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【四州島記 巻ノニ】 東野藩 ~擾乱編~

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【四州島記 巻ノニ】 東野藩 ~擾乱編~
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第十二章  暴徒

「僕は四州開発調査団御上 真之介(みかみ・しんのすけ)。あなた達の指導者に会いに来ました」
「調査団だと……!俺たちは、お前のような外国人に用はない!帰れ!」

 御上を取り囲む農民の一人が、声を荒げる。
 今ここに居るメンバーの中では、この男が一番高位のようだ。

「僕は、東野藩筆頭家老、大倉 重綱(おおくら・しげつな)様の親書を持っています。重綱様は、皆さんの要望を聞く用意があると言っています。取り次いで下さい」
「筆頭家老!?」
「ご家老様だと!」
「ご家老様――」

 重綱の名に、農民たちの間にさざなみのように動揺が広がる。
 
「気をつけろ!罠かもしれないぞ!」
「そうだ、そんな書状など、信用できるか!」

 農民たちが、口々に叫ぶ。

「罠などありません。見ての通り、ここに居るのは僕と供の者の二人だけ。しかも二人とも丸腰です。僕は、本当に話し合いに来ただけなのです」

 御上と供の者は、両手を大きく広げ、身に寸鉄も帯びていないことを示す。

「確かに、武器を持っていないな……」
「ど、どうする……?」
「待て!騙されるな!」

 その時、集団の後ろから大きな声がした。
 皆が、一斉にそちらを振り向く。
 そこには、人目でただの農民ではないとわかる、一際眼光鋭い男が立っていた。

「お主等が、先祖伝来の土地を取られた時の事を思い出せ!巡察使が、村に来た時の事を思い出せ!」

 男のその声に、その場の空気が一瞬で変わる。

「いつでも、最初はこうだった――『話し合いをするだけだ』『力づくで追い出す様は事はせぬ』――それが、今ではどうだ!お主等は土地を奪われ、村を追われているではないか!」
「そうだ……。あいつの言う通りだ……」
「家老の言う事など、信用できねぇ!」
「俺たちがこんな目にあってるのも、みんな侍のせいだ!」
「今そこにいるのは、その侍たちの手下!しかも外国人だぞ!」

 ――たった一言。
 この一言だけで、皆の憤りが殺意へと変化した。

「みんな、こいつらのせいだ!」
「やれ!やっちまえ!」
「ダメだ、殺すな!捕まえるんだ!そうすれば、こいつの命と引換に、みんな自分の土地を取り戻せるぞ!自分の村に帰れるぞ!」
「よし、捕まえろ!」
「生け捕りだぁ!」

 農民たちが、御上に殺到する。
 何かに取り憑かれたかのような血走った目、目、目。
 自分に迫ってくる狂気の渦に、御上に戦慄が走る。
 その時、これまでただ立っていただけの、供の者が動いた。

「たぁっ!」

 泉 椿(いずみ・つばき)は、気合の声と共にマントを払いのけると、御上目がけて跳んだ。
 すれ違いざま御上の身体を引っ掴み、さらに力強く地面を蹴る。

「何っ!」
「と、跳んだ!」

 椿は、【軽身功】で暴徒の頭上数メートルの所を飛び越えると、一気に包囲の輪の外に出る。

「先生、しっかり掴まっててくれよ!」

 椿はそれだけ言うと、躊躇すること無く駆け出す。

「何をしている!早く捕まえろ!」

 後ろから、男の声がする。
 その声に反応した何人かが行く手を阻むが、椿は巧みな身のこなしでその悉くをかわす。
 とても、人一人抱えているとは思えない身軽さだ。

「弓を使えっ!」

 膝立ちになった射手が、椿目がけて次々と矢を放つ。
 だが、素早い椿の動きに、矢は虚しく宙を切るのみだ。

「着地点を狙え!」

 命令一下、今度は椿の着地点に攻撃を集中する射手。
 流石の椿でも、着地の時は一瞬動きが止まってしまう。

「泉君、あれを!」
「わかった、先生!」

 椿は、何処からとも無く《丈夫な屏風》を取り出すと、頭上に掲げた。
 雨あられと注ぐ矢は、全て屏風で止まってしまう。
 椿は、屏風を楯のようにして、次々と矢を防ぐ。

「射てっ、射てっ!」

 なおも叫び続ける男。
 だがその叫びも虚しく、椿は御上は、見事脱出に成功した。


「まさか、これ程憎まれているとはね……」

 すっかり落胆した様子で、御上が言う。
 御上と椿は包囲の輪を抜け出ると、手近な森の中に身を隠した。

「初めは上手くいきそうだったのになー。途中から変な男が出てきて、二言三言叫んだら途端にみんな目付きが変わっちゃってさ。まるで、みんなあの男に洗脳でもされてるみたいだったぜ」
「まぁでも、念のため泉君についていって貰って正解だったよ」

 椿に、護衛を頼んだのは御上だった。
 もっとも椿も、御上が一人で行くといっても絶対についていっただろうが。
 
「あたしなら別に手ぶらでも全然問題ないし、体力にも自信があるからね。先生一人くらい、ラクショーだぜ!」
「いつも悪いね、泉君。本当に、ありがとう」
「へへ……」

 御上に褒められ、顔を朱くして照れる椿。

「どうやら、追手も諦めたみたいだ――そろそろ行こうか」
「うん――ツッ!」

 突然足に走った激痛に、椿は思わずうずくまった。

「どうした、泉君!」

 御上が駆け寄り、《波羅蜜多ツナギ》の裾をまくる。
 どうやら防ぎきれなかった矢がツナギを貫通したらしく、足から血が流れている。
 しかも患部は、黒く変色していた。

「マズイな……矢尻に毒が塗ってあったのかもしれない」

 御上はそう言うと、椿の足に口をつけた。

「せ、先生!」
「動かないで!今、毒を吸いだすから!」

 椿の見ている前で、足から血を吸っては吐き出す行為を繰り返す御上。

「これでよし……と」


 血を吸い出し、傷口に応急処置を施すと、御上は椿に背を向けた。

「泉君、乗って」
「え!い、いいよ!このくらいの傷、自分で歩けるって!」
「ダメだ。下手に動いて血の巡りがよくなると、全身に毒が回る危険性がある、出来るだけ安静にして、みんなの所まで戻ろう」
「で、でも――」
「椿君」

 躊躇う椿を、御上が睨む。
 こんな風に怖い顔で叱られたのは、初めてかもしれない。

「う、うん……わかった……」
 
 椿は、ほんのり顔を赤らめて、コクン、と頷いた。


「さっきはゴメンな、先生」

 御上の背中におんぶされながら、椿は呟くように言った。

「何が?」
「せっかく先生がおんぶしてくれるって言ったのに、言い張っちゃって……」
「なんだ、そんなコトか――気にしてないよ」
「でも……、先生にあんなふうに怖い顔で怒られたの、初めてだ」
「あぁ。ごめんね、怖かった?」
「ちょっと怖かったけど……。でも、ちょっと嬉しかった。先生が、あたしのコト心配してくれてるの、わかったから」
「そりゃ、心配するさ。君は、僕にとって大切な生徒だからね」
(大切な……生徒……)

 その言葉は、椿にとって嬉しくもあり、そして同時にちょっぴり悲しくもある。

「先生……?」
「うん?」
「……有難う」

 椿は、想像以上に大きな御上の背中にそっと頬を寄せると、静かに目を閉じた。



「おい、あれはなんだ?」
「え……?」

 包囲する農民の一人が、上空を指差す。
 その指の先にあった黒い点が、どんどん大きさを増すと、こちらに向かって近づいて来る。

「――飛空艇だ!」

 誰かが叫ぶ。
 上空から一台の《小型飛空艇》がものすごい勢いで急降下してくる。

「危ない!」
「伏せろ!」

 口々に叫ぶ暴徒たち。
 飛空艇は、彼等の頭上を掠めるように飛ぶと、敷地の入口の前に着陸した。
 飛空艇から、大小2つの人影が降りてくる。

 その内、小さい方の人影が前に進み出た。

「これ!無辜なる民草よ、何をそんなにいきり立っておる!白姫岳の地祇たるわらわの名において命ずる!乱暴は止めよ!訴えは聞く故、今すぐに武器を捨てるのじゃ!」

 白姫岳の精 白姫(しろひめだけのせい・しろひめ)は、暴徒たちに向かって一喝した。
 辺りは、水を打ったようにシンと静まり返る。

(よしよし……。皆、わらわの威厳も声も無いようじゃな。民草は、不満があるから暴れるのであって、根っからの悪人という訳ではない。我等の方から寛容な所を見せてやれば、すぐに収まるのじゃ)

 悦に入って、ウンウンと頷く白姫。
 彼女には、その場に漂う険悪な空気が、全く読めていない。

「さぁ、どうしたのじゃ。何でも言いたいことを申してみるが良いぞ?」

「ふざけるな!」

「なるほど、『ふざけるな』とな。あいわかった。その願い、叶えて使わす――って、な、何ィ!」
「どっから出てきやがった、このガキ!」
「ここは、お前みたいな子供の来るところじゃねぇ、すっこんでろ!」
「何が白姫岳だ!そんなトコ聞いた事もないぞ!」
「ひっこめ!この田舎娘!」

 白姫の無駄にデカイ態度が怒りに火をつけたのか、農民たちは相手が子供だとは思えない勢いで罵詈雑言を浴びせる。
 その内言葉の中に石やらゴミやらが交じるように鳴り、すぐにありとあらゆる物が白姫に投げつけられた。
 そのあまりの凄まじさに、白姫の目にみるみる涙が溜まっていく。

「うわぁん、あいつら、話を聞かないのじゃー!エヴァルトー!やっつけて、おとなしくさせるのじゃー!」

 泣きながら飛空艇の方に逃げていく白姫。

「全く、だから言ったのに……。はいはい、説得失敗だな。危ないからお子様は下がっていろ」

 エヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)は、腰掛けていた飛空艇から立ち上がると、白姫の前に立つ。

「お前ら!子供相手にいい加減にしろ!」

 怒りに任せ、地面に拳を突き立てるエヴァルト。
 強烈な一撃に砕かれた大地が、破片となって辺りに飛び散る。
 その破壊力の凄まじさに、思わず後ずさる暴徒たち。

「よくやった、エヴァルト!やはり、無知な農民共には力を見せつけるに限る!」
「お前、さっきと言ってることが全然違うじゃねーか」
「うるさいっ!最初に喧嘩を打ってきたのは、向こうの方じゃ!こうなったら、わらわの恐ろしさも見せてくれる!」
「なんだお前。恐ろしさって、何か出来たっけ?」
「馬鹿にするでない!わらわは荒ぶる火の山の神、白姫岳の精白姫ぞ!この地を溶岩で埋め尽くし、わらわをバカにした者共に、目にもの見せてくれるのじゃ!――いでよ、燃え盛る溶岩よ!」

 両手を、さっと上に上げる白姫。
 暴徒たちが、ビクッとして逃げ出そうとする。
 しかし――。

「あれ……?どうしたのじゃ……?」

 何も起こらない。

「こ、こんなハズでは……?いでよ溶岩!……出よ!出るのじゃ!出ろったら!」

(あーあー、もう。そんな大技お前に使えるわけねえだろうに……。しょうがねぇなぁ)

 エヴァルトは白姫の後ろで、気付かれないようにそっと地面に触った。
 すると――。

「で、出た!」

 白姫の目の前の地面が避け、そこから勢い良く溶岩が吹き出す。
 農民たちは、今度こそ本当に声を上げて逃げ出した。

「見たか、地祇の力!見ろエヴァルト、わらわの力を!」
「あー、ハイハイ。スゴイスゴイ」

(全く、さっきまで泣いてたくせに、目ぇ輝かせて喜びやがって。しかもすっかり強気に戻っちまって……。やっぱり、もう少し落ち込ませてやるべきだったか?)

 自分の【怒りの煙火】が現れた溶岩と、白姫とを見ていると、だんだんと後悔の念が湧いてくる。
 その時、エヴァルトの無線機が鳴った。

「こちらエヴァルト――お、富永か。上手くいったか?」
『ハイ!お陰様で、上手くいきました。有難うございました!もう戻って大丈夫ですよ』

 無線の向こうから、富永 佐那(とみなが・さな)が作戦の成功を告げる。

「そうさせてもらうぜ。コレ以上無駄に自信つけられると、後々面倒なんでな」
『自信?なんですか、それ?』
「いやいや、こっちの話。じゃ、すぐに帰投する!」

 エヴァルトは無線を切ると、未だエラソーに踏ん反り返っている白姫に歩み寄り、その身体をヒョイッと担ぎあげた。

「な……ナニをする、エヴァルト!?」
「遊びは終わりだ。帰るぞ!」
「ナニを言う!遊んでいるのではない!あの無知蒙昧な農民共が二度と逆らう気を起こさぬよう、荒ぶる神の力をイヤというほど思い知らせてやるのじゃ!」

 米俵の様に肩に担ぎ上げられた白姫は、駄々っ子のようにバタバタと手足を振り回すが、エヴァルトは気にした風もない。

「あー、わかったわかった。また今度な」
「やーだー!はーなーせー!」

 エヴァルトは、白姫を担いだまま飛空艇にまたがると、暴徒たちを尻目に、そそくさとその場を後にした。
 




「誰か!アタシと勝負する奴はいないか!」

 突然の挑戦に、暴徒たちは一斉に声のする方を見た。
 そこには腕を組み、挑発的な目付きで自分たちを睥睨(へいげい)している、金髪碧眼の女がいる。
 その隣には、女よりもずっと身体の大きい男が、不安気な目をして立っている。

「アタシは、この工場で働いてるアメリカ人だ。祖国を代表して、アンタたちに勝負を申し込みたい」
「勝負って、お前みたいな女が、一体俺たちとどんな勝負をするってんだ?」
「プロレスだよ」
「ぷろれす……?」

 初めて聞く言葉に、暴徒たちは、互いに顔を見合わせる。
 どうやら、誰もプロレスが何か知らないようだ。

「いいかい、プロレスってのはこうやるんだ!」
 
 その女は素早い動きで隣の男を捕まえると、その男にいきなり首投げ――プロレスでいうなら、フライング・メイヤー
――を決める。
 
 自分よりも遥かに大きい男を、軽々と地面に叩きつけた女の腕前に、暴徒の中から「オォー」という声が上がる。

「こうやって投げたり、そして――」

 そのまま流れるような動作で腕を取る女。
 今度は腕ひしぎ逆十字固めだ。

「こうやって関節を決めたりして――」
「い、イテテテ!」
「どうだ、降参か?」
「こ、降参降参!」
「こんな風に降参させるか、さもなくば――」

 女は、腕を押さえてうずくまる男を無理やり立たせると、再び流れるような動きでエビ固めに持ち込む。

「こんな風に両肩を地面につけた姿勢で、3つ数える間押さえ込み続ければ、勝ちだ。ホラ!ワン、ツー、スリー!」

 全く身動きできないまま、スリーカウント取られる男。
 女は素早く立ち上がると、もう一度暴徒たちの顔を見た。

「どうだ、これがプロレスだ!アンタたちもいい加減、ここでこうやってボーッとするのに飽き飽きしてんだろ?なら、鬱憤晴らしにアメリカ女を投げ飛ばしてみちゃどうだい!どうだい、やるのかやらないのか!」

 もう一度、女が大声で呼ばわる。
 しかし、皆ヒソヒソと話し合うばかりで、誰も名乗り出ようとしない。

「どうしたのさ!東野の男たちは腰抜け揃いかい!女一人の挑戦も受けられないような、臆病者ばかりなのかい!」
「なら、俺が相手になろう」

 野太い声が、暴徒たちの後ろからした。
 人混みを掻き分けて、身長2メートル近い大男が現れる。
 額に、ツノが生えている。

「女を投げ飛ばすのは趣味じゃないが、臆病者呼ばわりされるのは我慢がならん」
「待て。その女の相手は、俺がする」

 もう一人、スラリとした見の軽そうな男が進み出た。
 腰に刀を差しているあたり、侍なのだろう。
 やはり、額にはツノが生えている。

「ここまで無礼な事を抜かす女を見逃したとあっては武士の面目が立たん。悪いが、お主には下がっていてもらおう」
「そうはいかねぇ。名乗り出たのは、俺が先だ。武士だか何だか知らねぇが、後からノコノコ出てきてデカイ面するんじゃねぇ」
「待ちなよ。アタシは別に、二人まとめてでもいいんだよ」
「……なんだと?ふざけたことを」
「この女調子に乗りやがって。よっぽど痛え目にあいたいらしいな」

 一斉に凄む男たち。
 だが女はそれを平然と受け止める。

「待ちなよ!」

 その時、包囲の輪の後ろから声がした。
 誰かが、人混みを一足跳びに飛び越えて、女たちの前に降り立つ。
 それは、本物のマスクとリングコスチュームに身を包んだ女性だった。

「2対1で勝って、あとから卑怯呼ばわりされてもつまらないだろう?なら、あたしがこっちのネェさんにつくよ。これで2対2だ。いいだろ?」
「なんだ、お前は?」
「あたしは『バーニングドラゴン』結城 奈津(ゆうき・なつ)。正真正銘、本物のプロレスラーさ」

 その場でトンボを切った後、ビシッ!と名乗りを決める奈津。
 奈津はメキシコ流空中殺法「ルチャリブレ」の選手、すなわちルチャドーラなのだ。

「貴様、本職か……。面白い。その話、乗ったぞ」

 侍はそう言って、腰に下げていた刀を帯から抜き取る。

「おっと、勝負はまだお預けだぜ。これから、リングを用意するからな」
「……りんぐ?なんだ、それは?」
「ちょっとあなた、リングなんて一体何処に――」

 リングの意味がわからない男たちに代わり、アメリカ娘が奈津に食って掛かろうとする。

「あるんだよ、それが。師匠!」

 群衆を掻き分けるようにして、現れたはの、奈津の師匠のミスター バロン(みすたー・ばろん)
 肩に、大きな袋を担いでいる。

「リングマットは無いが、コーナーポストとロープならある」

 バロンが袋を開けると、中からコーナーポストとロープが姿を現した。
 いつでも何処でもトレーニングが出来るように、バロンは常にリングセットを持ち歩いているのだ。

「リングのセッティングに30分かかる。お互い、それまでに準備をしておけ」

 バロンは、淡々と言った。
 
 
「え!あんた、アメリカ人じゃないのか!」
「そうですよ。私は富永 佐那(とみなが・さな) 。あなたと同じ調査団のメンバーです……本当に、気が付かなかったんですか?」
「だ、だって、髪も金髪だし、眼の色だって――」
「こんなの、カラコンとウィッグで幾らでも誤魔化せますって」
「イテ!イテテテ……もう少し、優しくやれよ、佐那!」
「何言ってるのよ、このくらいの怪我で!だらしがないわね、もう!」

 加藤 清正(かとう・きよまさ)のアザに湿布を貼りながら叱責する佐那。
 さっきのデモンストレーションの時、佐那に一方的に技をかけられていたのが、清正だ。

「そうは言うがオメェ、マット無しで直に地面に投げられてみろ!死ぬほど痛ぇぞ!」
「確かに。マット無しでやるなら確実に受け身を取らないと、身体が持たないな」

 ルチャの試合では、普通のプロレスのようなしっかりしたマットは使わないことが多い。身軽な選手ばかりなため、回転受け身を取ることが前提になっているからだ。
 ただの木の板にカバーをかけただけのリングで試合をすることも、決して珍しくはない。

「ハイ、これで終わりです!」
「イテェ!」

 湿布だらけの清正の腰を「バチン!」と叩く佐那。

「あ、終わった?それじゃ佐那、ちょっとこっち来いよ」
「え、何ですか?」
「さ、どれでも好きなの選んでいいぜ。いやー、あたしと背丈が同じくらいで、助かったよ」
「え、選ぶって……何ですか、コレ?」

 目の前にズラリと並べられた派手派手しい服の数々に、目が点になる佐那。

「何って……リングコスチュームだけど?」
「……え!もしかしてコレ、着るんですか!?」
「決まってるだろ!コスチュームも着ずにリングに上がるなんて、神が許してもこのあたしが許さねぇ!」

 真顔で断言する奈津。
 どうやら、選択の余地は無さそうだ。

「ハー……。わかりました。着ますよ、着ればいいんでしょ。よく考えたら、どうせウィッグつけてるんだし、大差ないですよね」
「おい!ウィッグとマスクを一緒にするな!マスクってのは、もっと神聖なモノなんだぞ!」
「マスクもつけるの!?」

 突如開催の決定した、世紀の一戦。
 その開始まで、あと20分を切っていた――。

担当マスターより

▼担当マスター

神明寺一総

▼マスターコメント

 皆さん、こん○○は。神明寺です。四州東野編、擾乱編のお届けです。

 今回もまた、自分の体調管理の不行き届きにより、お届けが遅れてしまいました。
 ご迷惑をおかけして、本当に申し訳ありませんでした。


 「今回はでだいぶ地図が埋まったから、次回は楽ができるかな?」みたいな事を前回のあとがきに書きましたが、
今度は自分でばらまいた情報の確認と、貼った伏線の管理とで、少ない時間とのーみそを浪費しまして、コレはコレで大変でした。
 まあきっと、何をやっても「大変だ」とかゆーのでしょうが(笑)
 
 今回は、アクション内にて随分沢山の方から励ましのお言葉を頂きました。掲示板の方に感想をお寄せ頂いた方と合わせまして、御礼申し上げます。本当に有難うございました♪
 モチロン、今まで通り、掲示板の方へのご意見ご感想もお待ちしていますので、よろしくお願い致します。


 さて、何だか唐突な終わり方をした感のある(?)本編の方ですが、次回こそいよいよ『解決編』です。
 解決編といっても全ての問題に決着がつく訳ではありませんが、取り敢えず東野での話は一段落つく予定……です(弱気)。

 是非、次回も奮ってご参加下さい。

 では、再び東野にて皆さんにお会い出来る事を楽しみにしつつ――。




 平成癸巳  夏文月


 神明寺 一総