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リアクション
■□■3■□■ じゅせいらん計画への疑問
「失礼します」
ラズィーヤの私室を硬い表情で訪れたのは、
崩城 亜璃珠(くずしろ・ありす)だった。
「お伝えしましたとおり、いろいろと伺いたいことがありますの」
「なんなりと」
ラズィーヤは余裕の笑みで受け流す。
小ラズィーヤは、スカートの両端を握って、亜璃珠の射抜くような視線を受け止める。
ラズィーヤはあらかじめ人払いを行っていた。
小ラズィーヤに対しての配慮なのはわかるが、
それは亜璃珠の疑念をより強くしてしまう。
亜璃珠は、まず、小ラズィーヤに向き直った。
「魔導受精の技術を確立したのはポシブルさん、
つまりあなたの未来です。
それなのに、なぜあなたがすでにその技術を会得しているのかしら」
「ポシブルがこの時代にも来てるのは知ってるだろう?
私は大人になった自分から、未来の世界の状況を聞いて、
技術を教えてもらったんだ」
小ラズィーヤが説明する。
「では、ポシブルさんはどちらに?」
「ポシブルを野放しにすると桜井静香に襲い掛かろうとして危険なんだよ!
なので、タイムマシンで『待機』させてある」
小ラズィーヤの口ぶりから、
ポシブルを縛るなりなんなりしているが、必要な時だけ呼ぶ予定だということがわかった。
「ですが」
亜璃珠は質問を続ける。
「そもそも根本的な解決になっていないのでは?
パラレルな近未来の問題解決にはつながるかもしれないですが、
この時代で魔導受精を行わないなら、この時間軸には問題しか起きませんわ。
もしくは、いまおっしゃったとおり、
この時代に技術だけ伝えてくだされば、それで解決するはず。
もし今の技術水準が実現に追いついていなくとも、それは未来に解決できますもの」
(もっとも、小ラズィーヤの存在は危ぶまれますけれど……)
最後の一言は、さすがに本人を前に口にするのは、はばかられる。
しかし、亜璃珠の予想が正しければ、
この時代の静香やラズィーヤ……
それに、亜璃珠の大切な友人たちは、他の世界のために、利用されるだけとなるのだ。
「この時代の少し先の未来で魔導受精を行えば、
いずれにせよ『小ラズィーヤ』は生まれることになるのだから、問題はない。
しかし、『どの時代でも生まれない人間』の技術を伝えることはできない」
小ラズィーヤの言葉は他人事のように平静だった。
しかし、
亜璃珠は納得しかねる様子を隠さない。
「ラズィーヤさん、
今の説明が十分とは思えないし、
私は小ラズィーヤの申し出を受ける必要はあまりないと思うの」
亜璃珠は、ラズィーヤを見つめた。
「不妊や去勢というのは、本来なら倫理的にとてもデリケートな類の話。
もっと考える必要があるはずなのに、
宦官制を続けたり、二つ返事で静香さんとの子どもを欲しがる理由は何なのかしら?
……まあ、答えが見えていないわけではないけど、一応聞かせてくださいな」
「ノブレス・オブリージュ(貴族の義務)はご存知ですわよね?」
ラズィーヤに亜璃珠は軽くうなずく。
百合園生であれば、至極当然のことだ。
「わたくしは、女王の血筋を継ぐ者として、いずれ、子どもを持たなくてはいけませんわ。
ですが、自分の愛していない人と結婚するのはいやでしょう?
今回の件は、政略結婚をせずに子どもを生むことができるというということで、
わたくしにとっても益のある話でしたの」
ラズィーヤは、扇を閉じて、もう片方の手を添えた。
「宦官になり、女王に仕えることも、
百合園の校長であり、ロイヤルガードである静香さんにとっては、
当然望まれる義務ですけれど……。
別の方法で結果を出せるというのであれば、その限りではありませんわ」
しばらく沈黙が続く。
「本当はあなた、静香さんのことが……」
「ご想像にお任せいたしますわ☆」
ラズィーヤが浮かべたのは、いつも通りの笑みだった。
亜璃珠にラズィーヤの真意はわからなかった。
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