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海に潜むは亡国の艦 ~大界征くは幻の艦~(第1回/全3回)

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海に潜むは亡国の艦 ~大界征くは幻の艦~(第1回/全3回)
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『ブリーフィングを始めます。関係各位は第二艦橋に集まってください』
 艦内放送が流れ、一同は見学を中止して第二艦橋に集合した。
 やがて、デュランドール・ロンバスがエステル・シャンフロウを先導して現れる。
「シャンフロウ卿である」
 言うなり、一歩下がったデュランドール・ロンバスが深々と礼をした。言外に、倣えと一同に示唆する。
 ばらばらと、その場に集まった者たちが礼を返した。もちろん、すべての者というわけではない。
「よい、デュランドール。彼らはまだここに集まっただけなのだから」
「イエス、マイ・ロード」
 即座に咎めようとしたデュランドール・ロンバスをエステル・シャンフロウが制する。
「呼びかけに応じて集まってくださり、感謝しています。概要は聞いていらっしゃると思いますが、ここで詳しいお話をさせていただきますので、どうかあなた方のお力を私にお貸しください」
 あらためて、エステル・シャンフロウが一同に言った。
「ララ・サーズデイと申します。そして、これにありますのが、パートナーのリリ・スノーウォーカー」
 一歩前に進み出たララ・サーズデイが、正規の礼をしてからアステルに名乗った。
「今回の件に関して、ザンスカールは、あなたに資金援助する用意があるのだよ」
 リリ・スノーウォーカーが、単刀直入に切り出す。
「あなたは、ザンスカール家の名代の方ですか?」
 エステル・シャンフロウが聞き返す。
「いや、そうではないが、あるお方であれば、協力は惜しまないと思うのだ」
 こういう厄介事には喜んで首を突っ込むであろうアーデルハイト・ワルプルギス(あーでるはいと・わるぷるぎす)のことを思ってリリ・スノーウォーカーが言った。
「正式な申し出ではないわけですね」
「エステル様。こういう、地位を騙る者には気をつけられませんと」
 天貴彩羽が、すかさずエステル・シャンフロウに進言した。アーデルハイト・ワルプルギスと対立して放校となったために、イルミンスール魔法学校とは何かと折り合いが悪い。
「だが、リリの薔薇十字社としては、個別でも、資金援助は可能なのだ。些少なりとも、軍資金は多いに越したことはないのだよ」
 そう言うと、リリ・スノーウォーカーがララ・サーズデイに目配せした。何やら、イルミンスール魔法学校の購買の値札がついた、真新しいピクニックバスケットを差し出す。中には、黄金色のゴルダ札が詰まっていた。明日の御飯もしれない薔薇十字社としては、いったいどこからこれだけのお金を借り集めてきたのだろうか。
「これを……」
 片手で、ポンと差し出そうとしたリリ・スノーウォーカーに、ララ・サーズデイが両手でうやうやしくと注意する。
「黄金色のサンドイッチでございます」
「ええと……」
 どうしたものかと、ちょっと困ってエステル・シャンフロウがデュランドール・ロンバスの方を見た。
「お気持ちはありがたいが、シャンフロウ卿としてもすぐにお金が困っているわけではないので。まあ、だが、シャンバラの通貨は今持ち合わせがないのも事実。ひとまず、軍資金として、そなたたちが預かっておいてもらえないだろうか」
 デュランドール・ロンバスが、変な借りを作らないようにと、賄賂にもなりかねない軍資金をいったん保留にした。
「性懲りもないことを」
 天貴彩羽のつぶやきに、ちょっとリリ・スノーウォーカーがむっとする。
「蒼空学園では、生徒の自主的な鍛錬の一環として、このような犯罪者の排除を推奨しています。あまり報酬などは気にせずに、共に戦う者として御指示ください」
 山葉加夜が、あまり下世話な話はと、普通に挨拶をした。
「いや、それは困りますね。私たちとしては、ちゃんとした傭兵契約を結びたい」
 そう言って、セフィー・グローリィアが用意してきた契約書を差し出した。こちらは、あくまでも仕事というスタンスである。
「どれどれ」
 デュランドール・ロンバスが軽く目を通してから、契約書をエステル・シャンフロウに渡す。
「基本的には、現代の規範に則った契約書のようです。命令系統の徹底、人権の保護、略奪の禁止、違反時の拘束条項など、最低限のものは網羅しております」
「よろしいでしょう」
 コレット・パームラズからペンを受け取ると、エステル・シャンフロウが契約書にサインをした。一通をセフィー・グローリィアに渡し、もう一通を保管する。
「戦利品はもらわなくてもいいのかい?」
 セフィー・グローリィアがあっさりと文面通りにエステル・シャンフロウと契約を交わしたのを見て、オルフィナ・ランディが小声で聞いた。
「このままじゃ余録がないじゃん」
「敵は、あくまでも帝国の反逆者であり、その有する財産も帝国の物である。すべては、大帝にお返しすべき物だ。その点を忘れないでいてもらいたい」
 オルフィナ・ランディの言葉を聞きつけたデュランドール・ロンバスが釘を刺した。
「いったん指揮下に入る以上、私の命令には従っていただきます。秩序なき傭兵団は、野盗と変わりがありません。私に、胸を張ってそうではないと言わせてください」
 凜とした声で、エステル・シャンフロウが言い切った。
 その態度に、天貴彩羽やオルフィナ・ランディも、二心はなさそうだとひとまずエステル・シャンフロウの人柄に納得した。傭兵など、使い捨ての駒にされかねない。指揮官の度量は大切な要素であった。
「ちょうどいい。とりあえず、ここにある資金を、リリ殿に使ってもらって、傭兵の賃金としてもらおう。よろしいな、リリ・スノーウォーカー殿」
 ニッコリと微笑みながら、デュランドール・ロンバスがリリ・スノーウォーカーに言った。
「えっ!? ええ、も、もちろん……」
 協力すると言った手前、嫌とは言えずにリリ・スノーウォーカーがうなずいた。うまい具合に、お金を使うのはリリ・スノーウォーカーであって、エステル・シャンフロウではないことになる。なんだか、うまくデュランドール・ロンバスにごまかされた気もするが、とりあえず、リリ・スノーウォーカーは大人しく従うことにした。ただし、相手がイケメンに限る。相手が恩に着るかは不明だが、一応恩は売っただろう。
「ひとまず、現在こちらにむかって四隻からなる艦隊が合流のためにむかっています」
「あー、後で、うちの機動要塞シュヴァルツガイストも合流予定だぜ」
 艦隊の情報を切り出した富永佐那を見て、新風燕馬がつけ加えた。
「合流までに必要情報は随時交換いたしますが、それまでに艦隊連携と、イコンとの情報リンクを確立させておきたいと思っています」
「それだったら、協力できると思うよ」
 天貴彩羽が名乗りをあげた。
「ハブとしては、俺のブラックバードを中継にしてもらおう。主に、偵察部隊との連絡に使えるはずだ」
 佐野和輝が言った。もともと、彼のブラックバードは電子戦に特化した偵察機だ。
「よろしければ、オペレーターとして協力できると思います。私はイコンに乗らないから」
 ここぞとばかりに、リカイン・フェルマータが自身を売り込んだ。オペレーター業務を習うために天御柱学院に入ったリカイン・フェルマータとしては、これだけ大規模のオペレートをできる機会などめったにないチャンスだった。
「では、実際の操作は、あなたにやっていただくとして、今申し出た皆さんでシステムの構築をお願いいたします」
 エステル・シャンフロウがあっさりとそれを認めた。構成の違うシャンバラの艦艇やイコンを纏めるには、シャンバラの者に任せた方がいいだろうという判断だ。
「いずれにしても、放置できる戦力ではなさそうだと聞いていますが、もう少し情報が欲しいですね」
 もっと全体像を把握したいと、シフ・リンクスクロウが言った。
「なんでも、犯人はアスコルド大帝を暗殺しようとしたとか」
 小鳥遊美羽が、エステル・シャンフロウに訊ねた。アスコルド大帝は、アイリス・ブルーエアリアル(あいりす・ぶるーえありある)の父親であり、彼女を友人と思っている小鳥遊美羽としては、他人事ではない。それは、コハク・ソーロッドも同じであった。
「はっきり言って、今回の事件が、いったいいつから始まっていたのかは分かりません。けれども、それが表に出たのは、私の叔父であるソルビトールの反乱でした」
「シャンフロウ卿は、そのときに、お父上であるイルシトール様を失ったのだ」
 そのへんはあまり思い出せたくないのか、デュランドール・ロンバスがエステル・シャンフロウの言葉を継いだ。