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リアクション
アクリト艦を護衛せよ! 2
機動要塞の攻撃だけでは大まかすぎ、個々のゴーストイコン撃破には向かない。大群を主砲や副砲の攻撃で撃破し、その数を大幅に減らしているが、間隙を縫って接近するゴーストイコンもむろんある。それらを迎撃すべく、おのおのの機動要塞から多数のイコンが各機動要塞、アクリト艦から発進し護衛に当たっている。
富永 佐那(とみなが・さな)のジェファルコン、ザーヴィスチコールサイン”クリーンカ”もその一機だった。機動要塞が砲撃を行う間、ザーヴィスチは他のイコンにも退避を呼びかけながら高空に退避していた。
「間もなく機動要塞による砲撃が開始されます。軌道上のイコン部隊は上空へ退避して下さい」
要塞側からも退避勧告がなされているが、注意喚起のためエレナ・リューリク(えれな・りゅーりく)が僚機全体へ呼びかける。五機の機動要塞から順次主砲、副砲が発射されると、黒い雲のようだった群れはだいぶその密度を薄くしているのが遠目からもはっきりとわかるほどとなった。彼女らの任務はイコン迎撃もあるが、艦隊の主砲攻撃の着弾結果の確認による、砲撃座標の修正もある。着弾結果を確認し、佐那は全艦隊の砲撃の総合コントロールを行っているローザマリアに通信を入れた。
「『クリーンカ』より旗艦『テメレーア』へ。弾着確認。左へ10、修正して下さい」
「こちらテレメーア、了解。データ確認」
そのあとザーヴィスチは砲撃を逃れて向かってくるゴーストイコンの迎撃へと向かう。岡島 伸宏(おかじま・のぶひろ)と山口 順子(やまぐち・じゅんこ)の機乗する、土佐の艦載機閃電から通信が入った。
「やれやれ、今回も団体さんでお出ましだな。どっからこんなに集めてきたんだか?」
「そう強い機体ではないけど……とにかく数がいますね。死角に回られないよう十分に気をつけていきましょう」
佐那が応える。ザーヴィスチは今回ピーピング・ビーを使用することで視野の確保に努めている。
「伸宏君、3時方向から敵ゴーストイコンが3機接近中よ」
レーダーとセンサー、カメラチェックを行っていた順子が声をかける。
「よーし、いっちょやるか」
ゴーストイコンの攻撃はひどく原始的だ。イレイザー・スポーンのように敵とみなしたものなら手近なものにとにかく突っ込んでくる。体当たりや手にした槍での突きや投擲が主な攻撃だ。閃電はウィッチクラフトライフルとレーザーマシンガンで迎撃し、たちまち3機を撃墜する。
「ちょろいもんだ」
「油断大敵よ」
順子が釘をさす。ザーヴィスチは向かってくるゴーストイコンを大型超高周波ブレードで切り裂き、爪先に仕込んだ新式ダブルビームサーベルをファイナルイコンソードに乗せて蹴り抜く。たちまち3機のゴーストイコンが爆炎に包まれた。ついで槍を構え投げつけようとしてきたイコンに向かい、ウィッチクラフトライフルを放つ。
「しかしどうしてこうもヒトガタを執拗に狙ってくるかね?」
伸宏が呟くと、{ICN0004048#ヴェルトラウム?}のエヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)がわが意を得たりといった感じで語りかけてくる。
「やっぱ、あの三賢者絡みか? ゴーストイコン操ったりとか。
先日、ナラカの神殿に現れたというソウルアベレイターが関わっていないとも限らんが……。
敵の目的が何なのか分からんが、ったく、迷惑千万ってやつだ、本当」
ロートラウト・エッカート(ろーとらうと・えっかーと)は計器類をチェックしながら言った。
「とりあえず、目の前のことを片付けないと」
「そ、そうだな、うん! 蹴散らしてやるぜ!」
シルフィードの及川 翠(おいかわ・みどり)がエヴァルトらにのんびり――当人は緊迫しているつもりらしいが――と声をかけてくる。軽やかな機動をイメージさせる名とは裏腹な機体は重装・パワータイプのウルヌンガルだ。
「なんでなのかよくわかんないけど、この前遺跡で見つかったヒトガタさん乗せた戦艦さんが襲われてるんでしょ!
せっかくみんなが頑張って見つけてきたヒトガタさんなんだから、ゴーストイコンさんなんかに奪われたりしたくないの。
だからとにかく敵さんやっつけるの! 一緒にがんばろうね!
……は、良いんだけど、どうして私の席にはスイッチさんとか付いてないの?」
前回稼動時の失敗――あれこれいじろうとする翠の制止と監視で余計な監視エネルギーを使わざるを得なくなったこと――を踏まえ、ミリア・アンドレッティ(みりあ・あんどれってぃ)によって翠の収まるオペレータ席には計器類等が表示されるのみで、機体の操作に関わるものはすべてが排除されていた。翠の嘆きをよそに、ミリアは忙しくコンソールに指を走らせながら思案げに呟いた。
「今度はゴーストイコンの群れねぇ……。つまり、あのヒトガタに何かあるのは確定……かしら?
まぁ、疑問を解決する前に、とにかくあの群れを何とかしないとね」
スノゥ・ホワイトノート(すのぅ・ほわいとのーと)がレーダーのチェック結果をもとに、攻撃効果の上がりそうなエリアを算出しながら言う。
「う〜ん……どうしてそもそもゴーストイコンさんなんでしょうねぇ〜。
普通にインテグラルさんで襲ってきても良さそうな気がするんですけどねぇ〜……。
と、いうことはインテグラルさんを操ってる方々と今回の方々は別口……なんでしょうかねぇ?
……とは言え〜、確かにあの敵さん達を何とかするのが最初ですねぇ〜」
ミリアが今回、機体とのシンクロ向上を図るためシルフィードとリンクしており、余計な雑音を排除するため、スノゥは翠と、一生懸命補佐しようとはするものの機械操作に不慣れな徳永 瑠璃(とくなが・るり)のお目付け役も果たしている。
「まぁ。翠ちゃんのとこは触れるものを排除しましたからねぇ。大丈夫とは思うんですがねぇ」
計器類の表示数値を興味深げに眺めている翠をちらりと見て、スノゥは呟く。瑠璃が生真面目な表情で各種のセンサーをチェックしながら言う。
「この前あんなに大変な思いをして持ち帰ってきたヒトガタさんが狙われてるんですね……。
あ、今回こそ、大丈夫です。ちゃんとマニュアルを読んできました! ばっちりです!」
「まぁ、瑠璃ちゃんはマジメですからねぇ。わからなかったら聞いてから操作してくださいねぇ」
「はいっ!」
瑠璃はとにかく何か役に立とうと必死の様子だ。とりあえずマニュアルは頭に入るまで勉強してきたらしい。超感覚を発動させて気配を探したりしているが、メイン操縦者ではないのでその効果は機に及ばない。本人の何か行っている満足感だけである。
エヴァルトの機体は格闘メインとしてチューンされている。弾薬の補給は不要ではあるが、主に陽動や制止メインといったところだ。
「なにも、撃墜数を気にすることはない。要は防衛目標を守りきればいい。
目標に向けて、自分ができることをやっていけばいいしな」
ヴェルトラウム?は突っ込んでくるゴーストイコンと相対し、イコン用ナックルを装備した腕で強烈なパンチを見舞い、のめった相手に20ミリレーザーバルカンを撃ち込む。そこにさらに襲い掛かってきた2機を両腕を激しく振り回してバランスを失わせる。隙ができたところに順子が好機とみて閃電を高速で突っ込ませてきた。新型ビームサーベルでなぎ払うと、ゴーストイコンはコントロールを完全に失って落下していった。
「これはこれで、味方の攻撃のサポートになるな」
ヴェルトラウム?は新たな目標に向かって発進する。
「EN、残弾が30%を切ったわ」
順子が言い、伸宏が土佐への通信を開いた。
「こちら閃電、ただいまより補給のため土佐に帰艦する」
「こちら土佐。了解した」
閃電は土佐に向かった。補給し、更なる敵と戦うために。
シルフィードは閃電のいた位置に移動し、絶対命中を上乗せした艦載用大型荷電粒子砲でゴーストイコンを2機粉砕した。ついでエネルギー補給をかねてエナジードレインをのせたオリンパスキャノンで攻撃を行う。エネルギーを吸い取られ、砲撃を食らったゴーストイコンは爆散する。
「やったー、ゴーストイコンさんをやっつけた!」
オペレータ席で翠は大はしゃぎである。ミリアは翠に意識を向けないですむので本来の仕事を目いっぱい行っていた。
「荷電粒子砲とオリュンポスキャノンは可能な限り多くの敵を巻き込めるような場所を狙って打ち込みましょう。
……とりあえず、オリュンポスキャノンが誘爆したりしませんように」
どこまでも苦労性のミリアである。
「3時の方向から一機、伊勢のほうに向かっているゴーストイコンさんがいます!」
瑠璃が叫んだ。スノゥの指が忙しくコンソールを走る。
「距離、233……ですねぇ。ウィッチクラフトライフル発射ですぅ」
連続して発射された光弾が、ゴーストイコンの背部を捉え撃ちぬくと、よろめくようにそのまま煙の尾を引いて落下していった。
そのときイナンナの加護を使って警戒に当たっていた、ザーヴィスチのエレナが叫んだ。
「あらたに大きな群れが接近してきます!」
数十機のゴーストイコンがこちらへと向かってくる。戦艦群とはだいぶ距離があるが、その視野に入っているのは間違いなくアクリトの艦だろう。何とかしてこれは食い止めねばならない。笠置 生駒(かさぎ・いこま)のジェファルコン特務仕様から通信が入った。
「アクリト艦に近づけてはまずい、最後尾の伊勢にも連絡した。こちらも覚醒を使って一気にいくよ。
もともと伊勢と連携して迎撃を行いやすくする為の囮行動をする予定だったからちょうどいい」」
生駒のパートナー、シーニー・ポータートル(しーにー・ぽーたーとる)は二日酔いと寝不足で目を真っ赤にしていたが、ゆっくりと頭を振るとぶつぶつこぼした。
「……ったく、人が気持ちよく酒飲んで寝てたのにたたき起こしてくれよって……。
うーーー、頭痛い……とっとと片付けて寝るでぇ」
「この緊急時に緊張感のない……」
生駒があきれて言う。
「しかたないやろ……今は頭がガンガンするんや。ほかの事なんぞよー考えられへんわ。
はよかたづけんとワタシの身が持たんわ。ほないこか」
こぼしながらもシーニーは、きっちりやることはやる。伊勢に現在の状況と自機の行動、帰艦するタイミングなどを伝えておく。
「……覚醒ッ!」
「……アカン……大きな声が響いてたまらんわぁ」
生駒のジェファルコンが淡い光を帯びる。同時にザーヴィスチがヴィサルガ・プラナヴァハを使う。凄まじいパワーを帯びた2機のイコンは、ゴーストイコンの群れへと向かう。手始めに群れに向かって伊勢のレーザーマシンガンが乱射され、それにあわせて生駒の機体がバスターレールガンを放った。ただでも強力な攻撃が、覚醒の力を得てさらに威力を高めている。光弾が通過したあとはごっそりと敵機が蒸発し、消えうせた。ついで残党に向かいザーヴィスチがリーチの伸びたダブルビームサーベルを舞うような動きで走らせると、残るゴーズトイコンもバラバラになって下方へと落下してゆく。群れは跡形もなく消滅した。
「残り時間切れ。これより帰艦する」
生駒に応えて伊勢のイコンデッキで整備に当たっていた生駒のパートナー、ジョージ・ピテクス(じょーじ・ぴてくす)から通信が入った。
「だいぶ機体を酷使しているようじゃな。まあ整備の準備は整っておる。帰還したらきっちりチェックしてやるわい」
外見上はどう見ても大型のチンパンジーだが、整備員としての腕は確かである。
「よろしくね」
生駒が言うと、ジョージは眉間にしわを寄せた。
「まったく無茶しおって」
「あ〜……あと迎え酒も頼むわ〜」
シーニーが頭を抱えて呻くように通信機に向かって言う。
「まったく……しょうがないやつじゃ」
ジョージは整備員たちのほうを向き直り、補給や修理を施されているイコンの様子を見る。
「さてと、団体さんが帰還してくる、チェックの場所を空けておかねばな。
あーあと誰か医務室に言って、二日酔いの薬も用意しといてくれ」
ジョージは言って、イコンデッキの一角を確保すると、帰還するイコンから送られてくるデータのチェックを始めた。
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