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【ザナドゥ魔戦記】イルミンスールの岐路~抗戦か、降伏か~(第1回/全2回)

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【ザナドゥ魔戦記】イルミンスールの岐路~抗戦か、降伏か~(第1回/全2回)
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「……くっ! 何ということ……! 僕とゼミナーでも封じ込められないなんて……!」
 吹き飛ばされた姿勢からなんとか回復し、足から地面に着地したキリカ・キリルク(きりか・きりるく)が、肩で息をしながらキッ、と前方を見据える。最初は調子よく敵軍を食い止めていたのだが、アルコリアの出現により形勢は一気に逆転。今度は契約者たちが混乱に陥る番であった。
「これは少々分が悪いですね。なんとか彼女一行を足止めすることが出来れば、まだこちらにもやりようがあるというものですが。
 ……敵の侵攻速度が再び上がっています。この状況が続けば、森を突破されてしまう可能性が出てきました」
 即座に敵の侵攻速度を計算した神拳 ゼミナー(しんけん・ぜみなー)が、普段の尊大な態度を潜めて告げる。大量の魔族の軍勢を相手するだけでも、既に人手不足という試算が出ている中での、契約者の中でも一、二を争う脅威を振りまいてきたアルコリアの出現は、ジャタの森を守る者たちにとって限りなく厳しいものとなっていた。
「取った駒を再利用……ザナドゥ、まるで将棋とでも思っているな?
 だがな、我らには絆という力がある。かつては想いの違いから対立した相手でも、分かり合い、そして共に闘う仲間となる力が」
 まだ諦めるわけにはいかない、その思いを胸に、ゼミナーが指揮を執るヴァル・ゴライオン(う゛ぁる・ごらいおん)へ連絡を取る。

「……そうか、奴が現れたか」
 ゼミナーからの報告を受けたヴァルが、帝王としての余裕ある態度を崩さないまま、しかし内面では緊迫した面持ちで思慮する。
『ヴァル・ゴライオンさん、思慮中失礼します。
 どうやら相手側に強力な敵が出現したようですね?』
 そこへ連絡を寄越してきたのは、エッツェル・アザトース(えっつぇる・あざとーす)であった。
「ああ、その通りだ。……奴は強い、それは認める」
 エッツェルの言葉に、ヴァルが素直に頷く。敵の戦力を見誤ることは、指揮する者にとって致命的である。その意味では、ヴァルは正しい判断を今も下せていた。
『その者の相手は、私が対処いたしましょう。倒せないまでも、拮抗を続ける位なら出来るはずです。
 私がその者を引きつけていれば、他の方々は魔族への対処が出来ますでしょう?』
「…………」
 ヴァルは思慮する。敵――アルコリアは、本来の強さに加え、驚異的な自己回復能力まで身につけているという報告があった。
 それに対抗しうる唯一は、エッツェルのみと言っていい。彼にもまた驚異的な自己回復能力があり、パートナーの戦闘能力も申し分ない。
『イルミンスール魔法学校には大恩ある身。ならば、私は全力でこの居場所を守るのみです』
 そして、エッツェルのその一言が、ヴァルに決断をさせた。
「……孤立しないように手配する。頼む、奴を暫くの間食い止めてくれ」
『心得ました』
 通信が切れ、しばらく端末を見つめていたヴァルはそれを仕舞い、真っ直ぐに正面を見据える。
「たった一組の相手に貴重な一組を当てる……いやぁ、ホントやりがいがあるッスね。
 これだけの戦力で、600もの軍勢を一体も通さないなんて、それしか言いようがないッスよ」
 銃のメンテナンスを終え、カシャン、とマガジンを装填したシグノー イグゼーベン(しぐのー・いぐぜーべん)が、もはや絶望的ともいえる状況下でなお、不敵に微笑んでいた。
「……皆の者! 勇敢なる我が戦士が、敵軍の猛将を受け止めんとしている!
 彼は必ずや期待に答えてくれよう! 我々も後に続くのだ! 猛将なき魔族の軍勢など、烏合の衆!
 皆が奮起すれば必ず、魔族をこの地より追い払うことが出来よう!」
 ヴァルがHCを通じ、魂を震わせ、奮起させる演説をうつ。バラバラな個人の方向を一つにまとめ、向かわせる、それが帝王たるヴァルの役目。
(エリザベート、ニーズヘッグ、アメイア。……あいつらは必ず戻ってくる。
 あいつらの戻る場所を、俺達が、この手で守ろう)


(……! あぁ、この気配……強者のものですね。
 この安っぽい命に、随分とお高い相手をぶつけてくれたものです。……その心意気、存分に買いましょう)
 強者の気配を感じ取ったアルコリアが、向きを変えその気配の元へと向かう。森を進んだ先に佇む人影、エッツェルと適度な距離を挟んでアルコリアが対峙する。ほぼ同じ力を持つ2名、違うのは向いている方向のみ。

 ……そして、僅かばかりの沈黙の後、エッツェルの身体から放たれる絡みつくような瘴気が、この狂おしく激しい戦闘の開始を告げた――。

(何よこれ、そんじょそこらの魔族より格段にヤバイじゃない!
 ……だけど、こんな所で死ねない! まだ皐月に、好きだって伝えてないんだから!)
 敵――といっても魔族ではなく、おそらく魔道書と思われる――の、空間を切り裂くように走る音波の影響をギリギリのところで避け、アーマード レッド(あーまーど・れっど)の上に飛び乗った緋王 輝夜(ひおう・かぐや)が銃を構え、引き金を引く。
「素早さだけはあるようですわね。ですが逃げているだけではわたくしは倒せませんわよ?」
 飛んでくる弾丸を、ナコト・オールドワン(なこと・おーるどわん)が射線を見切って回避する。
「敵ノ 反応ヲ 確認…… 直チニ 殲滅行動ヲ 行イマス」
 相手の回避行動に合わせ、今度はレッドがミサイルポッドからミサイルを見舞う。軌道を微妙に変えながらナコトを爆発に巻き込もうとする瞬間、ナコトとミサイルの間に盾を構えたシーマ・スプレイグ(しーま・すぷれいぐ)が割り込む。
「“守る”仕事はきっちりとさせてもらうぞ」
 複数生じる爆発、そして爆風。やがて視界が晴れ、そこには攻撃を耐え切ったシーマの姿があった。
「……だいたい、ボクたちはどうして魔族軍に混ざって進軍していたんだ? それにこうして契約者と面と向かって戦うことになるとは、どうしてこうなった……」
「ラズンがマイロードを守り切れなかったことが影響しているそうですが、まあ、わたくしはどちらに付こうが構わないのですわ。
 マイロードこそ善。マイロードが進む道こそ、わたくしの進む道ですわ」
 首を傾げるシーマに、ナコトが答える。先の戦いでアルコリアとラズンが四魔将の一柱、魔神ナベリウスに敗れ魂を奪われたからだと言うが……。

「きゃはははは!! なにこいつおもしろーい!」
 飛びかかってくる黒い影のような獣を、ラズンが発生させた電撃で尽く撃ち抜いていく。二十体ほど撃ち抜いた所で、斧を振り回しながら迫ってくるネームレス・ミスト(ねーむれす・みすと)を見つけて、今度はそいつに電撃を集中させる。強烈な爆音と閃光が走り、ミストの身体が何十本もの電撃に貫かれても、ミストの動きは一向に止まらない。
「ク……クク……アーーハハハハハ!」
 狂おしく笑いながら、ミストが斧を振り回す。動き自体はそれほど素早くもないので見切られるが、とにかく“硬く”“頑丈”であった。
「魔鎧じゃ剥ぎようがないけど、いいよ、ぶっ壊れるまで付き合ってあげる☆」

「この技疲れるんですが、特別です。……遊びましょう?」
 両手に銃を構えたアルコリアが、魔弾をエッツェルへ発射する。一発、二発と魔弾がエッツェルを抉るが、次の瞬間には既に再生が始まっていた。
「回避できないわけではありませんよ? 回避しない選択をしているだけです」
 攻撃を食らいながら、エッツェルが独自に編み出した闇の魔術をアルコリアに見舞う。アルコリアもまた魔術の直撃を受けながら、やはり身体は再生を開始する。
「あぁ、なんて素敵でしょう。気の済むまで、気を失ったとしても戦い続けられるなんて」
 呟くアルコリアの表情は、笑顔に歪んでいた。

「……そうは見えないんだが……。結局戦いを楽しめる方についただけの事のように思えるのだが……」
 この戦闘狂め、そんなことを呟きそうになって、シーマは危険な風を感じ取り回避行動を取る。それまでシーマがいた場所を、全てを切り裂く風が通り抜けていった。
「あれは確か、フラワシといったか。やれやれ……手を抜けば翻意すると取られるとか考えたか、そんなことをすればまずもってボクの命が危うい。
 何も考えずにいられるというのは、しかしそれはそれで悪くないものだ」
 いつでも癒しの力を発動できる準備を整えながら、シーマが一行の盾として振る舞う――。