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冥界急行ナラカエクスプレス(第3回/全3回)

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第5章 チャンドラマハルの死闘【紅蓮編】(4)



「ええい、放してくれ! ちょっとあいつらぶった斬ってくる!」
「お、落ち着いてください。私が雷術で止めましたから充分でしょう。と言うか、そんな状況じゃありませんよ」
 空気を振るわせるほどに怒る風祭 隼人(かざまつり・はやと)諸葛亮 孔明(しょかつりょう・こうめい)が押さえている。
 ルミーナ☆ラブの隼人は度重なるハラスメントに憤死しそうだった。
 そして、雷撃の犯人は孔明だったようだ。
 そんな彼らに隼人の双子の兄風祭 優斗(かざまつり・ゆうと)がコホンと咳払い。
「それぐらいにしましょう、今は戦いのまっだだ中です」
 業火を振るうガルーダを警戒しつつ、彼らは柱の影から攻撃の機会を窺っているところだ。
「随分と仲間もやられています。そろそろ、僕たちも打って出なくてはなりません」
 前回受けた『業火奈落掌』の傷だろう、優斗の胸には血のにじんだ包帯が巻かれている。
 視線を向けると、隼人は顔を伏せた。
「隼人、あなたはどうしますか?」
「俺は……」
 口ごもる。正しい答えはまだ出ない。
「……わかりました、あなたはここにいてください」
 はっと顔を上げると、兄は静かに微笑んでいた。
「ルミーナさんに刃を向けるのを躊躇う気持ちはわかります。ましてや彼女を想うあなたなら尚更のことでしょう」
「優斗……」
「全てひとりで背負わなくてもいいじゃないですか。大丈夫、ここは僕らに任せてください」
 弟の抱える荷物が重いなら、半分背負うのが兄の役目である。
 孔明ともう一人のパートナー沖田 総司(おきた・そうじ)に目を配る。
「行きましょう」
 ガルーダの眼前に迫った三人は散開。孔明が雷術で牽制をする中、総司は武者人形を引き連れガルーダの左側に回り込むように立ち回り、優斗はその逆の右側に立ち回りながら動く。左右からの挟み撃ちの形となる。
「ほう、貴様はあの時の……、またもオレに挑むか」
「たった一度の敗北で諦めてるようじゃ先には進めませんからね」
「その勇気は認めてやる……!」
 優斗の狙いは一つ。ガルーダに敗北の未来を見せること。
 ブライトグラディウスで指し貫かれるビジョンを見せられれば、ガルーダもルミーナの身体を手放すはず。そのためには実際に行動に移さなければならないが、光条兵器の特性なら刺し貫いた芝居を打つことも可能だ。
「おそらくこれがルミーナさんを無事に取り戻せる唯一の方法……!」
 負傷したガルーダの右腕のほうから攻めれば、わずかなりとも隙を突けるはず。
 グラディウスを正眼に構え、駆け出す。
 その瞬間、ガルーダの鋭い視線が優斗を貫いた。
「この連携の穴は貴様だな……」
「な、なにを……?」
 闘志をむき出しにして、真っ先に優斗を潰しに向かってきた。
 天眼で何かを読まれたのか。いや違う。彼が怪我をおしてここに立っていることを見抜いたのだ。
「く……っ!」
 優斗は刺し違えてでも攻撃を決める構え。
 だがしかし、ガルーダが未来に恐れを感じているそぶりはない。
 手数で迫られるのはすこし厳しいが、所詮目で追える物理攻撃ならば、全て天眼の範疇。避けられないことはない。
 閃光のひと突きを紙一重でかわしたガルーダは優斗の胸に左手で『業火奈落掌』を叩き込む。
 インパクト同時に発生する爆炎が優斗を吹き飛ばした。
「うわあああああっ!!」
「ゆ、優斗殿!?」
 駆け出す孔明の前に、すかさずガルーダが立ち塞がる。
「なっ!?」
「連携など断ち切ってしまえば容易く壊れる」
「危ないっ!」
 総司が咄嗟に飛び込んで防御するが、灼熱する手刀は刀を溶断し、そのまま斬り捨てる。
 炎に包まれ、二人は倒れた。


 ◇◇◇


「そんな馬鹿な、優斗が……! 孔明、総司……! くそ……!」
 頭の中が真っ白になった隼人は、横たわる優斗の身体を抱きかかえた。
 前回受けた傷の上から更に攻撃を叩き込まれ、裂けた制服が溢れる血で真っ赤に染まっている。
「すいません……。兄失格ですね……、約束も守れないなんて……」
「何も言うな」
「優斗さん……、しっかりして!」
 隼人のパートナー、アイナ・クラリアス(あいな・くらりあす)は目に涙を浮かべヒールをかける。
 爆発によって深く裂かれた傷からはとめどなく熱いものが溢れ、優斗のほうはだんだんと冷たくなっていく。
 重症だった。
「戦ってよ、隼人……」
「アイナ……」
「隼人が戦いたくないのはわかってる! でも、本当にこのまま何もしなくていいの!? 私がルミーナさんなら、仲間を傷つけるぐらいなら止めて欲しいと思うわ! 彼女を傷つけたくないからなんて、結局逃げてるだけじゃない!」
 どんと胸を殴る彼女に、隼人は何も言い返せない。
「ルミーナさんが怪我したら私が治してみせる……、絶対に死なせたりはしないから、だから戦いなさい、隼人!」
「ふがいない相棒ですまない」
 そう言うと、隼人はアイナの肩に手を置き、自分から引き離した。
 もう迷う時間はおしまいにしよう。
「俺の覚悟は決まった……」
 光条兵器の銃剣を発現させ、ガルーダの前に立つ。
「彼女を傷つけることになっても……、仲間を傷つけさせないため、ルミーナさんを救うため……、お前を討つ!」
「ようやくその気になりましたか。私もお手伝いさせて頂きますよ、隼人くん」
 ホウ統士元も並び立つ。
 前回、火弾を食らったため包帯をしているが、その傷は比較的軽度のようである。
「ふん、覚悟で戦に勝てれば苦労はしない」
「覚悟を舐めるなよ、ガルーダ!」
 突然の声に振り返る。
 片足に大怪我を負いながらも意気の衰えない仮面ツァンダーソークー1こと風森 巽(かぜもり・たつみ)
 そして、パートナーのティア・ユースティ(てぃあ・ゆーすてぃ)が正義の炎を燃やして、ガルーダを見つめている。
「例えどんな相手にでも、迷わずに立ち向かい、最後まで諦めない……、それがヒーローの最低条件だ」
「だからボクらは名乗るんだ。そうなるようにと、そうありたいと!」
 ガルーダは四人を見回す。
「御託はいい、来るなら来い」