校長室
地球に帰らせていただきますっ!
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野菜野菜野菜肉野菜野菜野菜…… 東京にある定食屋。いつもなら夜の仕込みに忙しい時間帯だけれど、今日はお店も夏休み。 空いた時間に家のことでもやろうかと、クラーク 波連が思っていたところに、元気良く玄関の戸が開く。 「ただいまー」 不意打ちに帰ってきたのはクラーク 波音(くらーく・はのん)。そしてその後ろでアンナ・アシュボード(あんな・あしゅぼーど)が申し訳なさそうに頭を下げる。 「いきなりですみません。波音ちゃんが急におうちに帰りたいと言い出したものですから」 アンナが波蓮に挨拶している間に、波音はもうとっくに家に上がって部屋を覗きこんでいる。 「あれ、パパは?」 「用があってアメリカに帰ってていないっつーの。まったく、連絡くれりゃ、パパか出かけるのを止めたのにさぁ〜」 「そっか、残念〜」 実は、夏休みの宿題の多さに音を上げて息抜きしようと地球に避難してきた波音は、波蓮との話もそこそこに部屋に入るとエアコンのスイッチオン。本棚から漫画を選び出すと、寝転がって読み始めた。 「あらあら波音ちゃんったら……」 のんびり過ごすぞ、という意思の見える波音にアンナは苦笑した。 「ったく、突然帰ってきたかと思えばだらだらと〜」 やることをやれば細かいことは気にしない波蓮だけれど、やることをせずにだらだらする奴にはイラっとする。普段ならびしっと教育的指導をするところだけれど、今日は遠路はるばる帰省したばかり。 「ま、折角帰ってきたんだしな! 焼肉くらい食わせてやろうか」 「でしたら手伝います」 台所に立つ波蓮をアンナが手伝う。波蓮からレシピを教えてもらったりしている為、アンナの手伝いはスムーズだ。 肉を下ごしらえし、野菜をカットする。サラダの野菜を洗って、よく水気を切る。 その間波音は、漫画を読み終わると携帯ゲームを引っ張り出し、とのんびりだらだらと過ごしていた。 そこに波蓮の声がかかる。 「ごはんだよ。早く来ないと、肉全部先に食っちまうぞ〜」 「行く行く行くよっ。んっふっふ〜♪ 焼肉〜♪」 豚でも鳥でも牛でも、肉ならなんでも来い、だ。 3人でいただきますと手を合わせ、早速箸を手に取った波音の取り皿に、波蓮がひょいひょいと野菜を入れてゆく。 「ええーっ、野菜はいらないよ〜」 「それを食べないと肉はやらないからなぁ〜。にひひ、やることやってから肉を食えよ〜!」 夕食の用意の時にだらだらしていた分を、ここでこらしめようとしている波蓮にアンナがくすりと笑った。 「波蓮さんらしいですね」 けれど波音の方は笑うどころの話ではない。 「うう〜〜〜」 いやいや茄子を口に入れ、ぶるぶるっと身を奮わせる。味がどうというのではないけれど、スポンジのような食感がぞわぞわと肌を粟立たせる。 ごっくん、と呑みこむと、次の強敵ピーマンをつまみ上げ、波音は深いため息をついた。これも肉を食べるため、と口いれたものの、 「苦いよ〜〜……なんでこんな苦いのがごはんのおかずになるのぉ〜?」 うるうると目は涙目だ。 そんな波音の奮闘を見守りながら、波蓮とアンナは焼肉と酒のツマミにと、イルミンスール魔法学校での話に花を咲かせていた。 「学校の波音ちゃんですか? そうですね……寝坊しやすくて、毎朝起こさないと遅刻しそうになります」 「パラミタでもだらだらしてるのか?」 それならば、と波蓮は波音の前にサラダを追加。こちらには波音の苦手なセロリが入っている。 「セロリってへんな青っぽい香りがするんだよね……」 「サラダを食うまで、肉はお預けだぞ」 波蓮に言われ、波音はセロリのはじっこを齧って、顔をしかめた。 そんな様子は少し可哀想で、アンナは波蓮に酒を注ぎ足しながら、フォローもしておく。 「でも波音ちゃん、魔法の勉強は理解しようと努力してるんですよ」 「へぇ、波音がねぇ」 波蓮はへにゃっと顔をゆがめた。酒が入ると親バカになるのが波蓮の傾向だ。 「努力してるのは偉いぞ。うんうん、その調子でこれからも頑張れよ〜、よしよし」 嬉しくてたまらない様子で波音の頭を撫でていたが、不意にその頭をぎゅっと抱き寄せる。 「波音大好き〜♪」 「あわわわ、危ないって〜、焼肉のたれ、こぼれちゃうよっ」 「可愛いな〜♪ このほっぺも変わってない〜」 すっかり酔っている波蓮に、頬ずりされてキスされて。やっと食べられるようになった肉もなかなか口に運べない波音を見ながら、アンナはふふっと笑った。 家に帰れば、波音は波蓮の可愛い娘。こうしていじり倒されるのもまたきっと、親孝行なのだろうから。