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ホワイトバレンタイン

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 セレンス・ウェスト(せれんす・うぇすと)がイルミンスールの友人など親しい人たちにチョコを配っていると、その途中でウッド・ストーク(うっど・すとーく)アスパー・グローブ(あすぱー・ぐろーぶ)に出会った。
「折角だし何処かでお茶にしましょう」
 セレンスが提案し、カフェに入ると、そのセレンスにせがまれて、ウッドはアスパーとの昔の話を前よりさらに詳しく聞かせた。
「ああ、あの時は世話になったな。お前が居なかったら何人仲間が死んでたことか」
「そんな大した事はしてないよ。それにうちの一族が迷惑かけたわ」
「いや、こっちこそあんたの両親の事だが……本当に悪いことをした」
「……しかたないわよ。両親も今まで悪い事をしてきた……。討たれる理由があったんだもの……」
 アスパーの一族は人を襲う野蛮な一族だったのだ。
 それを改心されたのがアスパーであり、協力したのがウッドの一族だった。
「ねぇ! アスパー。貴方の一族って皆な貴方みたいな姿なの?」
「え? うん、うちの種族は日常の殆ど獣の姿で生活してるんだ……変かな?
「そんな事無いわ、とっても素敵じゃない! それにとっても可愛いわ!」
 セレンスは無邪気な笑顔で褒め、ウッドは例の話を最初からしたいといって、セレンスが聞かせてとせがんだ。
「……おほん。俺が9の頃だったかとある村の依頼でレーヴァンはガル族を迎え撃った。逃がしてしまうが深手を与えたと聞いた」
 過去の思い出を紡ぐようにウッドが語る。
「その4年後俺達の集落にガル族が襲撃して来た。昔の恨みを晴らしたい様だった。数は前の数倍。前戦った時はほんの一部だったみたいだ。何とか撃退したが、彼らは完璧に俺達を標的にしてた。次も必ず襲ってくるだろう。レーヴァンも腹を括り総力を挙げてガル族との戦いに備えた。そこにガル族の少女が現れた」
「それがアスパーだったのね!」
「ビンゴ!」
 察しの良いセレンスを褒めるように、ウッドが手を叩く。
「彼女はレーヴァンにガル族との話し合いを提示した。しかしそれはガル族の総意でなく、野蛮な彼らが受け入れる筈も無かった。それでも彼女はガル族を必死に説得し、戦いが始まる直前まで諦める事無く、何とか彼らを話し合いに引っ張り込んだ。話し合いは確実に彼らの心を変える事に繋がった。ガル族が人を襲わなくなったのは大きいだろう。全て彼女の粘り強い説得があったがこそだ。彼女のお蔭で二族とも無駄な血を流さずに済んだんだ」
 ウッドはアスパーを誇るように言った。
「アスパーは俺の大切な友人、そして俺達レーヴァンの恩人なんだ」
 しかし、それまで意気揚々と話していたウッドがふと声を潜めた。
「……あの時は妹も姿を眩まして大変だったな…」
「え? ウッド今何て言ったの?」
 セレンスが聞こうとすると、それに声を被せるように、アスパーが立ち上がって言った。
「……ごめんなさい。少し外の風に当たってくるわ」

 外に出たアスパーは、一人で、ブランチェである自分と向き合っていた。
 アスパーは7歳のときに記憶を失い、レーヴァンに保護された。
 その後、4年間、レーヴァンの一員として、ブランチェと言う名を与えられて過ごした。
 ブランチェ・ストーク。
 それがレーヴァンとしてのアスパーの名前。
 誰にも明かせぬ記憶。
 11歳のときにガル族がレーヴァンを襲撃し、本当の姿を思い出したアスパーは、ウッドの話どおり、レーヴァンとガル族の仲裁をした。
「……お兄ちゃん、私は……」
 ブランチェとウッドは義理の兄妹だった。
 つまり、それは……。
 兄弟仲がとてもよかった、一緒に知られるのがいつも幸せで……。
 自分の胸が締め付けられる想いを何とか押し込め、アスパーはセレンスたちのところに戻った。