校長室
『君を待ってる~封印の巫女~(第3回/全4回)』
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第11章 現れし扉 「あなたは『災い』なんかじゃない。私達と同じ『人間』よ!!」 混乱が続く中、コトノハ・リナファ(ことのは・りなふぁ)は声を限りに叫んだ。 夜魅と友達になりたいから、そして青空を見せると約束したから、彼女を守りたかった。 「全ての元凶は鏖殺寺院。今の夜魅は彼らの言いなりになっているのと同じなの。私は…そんな仕組まれた運命から夜魅を助けたい!」 「夜魅は自分が『災い』と完全に思い込んでいる。だから人々の『負の感情』を力に変えることが出来る。このままでは本当に『災い』として処分されてしまうだろう」 だが、コトノハはそれを望んでいない。それがパートナーであるルオシン・アルカナロード(るおしん・あるかなろーど)には痛いくらい感じられた。 「だとしたら、我がする事は一つ……」 コトノハと共に夜魅を助ける事、だ。 「歪められた夜魅の運命を斬り開く為、夜魅と『災い』の『絆』を断ち切るわ!」 今の夜魅は災いと契約している状態だと、コトノハは考えていた。 だからこそ、夜魅と災いとを断ち切れば……解放出来る筈なのだ。 「ね、夜魅……私を、私達を信じて!」 その為に、コトノハは夜魅に声を限りに呼びかけた。 「夜魅殿、コトノハ殿を信じるであります!」 それをロレッカ・アンリエンス(ろれっか・あんりえんす)が後押しする。 「夜魅殿のやろうとしている事は、夜魅殿の力だけでは難しいのであります。ですからどうか、自分達を頼ってください。友達……でありますから、助け合う事は当然なのであります」 「楽しいこと、それは皆が笑顔になること。皆が笑顔になるのは『幸せ』を感じた時。夜魅が闇から解放されたら、私は『幸せ』……だよ!」 『■せ……?』 「そう、『幸せ』!」 『しあ……』 不意に夜魅の声に混じっていたノイズがクリアになった。 自分の声が、皆の気持ちが届いたのだと、コトノハは思わず口元をほころばせた。 「……少し気になったのでありますが……夜魅殿に何か……。封印を破壊すると結界から出られる……とか災いを操る方法……とか、そんなような事を教えた方が、なんとなくいるような気がするのでありますよ」 ロレッカは夜魅の様子にホッと安堵しつつ、クゥネル・グリフィッド(くぅねる・ぐりふぃっど)に囁いた。 「夜魅殿、夜魅殿は何か……不思議な感じの声などを聞いた事がないでありますか? 色々教えてくれた、とか」 『おししょーの事?』 「おししょー……お師匠でありますか?」 『うん。頭が良くて色々な事を教えてくれるの……そういうのおししょーって言うんでしょ?』 「確かに吾輩はそう呼ばれておるがのぅ」 「お師匠、問題はそういう存在がいるという事であります」 もしいるとすれば、その者は今もどこかでこの現状を見ているのだろうか? 「ぜひ姿を現して欲しいであります! ふるぼっこであります」 そうロレッカが怒りに拳を震わせた時、だった。 『何?!』 影がカーテンのように、夜魅を包み込んだのだ。 「いやいやいや、困るんですよねぇ」 その黒いカーテンの上、一人の男が立っていた。 黒いシルクハットに黒い燕尾服に黒いシャツに黒い帽子に黒い靴、そして止めとばかりに黒いマント。 「折角良い感じに事を運んだのに、ここでひっくり返されるわけにはいかないんですよ」 黒い紳士は、芝居がかった仕草で首をすくめて見せた。 「何者だ」 コトノハを庇うように立ち、鋭く詰問するルオシン。 「夜魅殿をだました悪人でありますか?!」 「鏖殺寺院……やはり出てきたようじゃな」 クゥネルがすかさず撃ったショットガンは、黒衣の男をすり抜けた。 「ムダですよ」 「むぅ。しかし、目的はやはり、扉の開放なのですじゃ?」 「察しが良い人は好きですよ」 そうして男はショーを披露するマジシャンのように優雅に一礼すると、夜魅へと優しく言葉を投げかけた。 『おししょー?』 「貴方、自分が人間だとでも思っているんですか?」 「!? 聞いちゃダメ、夜魅!」 咄嗟に授受は叫んだ。 「今まで何かおかしいと思ってた。騙されちゃダメ。あんたは災厄じゃない。災厄を身体に入れられただけ」 「そうでしょうか、本当に?」 バジリスクがポスッと空気が抜けたような音と共に、次々と形を失くしていく。 代わりに影が……濃い影が当たりに立ち込める。 「その身体は御柱さんのもの。その身体を動かす動力は、彼らのパートナーさん達の命……貴方自身のものは何もありゃしませんよ」 いっそ優しく、夜魅の耳元で囁く。 「思い出して下さいよ。貴方は化け物……大いなる災いなんですよ」 『……あ……あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?』 ビクン、と一度大きく震えた身体。 大きく見開かれた瞳は虚空を見つめ。 ただ悲鳴だけがその口からもれる。 そして、その背後。 巨大な扉が、現れた。 「ん♪ ん♪ ん♪ 良い感じです」 色々と仕込んできた甲斐がありました、影使いは楽しそうに笑った。 「まがい物でも何でも、巫女の形をしていますからね。上手くいって良かったです」 「扉を開く時、夜魅殿はどうなってしまうのでありますか!」 「これは代償……扉を開く為に捧げられる供物ですから」 当たって欲しくない不安ほど的中してしまう……ロレッカは唇を噛みしめた。 「そんな事、させません!……え?」 剣を構えるアリアの前、虚ろな表情をした生徒達が、扉……夜魅との間に立ちふさがった。 同時に蝶が……闇色をした大量の蝶が、乱舞する。 身体を痺れさせる、毒を撒き散らしながら。 「もう直ぐ扉が開きます。大人しく観賞しませんか、特等席ですよ?」 「夜魅!」 口上を遮り、授受が友の名を呼んだ。 「皆きっと戦ってくれる。夜魅、あんたも戦うのよ。いつまでも閉じこもってたらダメ。何も変わらないわ」 闇が夜魅を覆い尽くそうと、その身体を呑みこもうとしている。 それはさせないと、声を限りと叫ぶ。 「少なくともあたしは、あんたと一緒に戦うつもりよ。友達と協力して、自分の自由のために戦う……最高に楽しいじゃない! さあ、行こう!!」 瞬間微かに、夜魅がピクリと動いた気がした。 「自分は、世界も壊させませんし、夜魅殿も助けます。無茶苦茶かもしれませんが、無理を通して道理をなんとやら……でありますよ!」 「言っておきますが、俺達はあきらめませんよ」 声よ届けと、ロレッカは宣言し。真人もまた傲然と顔を上げた。 白花も夜魅も助けたい。欲張りだろうけど、最後の瞬間まで諦めるつもりはなかった。 「おやおや得てして読者は悲劇を好むものですよ?」 「そんな事、ありませんよ。……誰もが笑顔で終われる最高のエンディング。物語はハッピーエンドで終われなければね」 真人はキッパリと言い切った。 このまま幕引きなんてさせないと、ハッピーエンドを掴み取る為に。
▼担当マスター
藤崎ゆう
▼マスターコメント
お待たせいたしました、藤崎です。 今回は力の入ったアクションばかりで、嬉しい悲鳴を上げました。 クライマックス!、仕様でお届けしましたが、次回結末は皆さまの選択に委ねたいと思います。 展開次第ではその先……追加シナリオで異空間に影龍退治に行ってもいいのかなぁ、とかチラっと思いましたが、それも皆さまのご希望次第です。 とりあえず次回は最終回です。何が間違っているとか正解だとかではなく、それぞれ成したい事を選んで行動して欲しいなぁ、と思います。 ではではまた、お会いできる事を願って。