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ホワイトバレンタイン

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恋人たちのバレンタイン

 レオンハルト・ルーヴェンドルフ(れおんはると・るーべんどるふ)はミス・スウェンソンのドーナツ屋……通称ミスドで朝食を食べながら、イリーナ・セルベリア(いりーな・せるべりあ)に疑問を口にした。
「今日、シルヴァたちも誘ったのだが、意味ありげな笑みをされて追い出された。……なんだったんだろうか?」
 街も妙に浮き足立ってるし、おかしな日だとレオンハルトは思っていた。
 その頃、シルヴァ・アンスウェラー(しるば・あんすうぇらー)ルイン・ティルナノーグ(るいん・てぃるなのーぐ)と一緒に義理チョコ作りをしていた。
「あはは、イリーナさんも可哀想ですね。バレンタインだとも気づかない朴念仁で」
 甘すぎが苦手なレオンハルトのために、これでもかと砂糖を入れ、少し生クリームを入れてかき混ぜる。
「でもシルヴァ様、どうしてシルヴァ様がレオ君にチョコなのかな? なのかな?」
「勿論、嫌がらせ、です★」
「流石シルヴァ様だー♪」
 ルインはシルヴァを賞賛し、チョコ作りのお手伝いを始めた。

 イリーナたちは朝食後、ゆるパークへと向かった。
 うさぎやクマのゆる族を見ると、イリーナは走り出した。
「レオン見てみて、可愛いぞ。モフモフだぞ!」
「……微妙に何が可愛いのか分からん」
 レオンハルトはそう言ったが、小さな犬系のゆる族が寄って来ると、それだけは少し興味を示して撫でた。
「レオン、犬は好きなんだ?」
 白いうさぎ型ゆる族を抱きしめながらイリーナが尋ねると、レオンハルトは頷いた。
「うむ。犬は良い。忠誠心もさる事ながら、目に感情があるからな。実に和む」
「目に感情か……。それなら本物の犬の方がもっと好きかな? 今度、シェルティを連れて遊びに行こう」
 ゆる族と遊んだり、アトラクションを楽しんだりしているうちに昼が来たので、2人はお弁当を食べることにした。
 今回もイリーナがお弁当を作ってきていた。
「今日は軽めのものがいいかなと思って」
 イリーナはBLTサンドと温かいスープ。それから、レオンハルトに合わせて淹れてきた食後の珈琲をシートに並べた。
 レオンハルトはBLTサンドを一口食べ、イリーナのお弁当に点数をつけた。
「62点」
「う……」
「前回より上達の色は見られたが、レタスの水切りが甘く、トマトのスライスが厚過ぎだ。せっかくトーストしたパンの風味をなくす原因になる。それと……」
 ばっさりとレオンハルトが評価し、イリーナは黙って聞いていたが、最後にレオンハルトはこう言った。
「評価と言うのは正確である事が最上の誠意だ。美辞麗句を並べるは容易いが、相手の為にならん」
「あ、……うん」
 最後にイリーナは小さく頷き、最上の、と言う言葉にちょっと笑みを浮かべるのだった。
 お弁当を食べ終わった後、2人はシートに転がって話をしていたが、気づくとレオンハルトがうたた寝していた。
「ん……」
 膝枕とかしたら起こしちゃうかな、と遠慮しつつ、イリーナもそばに転がり、うとうとし始める。
 気づくと二人ともうたた寝していて、イリーナはレオンハルトの腕に抱かれるように眠り、お互いの体温を感じあって、幸せそうにお昼寝したのだった。

 目覚めた後、2人は再び、ゆるパークを回り始めた。
 ゆるパークにはどうでもいい3Dジオラマとかお土産しかないのだが、それでも2人で回るのは楽しいのか、気づくと夕暮れ時になっていた。
「観覧車に乗りたいと言っていなかったか、イリーナ」
「あ、うん」
「では、急ぐぞ」
 レオンハルトが先行して歩き、イリーナがそれに付いていく。
 向かい合わせに乗り込んだ2人だったが、少しして上にあがっていくと、イリーナがレオンハルトに尋ねた。
「そっちに行っていい?」
「構わんが?」
 不思議そうなレオンハルトの隣にイリーナは座り、そっと肩に頭を乗せて寄り添った。
「……どうした?」
「こうしてみたかったから……」
 答えるイリーナを見て、「それでは景色が見えんだろうに」とレオンハルトが小さく笑い、イリーナの頭を抱き寄せる。
 観覧車が下りるまでの間、2人はずっとそうやって寄り添い、夕暮れを眺めるのだった。

 イリーナは帰る間ずっと迷い、別れ際に、レオンハルトに作っておいたチョコの入った袋を渡した。
「今日は付き合ってくれて本当にありがとう、レオン。14日なのに時間取って来てくれてうれしかった。これ、シルヴァから貰うより美味しく……というか、うれしくないだろうけれど、気が向いたら食べて」
 レオンハルトは意味が分からず、それを受け取った。
 そして、部屋に戻ると、甘い匂いが彼を迎えた。
「おやー、今日は帰って来なくていいと言ったのに。ま、はい、どうぞ」
 シルヴァは作っておいたハート型チョコをレオンハルトに渡した。
「今日はバレンタイン。このパラミタには日本式の、女の子が好きな男にチョコを渡すと言う風習が流入してきてるんですよ」
「それでなんでシルヴァが俺に渡すんだ」
 レオンハルトはものすごく嫌そうな顔をした。
「嫌がらせですよ。当たり前でしょ? あ、来月14日のホワイトデーには3倍返しらしいので、よろしくお願いします」
 にこーっと笑顔のシルヴァに、レオンハルトは何か言いかけたが、ルインがすごい目で睨んでいるのに気づいた。
「レオ君には負けないよっ、ルインはシルヴァ様の事、誰より大好きだもんっ!」
 妙なライバル心をめらめら燃やし、ルインはレオンハルトを追い出しにかかった。
「シルヴァ様が今日は帰って来なくていいって言ってたでしょ。レオ君、イリーナさんのところに行ってきてよ。ほんとーーに帰って来なくていいからねっ!」
 外に追い出されると共に、ピシャっと拒絶するような音を立てて扉が閉まり、レオンハルトは苦笑いを浮かべた。
「やれやれ……まったく今日は何が何だか……」
 レオンハルトは自室から少し離れて、イリーナから貰った袋を開けてみた。
 中には手作りのチョコトリュフが入っていて、ビター味だった。
 シルヴァの甘すぎるチョコより好みの味だったが、手馴れてる分、シルヴァの方が出来はいい。
 しかし……。
「うれしいかはそれとは違うだろうに」
 もう一口、イリーナの作ったチョコを口に入れ、レオンハルトはイリーナを探しに行った。

 レオンハルトが出て行くと、ルインは邪魔者がいなくなったと喜び、シルヴァにチョコを渡した。
「ねね、シルヴァ様。はい、ハッピーバレンタイン」
 ルインが差し出したのは、星型のチョコだった。星が好きなシルヴァのために作ったものだ。
 シルヴァさまへ、とチョコペンで書いたそれを見て、シルヴァは数度瞬いて、淡く笑みを見せた。
「うん、ありがとう」
 髪を撫でられ、ルインはうれしそうに笑顔を見せる。
 そして、すりすりとわんこのようにシルヴァに擦り寄り、ニコッと笑顔を見せた。
「今日は一日ずっとシルヴァ様と2人でいるの!」
 
 イリーナは自分の部屋にいた。
「どうかした? レオン」
「来月にお返しをするという妙な風習があるらしいのだが……そんな悠長な真似はしてられないと思ってな」
 レオンハルトはドア口から一歩進んでイリーナを抱き寄せ、その頬を撫ぜた。
「さて、花を贈るのも一興ではあるが、至上の花の前ではどんな色も褪せよう。なれば、贈る代わりにこの場で咲かせて見せるとする」
 そのまま口づけでお返しをする。
 チョコの味のするキスに、イリーナは頬を緩ませた。
「食べてくれたんだ、レオン」
 食べてくれるといいなと思っていたイリーナは、口付けよりもその方がうれしかった。
「食べたが?」
 イリーナのうれしそうな理由が分からないレオンハルトは首を傾げたが、シルヴァに言われたことを思い出し、考え込んだ。
「そういえば、3倍にして返すものだとシルヴァが言っていたが、一体何を3倍にすればいいのか」
「じゃ、じゃあ、お祭りに行きたい!」
 パッと弾けるように、イリーナが願いを口にした。
「お祭りじゃなくても夜景を見に行ったり、花火とか海とか夜景を見に行くでも何でもいいから……一日中、レオンと手を繋いで歩きたい……」
 その願いにレオンハルトはますます不思議そうな顔を見せた。
「そんなことがしたかったのか、イリーナは」
「う、うん……」
「まあ、良い。覚えておくとしよう。ひとまず今日は帰るとルインの怒りが落ちてきそうだから、いさせてくれ」
 レオンハルトは後ろ手に鍵を閉めて中に入り、普段とは逆に、イリーナの部屋に一日居候することにしたのだった。