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冥界急行ナラカエクスプレス(第3回/全3回)

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第3章 チャンドラマハルの死闘【奪還編】(4)



 目的は果たした、あとは脱出だ。
 樹月刀真御神楽環菜に禁猟区をかけた銀の飾り鎖を渡す。
 普段以上に神経を細く尖らせ殺気看破と要人警護を使い、学園に戻るまで環菜を絶対に護ろうと気合いを入れた。
「月夜……、例の情報は調べておいてもらえましたか?」
 漆髪月夜は頷く。
「空京大学及び大学病院から消えた死体や行方不明者について……だったわよね。大丈夫ちゃんと霊界通信を使って調べてきたもの。刀真の……ロイヤルガードの名前を出したら、なかなか面白そうな情報を提供してもらえたわよ」
「この写真は……?」
「ここ三ヶ月で病院に運ばれた身元不明者の遺体、その中から破棄されたとされる人達よ」
「この獣人の男性……、どことなくハヌマーンに似ていますね」
「それだけじゃないの。こっちの女性……、タクシャカにすごく似ていると思わない?」
「……まさかとは思っていましたが、やはりハヌマーン達奈落人の肉体の出所はここのようですね」
 ハヌマーンは肉体の情報を常にフィードバックさせることで不死を維持していると言っていた。そうなると、肉体の設計図のようなものが必要なはず。そんなものにアクセス出来るのは、刀真の知る限り空大にいる彼女しかいない。
「黒幕は……」
 その時、偵察に行っていたエリシア・ボックが戻ってきた。
 ベルフラマントを脱ぎ捨てると、一同に駆け寄り報告。
「この先の通路に死人戦士の一団を見つけました。どうやらこっちに向かってるようですわ」
「では、こっちの通路から脱出しましょう」
「待ってください。誰か足止めに残ったほうが宜しいのではないでしょうか。すぐに追いつかれてしまいます」
「その役目は私が引き受けるわ」
 その声に一同は振り返る。
 服装こそ違うが……、その顔立ちは環菜に瓜二つ、偽カンナことリカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)だ。
「あなたは……」
「久しぶりね、環菜君。さあ、積もる話はあとにしましょう。あの時の借りを返させてもらうわ」


 ◇◇◇


 環菜達を容易く逃がしてしまっては、死人戦士の面目が立たない。
 廊下を駆ける背中に向かおうとしたその時、別の方向の廊下に見覚えのある人影が走っているのに気付いた。
「おいあれ……?」
「どうなってんだ? 今こっちに逃げなかったか……?」
 戸惑う死人戦士。
 何せ命じられた仕事をこなしてるだけなので、環菜のことをよく知らないのである。
「死人戦士なんて大層な名前だけど大したことないわね。じゃ、さよなら」
 偽カンナに扮するリカインは挑発するように笑って、スタコラサッサと廊下を走っていく。
「……噂によれば口の減らない小生意気な女らしいぞ」
「じゃあ、あっちで間違いないな」
 戦士達は踵を返し、大挙してリカインに迫った。
「な……、何をしているんですか!」
 リカインと並走して走るパートナーのおばあちゃん中原 鞆絵(なかはら・ともえ)は眉を寄せた。
「こんなことして捕まったらどうするんです!」
「別に構わないわ。それで時間稼ぎになるなら好都合だし」
「な、何を言ってるんです……!」
「環菜君には借りがあるの、1億ゴルダ分のね。返せって言われても返す当てなんてないし……、ここは身体張ってでも恩を売っておかないとね。これでしばらくは、耳そろえて返せなんて言われることはないでしょ、たぶんだけど」
「そんな理由でこんな危ない真似を……?」
「……それは抜きにしても、皆が彼女の復活を望んでるんだもの、私に出来ることはやらないとって思ったのよ」
 気持ちはわかる……しかし、リカインは仲間の気持ちにまでは気が回っていない。
「ほんの少しでいいんです。たまにはあたし達のことも考えてください。いつも自分のことばっかりで良くも悪くも周りを顧みませんし、脊髄反射な行動ばかりで後先も考えてくれません。その上、あたし達の話も聞いてくれません」
「う……」
「環菜さんよりも、あたし達はリカのほうが大事なんですよ。命を粗末にする無茶は考え直してください……!」
「ご、ごめん……」
 面と向かって言われて、流石にリカインも反省。
「……ってあの、今気付いたんだけど、フィス姉さんは?」
「そう言えば……、見かけてませんね……?」


 ◇◇◇


 その頃、シルフィスティ・ロスヴァイセ(しるふぃすてぃ・ろすう゛ぁいせ)はナラカエクスプレスにいた。
 彼女も共に宮殿に乗り込もうとしていたのだが、いざ降りようと言う段になって回数券をないことが発覚。
 トリニティにお願いして同伴で降ろしてもらえないか訊いたが、宮殿に行く予定はないと断られた。
 なので、彼女は2人が無事に帰ってくるようエクスプレスで祈っている。
「……なんだか騒がしいですね?」
 そして、回数券を盗んだ犯人天夜見 ルナミネス(あまよみ・るなみねす)はここにいた。
 リカインを遠ざける意志の元、裸SKULLなるキャラに夢中になってる隙にこっそり拝借したのである。
 しばし、契約者の活躍を見守っていたのだが……。
「あれ、こっちに……?」
 リカインと鞆絵が目の前を駆け抜けていく。
 別に隠れていたわけではないが、二人は必死で逃げている最中らしく、ルナに気付きもしない。
「何をそんなに恐れているんでしょうか……?」
 おそるおそる廊下を覗き込むと、通路一杯に広がった死人戦士が走ってくるのが見えた。
「ま、まずいです……!」