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聖戦のオラトリオ ~転生~ 最終回 ―Paradise Lost―

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聖戦のオラトリオ ~転生~ 最終回 ―Paradise Lost―
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リアクション

「なぜ貴方達……いや、ノヴァはこの古代都市を戦争の舞台に選んだのでしょうか? ここでないといけない理由でも?」
 御空 天泣(みそら・てんきゅう)はローゼンクロイツにそう尋ねた。
「ここの最深部は、その昔ある実験のために作られました。宇宙、そして特異点を知るために」
 ローゼンクロイツが告げる。
「それ以上は申し上げられません。時が来れば分かります」
 質問を変える。
「貴方達は……どんな世界を創るつもりなんですか?」
 天泣の方を振り向かずに、ただ一言だけ発した。

「誰もに救いがある、そんな世界ですよ」


第四楽章「後会」


「待ってたよ、博士」
 ラヴィーナ・スミェールチ(らびーな・すみぇーるち)は、ホワイトスノー博士の姿を見つけた。
「わざわざテレパシーで知らせに来るとはな」
 最深部がE.D.E.N.ではないことを博士が知れたのは、ラヴィーナが知らせたからだ。
「ノヴァは、きっと博士が来るだろうって予想してたみたい。だから、わざわざボクが知らせるまでもなかったのかもしれないけどね」
 自分を止めに来ると思っていたらしいが、わざわざ呼び寄せる必要があるのだろうか。
 ノヴァの考えは分からない。もしかしたら、世界が変わる瞬間を博士に見せたいのかもしれない。
「こっちだよ。と、いってもほぼ一本道だけどね」
 そのまま博士に背を向け、最深部へと案内した。
 
 古代都市最深部。
 そこには、広大な空間が広がっていた。デッキのようになっている場所から、どこまでも広がる闇が見える。
「シュバルツシルトの時空領域」
 ホワイトスノー博士が足を踏み入れると、ジズの肩に腰を下ろしているノヴァが口を開いた。
「……なんてローゼンクロイツは口にしてたけど、僕にはそれが何だかよく分からない。宇宙を再現しようとしたもの、とも言ってたかな」
 ホワイトスノー博士を見つめ、微かに口元を緩めた。
「来てくれると思ったよ、しょうさ」
「私がなぜ来たか……分かるな?」
 博士が毅然とした様子でノヴァと目を合わせる。
「僕を止めに来た。だけど、しょうさに僕は止められない」
「違う。私は、お前の真意を確かめに来ただけだ」
 世界を本当に洗い流したいのか、と。
「確かに、客観的には世界は一度滅亡するのかもしれない。だけど、主観的に見ればそうじゃないよ。ただ一度綺麗にリセットされた上で、また再生されるんだ。『もう一度やり直せる』んだよ、全てを」
 その言葉に、博士が微かに動揺する。
「そのためのチャンスが、力が、僕には与えられた。だから、それを成し遂げたい」
 そんな二人の会話に、天泣は割って入った。
「ノヴァ……貴方は化物でも、神様でもない」
 世界を創り変えると宣言した一人の子供に告げる。
「ノヴァです。ホワイトスノー博士が、貴方を呼んだ日から、貴方はノヴァという一人の人間です」
 震えそうになるが、それでも何とか持ちこたえた。
「……貴方が暴走したのは、嫌なことをされて腹が立ったからです。それは誰もが持つ感情。ただ貴方は、それを表現したとき、誰もそれを受け止められる人がいなかった。だから、人は貴方を理解出来ず、化物や神と呼んだ」
 さらに続ける。
「貴方は感情を知ったと言いました……でも、自分だけが理解しても、それは感情ではありません。誰かに止められて、初めて感情を、人を理解するのです。
 このまま世界をリセットしたとしても、貴方は新世界の神になんてなれません。ただ、一人でそこにいる、孤独な子供です」
 今度はホワイトスノー博士に視線を送った。
「……博士、どうか貴女も――」
 そのとき、ノヴァが声を上げて笑った。
「新世界の神だって? 面白ことを言うなあ。『神がかつてそうしたように』とは言ったけど、僕自身が神様になりたいだなんて、一言も言った覚えはないよ。何を勘違いしてるんだい?」
 自分が神になって世界を再生する、そのつもりだと考えていた。
「僕は次の世界で、ただ一人の人間として生きたいんだ。こんな力なんてなくていい。ただ、この世界ではそれがある。それに……僕はただ、救いたいんだ。歪んだこの世界に生きる、救われないままの人達を」
 その言葉はどこまでも真っ直ぐで、純粋で、それでいて狂気に満ちたものだった。

* * *


 E.D.E.N.での戦いが終わった直後、小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)は他の者達よりも早く、ホワイトスノー博士達を追って最深部へと急いだ。
「静かだね。もう敵は出てこないみたいだ」
 先頭を走っていたコハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)が呟く。
 どうやら、この先にはもうノヴァとジズ、そして『白銀』しかいないようだ。
「出口です!」
 ベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)が美羽に向かって声を発した。
「待って、ちょっとだけ様子を見ないと」
 そのまま飛び出すのは無防備過ぎる。
 そのため、一旦立ち止まって最深部の様子を窺った。
「笑い声?」
 無邪気な子供のような笑いだ。
 それは一瞬、ノヴァがこの戦いの元凶だということを忘れさせそうになる。
 だが、その後の言葉を聞いて美羽は恐怖を感じた。
「あの感じ……一つも疑ってない。自分がやろうとしていることが、世界を壊すものだってことを」
 駄目だ。ノヴァを放っておくのは危険過ぎる。
 おそらく、ノヴァは大切なものを守るとき、その大切なものを真っ先に壊すだろう。誰も手が届かないところにあれば、絶対に傷つけることが出来ない。
 今回もそうだ。この世界の人を何とかしたい。じゃあ、世界を壊せばもうみんな苦しまない。うん、それが一番みんなのためになるからそうしよう。
 悪意よりも恐ろしい、一方的過ぎる善意。
 それを美羽は肌で感じた。
(セラのためにも、あの二機が生まれた理由――願いを、あんな人に踏みにじられていいわけがない!)
 ただ、みんなで空を飛びたい。
 それ以外に使ってはいけない。
 みんなの命を奪う者、世界を壊そうとする者の手にあっちゃいけない。 
(ホワイトスノー博士、ごめんなさい。でも、ノヴァに白銀のイコンに乗って欲しくないから)
 ラスターハンドガンを会話中のノヴァに向かって構える。
 幸い、まだ気付いてなさそうだ。
 出来ることなら、このまま【ナイチンゲール】が到着する前に終わらせたい。白銀の装備であるという「回帰の剣」のことを考えると、ノヴァが【ジズ】に乗ったら、勝ち目が薄くなる。
 チャンスは今しかない。
 一発で仕留められるよう、頭をよく狙って引鉄を引いた。
「え……?」
 だが、ノヴァは倒れない。
 地面の感触を味わったのは、他ならぬ自分だった。
「美羽さん!」
 ベアトリーチェが美羽を抱きかかえる。
「本当に油断も隙もあったものじゃないよ。ああ、大丈夫。急所は外れてるはずだから」
 ここに来る前に聞いたところだと、ノヴァは空間操作が出来る超能力者という話だった。
 銃弾が当たる前に空間同士を繋げて、美羽を撃ち抜いたのだろう。
「せっかくここまで来たんだから、世界が変わる瞬間を見ていかないと。ね?」
 そのとき、別ルートから【ナイチンゲール】達が最深部へと飛び込んできた。
「行こう、ジズ」
 ノヴァの姿が消え、【ジズ】の駆動音が鳴った。

「さあ、『再世』を始めよう」