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リアクション
追っ手を退けろ!
紫月 唯斗(しづき・ゆいと)はヘルからの通信を受け取り、激高していた。
「おいおいおい? ルシアを実験体とかぬかす大馬鹿野郎様がいますねぇ?
あー、駄目だ、やっぱそーいう思考の奴は好かん
レナトゥスを人形だ? さらにルシアを実験体とか……ああ、うん。ふざけるなよ?!
待ってろルシア! 俺はルシアの忍者、ここで動かずにいつ動くのか!
何がどうあれルシアを助ける事に異論は無いッ!」
神の衣で気配を消し、影に潜むものに飛び乗ると、最高速でルシアの元に駆け付ける。
唯斗同様巨大光条兵器の様子を見に来ていた音無 終(おとなし・しゅう)は静かなる怒りをもって小型飛空艇で速やかに巨大イレイザーのほうへと向かっていた。巨大イレイザーはイレイザーとの戦闘のさなかにいる。アクリト艦の護衛船団やイコン群が同時にそちらの警護にも当たってくれているようだが、前線であることに変わりはない。比較的安全そうなルートを銃型HCで割り出しながら、道々トラッパーを用いて機晶爆弾を仕掛けてゆく。無論罠の位置は銃型HCにも設置と同時に登録してある。
「レナトゥスを人形と呼ぶのは誰だ? 彼女に手を出そうとしているのは誰だ?
そいつらには早々にお引き取り願おうか……この世からね。
レナトゥスに手出しをするのは止めてもらおうか、彼女に何をするにしても、それをするのは俺だよ」
ルートの割り出しと罠の設置を完了すると、レナトゥスらの護衛につく契約者たちからの情報を元にレナトゥスと合流をはかる。
「久しぶりだね、レナトゥス。あの男、中々愉快な事を言い出してくれたようだね。
俺はこんなだからね、出来ればレナトゥスには関わらない方が良いと思ったんだけれど。
レナトゥスに手出しをするというのなら見過ごせない」
その氷のような言葉にそこに居合わせた銀 静(しろがね・しずか)以外の全員がぞっとした。静はいつものように言葉なく、表情なく、身じろぎひとつせずに終の傍に控えている。
『レナトゥスには手出しさせない、それが終の望みだから』
終の脳裏に静の思念が届く。終は黙ってレナトゥスに近寄り、銃型HCを手渡した。
「安全と思われるルートを割り出し、トラップを仕掛けておいた。それに載っているルートを使え」
匿名が釘を刺す。
「おい、殺しはなしだぞ。追っ手とはいえ敵対関係にある存在じゃない」
「わかった。俺はルシアを護るし。ルシアが護ろうとする人も護る。俺の流儀ってやつだ」
唯斗は頷いたが終は冷たい光を瞳に宿し、突き放すように言う。
「……俺は俺の自由に動く」
辛抱強く匿名は語りかける。
「いいか、万一契約者による死者がでれば、レナトゥスを確保し、拘束するのはゴダートだけではなくなってしまう。
その意味するところは、わかるな?」
レナトゥスが懸念の表情に近いものを浮かべ、終に言う。
「殺すのハ、よくなイ。命は……」
終を見るレナトゥスが、深く考え込む様子で言葉を継ぐ。。
「命ハ、きっと……貴重ナものダ。ソウ思う。……私は、死にタくなイ。お前にも死んでほしくナイ」
終の目に微かに驚きが表れ、すぐに消えた。この短期間にレナトゥスはまた大切な何かを学んだようだ。
「……わかったよ、努力しよう。さあ、行け。ぐずぐずしてる暇はない」
すでに追っ手が後方から姿を現していた。終は目くらましとしてインフィニティ印の信号弾を撃ち込んだ。
「お前たちが彼女を追う事はできない、何故なら俺達がここに居るからな!」
静は殺気看破で敵意を察知しながらフォースフィールドでバリアを張って己の防御を固め、超人的肉体で身体能力の強化を行って追っ手の中に身を躍らせた。無論常に終とテレパシーでの意思疎通を行い、彼の指示に従って動く。地を這うほど姿勢を低くしたまま走って相手に接近、足元から死角を突いてサバイバルナイフでアキレス腱を切断する。無表情のままのど元にナイフを突きつけると、転がった兵士が死神そのものと言った感じの静の無表情な顔を見て戦慄し、死の恐怖に目を見開く。そこに終から指示が入る。
『今回は、殺すな』
すっと静がナイフを引くと、兵士は脂汗をいっぱいに浮かべたまま突っ伏した。終はその間に奪魂のカーマイン、灼骨のカーマインの二丁拳銃によるシャープシューターで兵士の脚を狙い撃ち抜く。そこここから負傷した兵士のうめき声が上がる。あとは追っ手を無力化しながらレナトゥスへ渡した銃型HCに連絡をとり、現在地と状況を確認をし、機晶爆弾を爆発させて針路を阻むことも考えれば良い。
ルシア、レナトゥスを姿を隠して後方から支援を行うべく、唯斗は通過あとにトラップを仕掛けていた。不可視の封斬糸でワイヤートラップを無数に配置し、駆け抜けられないようにする。終と別ルートでかかった追っ手がワイヤートラップを潜り抜けようとしている。素早く取って返し、兵士の一人を不可視の封斬糸で絡め取り、スキルを封じた上で首筋を手刀で打ち意識を奪う。脇から襲い掛かってきた兵士には、合気術でカウンター投げを放つ。壁に激突し、呻きながら転がる兵士。
「魔闘撃で強化した爆炎掌が欲しいやつはいるかな?
ルシアにちょっかいを出すやつは俺が相手だ。彼女は絶対に、護るッ!」
「詳しいお話は知らないんだけど、調査隊さんの指揮官さんが『レナトゥスを捕まえろ』って命令してるんだって。
レナトゥスさんの事は人形で、調査しろって言ってたらしいの。
……なんだかとっても嫌な人っぽいの。……しかもとっても悪者さんっぽいの。
……だったら、やる事は決まってるの」
可愛らしい赤いリボンで栗色の髪を結わいた及川 翠(おいかわ・みどり)が言った。今回の事態の連絡を受け、スポーンの街で遊んでいたパートナーたちともどもすぐに現場に駆けつけてきたのである。あのセリフと問答無用の強硬な態度から、即座にゴダートを『悪者』と判断し、レナトゥスを逃がす手助けをすることに決めたのだ。翠のパートナーの中で最も常識人であり、洞察、観察力に優れるミリア・アンドレッティ(みりあ・あんどれってぃ)も頷いた。
「あの指揮官とか言う人、前々から強引だとか聞いてはいたけど……相当酷い人物みたいね……。
何より、『実験体』だの『人形』だの『人間様』だの、あなたは一体何様なのよ、本当に……。
ちょっとそんな思考が出てくる頭の中調べて貰ったほうが良いんじゃないかしらね?
まぁ、そんな人が言う事は、どう考えても聞く気にはなれないわよねぇ……」
スノゥ・ホワイトノート(すのぅ・ほわいとのーと)が本人は結構憤っているのだが、はたから聞くとのんびりした口調で言った。
「ふぇ〜……酷い人が指揮官さんなんですねぇ〜。
一体どんな悪い事して指揮官さんに納まったんでしょうかぁ〜……。
普通の方法で指揮官さんになったんじゃないですよぉ〜絶対に〜。
とりあえずぅ〜、ゴダートさんは悪者で〜。悪者さんの手下さんならぁ〜、遠慮はいりませんよねぇ〜?」
徳永 瑠璃(とくなが・るり)のほうはミリアについで常識がある……はずなのだが、今回の一件を完璧に『悪事』と思い込んでいるらしく、悪を断つつもりでいるらしい。
「むぅ、あの指揮官さんって人は酷いです、横暴です、まるでこないだ見てた時代劇の悪代官さんです!
きっとスノゥさんが言うとおり、黄金の菓子とか、良い人を罠にはめたりして指揮官になったに違いありませんッ!
そんな悪者さんの手下さんも、勿論悪者さんに決まって……はいないでしょうけど……。
でもでも、悪者さんの悪さをお手伝いする人はやっぱり悪い人ですっ!
こうなったら、実力行使で悪事は止めなきゃいけないのですっ! でないと世界は平和になりませんッ!」
翠たちはすぐに転送されてきたデータをもとに、レナトゥスたちの針路に合流する終、唯斗によってカバーされていないルートに陣取り、足止め狙いでインビジブルトラップを目一杯仕掛けてゆく。
「これでよしなの。あとは悪者さんが来るのを待つだけなの」
翠が言い、デビルハンマーを振り回す、
「あのね、命にかかわりがないようにすること、っていうのも忘れちゃダメよ……」
ミリアが釘を刺す。そこにばらばらと5人ほどの兵士が通路に駆け込んできた。隠れ身を使っていたようだが、インビジブルトラップの効果で何人かが姿を現したのだ。おそらくもっと多数が共にいるのであろう。ミリアはファイナルレジェンドを発動した。広範囲に魔法攻撃が炸裂する。ついで裁きの光を使うと、天使たちが雷撃の混じる光の雨を兵士たちの上に降り注ぐ。雷撃に触れ感電し、転がる兵士も出た。スノゥがつと進み出る。
「来たわねぇ〜! 悪者共〜! 成敗なのです〜! リヴァイアサンさん、バハムートさん、攻撃なのです〜!
さあ〜行くです〜!」
バハムートが炎を吹き出し、兵士たちをあぶった。ついでリヴァイアサンが吹雪を吹き付ける。さらに裁きの光りで追い討ちをかけると、かなりの数の兵士が戦闘不能に陥った。一方の瑠璃は全く手加減を考えていないようだった。
「成敗ーーーーーーッ!!」
叫びながら連続して最大火力のファイアストームを放つ。ミリアはあわててスノゥにリヴァイアサンでの攻撃を続けるよう指示した。雪嵐が多少炎熱から護ってくれるだろう。あとは――彼らの運のよさを祈るだけである。
「……できるだけのことは、したわよね……。運が悪い人がいませんように……」
翠はデビルハンマーで隙のできた兵士の残党たちの間を飛び回り、急所を一撃して昏倒させてゆく。見る見るうちに追っ手は戦闘可能なメンバーの数を減らし、かろうじて残ったものも潰走を始めた。
「追うのよっ! 悪代官を叩きのめすのー!」
「おーなのー」
叫ぶ瑠璃に続こうとする翠をミリアが押し留める。
「ここで待ってなくっちゃ、レナトゥスさんたちが大変な目に合いますよ……」
「うーん……確かに、悪代官の成敗よりは、女の子の保護の方が大事なの……」
翠は納得したようだ。スノゥとミリアは顔を見合わせてはため息をついた。このルートに入ってくる兵士がこれ以上いないことを祈りたい気持ちだった。
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