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【●】月乞う獣、哀叫の咆哮(第3回/全3回)

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【●】月乞う獣、哀叫の咆哮(第3回/全3回)

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エピローグ



『状況終了。現在は、各方面で事後処理を進めています』

 氏無からの報告に、金 鋭峰(じん・るいふぉん)はモニター越しに頷いて見せ、送られてくる報告書へと目を走らせた。
 イルミンスールの森の被害は甚大かと想われたが、幸いと呼ぶべきか、霧散した超獣のエネルギーの幾らかが、森へも還元されたようで、実際の被害は予想より少なくて済んだようだ。被害状況を纏めて、氏無は続ける。
『結界が不要になったこともあり、沙中尉にはストーンサークルの返還を進めてもらっています』
 それらの関連書類を片目で見やりながら、鋭峰は「それで」と一言で先を促し、氏無が怪我人の搬送状態や、機材の回収、協力者の詳細など、事務的な報告を終えるのを待ってから、重たい溜息をついた。
「ご苦労だった。しかし……喜んでもいられない状況になったな」
 最後に漏らされた独り言のような言葉は、今回判明した事実についてだ。
 真の王――その名がはっきりしたことは有益ではあるが、同時に大きな脅威が一つ、芽を出したとも言える。
「こちらについては、早急に対策を練らねばならないだろう。が、情報が足りんな」
 そう言って送られた視線の意味は明らかで、氏無は頭を下げるだけで了承を示した。鋭峰はかつん、と机を指で叩いて「ところで」と報告書の一文を指でなぞって、首を傾げた。
「アルケリウスは封じられたと報告を受けているが、所在は?」
 問いに、何故か一瞬、氏無とスカーレッドは顔を見合わせて、何とも言えない顔のままで報告を続けた。
『それについてですが……例の調査団の、ルレンシア女史より、提案が』




「怪我人はこっちです。あ、ちょっとまだ動いちゃだめですよ!」
 危機が去った安堵に浸る間もそこそこに、至る所に照明をかけられたイルミンスールの森の中は、深夜だと言うのに事後処理の慌しさに見舞われていた。疲れやら安堵やらで眠い目を擦りながら、教導団の面々は動き回り、イルミンスールの生徒たちも手が空いてるものが手伝いに回っている。眠っているのは、怪我人と年若い少年少女たちぐらいだ。
 そんな中で、最も忙しないのはローズたちだろうか。簡易的な救護テントの中で、学人のフォローを受けつつ怪我人たちの治療を行っているところへ、鈴が顔を出した。
「重傷者はあらかた搬送が終わっていますわ。そちらはどうです?」
「大丈夫、眠ってるだけよ。いきなり目覚めたから、体が追いつかなかったんでしょうね」
 そう言って向けた視線の先で横たわっているのは、巫女アニューリスだ。封印を解かれて暫くは意識があったのだが、超獣との同化のこともあって、体力的には限界だったのだろう。今はディミトリアスが付き添っているが、その内病院へ搬送されるとのことだ。
「まあでも、体はその内癒えるでしょう。誤解も解けたんだし……でも……」
 途中まで元気の良かった声が、少し鈍くなる。ディミトリアスのことも、そしてアルケリウスのことも、まだ、全てが解決してるわけではない。それを思っての声色だが、鈴は首を振った。
「解決は、させるものですわ」
 生きているのだから、と。その先に続く言葉を悟って、ローズは再び笑みにもどると、こくり、と強く頷いた。


 一方、巫女とのリンクの後遺症か、珍しくぐったりと地面に腰を下ろして樹にもたれかかったクローディスの傍では、グラルダが、視線をディミトリアスたちの居るテントを見やったままで、ぽつ、と口を開いた。
「……あなたの答えって、これのことなの」
「ああ」
 殆ど確信をもっていた問いに、クローディスは頷いた。
「口で言うより、目で見て触れたほうがいいだろう、と思ったんでな」
 それはあなた自身の答えではないのではないか、とも思ったが、あえてこんな回答をしたクローディスの意図も判っていたので、それには触れずに「そう」と短く答えた。実際のところ、回答を待つまでも無く、グラルダの心は既に何かを掴みつつあった。だからこそのこの答えなのだろう。ふう、と息をついたところで、事後処理の合間に通りがかったのだろう、白竜と羅儀が、二人を見かけて足を止めた。
「……ご無理をさせてしまいました」
 巫女へのリンクの件についてだろうか、申し訳なさそうに頭を下げた白竜だったが、当のクローディスは律儀だな、と、大して気にした風も無く笑うだけだ。
「ツライッツに言わせれば”いつものこと”だ。それに、どうにかなるだろう、と思っていたしな」
 あっさりとクローディスは言ったが、それが安易な楽観ではないことは、その場にいた白竜たちには、何となく判っていた。彼女の何とかしてみせる、という信念と、解決へ尽力する者達への、強い信頼。それを察し、同時に、リンクの影響も無く、いつも通りのクローディスらしい物言いへの安堵もあってか「どうにかするのは、当然です」と白竜にしては珍しく強い口調で言い切った。
「今後の遺跡の研究のためにも、あなたを失うわけにはいきませんから」
 こちらはこちらで、いつも通りに硬い物言いに、クローディスは可笑しがって笑っていたが、羅儀はと言えば「こう言う時位、もうちょっと優しい言い方できないのかね」と溜息をついた。
「まあでも、いつもより冷静さがなかったようだけどねえ?」
 ぼそりと言った羅儀に、白竜は何も返答しなかったが、逆にそんな反応をしたことに、羅儀はふうん、と目を細めたのだった。
 そうこうしていると、今度は丈二達がクローディスを尋ねてやって来た。
「お邪魔して、申し訳ありません、少し……お伺いしたいのでありますが」
 その手にあるのは、アルケリウスを封じた腕輪だ。今回の事件の発端である相手が封じてあるとは言え、元々の持ち主はクローディスだ。それで返却しに来たのかと思われたが、どうも事情が違うようだ。
「この腕輪を、その……ディミトリアス氏に渡す、許可をいただけるでありますか?」
 その言葉に、たまたま通り縋った契約者たちも、思わずといった様子で足を止めた。
 アルケリアスが封印されたとき、ディミトリアスは何も言わなかったが、何も思わなかったはずは無い。たった一人の家族だ、とアルケリウスも言っていたように、ディミトリアスにとっても、そして巫女にとっても特別な相手に違いは無いのだ。出来ることなら、このままただのアイテムのように保管されてしまうのは、と何人かが丈二に持ちかけたらしい。
「せめて魂だけでも、傍に置いておいてあげられないかな」
 魂だけになり、腕輪に封じられた状態では、消滅はしなかったとはいっても死んでいるようなものだ。それでも、傍にいれば、少しでもディミトリアス達の慰めになるのではないか、と続ける優に、何故かクローディスは「せめて、とは随分後ろ向きな話じゃないか」と、ふうっと大げさに溜息をつきながら、意味深に笑った。
「私は一言も、封印された魂には干渉できない、とは言っていないんだがな?」
 その言葉に、一瞬面食らったように皆目を瞬かせ、その意味を悟るにつれて、皆の顔には何とも言えない笑みが広がっていく。


 そんな契約者たちの上に、今まさに昇ろうとしている朝日が、光を降らせているのだった。




担当マスターより

▼担当マスター

逆凪 まこと

▼マスターコメント

ご参加された皆さま、大変お疲れ様でした
全体を通して、非常に判定の難しい場面、厳しくせざるを得なかった部分など多くありましたが
そんなややこしいシナリオの中、最後の最後まで、諦めずにくださった方々のおかげで、逆凪の予想を超えた結末を迎えられました
本当にありがとうございます

歌の方も、様々な思いや願いの篭ったもので、泣く泣く削った部分もかなりありましたが、それぞれを繋ぎ合わせ、一つの歌となっています
逆凪が書き加えた部分は一文字も無いので、どこが誰の歌なのか、ご想像しながら、あるいはご自分の歌の欠片を探したりなどしていただけたらと思います

色々と、複雑に入り混じった物語と相成りましたが
これで、灰色天蓋から続きました”超獣”にまつわるお話はひと段落となります
とは言え、判明した事実等から考えると、”まだまだこれから”と言ったところでしょうか
是非、これから先へと続く物語に、挑んでいただけましたら幸いです

そして、後ほんの少しこの物語の先を、続けさせていただこうかと思っておりますので
またお会いできることを、心よりお待ちしております