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まほろば大奥譚 第一回/全四回

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まほろば大奥譚 第一回/全四回
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第五章 鬼の祠2

 鬼の祠。
 鬼鎧が眠るという場所。
 ここで鬼の守人は何を夢見ていたのだろうか。


 マホロバ城から西。
 湖の底へと繋がるという洞窟に鬼の祠があった。
「よくこんなところに祠を作ったわね。地図でいったら湖のど真ん中よ。ちゃんとマップデータを作ってないと、見つけるのは無理だったわ」
 水無月 睡蓮(みなづき・すいれん)は、データの集積に余念が無い。
 そんな彼女を鉄 九頭切丸(くろがね・くずきりまる)がぴたりと護衛している。
 九頭切丸がいるからこそ、睡蓮も集中できる。
「でも『機』という数え方をするのが少し気になるわ。鬼鎧と鬼は全く別物だと思っていいのかしら? ……鬼の代理として作られたイコンを鬼鎧と呼んでいるとか?」
「俺もそれは思っていた。名前から察するに、イコンやパワードスーツの類ではないかと……ん」
 睡蓮のデータと合わせて確認しながら、三船 敬一(みふね・けいいち)もマッピングを行っていた。
 彼はデータ符合のエラーを見つけた。
「ここ、変だな。もしかして空洞では?」
 敬一は立ち止まり、行き止まりの壁を叩く。
 特に不審な点はない。
「淋、ここの壁壊せるか」
 敬一が呼ぶとパートナーの白河 淋(しらかわ・りん)がスナイパーライフルを構えた。
「良いですけど。まさかB級映画みたいに、壁壊したら隠し通路があったーってお約束じゃないですよね」


 ドン、ドンッ、ドンッ


 そのまさかだった。
 しかも通路の暗闇から、たくさんの邪鬼が這い出てきた。
「なんという低予算……!」
「いうな!」と、敬一。
「まったくです、そんな冗談をいってる場合じゃありませんよ」
 ウィザードの神裂 刹那(かんざき・せつな)はすかさず呪文を唱える。
 邪鬼が現れるのは予測済みだ。
 ルナ・フレアロード(るな・ふれあろーど)が援護し、懐中電灯の明かりを邪鬼たちに向けた。
 光の当たる先で刹那の火術が敵をなぎ払っていく。
「待ってたわ、邪鬼。日頃の訓練の成果、確かめさせてもらうから!」」
 押し寄せる邪鬼に、霧雨 透乃(きりさめ・とうの)左拳が炸裂する。
「陽子ちゃん、そっちー!」
「任せてください、必ず成功させて見せます……たぶん」
 緋柱 陽子(ひばしら・ようこ)が凶刃の鎖を構えた。
 陽子の鎖が蛇のようにくねり、邪鬼へとけしかける。
 そこへ透乃が追い討ちをかけた。
「やったー! 陽子ちゃん」
「え、ええ!」
 が、邪鬼は雲霞のごとく沸いてくる。
「これじゃ。キリがないじゃん!」
「やはりこの先に鬼鎧があるのでは!?」
 このままでは消耗戦である。
 一行はじりじりと後退せざるを得ない。
「みなさん、耐えるでやんす! ここで引き下がったら、房姫や将軍に合わす顔が無いでやんす!」
 ハイナたちが加勢に入り鼓舞する。
「葦原の先人たちがが昔、鬼鎧を作ったやんす。だから今度も、そうしなきゃならないやんす!」
 そのときだった。
 低いうなり声のようなものがあたりに響き、ざわざわと邪鬼が騒ぎ出した。
 逃げるように徐々に消えていく。
「オ前タチ、葦原ノ人間?」
 黒い大きな影がゆっくり近付いてくる。
 ルナが懐中電灯の光をあてた。
「鬼鎧……治セル?」
 鬼はそう言っていた。

卍卍卍


「まほろばハ鬼ガ治メル土地。デモ今、祠ニイルノ邪鬼ダケ」
 祠に住む鬼は名をウダを名乗った。
 ウダの周りには先ほどの邪鬼がざわめいていたが、彼が再度一喝するとざっと散った
「ヤツラ知性ナイ。デモ鬼の末裔。俺タチ皆、一緒」
 と、頭の髪を掻き分け短い角を見せる。
「鬼、トテモ大キイ。まほろば人ト暮ラシテ、小サクナッタ。まほろば人ト鬼、仲良シ。鬼消エタ……」
「それはつまり、もともとマホロバに住んでいた鬼は、人と一緒になることで数を減らしたってことでやすね?」
 ハイナはちょっと考えて言った。
「わっちたちは鬼鎧を求めてここまできたでありんす。鬼鎧について知りたいでありんす」
 彼女の申し出にウダは一同を奥へと案内した。
「これが鬼鎧か……まるでロボットみたいだな」
 如月 佑也(きさらぎ・ゆうや)は祠で埃をかぶったまま鎮座する鬼鎧を見あげた。
 確かに外見は鬼のようにも巨大鎧のようにも見えるが、まるでイコンのようだといったほうがしっくりくる。
「葦原は元はシャンバラ人が作った藩ときいている。もしかして、この鬼鎧にはシャンバラの技術が……?」
「ワカラナイ。ウダ、鬼鎧ハまほろば人シカ動カセナイコト、シッテル」と、ウダ。
「マホロバ人しか動かせないだと? ならば、オレが」
 マホロバ人の末裔という鬼巌鉄 雷桜(きがんてつ・らいおう)が進み出た。
 彼は感慨深そうに鬼鎧を見つめる。
「マホロバ人であるオレは鬼といわれ迫害されてきた。兄弟よ。力を貸してくれ」
 雷桜が鬼鎧に触れると、埃だと思っていたものが氷の霜であることが分かった。
 先ほどから、祠に漂う冷気が尋常ではない。
「ね、早く出ましょう。ここ寒いわ。なんだか冷凍庫の中にでもいるみたい」
 佑也のためにと付いてきたアルマ・アレフ(あるま・あれふ)が身震いする。
 彼らはルナが持ってきたロープを何重にもかけ、車輪のついた鬼鎧の台座ごと力いっぱい押し始めた。