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リアクション
5.決戦
フマナの地は揺らぎ、瓦解し、地はナラカの暗黒を既に見せ始めていた。
だが、2人の闘神達は剣と鎖鎌を絶え間なく交わらせる。
ハアアアアアアアアアアッ!
ケクロプスは気合いを入れた。
剣を持つ両腕の筋肉は限界まで膨らみ、鎧は無残にはじけ飛ぶ。
呼応して、ドージェが喜びの雄叫びを上げる。
黄金の「神の闘気」は膨れ上がり、フマナ平原・一帯を覆う。
壊れた荒野には、もはや彼ら以外の何者をも立ち入ることは出来ない……。
「神の闘気」を囲むようにして、3方向から学生達が瓦解した平原を行く。
■
「ドオオオオジェエエエエエエエエエエエツ!」
ガートルード・ハーレック(がーとるーど・はーれっく)は小型飛空艇ヘリファルテに乗って、平原の中心に向かって声を張り上げた。
「まだ、早ぇよ!
もう少し近づいてからだ!」
レッサーワイバーンの上から、ネヴィル・ブレイロック(ねう゛ぃる・ぶれいろっく)が忠告する。
不審者に思われたのだろう。
龍騎士達のワイバーンが近づく。
アルバトロスが、ヘリファルテを庇うようにして前にでる。搭乗者はシルヴェスター・ウィッカー(しるう゛ぇすたー・うぃっかー)だ。
だが。
「その必要はないぜ!
シルヴェスターさん」
ネヴィルは龍騎士達に近づくと、揉み手で。
「何でもないっす。
俺ぁ、ただの見学者で……へへへ……」
愛想笑い。
「ここは危ないのだ!
これ以上、近づいてはならん!」
「ちぇ。ハイハイ、わかったよ!」
あくまで見学者を装い、一行をカモフラージュさせた。
「そうね、ドージェがいざという時までは、この手で行きましょう!」
危ない危ない、と舌を出して、ガートルードはヘリファルテを一旦後方に下がらせた。
スキル・復活の準備を整える。
「ドージェは、パラ実生達の『自由の象徴』です!
ここで死なせる訳にはいきません!」
だが、彼女達の活躍の機会はなかった。
「神の闘気」は彼女達を神々の下へ近づけなかったし、ドージェはいかなるスキルも及ばぬ土地へと旅立ってしまったから。
そのことが分かるのは、いま少し後のこと――。
御陰 繭螺(みかげ・まゆら)は光る箒に乗り、「神の闘気」の周辺をうろうろと飛んでいた。
「いた! みーつけた!」
スカサハ・オイフェウス(すかさは・おいふぇうす)の小型飛空艇ヴォルケーノがある。
背後に大きな人形分くらいのスペースがあるように見えるが、目の錯覚かもしれない。
「やはり迷彩塗装では、どんなに朔様に似せても、かえって目立たなくなるでありますか……」
深い息を吐くスカサハに、繭螺は近づいた。
「やっぱり! スカサハさんだよね!」
「何でありますか? スカサハは、今忙しいであります!」
抱きつかんばかりの繭螺に対して、スカサハはどこまでも冷たい。
「邪魔ものには容赦しないであります!」
六連ミサイルポッドを向けて、はたと気づいた。
繭螺は武装をしていない。
「邪魔をしに来た訳ではないのでありますか?」
「アーちゃんは、そのつもりだよ!
ボクは……ボクだって!
朔さんがいなくなるのは、嫌だからね!」
「ドージェになんぞ! 朔様が、負ける訳がないであります……」
だが口調は尻つぼみに弱くなる
スカサハははらはらと涙をこぼして、その場に座り込んだ。
「朔様にこれ以上……怒りにまかせて動いて欲しくないのであります。
でもスカサハでは……止められない、止まってくれないであります!
誰か止めて欲しいであります……」
鬼崎 朔(きざき・さく)は、アテフェフ・アル・カイユーム(あてふぇふ・あるかいゆーむ)共に、暗い空気の中で「神の闘気」を目指していた。
やや離れた位置にスカサハの小型飛空艇ヴォルケーノ。
目指すはその近くにあるはずの、最強の「剣の花嫁」。
マレーナを血祭りに上げるためである。
朔の足が止まる。
行く手に、友人の姿があったから。
「アシャンテ・グルームエッジと御陰 繭螺……か。誰に聞いた?」
アシャンテ・グルームエッジ(あしゃんて・ぐるーむえっじ)は上空を見た。
ヴォルケーノが心配そうに、朔達を見守っている。
朔は大きく息を吐いた。
「スカサハ……余計なことを!」
「止めても無駄か? 朔」
朔はグリントフンガムンガ、アウタナの戦輪を構えた。
「これにはアテフェフの『薬学』をもってして作った『イチイの毒』が塗られてある」
「そーよー。せっかく朔があたしを頼りにしてくれたんだから!
張り切っちゃったわよー♪」
アテフェフは空飛ぶ箒で嬉しそうに一回転。
安全地帯に退避する。
「本当は、マレーナを葬り去るために、とっておきたかったのだが……」
「ドージェに生き地獄を、か。
復讐を成し遂げたら、お前には何が残る?」
「二丁拳銃」を使う。
朔の動きが止まる。
その間に、光条兵器『スィメア』とカーマインを素早く構えた。
「私は怒りや憎しみに勝るものを見つけた。
お前にもできるはずだ、朔。
お前をつれて帰る!
仲間達、友達……そして、恋人のもとへ!」
戦いは、総合力で勝るアシャンテが僅かに押した。
「アーちゃん、もう少しだよ!」
繭螺は時折光る箒でアシャンテに近づき、ヒールを行う。
「朔様! しっかりするであります!
スカサハがついているであります!」
スカサハが上空から六連ミサイルポッドで掃射し、注意を引きつける。
だが戦いは総合力だ。
アシャンテが背の刀を抜き、朔に切っ先を突きつけた所で、勝負は決まった。
「はあはあはあ……ちっ……畜生!
私が……この私が! こんなことで、諦めるもんかっ!」
一瞬のことだった。
隙をついて朔はアウタナの戦輪をマレーナに投げつける。
「朔! マレーナ!」
アシャンテはハッとしてマレーナを見た。
声に反応して、マレーナが振り返る。
だが、彼女の目の前で、アウタナの戦輪は弾き返された。
「『神の闘気』……」
アシャンテはその正体を知って、愕然とする。
「彼女はその中に入ることが出来る、というのか!」
「マレーナに……負けるなんて……くそ……」
その言葉を最後に朔は力尽きた。
彼女の細い体を、アシャンテはいとも簡単に担ぐ。
朔のパートナー達に目を向けた。
「行くぞ!
もう、ここに用はないだろう」
マレーナの暗殺者は去った。
だが、彼女の試練は続く。
ドージェを葬らんと、マッシュ・ザ・ペトリファイアー(まっしゅ・ざぺとりふぁいあー)、シャノン・マレフィキウム(しゃのん・まれふぃきうむ)、魄喰 迫(はくはみの・はく)が近づいていたのだ。
「貴女は俺達が全力で護る……。
だから、心置きなくドージェの為だけに動いてくれ、マレーナ」
グレン・アディール(ぐれん・あでぃーる)は、『神の闘気』の中にいる少女に語りかけた。
「龍騎士団の者達以外であなたを狙うものがいるとすれば、手薄なここを狙うはず」
「ドージェ様に、私は必要ありませんわ……」
マレーナは悲しげに眼を伏せる。
「ですから。
私はこうして、戦いを見守ることしかできないのです」
「マレーナ……」
「あなた達こそ、早くお逃げ下さい。
私のことは大丈夫ですから」
「うむ、そうだな。
この胸の大きな娘の言う通りだぞ!」
ゴロゴロと首を鳴らし、セリヌンティウスも追従する。
「お前達より、首だけとはいえ、我の方がよほど役に立つ!」
グレンは軽く無視して、プロテクト系の魔法をかけようとしたが、マレーナは必要ないと辞退する。
ならば、と、自分に殺気看破をかけて護衛にあたった。
ソニア・アディール(そにあ・あでぃーる)が傍に控える。
遠方からの攻撃に備え、李 ナタが、やや離れた位置からマレーナを守っていた。
ソニアの「ディクトエビル」が反応する。
「はっ、これは……マレーナさん、危ないです!」
「遅いよ!」
マッシュは、鼻先で笑ってペトリファイの体勢に入る。
背後から、迫が時間差で閻魔の拳を構えていた。
「蝕む妄執!
これで終わりだ! マッシュ、迫」
グレンは振り向きざまに2人を見据える。
それだけで、マッシュ達は恐ろしい幻惑の虜となってしまった。
「ふん、つくづく甘いよね。
これくらいで勝った、なんて思っちゃってさっ!」
「何?」
っ!!
マレーナが気づいて、セリヌンティウスの首ごと振り向いた。
「私が本命だ!
ドージェ! その命もらったっ!」
シャノン・マレフィキウム(SFL0015016)がアウタナの枝のような物を、2本投げようとする。
「し、しまった!」
「安心されよ、お若いの」
セリヌンティウスはグレンに対しては穏やかに言う。
「そうさ!
俺を忘れちゃ困るぜ!」
ナタは「先の先」で、素早く遠当てで枝を狙った。
シャノンの枝は、勢いをそがれる。
力なくマレーナの前まで飛んでいき、粉砕。
「ふん。
『神の闘気』か」
シャノンは面白くもなさそうに、言葉を吐き捨てた。
「ドージェ……奴に弱点など、ないのか?」
いや、とシャノンは足下の暗闇を見て、にやりと笑った。
「そうか! こういうことだったか。
我々は失敗したが、エリュシオンは一枚上手と言うことか……」
「どういう意味だ? シャノン」
彼女を捕えんと、グレン達は包囲を狭める。
その時、ぐらぐらと足下が大きく揺れる。
「な、何が起こってる?」
「始まったな! 退くぞ! マッシュ、迫」
混乱に乗じて、シャノン達は去った。
■
フマナの大地が大きく避ける。
爆発的な隆起と共に、巨大な地割れが起こる。
割れ目はしだいに周囲の大地を崩壊させ、ナラカへの暗黒を広げて行く。
破壊の勢いは留まることを知らず、闇から噴き出す『力』は『神の闘気』さえ消滅させる。
「いわば凄まじすぎる『闘気』の代償だな」
マレーナの胸元で、セリヌンティウスがもっともらしく解説する。
「神々の『闘気』に、大地はバランスを乱され、安定を失った。
ここは間もなく、ナラカへと続く巨大な『ブラックホール』となる」
フマナ崩落!
その知らせは、一帯を駆け巡った。
慌てる学生達とは対照的に、龍騎士団は整然と安全地帯へ引き上げて行く。
総ては、計画のうちなのだ。
龍騎士達の中には、ケクロプスに思いを馳せ、暫し黙祷を捧げる者もいる。
巨大な闇の広がる穴を眺めて、ドージェは正気に返ったのか?
退く気配を見せた。
しかし、その方角は奇しくもドージェが目指す目的地でもあった。
「貴公を、ユグドラシルには向かわせん!」
ケクロプスは老骨に気力をみなぎらせる。
渾身の力を込めて、ドージェを闇に引きずり込んだ。
「貴公を葬り、エリュシオンは永遠となるのだ!」
アスコルド大帝、万歳っ!
それが龍騎士団団長・ケクロプスの最期の言葉となった。
ドージェもろとも、巨大な闇へと引きずり込む。
■
光を失いゆく、ブライド・オブ・シックル。
消えていくドージェの巨体。
利き手からすり抜けて落ちる、携帯電話――。
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