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冥界急行ナラカエクスプレス(第3回/全3回)

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冥界急行ナラカエクスプレス(第3回/全3回)
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第1章 チャンドラマハルの死闘【突入編】(2)



「敵襲ーっ! 敵襲ーっ!」
 曇天の空に飛び交う警告の叫び。
 宮殿を守る巨大な扉が悲鳴にも良く似た声を上げて崩れ落ちた。
 揺らぐ大地と共に舞う砂煙、一寸先も見えない世界を突っ切って、環菜救出隊が怒濤の勢いでなだれ込む。
 先陣を切ったのは、【ハヌマーンWITHスーパーモンキーズ】。紆余曲折あって、味方となった猿面人身の荒ぶる奈落人ハヌマーンと、その配下のさるさるスーツを着た死人戦士の一団である(詳しくは第2回参照)。
 今回、ハヌマーンをどこに投入するかは厳選なる投票によって決定された。
 投票結果は以下の通り。

 【1】14
 【2】4
 【3】16
 【4】2
 【無】12


 接戦となるもわずかな差で【3】での参加となった。
 でもあれですよ。次いで多いのが投票無しとかちょっと悲しいじゃありませんか。投票率の低い選挙を憂う人達の気持ちが頭ではなく心で筆者にもわかりました。皆さん、ちゃんと選挙には行かないとダメですよ!
 ……と少し教育的な指導をしたところで話を戻す。
 あっという間に門番の死人戦士を叩き伏せると、他の死人戦士はこちらに挑もうとせず、素早く撤退していった。
「ハーハッハッハ! 天上天下天地無双っ! 空前絶後の俺様の前に立ちはだかれる奴なんざここにいるかよっ!」
「流石、大将は強いウキ!」
「この調子でタクシャカもガルーダもボコしてやるといいウキよ!」
 高笑いするハヌマーンをモンキーズは一所懸命おだてている。
 しかし、かつてローマの百人隊長として名を馳せたユリウス プッロ(ゆりうす・ぷっろ)は冷静に物事を見ている。
「笑っている場合ではない。撤退したのは態勢を建て直すためだ、すぐに援軍を連れてここに戻ってくるぞ」
 それから、きょとんとするスーパーモンキーズを見回して言った。
「同志諸君! さあいよいよ実戦だ!」
 言われたモンキーズの手には皆一様にフェザースピアだの竹槍だののナガモノが握りしめられている。短時間であったが、ユリウスは彼らに隊列を組んで戦う術を叩き込んだのだ、戦況を少しでも自軍に有利なほうへ傾けるために。
「隊列とか超ダルイんですけどー、みたいなー、ウキー」
「マジ、サーチ&デストロイさえわかってれば問題ないんじゃね……みたいなー、ウキー」
 もっとも『策』と言うものが不得意な彼らなので、だる過ぎてギャル男みたいになってしまっている。
「……まあ、そう言うな。騙されたと思って、最初の一撃だけでも従ってくれ。ほら、お菓子あげるから」
「戦いの前に皆食べてってね。栄養補給は大事だよー」
 コレット・パームラズ(これっと・ぱーむらず)が愛用のリュックから出したお菓子を一同に配る。
 紅茶セットとショコラティエのチョコを使ったスイーツ。饅頭のような蒸しパンの中には甘さを抑えた餡とチョコ。食べるとチョコの甘さが口いっぱいに広がり、紅茶を飲むと後に残った餡とパン生地の甘さを楽しめる絶品中の絶品。
「頑張ったらもっといっぱいあげるからねー」
「さて、食べながらでいいから聞いてくれ。救出作戦の手順を確認しよう。ローザ、宮殿内の見取り図を」
「はい」
 ローザ・セントレス(ろーざ・せんとれす)は事前にハヌマーンに書いて貰ったチャンドラマハルの地図を壁に広げた。
「現在地はここ西門です。チャンドラマハルの本殿は中央にあるのですが、行き着くまでの通路は外敵に備えあえて迷路のように入り組んだものになってるようです。また、各所に死人戦士の詰めている見晴台が置かれているそうです」
「とすれば、俺たちで幾つかのルートを足止め、そんで本隊が進めるルートを確保するしかねぇな」
 御剣 紫音(みつるぎ・しおん)はそう言うと地図にルートを書き込んでいく。
「貴殿も足止めに参加するのか……?」
 紫音は前回の戦いで手傷を負った。肋骨を数本打ち砕かれたほどの重傷だ。
 仲間を先へ行かせようと平静を装ってはいるが、その額に玉を作る汗は傷の深さを物語っている。
「俺のことは気にしなくていい。もう幾ばくも時間がねぇ、こいつらを先に行かせることが先決だ」
「私たちにも足止めを手伝わせてください〜」
 今度はメイベル・ポーター(めいべる・ぽーたー)が名乗りを上げた。
「私たちも参加すれば結構な数のルートを押さえられると思うんですぅ。通路が入り組んでいるので、塞がなくちゃならないルートは多いですけど〜、その分、通路は狭くなってますから少数でも足止めが効くんじゃないでしょうか〜」
「なるほど……、いい作戦だ」
 ユリウスは空を見上げる。
 そこでは契約者の天城 一輝(あまぎ・いっき)の駆る小型飛空艇が哨戒に当たっていた。
「いよいよお出ましのようだぜ……」
 横一列で通路を塞ぎ、重装の死人戦士の一団がこちらに向かってくるのが見えた。
 すぐさま合図を出す。
「よし、全員陣形を取れ。合図と共に作戦開始、敵防衛線を突破する!」
 ユリウスの号令でモンキーズも横一列に並び槍を前方に向ける。
 そして、前から突撃してくる軍勢に合わせ、フェザースピアを持ったモンキーズは一斉に槍を投げた。不意打ちに思わず死人戦士の行進が止まる。その隙を逃さず第二の号令、今度は竹槍を持った一団が敵軍目がけて突撃を行う。
「徴兵したばかりの素人を何とか使う為の付け焼刃だが……、限定した空間ならそれなりに使える筈だ」
 彼の思惑通り、敵軍の中央を強引にこじ開けて活路が開かれた。
「よし、進路確保! 俺たちが援護する! 一気に駆け抜けろ!」
 上から状況を確認した一輝が叫ぶ。
 戦いに必要なものは三つある、と彼はどこかで教えられた。
 天の時、地の利、人の和、この三つが揃った方が勝つらしい。ハヌマーンとスーパーモンキーズには信頼関係『人の和』がある。そしてもともとここは彼らの根城、自分達よりも『地の利』は充分にあるだろう。
「……で、残るは『天の時』だが、それは神のみぞ知るってところかな」
 誰に見せるでもなく、ひとり苦笑を浮かべる。
 だがすぐに戦士の眼光となり、機関銃で地上の死人戦士を掃射する。
「行け……、みんな! あとは頼んだぜ!」