婚したのかわからなくなるからだ。
 それに、年一回は少なくとも、長めの休みを取ることにしている。
 この日は、今年の長期休暇の一日目である。
「じゃあ、行こうか」
「ええ」
 大型のトランクをガラガラとひっぱりながら、詩穂はアイシャとならんで家を出た。
 今年はひとつの節目、結婚五周年の記念として、地球のヨーロッパの国々を回る算段になっているのだ。
 子どもたちには悪いが、ふたりのことなら心配はいらない。旅行の間中、ベビーシッター役のセルフィーナ・クロスフィールド(せるふぃーな・くろすふぃーるど)が面倒を見てくれることになっている。
「行ってらっしゃいまし」
 セルフィーナが戸口で手を振っていた。
 幼い姉妹ふたりも、よくわからない様子で手を振っていた。今夜はふたりとも、詩穂とアイシャの不在を知って夜泣きするかもしれない。そうしてセルフィーナを手こずらせるかもしれない。
 けれど昨年の不在時も、泣くのは最初の一日だけで、あとはまるで平常通りに姉妹で遊んでいたということだ。今年もそうなるのではないかと詩穂は期待している。
「後のことは頼んだよ」
「お土産、買って帰りますからね」
 詩穂とセルフィーナはそれぞれ、おそろいの日傘を差してトランクを引いた。
 もうじき迎えのバスが来る。乗り込んだところから旅行がはじまる。
 どんな旅行になるだろう。
 とりわけ、アイシャはヨーロッパがはじめてだということではしゃいでいた。
 ――たくさん思い出を作りたいな。
 詩穂は思った。
 この旅行の思い出だけじゃない。
 これからも、ずっと、いつまでも、アイシャと思い出を作っていきたい。
 それが詩穂の願いだ。