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第四師団 コンロン出兵篇(最終回)

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第四師団 コンロン出兵篇(最終回)

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神龍騎士、帝/ボーローキョー〜ミロクシャ
 
「爆ぜろ、火遁! 煉獄を現世に召喚せよっ!!」
 騎凛、国頭らの更に後方から巨大な火炎が立ち上がり、轟音を立てて神龍騎士を巻き込むように向かっていく。その原点にいたのは水晶の杖を掲げた龍雷の軍師、甲賀 三郎(こうが・さぶろう)。帝の護りはパートナーと龍雷の兵に任せ、自身はこのボーローキョーの戦場に残った。
「我のもてる最大火力也。……ここより共同戦線を張る。帝をお守りするぞ!」
 それを合図と、国頭は血煙爪雷降の構えから、弾幕を撃ち放つ。敵の横合いに位置づけた又吉は、光術を飛龍の視界に打ち込み、ワイヤークローを取り出した。火炎と強力な光に巻かれ、暴れ打つ神龍騎士の飛龍。「機晶石(アーティフィサー・アーマーの)から電力確保(ライトニングブラスト)。ライトニングウェポンで帯電させたこれで、引きずり落としてやる……おっ?」
 そこへ、神龍騎士が御している飛龍にだっと飛びついていく女。
「お、おいおい何て無茶な……」
 御茶ノ水 千代(おちゃのみず・ちよ)だ。
「私からは逃げられない!」
 教導団の使命。そしてエリュシオンの狙いもコンロン帝…… 「専守防衛」。教導と龍騎士の争いにボーローキョーを巻き込まない為に、ココまで来たのに……結局私がボーローキョーに火種を招いてしまった? また私はしくじったの……? ――さきまで抱いて立ち尽くしていたその思いを振り切り、千代はただ必死で組みついた。
「な、何をするっ」
 蛇女のようなしつこさでと執拗に、飛龍の上でタズグラフに絡みつく千代。
 タズグラフは振り切れない長剣を落とし、龍騎士の強靭な籠手で千代を打った。
「ああっ!」強い痛みが千代に走る。だが亡霊王や生きている亡霊の方々を戦禍に巻き込まず、安らかに安寧の生を過ごしてもらいたい……ここはこれ以上巻き込むわけにはいかない!
「離さぬか!」
「絶対に、逃げられない!」
 千代は何度も打たれながらも離さなかった。――ゴメン、セシルくん(彼氏)もう戻れないかもしれない……争いを呼び起こしたこの罪、身命を賭して贖います!
 又吉のワイヤークローが、国頭の射撃が、甲賀の炎が、飛龍に撃ち込まれる。シーリルのペドリファイが飛龍の翼の一部を石化させた。
 バランスが崩れる。
 飛龍は、落下した。
「わっ」ミレイユはおののきながらも、投げ出されたナギナタを騎凛に放った。「騎凛先生っ!(突っ走らないようとは言われたものの、やっぱり騎凛先生にはこれがないと、ね?)」
 騎凛は受け取ったナギナタの後部で飛龍の頭を打ち、その場に沈めた。
「ええい、離せっ」
 タズグラフは千代を摘まみ放り投げる。その怒り様は凄まじいものがあった……しかしこれで帝を追う手段は断たれた。だからこその、怒りであるか。「おのれ、貴様ら……!」
 このとき、東の空から嫌な聞き覚えのある嘶きがかすかに聞こえ、すぐに大きくなってくる。
 飛龍だ。しかも、群れ……軍勢である。
「おお、タズグラフ様!」
「ハチヂガか。フン、まあ悪くはないタイミングで来た」
 龍騎士団の増援部隊である。羽音を立て、タズグラフと対峙する騎凛らの上空を旋回する。
「一体これは……」
「こやつらの後方にコンロン帝を乗せた馬車の一行が走っている。追うのだ! 帝を捕えよ。殺しても構わぬ。邪魔をする者は皆殺してよいが、帝を殺すのを第一とせよ」
「はっ! しかしタズグラフ様は……」
「私の方はよいから、ゆくのだ! 今ならすぐに追いつくだろう。飛龍もなくした。私はこの者らを討つ。そこの女は教導団の師団長らしい。残しておけば今後目障りになるだろう」
 タズグラフは剣を拾う。騎凛はナギナタを手にそれに向き合った。
「はぁ!」龍騎士団は、隊長の指揮で一斉に転回し飛び去っていった。
「くっ。しまった」「しかし、止める方法がない……」
 ミレイユはその先を祈るように見つめる。ああ、シェイド。ルイーゼ。どうか……。
 甲賀も同じく少々心配の面持ちを見せたが、龍雷の部下たちを信頼する。しかし次の瞬間、甲賀は目を見開いた。「おお!」
 ボーローキョーの亡霊兵らが、飛んでゆく龍騎士を弓矢で射ている。これ以上、ボーローキョーで好き勝手にはさせないということか。亡霊王はじめ亡霊の戦士らは武器を取り、タズグラフを取り囲んだ。
「ぬうう……教導団に味方するというのか!」
 千代の行動に、亡霊王の心は動いた。
「待って! あなた方を、巻き込みたくはない!」千代は言うが、コレハ我々ノ戦イデモアル……守ル為ニハ、戦ウ必要モアルト。亡霊王は言った。亡霊王は騎凛に並び、亡霊の兵たちがその前に、タズグラフを前に立ちはだかった。
「(亡霊さんに囲まれて、ひー、ちょ、ちょっと恐い〜……)」(騎凛)
 千代が更に、その前に、立つ。
「御茶ノ水さん! 大丈夫です。一騎打ちなら、私に任せて」「で、ですけど師団長……」「体を労わらないと」「……。えっ」
 甲賀、国頭、ミレイユらも脇を固め援護の態勢を取った。「むう。師団長を討たせるわけにはいかぬ。援護の構えはしておくか……」「先生の護衛が仕事だが、一騎打ちならここまでかな。まあ一応何かあったら助けてやるか」「騎凛先生……突っ走っちゃダメ……!」
 タズグラフはゆっくり、近づいてくる。
「幾ら、束になったところで……むう?」
 そこへゆらりと、立ち上がる男。
 前田 風次郎(まえだ・ふうじろう)
「……無駄だ」タズグラフは横目をくれただけだ。
 刀を構える風次郎は、どこか異様な雰囲気を纏っていた。――久しぶりだ、あそこまで強い奴は。確かに傷は深い。だが、痛み以上に沸き出てくるこの高揚感は何だ? だったら、こんなところで倒れているわけにはいかないな……。奴は俺が倒す!
「大和、俺に力を貸せ……!」
「風次郎殿……!」風次郎殿へのダメージは深刻なものですな。いくら傷口は塞いだとはいえ、常人ならば立っているのがやっとでしょう。しかしながら、あの目はなんでしょうな。まるで嬉しがっているようではないですか。しかし、それがいい。彼のような人間と共に戦えることは、魔鎧の身として嬉しい限りですな。
 当世具足 大和(とうせいぐそく・やまと)は一言も口にはせず、ただ風次郎の身に纏われた。
「風次郎、さん? ……わかりました」
 騎凛も、一歩身を引く。亡霊王も無言で見守った。
 風次郎は一声上げ、タズグラフの懐へ駆け込んだ。
 タズグラフはそれに微動だにせず剣を構えている。……この男、何故ここまで戦いに……いいだろう。今度は確実に斬ってやる。