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【ザナドゥ魔戦記】イルミンスールの岐路~抗戦か、降伏か~(第1回/全2回)

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【ザナドゥ魔戦記】イルミンスールの岐路~抗戦か、降伏か~(第1回/全2回)
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 緋桜 ケイ(ひおう・けい)永久ノ キズナ(とわの・きずな)サラ・ヴォルテール(さら・う゛ぉるてーる)の下を訪れた時、サラはケイオース・サイフィード(けいおーす・さいふぃーど)セイラン・サイフィード(せいらん・さいふぃーど)と、イナテミス精霊塔の機能調整を行っていた。闇の世界樹、クリフォトから放出される闇の瘴気からイナテミスを守るため、精霊塔の機能『ブライトコクーン』の強化を中心に、話が進められていた。
「クリフォトの出現によって、多種多様な動植物を育んできたイルミンスールの森は、異質なモノへ変化し始めている。
 何か対策を講じなければ、例え俺たちが魔族を退け、今も続いているこの争いに勝利したとしても、森の生命が朽ち果ててしまう。そうなってしまっては何の意味も無いんだ。護るべきものは、人の命だけじゃない。生命に満ちたイルミンスールの森を――『俺たちの大事な場所』を護り抜かなければ、意味が無いんだ」
 そして、セイランとケイオース、サラを前に、ケイが自らの思いを口にする。
 森を救う決定的な手段は、クリフォトをザナドゥに送り還すこと。
 しかし、その為には長い期間を要するであろうこと。
 魔族との戦いを続けながら、同時に、森の動植物を護ってやる必要があること。
 それらの話を聞いた上で、先にケイオースが口を開く。
「闇の世界樹から放出される闇の瘴気は、強力でありかつ、途絶えることがない。これを森に浸透させないためには、相応の出力と、持続的に出力を行える機能が必要になる」
 横で、セイランが周辺地図を広げる。今はイルミンスールが後方に吹き飛ばされたことにより、イナテミス中心部・氷雪の洞穴・ウィール遺跡・世界樹イルミンスール、が4つの角となる四辺形を形成していた。
「ブライトコクーンへの機能集中、出力調整を行い、これまでの調査で確認できた闇の瘴気の強さを基に、現時点でこの四辺形にブライトコクーンを張り、瘴気を食い止められる時間は、約2ヶ月。範囲が広くなればそれだけ、展開できる時間が短くなってしまう」
 示された2ヶ月という期間が、果たして長いのか短いのかは想像しにくいが、ひとまず基準となる指標は示された。それでもこれはあくまで、イナテミスとその周囲について、である。イルミンスールの森を護る、は流石に規模が大き過ぎ、イナテミスでは対処しきれない。
「動物については、イナテミスでも受け入れることは可能だ。……しかし、植物については、逃げることも叶わない。俺が示したのについては、物理的な被害を防ぐより、瘴気から植物を護ることを重点に置いた上での期間、と思ってもらっていい」
 霧のように広がる闇の瘴気を防ぐには、やはり霧状にブライトコクーンを展開する必要があり、そうなると流れ弾を防ぐといった効果は期待出来なくなってしまう。森を護ろうとすれば、街と住民を護ることが難しくなってしまうのだ。
「大本であるクリフォトからの瘴気放出量が減少するなど、状況が変わればこの限りではありませんが、現状は思わしくないですわね。
 ブライトコクーンに頼れない分は、セリシアさんとカヤノさんに負担させてしまうことになりそうですわ」
 セイランが、表情を陰らせて答える。この場にいないセリシア・ウインドリィ(せりしあ・ういんどりぃ)及びカヤノ・アシュリング(かやの・あしゅりんぐ)は、それぞれが深く関わっている『ウィール支城』『雪だるま王国』に向かっているのだという。

「サラ殿、少しいいだろうか。サラ殿は先の戦いで、ケイと共にアルマインに乗って戦ったと聞いた。
 ……そこで私は思ったのだ。仮に、あの場にもう一人精霊がいたとしたら……アルマインに同じ属性の力を持った精霊が、二人搭乗していたとしたら、そのアルマインは、より属性に特化した力を発揮することが出来るのだろうか」
 ケイがセイランとケイオースと話をしている間、キズナがサラに聞いてみたかったことを尋ねる。
「データ上のことは私には分からないが……そうだな、アルマインにはそういう可能性があるように私は感じた。ただ……」
 ただ、と言い、何かを考えるような仕草を取る。
「サラ殿?」
「……ああ、済まない。ただ、2つ以上の同質の力を合わせるのは、そう簡単なことではないと感じもしたのだ。
 私たち精霊が操る炎や氷、風雷、光に闇……それらは操る精霊によって大小なりとも異なる。近い例で言えば、カヤノとレライア、セリシアとサティナを思い浮かべてほしい。二人とも同属の精霊だが、操るものは異なっている」
 確かに、セリシアとサティナはそれほど違わないが、カヤノとレライアは大分異なる。
「もしも、私とキズナが同じアルマインに乗ったとする。私とキズナは同じ炎熱の精霊、しかし、操る炎には少なからず個性があると思う。そんな2つの同質の力が合わさった場合、上手く重なり合って強力になることもあれば、打ち消し合うように消え去ってしまうこともある、そういうこともあるのではと感じたのだ」
「それは……」
 消え去ってしまうことなんてない、とは否定しきれない。……では、やはりどちらか一人が乗った方がいいのだろうか? それならばサラ殿の方が――
 そんなことを考えかけたキズナの肩に、ポン、とサラの手が載る。
「キズナ、あなたはケイのパートナーだ。あなたが乗らねばアルマインは本来の力を発揮しない。
 もし次の戦いがあった時、そして、私も共に乗ることになった時は、私があなたに合わせよう。
 一緒に戦おうとする、その志は私もあなたも同じだ。そのことは忘れないでくれ」
「サラ殿……」
 沈みかけていた表情に、フッ、と笑みが戻る――。

●ウィール遺跡

 その頃、セリシアとヴァズデル土方 伊織(ひじかた・いおり)サー ベディヴィエール(さー・べでぃう゛ぃえーる)サティナ・ウインドリィ(さてぃな・ういんどりぃ)は、遺跡方面の防御計画について詳細を詰めようとしていた。
「ザナドゥ軍はあっちから来るので、ウィール支城では遺跡が巻き込まれてしまうのですよ。なので、ウィール遺跡から西に行って、まだ森が侵食されていないギリギリの線のところに小さな砦を建築して、そこでザナドゥ軍の侵攻を阻もうと思うのです。
 本当なら森の中に作りたくないのですけど、遺跡を戦場にしたくないですし……」
 普通ならば、森を切り開かざるを得ないこの手法は、控えられるべきだろう。しかし、いつまた魔族の襲撃があるやも知れぬ状況で、他に手法を選んでもいられないことは、伊織だけでなくセリシアもヴァズデルも承知していた。
「伊織さん、私たちのことは大丈夫です。森は、必ず蘇ります。
 今は、魔族の侵攻を防ぐため、手を尽くしましょう」
 セリシアの微笑みを受けて、伊織が言葉を続ける。
「えっと、砦に関してはモット・アンド・ベーリー型の手早く建築できる小城を作るつもりです。セリシアさんやヴァズデルさんにお願いして、精霊さん達の協力が得られると有り難いのですけど、お手伝いお願いしちゃって大丈夫です?」
「ああ、任せてくれ。……セリシア、君が精霊たちを率いてやってくれ。遺跡の方は私と、数名程度残してくれればそれで十分だ」
「……分かりました。では、行ってきます」
 ヴァズデルに頷き、伊織に後ほどと告げて、セリシアがその場を後にする。
「べディさんには、砦が建設できるまで、境界線を警戒してほしいのです。
 ジャタの森への侵攻が陽動作戦の一つかもしれないですし、それに、クリフォトのアーデルハイト様に会いに行こうとしてる人たちも居ますし」
「そうですね……ジャタの森への侵攻は意外でしたし、お嬢様の考える可能性も十分あり得ます。
 アーデルハイト様との接触により、事態が急変するかもしれません。敵に砦の建設を知られないよう、ご命令、承らせて頂きます」
 ベディヴィエールが一礼し、その後いくつか伊織とやり取りをした後、手筈を整えるためにその場を後にする。

 セリシアが、有志の精霊を連れて伊織とサティナの下に合流したのは、それから数刻と経たない頃であった。一行はその足で西へ飛び、砦の立地候補を選定する。
「むぅ、やはり森の中、なかなか難しいのう。切り倒すのはやむを得んとはいえ、最低限にしたいが……」
「そうですね……姉様、あちらはどうでしょう」
 あちこち飛び回った末に決定した場所は、ウィール遺跡とイルミンスールから等距離にあった。三点を結ぶとちょうど、二等辺三角形になる。
「伊織、そういえば聞いとらんかったが、おぬしの言うええと……なんだったかの?」
「サティナさん、モット・アンド・ベーリーです。今から説明しますので、皆さん、少しの間お付き合いくださいです」
 サティナとセリシア、そして有志の精霊を前に、伊織が『モット・アンド・ベーリー型』について説明する。元はヨーロッパにおける築城形式の一種であり、モットが小山、ベーリーは外壁を意味する。平地や丘陵地域の周辺の土を掘り出し、堀(この場合は空堀)を形成し、その土で小山と丘を盛り上げる。小山は粘土で固め、その頂上に木造または石造の塔(これを天守とする)を作り、丘を木造の屏で囲んで、貯蔵所、住居などの城の施設を作るものである。
「モット・アンド・ベーリー型の城は手早く建築できるのが特徴です。皆さんの協力があれば、立派で頑丈な砦を短期間で作ることが出来ると思うのです。どうかよろしくお願いしますです」
 説明を終え、ぺこり、と頭を下げる伊織へ、精霊たちの同意する頷きや声が聞こえてくる。
「ふむなるほど、だいたい理解したぞ。そうそう、この砦作りはあれじゃ、一夜城とやらに似ておる。うむうむ、中々に面白い。我の名声を高めるためにも丁度良い。さあ皆の者、我の第二の城建設に着手じゃ」
「サティナさーん、勝手に自分の城にしちゃわないでくださいですー!」
「そうです姉様、砦は伊織さんのですよ」
「そ、それもどうかと思いますですー」
 そんな調子ながら、ウィール支城を建設した時の団結力で以て、新たな砦の建設は着々と進められていくのであった――。


 同じ頃、激しい戦闘の残滓が今も刻まれている森を、鷹野 栗(たかの・まろん)がペットの動物たちと共に歩いていた。
(魔族の望みは、欲したものは、何……?)
 戦闘が終わり、この地に住まう多くの動物たちは、森を東へ向かっていった。西からは不穏な空気が近付いていること、世界樹が東へ吹き飛ばされたことが、彼らにそのような判断を下させていた。
 逃げ遅れた動物や、あるいは人間がいないか――そう思ってこの地に足を運んだ栗だったが、ここには動物はおろか、植物さえその息吹を感じられない。栗が話しかけても、倒れた木々はもう一言も言葉を返さない。

「……ここを護れて、ヴァズデルも無事で、本当に良かった」
 一通り捜索を終えた栗は、シェリダンに乗せてもらい、ウィール遺跡を訪れる。ヴァズデルと再会するのが、ほんの少し離れていただけなのにとても長いことのように感じる。
「ああ、皆のおかげだ。栗、君も無事で良かった」
 ヴァズデルが笑顔を浮かべて栗を出迎える。ペットたちが思いのままに枝の上にとまり、あるいは地に転がり、降り注ぐ日光に身体を晒している。夏の暑い日差しも、ここでは幾分優しげだ。
「ヴァズデル、魔族や森の侵食について、何か分かったことはある?」
「森の侵食については、セリシアや他の精霊長、契約者たちが随分と調べてくれている。私が感じたのは……そう、クリフォトによる侵食は、ただ一方的に森を食い荒らすものではない、という点だろうか」
 ヴァズデルの説明が続く。あのように禍々しい姿をしながら、クリフォトもまた世界樹である。クリフォトはイルミンスールの森に顕現して後、木々に働きかけ、従属を誓うものには姿を変貌させ、抵抗するものには死を与えているのではないか、というヴァズデルの推測が、本人から語られる。
「だから、枯れてしまった樹もあれば、見たこともない姿に変化した樹もあったというわけね」
 どのような形であっても生きることを選ぶか、あくまで誇りに殉じるか。木々にもそれぞれ、個性があるようであった。
「魔族については……より推測の域を出ないが、彼らは原始的な欲求で動いているように見える。
 これは無論、末端の魔族の話だ。四魔将と言ったか、彼らは私や君とは違った、しかし私や君と同レベルの思考で以て動いているように見える。
 それを見抜くには、まだ魔族について知らないことが多い、と言えようか」