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神々の黄昏

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神々の黄昏
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リアクション

 4.逃げる少女


 【救助】の真口 悠希(まぐち・ゆき)は、仲間が途中で見失った件の少女を捜していた。
 詩穂から授かった「空飛ぶ魔法↑↑」で、近隣は探した。
 いまはユニコーンの跨って、平原部を当たっている。
 少女を捜しているのは、彼ばかりではないようだ。
 上空にはワイバーンが飛び、クライス・クリンプト(くらいす・くりんぷと)ローレンス・ハワード(ろーれんす・はわーど)ジィーン・ギルワルド(じぃーん・ぎるわるど)といった面々がいる。
 前方には、退避後の村人に指示を出すゾリア・グリンウォーター(ぞりあ・ぐりんうぉーたー)ロビン・グッドフェロー(ろびん・ぐっどふぇろー)の姿。

 悠希の視界の中に、龍型のイコンが入った。距離はある。
『止まれ!』という言葉が流れてくる。
「あそこですね!」
 悠希はユニコーンを駆った。
「イコンあるところ、少女あり! です。それっ!」

 ただし、現状1番近くにいるのはゾニアとロビンの2人である……。
 
 ■
 
「はやく!
 こっちへ来るにょろ!」
 ゾリアは少女を説き伏せて軍用バイクのサイドカーに乗せた。
「ロビン!
 村のことは任せますにょろ!」
「ああ、お嬢!」
 ロビンは親指を掲げて、後顧の憂いを断つ。
「ありがとうにょろ! 
 私のことを信用してくれて!
 でも、どうして?」
 ロビンは尋ねる。
 信用されない可能性を考え、それはたくさんの文言を用意していた。
 だが多くを語らずとも、彼女はゾリアの誘いに応じたからだ。
「さっき」と少女が胸を押さえつつ絞り出す。
「あなたと同じ軍服を着た人達が。
 その、とても親切だったから……」
「これ? 教導団の?」
 うんと頷く。
 どうやら彼女のほかにも、教導団の協力者達がいたらしい。
 ズンッ。
 目の前に、龍型イコンが立ちはだかる。
 巨大なそれの足をすり抜け、無理やり方向転換した。
 そこには、まだ村に未練を残しているのか?
 足の進まない村人達の集団がいる。
 ゾリアは追ってくる龍型イコン部隊を指さして、必死に訴えた。
「みんな、早く逃げるにょろ!
 彼女の言ってる事が本当だからこそ、龍騎士団は口封じの為に追ってきてるです!」
 軍用バイクを踏みつけようと伸びてくる、龍型イコンの片足。
「冗談じゃないにょろ!」
 ズササァッ!
 制御を誤って、バイクは倒れた。
 ゾリアは荒野に投げ出される。
 後頭部を押さえつつ。
「いっつつつ……。
 あれ? あの子は?」
 キョロキョロと見る。
 バササッ、と巨大な翼の音。
「ワイバーン?」
 見上げると、レッサーワイバーンを駆るジィーンの背に少女の姿があった。
 
「ひょおお、危なかったぜ!」
 大きく息を吐いてジィーンは背後に立つ吸血鬼の少女を見た。
 少女は無傷だった。
 ありがとうございます、と丁重に頭を下げる。
「なぁーんか、調子狂っちゃうんだけどなぁ……」
 ポリポリとこめかみをかいた。
 軍用バイクから投げ出される寸前、上下逆さまになりつつ接近したジィーンは、手でつかんで少女を引っ張り上げたのだった。
「あなたにお尋ねしたいことがあります」
 クライスは少女に近づいた。
 別のレッサーワイバーンに乗っている。
「あなたの行動が、シャンバラとエリュシオンの開戦のきっかけとなる可能性は、憂慮していますか?」
「……それでも、私は行かねばならないのです」
 それ以上は答えられない。
 少女は目で訴える。
 暫し後、折れたのはクライスだった。
「いいでしょう……なら、僕は僕に出来うる限り、あなたを護ってみせましょう」
 龍型イコンの妨害に当たることになった。
「主、ここは目立ち過ぎます!
 私が誘導致しましょう」
 銃型HCを起動させ、博識を使う。
「私に着いてきて下さい」
「すまない、ローレンス」
 ローレンスの小型飛空艇が先に行く。
「では、ジィーン。
 彼女を頼みます」
 GO!
 クライスは掛け声と共に、まず龍型イコンの前に躍り出た。
 イコンを挑発。
 かき乱すだけかき乱してから、小型飛空艇の後を追った。
 ……追ってこない。
「敵の標的は、あくまでも彼女だけということなのか?」
 ジィーンのレッサーワイバーンが執拗に狙われる。
「危ない! くそ!」
 女王の加護をかけると、クライスは勇敢にも間に割り込んで敵の攻撃から少女を守った。
「ラスターエスクード! これで、どうだ!?」
 ガゴンッ。
 鈍い音。
 その一撃で、ラスターエスクードは敵の攻撃を受け流したが、粉砕した。
 間髪を容れずに、龍型イコンの手が延ばされる。
 鈍い音と共に、クライスとジィーンは地に投げ出された。
 女王の加護により、クライスは軽傷ですんだが、ジィーンは動けない。
「彼女は?」
 ハッとして振り向いた。
 少女は彼等からやや離れた位置に投げ出されていた。傷はない。
 龍型イコンが近づく。
 今まさにその片手に回収されようとした時、白い影が過ぎ去った。
「ユニコーン? こんなところに?」
 ジィーンに肩を貸しつつ、ユニコーンを目で追う。
 ユニコーンの背に、少女を抱える真口 悠希の姿があった。
 クライスは、やれやれと頭を振る。
 ジィーンを見て。
「分が悪い。
 ここは彼に任せるとしよう」
 
 吸血鬼の少女が気がついた時、彼女は見知らぬ少女の膝の上にいた。
 頬にふわりと白い鬣(たてがみ)。
 視線を上げて行くと、一本の立派な角が見えた。
(ユニコーン?)
 少女は上体を起こそうとする。
「気がつきましたか?」
「あなたは?」
「ボクは真口 悠希。
 【救助】のメンバーですよ」
 よいしょ、と少女を安定した状態に座らせる。
「なんて呑気に自己紹介している暇はないみたいだね!」
 龍型イコンの獣のような足が、ユニコーンの脇をかすめる。
 驚いて暴れるユニコーンを御して。
「それっ!」
 彼等はそのまま逃走した。
 
「貴女のお蔭で、ボクらの仲間達が人々を救けに向かう事が出来ました。
 次は、貴女の番です!」
「私の?」
「ええ、ボクに、生き延びるための手助けをさせて下さい、是非」
 悠希は繊細な美少女だ。
 とても龍型イコンを相手にできるようには思えない。
「それでも、あなたを守りたいんです!」
 悠希は少女に優しく笑いかけると、素早く【煙幕ファンデーション】、【光学迷彩】、【情報攪乱】を使った。
「コントラクター? 詩穂のような……」
「ええ、だから信じて下さい!」

 スキルのお陰で、龍型イコン部隊はユニコーンを見失ったようだ。

「悠希さん、こっちだよ!」
 真口悠希著 桜井静香さまのすべて(まぐちゆきちょ・さくらいしずかさまのすべて)は、根回しで押さえた「逃走先」へと誘導する。
 空いた手で、ラズィーヤへのメールを打っていた。
 メールの差出人名は「真口 悠希」となっている。
『ラズィーヤ様
 本日、百合園の生徒で交戦された者は、
 全てボク、真口悠希に助力したせいです。
 戦いに巻き込まれたから、仕方がなく……。
 だから、全ての責任はボクにあるのです。
 ゆえに、彼女達の停学処分は無かったことにして頂きたいのです……』
「お人よしだよね。
 いくら静香様から、あんなこと言われたからって……」
 クッスンと桜井静香さまのすべては、鼻をすする。
「悠希さんは優し過ぎるんだよ。
 誰かれ構わず、優しくしちゃうんだからさ!」
 ただし「停学」云々関しては政府が絡むため、ラズィーヤの一存では難しいだろう……。
 
 龍型イコンから十分離れた所で、悠希は仲間達と連絡を取った。
 程なくして、詩穂からメールが入る。
「シャンバラへ行きたい、とおっしゃっていたそうですね?
 陽太が迎えにくるそうだから、それでお逃げなさい」
「あ、あの!!」
 少女は何か言いかけて、やはり寂しげに首を振った。
「皆様によろしくお伝えください。
 助けて頂いてありがとうございました、と……」
「? 何を言っているんです?」
 あつ! と気付いた時には遅かった。
 少女の体は消えかかっている。
「待って! 貴女の名は?」
「アイシャ」
 少女は淡い微笑を残して消えた。
「アイシャ、か……」
 悠希は少女の名をそっと復唱した。
 はかなげな笑顔が、なぜか強く印象に残った。
 
 ■
 
「ふん、一歩遅かったわね!」
 フマナ荒野の平原部。
 遠くにユニコーンを見据えて、メニエス・レインは面白くもなさそうに少女の消えた後を眺めていた。
 彼女の傍に、寄り添うようにしてミストラル・フォーセットの姿。
「テレポートで逃げられちゃったわ!」
「ええ、メニエス様」
 その旨、龍騎士団には伝えましょうか?
 上目遣いに尋ねる。
「そうね。
 この情報を持っているのは、あたし達だけ。
 ほんの少しの功だけど、無いよりはマシかしら?」
 そこに、彼女達を追う松平 岩造(まつだいら・がんぞう)が現れた。
「メニエス、ミストラル、貴様らの悪事もここまでだ。覚悟!」
「あら、面倒臭いのが来ちゃったわ!」
 【蒼炎の龍皇剣】と、異名を呟く。
 メニエスは不敵な笑いを浮かべ、岩造に向き直った。
「でも1対2よ。
 総合力であたし達にはかなわない! って、考えない訳?」
「クッ!」
 岩造は両手利きによる二刀流で、武器を構えた。
 右手に七枝刀。
 左手にブライトグラディウス。
 ヒロイックアサルト【豪腕】で戦闘力を上げつつ、 ドラゴンアーツを放つ。
「でも所詮は1人なのよ、ミストラル!」
「はい、メニエス様!」
 彼女達は2人で岩造の攻撃を食い止める。
 エンドレスナイトメアの詠唱をはじめる。
「メニエス様に触らないでいただけるかしら?」
 ミストラルはカタールを優雅に構えて、岩造の動きをけん制する。
 岩造の額から、冷たい汗が流れおちる。
 
 あなたっ!
 
 足下にマシンピストルが炸裂した。
「はっ! 奥様達のご登場よ!」
「多勢に無勢です。
 逃げましょう! メニエス様」
 フェイトらが駆けつけるより早く、メニエス達は退却した。
「ちっ、取り逃がしたか」
 岩造は武器を収めた。
 妻を見下ろして。
「で、そっちは?」
「はい、全員この通りでございます!」
 フェイトはファルコン達を呼ぶ。
 拘束された如月和馬らが岩造の前に引っ立てられる。
「よし!
 脱走犯をこのまま教導団本校へ連れて行くぞ!
 いいな? フェイト」
 
 ■
 
 その時、激しい地鳴りが一帯に響き渡った。
 ドージェとケクロプス。
 2人の神々が、一騎打ちをはじめたのである……。