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イコン博覧会(ゴチメイ隊が行く)

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イコン博覧会(ゴチメイ隊が行く)
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「なかなか、個人ブースも賑わってますねー。あっ、人だかりができています。おおっと、これは黄色いどっしりとしたイコンです――」
 シャレード・ムーンがカメラをむけた先では、Zwei・ohr・Kukenが大勢の人に囲まれていた。その姿が、メイン会場の方の巨大スクリーンにも映し出される。
「私のZwei・ohr・Kukenのコンセプトは、量産機であるクェイルをベースとして、いかに他のカスタム機に迫るスペックを再現できるかというものです」
 エルフリーデ・ロンメル(えるふりーで・ろんめる)が、少し自慢げに説明をしていた。
 試作機を示すかのような黄色のカラーリングをされた機体は、ドイツ語の「二本耳のひよこ」という名の通りで、頭部から左右に突き出たアンテナユニットが特徴的だった。他にも、スカート状に広がったバインタッシェ(草摺)が、クェイルにはない重量感を与えている。
「こいつは小型飛行ユニットを装備しているからな、空も飛べるんだぜ! 移動能力もイーグリットとコームラントのほぼ中間、もともと陸上での運用に適したイコンだからオールラウンドに戦えるっていう寸法だ。武装は、イーグリット級のビームサーベル、コームラント級の手持ち式大型ビームキャノン、それに今回はマシンガンとバズーカを携行させているんだぜ」
 リーリヤ・サヴォスチヤノフ(りーりや・さう゛ぉすちやのふ)が、自慢げにビームキャノンの砲身をポンポンと叩きながら説明した。
「ふむ……」
 土方歳三が、新しい原稿用紙にスケッチをしていく。
「汎用性は高そうだけれど、追加装備でかなりピーキーになったふうにも見えるよね」
 名前に反して、意外とごつい機体に朝野未沙がふーんという顔をした。
「ひよこイコンだあ♪」
 イナ・インバースの方は、これはこれでかわいいと目を輝かせている。
「おやおや、ずいぶんと客が増えてきたな。これじゃ、キャンギャルはエルフリーデとリーリヤの二人じゃ間にあわねえな。よしゃあ、ここは俺が一肌も二肌も脱いでやるとするか。なあに、おっさんがキャンギャル、もとい、キャンおじをしちゃあいけねえって法はねえだろうし」
 そう勝手に独り合点すると、ラグナル・ロズブローク(らぐなる・ろずぶろーく)が、イコンの後ろでごそごそと服を脱ぎ始めた。当然、キャンおじをするのであれば裸――もとい、水着である。今こそ、バイキングでならした肉体美が武器となるときだ。
「エルフリーデ。後方、四時方向に汚物だぜ」
 エルフリーデ・ロンメルの胸ポケットの中から、【戦術情報知性体】 死海のジャンゴ(せんじゅつじょうほうちせいたい・しかいのじゃんご)が渋い中年男性の声でささやいた。データカードのままの魔道書なので人間体はまだ有していないが、フラワシを使って周囲の異常を感じたらしい。
「――のように、初動において有利な位置から長距離射撃を……」
 パン。
「はうあ」
「……有利に行うための補助移動ユニットを――」
 説明を続けていたエルフリーデ・ロンメルが、腰のホルスターから抜いたM712でゴム弾を打ち出すと、素早くラグナル・ロズブロークを打ち倒した。そのまま、何ごともなかったかのように説明を続けていく。
「ふっ、相変わらずみごとだぜ」
 【戦術情報知性体】死海のジャンゴが、満足そうにささやいた。どうも、彼らの間では、このようなことは日常茶飯事らしい。
「今、何かあった気が……」
 説明を聞いていた藤井つばめが瞬間引きつったが、昏倒したラグナル・ロズブロークは、リーリヤ・サヴォスチヤノフがさっさと引きずっていってしまった。
「少しは参考になりますか?」
「はい」
 杵島一哉に聞かれたアリヤ・ユーストが、データを入力しながら答えた。
「このくらい改造すれば、帝国のワイバーンにも勝てるのでしょうか。なかなか、イコンも手を加えないといけない物のようですね」
 あらためてイコンの大きさに圧倒されながら、テオドラ・アーヴィングがつぶやいた。
 
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「さあ、個人ブースをどんどん見ていきましょう。それにしても、個人ブースのイコンはどれも個性があって凄いですね。中には、本来の機種の面影すら残っていないような物もありますが。とはいえ、イコンの重要な部分は、ブラックボックスであるコアの制御コントロール部分とメインの機晶エンジンの所です。そこが最も大切な部分であって、それをどう生かすかということで、各学校の個性が出てきているわけです。装甲や武装はあくまでも追加したものですから、バリエーションは無限というわけですね。そのコアも数種類あって、特にアルマインは特徴的なのですが……、それにしても、このイコンは独特なフォルムですねー」
 水橋 エリス(みずばし・えりす)ディーガを見あげて、シャレード・ムーンがレポートを続けた。
 もともと昆虫的なフォルムのアルマインではあるが、ディーガはその中でも独特のフォルムをしていた。その外殻装甲は白いカミキリムシに近い。頭部からのびた二本の多節触覚と長くのびた前腕が特徴的だが、背部から広がった細めの四枚の翅(はね)がみごとだった。翅脈によって分けられた翅の各部が、ステンドグラスのようにそれぞれ別々の虹色に美しく輝いているのである。
 脚部は元のアルマインよりも少し貧弱であるが、これは飛行状態が基本のためであろう。
 もともとは世界樹イルミンスールの地下で見つかった物の一体だが、今は第一発見者である水橋エリスが預かっている。
「うふふ。やっぱり、私のディーガが一番美しいわよねえ」
 自分のイコンにうっとりと見とれながら、水橋エリスがつぶやいた。
 周囲のイコンと見比べてみても、この生物的な美しさは群を抜いていると自画自賛できる。
「おお、これはデッサンのとりがいがある」
 創作意欲を刺激されたのか、土方歳三が勢いよくスケッチを始めた。
「さすがに、これを再現するのは難しいわね」
 メカとしての物とは少しかけ離れたアルマインに、朝野未沙がちょっと考え込んだ。インダストリアルデザインとしてのイコンなら彼女の範疇(はんちゅう)だが、この造形美は純粋な自然の彫塑(ちょうそ)といった感じだ。
「さすがに、これは参考にするには難しい物がありますね」
 自身の持つコームラントと比べて、杵島一哉がちょっと考え込む。これを参考にしてしまったら、コームラントが何か別の物になってしまいそうだ。
「うっ、翅は綺麗だけれど、虫……」
 ちょっと引きながら、藤井つばめが呻いた。だが、イナ・インバースなどはイコンであれば平気のようだ。
「こういうイコンもあるのですね。これならワイバーンにも勝てそうかも……」
 テオドラ・アーヴィングも少し気に入ったようだ。