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狙われた乙女~ヴァイシャリー編~(第1回/全3回)

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狙われた乙女~ヴァイシャリー編~(第1回/全3回)

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第6章 怪盗の狙い

 百合園女学院生徒会執行部、通称白百合団に所属するメンバーのうちティアレア・アルトワーズ(てぃあれあ・あるとわーず)アルメリア・ソプラゼ(あるめりあ・そぷらぜ)ロザリンド・セリナ(ろざりんど・せりな)の3人は、団長の許可を得て、怪盗舞士の被害にあった家を訪ねて回っていた。
 ロザリンドのパートナーテレサ・エーメンス(てれさ・えーめんす)も、団には所属していないが同行している。
 数日かけて被害者宅を回り終えた後、喫茶店で情報の整理を行なうことにした。
「聞き込みで得られたこと自体は少ないけれど、その結果が1つの情報ですね」
「言いたくなさそうな人が、多かったよね」
 ティアレアの言葉に頷いて、外見7歳の魔女であるアルメリアが聞き込みの内容を記したノートを開いた。
 手紙の内容、盗まれたもの。それから被害者の反応についても別のページに記してある。
「手紙の内容は、全て抽象的でしたね。『美しき乙女の涙』とか『悲恋の姫の淡夢』とか」
「そういう名前の絵とか美術品じゃないみたいなんだよね、盗まれたもの」
 アルメリアがうーんと考え込む。
「被害者にだけ価値のあるもののようでした」
 同じくメモをとっていたノートを開いて、ロザリンドが見解を述べ始める。
「予告状には殆どが女性を表す言葉が入っています。ただし、女性自身を盗んだことはありません。また、ラズィーヤさんに届いた予告状のみ、『最も大切にしている物』と、言葉どおりであるのなら『物』を指定しています。それからカードと共に色とりどりの花が入っていたのは、ラズィーヤさんだけのようですね。また決行日までかなり時間があります」
「それと、最も大事なのは」
 テレサがアイスレモンティーをかき混ぜながら真剣な表情で言う。
「怪盗はどうも超美形らしいってこと! 長身で美形で、能力に秀でてるってことは、女には不自由してないだろうし。女性狙いってわけじゃなさそうだよね〜」
 言って、テレサは笑い出す。
「いえ、美形かどうかは、はっきりとは解らないようでしたけど。目の周りをマスクで隠しているようですので」
 ロザリンドも笑みを浮かべながら、ノートにテレサが聞き込みまくっていた怪盗が美形かどうかの情報についても、書き記しておくことにする。
「でも、顔立ちは整っているようだったって、皆言ってたしね! 期待できると思うわ。目立つ格好、目立つ容姿、予告状、抽象的な文章〜。そんなに興味を惹かきゃモテない理由でもあるのかしらね〜。おねーさん、アイスティーお代わり」
 テレサは空になったグラスを振りながら店員を呼んだ。
 ロザリンドはペンを走らせる手をふと止めた。
「犯人は自信家で、自己顕示欲の強い人かと思っていましたが……それだけではない気もしてきました、ね。聞いた限りでは、能力もそれほどまで凄いものではなさそうに感じましたし」
 そうティアレアに目を向けると、ティアレアも深く頷いた。
「被害者があまりこの件に関して積極的に話そうとしないことも、なんだか怪しいですよね。盗まれたものについても、縫ぐるみが1つとか、ドレスが一着とか。ご本人達にとって大切なものではあるみたいですが、どう大切なのかについては、皆曖昧な答えでした」
「盗まれたものはバラバラだけど、被害者に何か共通点とかあるのかなぁ?」
 アルメリアはジュースを飲みながら小首をかしげた。
「次の予告状が届いている家も含めて、共通点を調べてみるべきかもしれません。とりあえず、私は優子様の所に報告に向かい、警備を手伝おうと思います」
「よろしくお願いいたします。私はメッセージカードや花などについて、もう少し調べてみます」
 ティアレアは次のターゲット宅へ、ロザリンドはヴァイシャリーの街での情報収集に移ることにした。

「あ、百合園の子達だ」
 喫茶店を出て、二手の分かれようとした4人だが、テレサの言葉で街中で聞き込みを行なっている少女達に気づく。
 百合園女学院の女性数人と、男子も交えた他校生数人のグループだった。中心にいるのは、確か怪盗舞士に夢中な少女――アユナ・リルミナルだ。
 黒い髪、褐色の肌の少女が、強引に……恐らく吸精幻夜を使って若者から何かを聞き出している様子に、ティアレアとアルメリアは眉を顰めるも、少女達は楽しげな様子ですぐにその場から去っていった。
「白百合団員以外にも、怪盗舞士のことを調べている方々がいるようですね」
「単独で危ないことをしたりしなければいいのですけれど」
 ティアレアとアルメリアは僅かな不安を感じながら別れたのだった。