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【おとこのこうちょう!】しずかがかんがん! 前編

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 第1章 出発前 百合園女学院

2020年、現在、百合園女学院。

シャンバラ教導団の【第四師団メイド隊長】 朝霧 垂(あさぎり・しづり)は、
たまたまケルベロスのお世話で
百合園女学院に来ていたのだが、
そこで、小ラズィーヤが静香に詰め寄っているのを目撃した。
「はぁ?
お前勘違いしていないか?
未来がひどいことになっているのは、
静香校長のせいじゃなくて、ラズィーヤのせいだろう?」
およそメイドらしからぬ口調の垂は、小ラズィーヤに説教を開始する。
「な、なんだお前は? たしかに母様が黒幕なのは事実だが、
 桜井静香が悪であることに変わりはないだろう」
小ラズィーヤは年上が相手だろうと、尊大な態度を崩さない。
「ラズィーヤが静香校長を宦官にした事が
未来の出来事の原因ならば、静香校長は被害者だ。
もし原因を作った人物を殺すなら、ラズィーヤを殺すべきだろう?」
「母様を殺すだと……!?」
小ラズィーヤは、垂を見上げて沈黙した。
「あ、あの、垂さん?」
静香がおずおずと声をかけるが、
垂はジェスチャーで「黙るように」促す。
「……どうした?
殺しに行かないのか?
……当然だよな、ラズィーヤを殺したら
お前は生まれてこないかもしれないもんなぁ……
自分勝手なわがままで人を殺そうとするな!!」
「わがままだと!?
 私は真剣に考えて……」
「んでだ、お前が来た未来の世界は
『既に存在している世界』な訳だから、
もし静香校長やラズィーヤを殺したとしても、
お前の世界には変化は無いはずだ。
つまりは無駄な努力、ただの殺人だ」
「ただの殺人……。
そのようなこと、私の望むところではない。
私はラズィーヤ・ヴァイシャリー。シャンバラ女王の血を引く者。
民衆の幸福のために行動せねばならない」
実際にどうなるかはともかく、小ラズィーヤは垂の言葉にショックを受けたらしい。
「あと、もうひとつ……人にお願いする時は、
ちゃんとした方法があるだろう?
お前は、今、自分で言ったとおり貴族のはずだ。
然るべき所で然るべきマナーをとらなくちゃ。
……もう一度、ちゃんと静香校長に『お願い』するんだ」
垂は、小ラズィーヤの肩に手をかけ、静香の方を向かせる。
「私は……」
小ラズィーヤは静香を見上げる。
「大変失礼した。
桜井静香校長、どうか、荒廃した未来のシャンバラを救うために来てほしい。
民を救うには、あなたの力が必要なのだ」
ノーブレスオブリージュに従っている小ラズィーヤは、
垂の言う通り、静香に謝罪し、助力を願う。
「小ラズィーヤさん、頭をあげて。
 僕は元からそのつもりだよ。
 未来の僕がしてることだし、責任取らなくちゃ」
静香は、小ラズィーヤに目線をあわせて手を取る。
「桜井静香、校長。この時代のあなたは随分と……」
小ラズィーヤは驚いたように言う。
「よし、俺も未来を変えるためについて行こう。
 未来の俺は……正しいことをしているといいんだが」
垂は言い、静香と小ラズィーヤの手の上に、自分の手を乗せた。

★☆★

「ちょっと聞きたいことがあるの。
 出発の前にお茶でも飲みましょう」
コトノハ・リナファ(ことのは・りなふぁ)は、
お茶会のセッティングをして、小ラズィーヤに質問する。
「シャンバラ王国が腐敗したと言うけど、
アムリアナ女王はどうしたの? まだ帝国から帰ってこないの?」
「女王陛下は帰還なされていない。
エリュシオンから桜井静香がシャンバラの全権を委任されているのだ。
しかし、桜井静香がこうなったのは、エリュシオンのせいではない。
母様……大(だい)ラズィーヤのせいだ」
小ラズィーヤは、複雑そうな表情で、お菓子を食べる手を止める。
「そうね、そもそも、静香さんがこんなことになったのは、
貴女のお母さんが静香さんを宦官にしたからでしょ?
本当の黒幕は貴女のお母さんです!
何故、お母さんを止めてあげないの?」
コトノハの沈黙に、小ラズィーヤは言う。
「自分で言うのもなんだがな。
7歳の娘の言うことを、
 はいそうですか、と聞く、母様だと思うのか?」
コトノハは、さらに疑念をあらわにする。
未来から、護衛もつけずに1人でやってきたのはおかしいと思ったのである。
「本当に貴女はラズィーヤさんの娘なの?
『ちぎのたくらみ』で小さくなった誰かとか?
それにお父さんは誰なの?
どうして一緒に来なかったの?」
「私が偽物だと!? 不敬だろう!
 私は正真正銘、本物の小ラズィーヤだ!
 父はジェイダス・観世院(じぇいだす・かんぜいん)
 あの方には美の探求だけなさっていてほしい。
 お手を煩わすわけにはいくまい。
 何よりこれは、百合園の問題だ」
「ええっ、ジェイダス校長!? 本当なんでしょうね!?」
「ジェイダスさんがラズィーヤさんの!?」
コトノハと静香が驚く。
「そうだ。私はあのジェイダス殿の血を引いているのだ。
 だから、地球人しか介入できないタイムトラベルが可能なのだ」
小ラズィーヤは胸を張って見せる。
「ジェイダスが父であること」を、小ラズィーヤは誇りに思っているのだった。
「まあ、いいわ。
 本物ってことにしてあげる。
 それにしても静香さんって、
ラズィーヤさんのような特殊な血族の末裔で、
神子のような何か特別な力を持っているのかしら?」
コトノハは、そうつぶやき、静香の身体をさわる。
「ちょ、ちょっと、コトノハさん!?」
赤面して困っている静香に、垂が助け舟を出す。
「まあまあ、そのくらいにしておけよ。
 それより、そろそろ出発しようぜ」
「ええ、世界がこんなことになっているのに放置している女王や神子達に
文句言いに行ってやるわ!」
コトノハは静香からはなれて、言う。

こうして、一行は、未来へと旅立ったのであった。