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リアクション
「僕たちの居た世界ではイルミンスールが枯れて、その後釜を狙って数百、数千の『世界樹』が争うことになっちゃったんだ。もうその頃には、ヒトの手で世界樹を生み出すことが可能になっていて、世界樹を生み出した『ブリーダー』と呼ばれるヒトに従う形で、僕たちは来る日も来る日も戦った。もう何年戦ったかな……いくら戦っても後から世界樹は生み出されるし、正直キリがなかった。
僕は『37号』って呼ばれてた。もう一人、僕が『56号』って呼んでた子もやっぱり同じ世界樹。僕ら二人はあるブリーダーさんに世話されながら、他の世界樹と戦ってたんだ。でもある時、ブリーダーさんが言ったの。もうこんな戦いは終わりにしなくては、って。これからは『戦いを終わらせるための戦い』をするべきだって。
ブリーダーさんは世界樹イルミンスールが組していた『コーラルネットワーク』に目を付けた。これは世界樹を繋ぐネットワークだけど、実は過去現在未来、あらゆる世界を繋いでいるものなんだって。世界樹はそこから力を得ているし、また力を使ってそれぞれの世界で起きている事件や紛争を最終的に解決する役割を担っている。戦いがいつか終わるのは、実は世界樹が間接的に作用していたんだ。……僕たちの戦いは世界樹が戦っちゃってるから、いつまでも続いちゃってるんだけどね。
でも、あまりに事件や紛争が多すぎたり、戦いが長引いたりすると、供給される力以上に消費する力が多くなって、そのうち弱って枯れちゃう。イルミンスールはそれが原因で枯れちゃったみたいなんだ。
だから、もし世界樹が解決した事件を、先に解決することが出来れば、世界樹は力を消費しなくて済むんじゃないかってブリーダーさんは考えた。そして僕たちは、コーラルネットワークの残滓からこの世界を探り当てて、辿り着いた。君たちにこの事を伝えるために、そして君たちにイルミンスールを枯れないようにするため、『戦いを終わらせるための戦い』に加わってほしい、ってね。
正直な所、何も知らせないままレンファスを利用したこと、その他色々とやっちゃったことは反省してる。ごめんなさい。
……でも、レンファスもいずれヒトの前に姿を表して、その時はイルミンスールの力で交流を果たせるようになった。それが今回は、君たちの力で交流を果たせるようになった。それだけでイルミンスールはそうだなぁ……百年くらい寿命が伸びたんだよ。ちなみにこのままだと、イルミンスールは後百年で枯れることになってた。百年伸びたけど、それでも二百年後には枯れちゃう。
それにね、僕たちの居た世界ではどれも、当たり前のように起きていたことなんだ。どんなにヒトが戦いを望んでなかったとしても戦いは起きちゃうし、戦いになったらどんな酷いことも平然と行われる。想いだとか絆だとか、そんなもので解決しない世界だった。……そんな世界は、もうこりごりなんだ」
少年の口から語られる話は、あくまで少年がそうであると語った、に過ぎない。『未来から来た』という人の話を完全には信じられないように、彼の話もまた完全には信じられない。
それでも、『イルミンスールが枯れる』と聞かされれば、まったく無視するわけにもいかない。
「……それで、私たちは何をすればいいですかぁ?」
少年、37号の話を、少女、56号を通じて聞いていたエリザベートが問えば、少女を通じて少年が回答を返す。
「これから僕たちが、コーラルネットワークを使って君たちを『最終的にイルミンスールが解決した事件が起きている世界』へ連れて行く。それを君たちが代わりに解決してほしい。
一つ、とっても大きな事件があるんだ。そうだな……解決したら二千年くらい寿命が伸びるやつが」
「二千年!? それは凄いですねぇ」
分かったような分かってないような雰囲気で、エリザベートが声をあげる。どんな事件かは分からないが、それを解決すればイルミンスールの『死亡』を防ぐことが出来る。それ以外でも少年の話では、事件が起きている他の世界に行って事件を解決することで、寿命を多少なりとも伸ばせるのだそうだ。
「大ババ様、聞こえてますかぁ? 私はこの人たちに協力しようと思いますぅ」
『うむ……鵜呑みには出来んが、過去の文献からも彼らの話を実証する結果は記されておる。何より彼らを悪でないと思う以上、断ることは出来んな。
エリザベート、おまえが彼らに協力するというのであれば、私は否定せん。好きにやるとよい』
「分かりましたぁ。……というわけで、イルミンスールはあなたたちに協力しますよぅ。
あ、そうです。まずはあなたたちに名前をあげないといけませんねぇ。37号とか56号とか呼びにくいですし、なんだか可哀想ですぅ」
ふぇ? と驚きの声を漏らす少年(少女)を前に、エリザベートがうんうんと考え、そして閃いた名前を贈る。
「37号は『ミーナ』、56号は『コロン』に決めましたぁ。この方が可愛らしいですぅ」
「あ、あの、えっと……なんか僕、女の子っぽい名前じゃない?」
「ふふ、わたしはいいと思うよ、おにいちゃん。……コロン、かぁ。うん、気に入った。
ありがとうございます……えっと、何て呼べばいいのかな」
「私ですかぁ? 好きに呼べばいいと思いますよぅ」
「うーん、それじゃあ……ちっちゃいブリーダーさんだから、『小ブリーダーさん』で」
「…………。やっぱり、私が決めますぅ」
響きが悪すぎた名前を訂正してもらい、結局『エリザベートさん』と呼ばせることにしたのであった。
「大図書室でダリルが見つけた本って、コロンちゃんが置いていったものだったのね。私達は未来から来ましたよ、っていうメッセージだったんだ」
「そういうことになるな。……だがあの本でもかなり昔のものだった。彼らはいつの時代から来たのだろうな」
地上に戻り、ルカルカとダリルが今回の出来事を話題にしながら帰路につく。他にも地下を訪れていた契約者が帰り、辺りに人気がなくなった所で、アウナスが『エピメテウス』と現れる。
(未来からやって来た世界樹、ですか。これは中々に面白いですね)
心に呟き、アウナスが不敵に微笑む。自分が想像していたものとは大分違う方向に事態が転がりつつあることを、それでも楽しんでいるかのような顔だった。
(今はまだ、見守ることにしましょう。機が熟すその時まで……)
未だ燃え尽きぬ野望を抱いて、アウナスがエピメテウスと共にその場を後にする――。
「アメイア、ニーズヘッグ、見事に役目を果たし、そして無事に帰って来てくれた」
「へっ、オレ様がこんな事でくたばるかって! ま、そう言ってくれるのは嬉しいぜ」
中に居た契約者たち、そしてアメイアとニーズヘッグをで迎えたレンへ、アメイアが受け取っていたタリスマンを返す。
「約束通り、これは返そう」
「ああ、確かに受け取った」
二人が微笑み、頷き、そして撤収準備へと移る。一方下層部では契約者が『炎龍レンファス』との交流の時を過ごしていた。
「こんな事聞いていいのか分からないけど、レンファスさんは普段、どんな感じなんだ?」
『我は普段……というより、それまでは溶岩として地下深くを揺蕩っていた。こうして明確な形を取って其方らの前に現れるのは初めてだ』
雲雀の質問にそのように答えるレンファス。ちなみにヴァズデルもメイルーンも、契約者の前に初めて姿を見せた時はレンファス同様、一つの明確な形を持っていたが、その前は蔦であり、氷であった。精霊が宿るものが形を変えたものが『守護龍』と呼ばれるもの、ということのようだ。
「私達は、共存することが出来るでしょうか?」
『また我が元の姿に戻れば、イナテミスという街の温度上昇も元に戻るはずだ。街の者には迷惑をかけた……。
済まないが、我の謝罪の意思を街の者に伝えてはくれないか』
「ああ、約束しよう。必ず、伝える」
真言の問いにレンファスが言い、サラ、そしてティティナが頷いて約束する。レンファスがヴァズデルやメイルーンのような姿を取って人の前に現れるには、もう少し時間が必要なようであった。
「もっとお話が出来ると思ったのに……残念です」
元の溶岩に戻ってしまうと聞いて、結和が残念そうに顔を下げる。
『いや、ここに来れば話くらいは出来る。……其方の想い、強く我に響いた。
我は其方らの事をよく知らぬ……それでもよければ、話し相手になろう』
「は……はいっ! また来ます!」
結和が顔をほころばせ、エメリヤンが「よかったね」と言いたげに頷く。
「あー、ホント疲れた……こりゃ急いでリハビリしないと、なまりすぎ」
膝をついて、来栖が項垂れる。脱出路を塞ぐ岩が堅牢と見るや、残る魔力を開放して殴り続けた結果、外に出る頃にはすっかり疲弊していた。
「……姉君、主公を見つけたと聞きましたが……?」
駆けつけたアーマード レッド(あーまーど・れっど)、ネームレス・ミスト(ねーむれす・みすと)に向き直り、輝夜が済まなそうな顔をする。
「うん、確かにあれは、エッツェルだった。だけどゴメン、途中で見失った」
「ソウ デスカ……。残念 デス」
レッドが悔しさを含ませた言葉を発し、ネームレスも表情こそ変わらないものの、エッツェルに追いつけなかったことを悔いているようであった。
「でも、ほら、感じない? エッツェルのこと。居なくなってから感じることはなかったけど、今はほんのちょっと、エッツェルを感じられる気がするの」
輝夜に言われて、二人はぼんやりと視線を宙に彷徨わせる。
「……確かに……久しく、感じなかった気持ちです」
「説明不能 ノ 感覚……懐カシイ」
どうやら二人も、感じたようであった。
「何があったか分からないけど、ほんの少しだけ、エッツェルは元に戻ったんだ。今はそれでよしとしなくちゃ」
言った輝夜を、レッドとネームレスを、昇った陽光が照らす。これまで全くの手掛かりなしから、少しだけ光が差した思いだった。
「ぎゃーーー! 焼ける、焼けるーーー!
輝夜、ちょっと影借りる! イルミンスール戻るよね? 戻って、お願い!」
身体から煙を立ち昇らせた来栖が、慌てて輝夜の影に潜り込む。どうやら日光には弱いらしい。
「はいはい、ま、休ませてもらうつもりだったしね。
……それじゃ、帰ろっか」
輝夜の言葉に二人が頷き、一行はイルミンスールへの路を行く――。
(世界樹のことについては、彼が一通り話してくれました。グラキエス様の事は……分かった、と言っていいのでしょうかね)
世界樹を名乗る少年の言葉を聞き終えた所で意識を失ったグラキエスの代わりに『シュヴァルツ・zwei』を操縦しつつ、エルデネストは思案する。『世界樹はその地域で起こっている事件を最終的に解決する』が本当だとして、それはどの程度の範囲を指すのだろう。個人の出来事まで対象に含むというのであれば、グラキエスの事についてもいつかは解決される(それがどういう結果になるかは分からないが)し、こちらから『出来事が起きている世界』に赴いて能動的に解決することも、全くゼロというわけではないようだ。
(まあ、その時がいつになるかは私にも分かりません。今は……『見返り』を楽しむとしましょう)
笑みを浮かべ、エルデネストは『シュヴァルツ・zwei』を帰路へ向ける。
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