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横山ミツエの演義(第2回/全4回)

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横山ミツエの演義(第2回/全4回)

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かわいい女の子の応援で百人力


「ここから見て、俺達は要塞の右の城壁を攻める」
 呉軍、孫権の示す方角に、ギルガメシュ・ウルク(ぎるがめしゅ・うるく)は眉をひそめた。
「何だ、正面ではないのか?」
「正面はミツエの本軍だ。不満そうだな。ま、我慢しろよ。よし、行くぞ! 遅れるなよ!」
「言われるまでもない」
 ぐるっと回り込み奥の城壁を攻める蜀軍が先頭を行く。続いて呉軍、魏軍。
 敵による上からの攻撃は被害も大きいと思われるがギルガメシュは望むところと不敵に笑った。
 雲が晴れだした頃、本軍からの角笛により進軍が始まった。
 色とりどりにライトアップされた要塞は、流れる雲に反射して七色に煌きまるで虹の上に聳え立っているように見える。これから攻め落とす相手だというのに、やけに幻想的だった。
 圧倒されてはいけない、とギルガメシュは後ろの兵達を鼓舞する。
「功績を挙げた者には黄金将軍であるこの私のおっぱいを生で見せてやる! 行くぞ者ども! 城壁を打ち崩し、上から見下ろす愚か者どもを引き摺り下ろすのだ!」

ウォォオオオオッ!!

 ギルガメシュが危惧した通り、やや気圧されていた不良達は現実の欲望に目を覚ましたように歓声をあげた。
 さらにそれに負けじとカリン・シェフィールド(かりん・しぇふぃーるど)も高らかに宣言する。
「さぁ、野郎ども! あの城へ一番乗りした奴は、あたしをハグする権利をあげるよ!」
 木刀を高々と掲げれば、バイクの音も掻き消えそうな雄叫びが返ってきた。
 カリンは併走するパートナーのメイ・ベンフォード(めい・べんふぉーど)をちらりと見やってさらに付け加えた。
「今ならこのメイも一緒だ!」
「ちょっ、勝手なこと言わないでよっ」
「まあまあ。ほら、みんなやる気になっただろ?」
「もう百回も言ったと思うけど、あたしはあんたのおもちゃじゃなーい!」
 メイの怒りなどするりとかわし、カリンは悪戯っ子のように笑った。
 先頭の孫権は後ろで急に高まった士気に不思議を感じながらも、目前に迫った攻略地点に気持ちを切り替えた。何があったかはともかく、士気が高まったのは良いことだ、と。
 参道を過ぎ、さらに先の正門前に待ち受けるティターンを迂回して右側の城壁へ走る。
 その時、ティターン族の一人が呉軍を追いかけてきた。さらに城壁の上から敵兵の魔法が雨のように降り注いでくる。城壁の下にも迎撃部隊がいるようだ。
 カリンはすぐにメイに指示を出した。
「メイは城壁の敵兵を! あたしは後ろの巨人を潰してくるよ!」
 メイに反論する気はなかったが、カリンは返事も聞かずに手勢三千人を割いてUターンをした。
 丸太のような金属バットを振り上げ、突進してくるティターン族。
「これ以上先には進ませないよ! 足を狙え! 泣かしてやれ!」
 手本を示すようにカリンは相手の脛を狙ってスパイクバイクを加速させた。
「元波羅蜜多タイタンズをなめんなよ!」
「知らないね!」
 十メートルの巨体に突っ込む三千人の群れは、もしかしたら無謀だったかもしれないが、ここでこの巨人を倒せば多大な貢献となるのは間違いない。
 一方先に進んだメイは、カリンの残りの七千人も引き連れて城壁の魔法部隊の相手をしていた。そして気づいたのだが、魔法部隊と言うくせに、降ってきたのは火炎瓶や爆竹だった。
「まったくもう、冗談きついっての!」
 文句を言いながらもメイは自隊の中の魔法部隊を指揮し、他は城壁下の敵兵殲滅にまわした。

 呉軍はもっとも応援の声が大きい軍だった。
 地球にある歴史系ゲームに出てくる中で三国志の登場人物の一人、小喬のコスプレをした秋月 葵(あきづき・あおい)エレンディラ・ノイマン(えれんでぃら・のいまん)と腕を組み、簡易お立ち台の上で応援歌を踊っていた。エレンディラは大喬のコスプレだ。
「みんな〜♪ 私の歌を聞けぇ〜☆」
 不意にどこからか用意したマイク片手に元気いっぱいに呼びかけた葵に、ビクッと肩を震わせるエレンディラ。今の格好が恥ずかしいのだ。
 葵はエレンディラにもマイクをわたし、綺麗な笑顔で死刑宣告にも等しいことを言った。
「さぁエレン、兵を動かす周瑜のために私達は命を懸けて歌って踊って応援するよっ」
「えぇ!? う、歌って踊って……ですか?」
 みるみる顔を赤くしていくエレンディラだったが、葵は彼女の手にしっかりとマイクを握らせたのだった。
 葵とエレンディラの一万五千の兵を任された周瑜 公瑾(しゅうゆ・こうきん)は、ますます奮起していった。
 進軍前に孫権と短いながらも持てた会話の時間への嬉しさもある。むしろ孫権の方が周瑜と再会できたことに喜んでいたか。その時に携帯番号とメルアドも教えてあるから、何かあったら連絡がくるだろう。もっとも、戦闘中にかけられても気づかないかもしれないが。
 それはともかく、周瑜はメイが敵魔法部隊の数を減らしてくれている間に、孫権とギルガメシュと連携して城壁下の敵兵に攻めかかった。
「我々は、パラミタの真の解放を掴み取るのだ! 生徒会からの悪しき呪縛を! 我が正義の剣によって!」
 とてもかっこいい周瑜の檄は、不良達にはこう受け止められた。
「おっぱい動画を手に入れろー! 葵ちゃんとエレンディラちゃんも、ちょっとだけ見せてくれるってよ!」
 話がずいぶん変わってしまってた。
 ミツエや他に自ら宣言している者達はともかく、葵とエレンディラについては兵達と後できっちり話し合う必要があることを、周瑜はしっかり記憶しておいた。