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リアクション
魚雷を迎撃せよ! その1
艦長のホレーショ・ネルソン(ほれーしょ・ねるそん)が操艦に勤め、グロリアーナ・ライザ・ブーリン・テューダー(ぐろりあーならいざ・ぶーりんてゅーだー)が総合指揮を、ローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)が情報収集ならびに砲手長を務める{ICN0004430#テメレーア}では、最終調整が行われていた。今回対峙するのは無数のイレイザーを魚雷として攻撃してくる機動要塞クラス―――それも特大クラス―――のインテグラル・ルークだ。今回はルーク本体を叩こうというキロス・コンモドゥス(きろす・こんもどぅす)をはじめとする契約者たちの補佐と、遺跡の保護を兼ねて動こうという方針が固まっていた。旗艦であるテレメーアは全艦隊の中心、やや後方に位置し艦隊全体の動きの指揮を行う。ネルソンは前回得た湖底データを全艦に立体化したマップとともに配し、回避行動や移動、旋回などによる座礁を防ぐべく事前の対策をとっていた。移動が水面に限られる古代の艦船と違い、高速で水中――あるいは空中――で、3次元全てを使って移動するイコンにとっては、限られた行動範囲での地形や建築物などへの座礁の危険性を常に頭に置いておかねばならない。テレメーアの右前方には湊川 亮一(みなとがわ・りょういち)を艦長とし、高嶋 梓(たかしま・あずさ)がオペレーターを務める土佐が位置している。大田川 龍一(おおたがわ・りゅういち)の加賀は左前方に控えていた。アルマ・ライラック(あるま・らいらっく)を艦長とするウィスタリアは、今回露払いを兼ねた役割と補給や軽度の損傷のイコンを受け入れる役目を受け持っている。被弾ダメージを最小限に食い止めるべくジャマーカウンターバリアを展開しながら艦隊の最前列に位置していた。
前回同様上面、艦の下方をかいくぐっての攻撃を防ぐ為、全艦湖底すれすれに位置していた。小回りのきかない機動要塞の攻撃を逃れた魚雷を迎撃すべく、無数のイコンが艦隊周辺に展開している。ネルソンが僚艦に通信を行う。
「こちらテレメーア、今回は遺跡の保護ならびにルーク本体を叩く僚機の援護を中心とした支援行動をとる。
引き続き、座礁を防ぐべく地形への衝突の回避に注意を払ってくれ。大量に魚雷が飛来してきた場合、その迎撃に艦砲射撃を用いる。
前回のように弾幕を張り続ける必要はないが、いつでもいずれかの艦が主砲発射が可能なよう、くれぐれも攻撃順は遵守して欲しい」
全艦から一斉に引き締まった返答が入り、ネルソンはゆったりと頷くと、操艦に神経を集中した。
ローザマリアは戦闘管制室のグロリアーナとレーダーなど各種センサーや哨戒機によるの詳細データの検討をはじめた。今回もメインで使用するのはグラビティキャノンである。重力波本体の威力にあわせて、砲撃後の水圧による複合効果も狙う。機晶技術を用いた艦隊のデータリンクは今回も構築済みだ。展開中のイコン部隊との回線はグロリアーナの担当部署である防空戦闘管制室に繋がり、レーダーや哨戒機、遊撃隊のイコンによる索敵情報と照合し、敵の数や展開状況を即時に把握出来るようになっている。
「下方の地形もあるが、前回と違い魚雷の迎撃だ。軌道によっては発射する本体への攻撃にもなる場合もあろう。
ルークに向かう僚機への被弾を避けるために十分な注意が必要だな」
グロリアーナは眉間に皺を寄せた。周辺部のイコンや地形データ――被弾による地形変化をも含め――を照合し、湖底の凹凸や友軍に被弾をさせぬよう、艦によるレーダー探知結果や偵察機などのデータを取りまとめ、ネルソンに随時送信する手はずをとる。
「今回も操艦には神経を使うこととなろう。……妾の全幅の信頼をそなたに。頼んだぞ、ネルソン」
「御意」
ついで内線でローザマリアに声をかけた。
「今回も当艦が一斉射撃の第一波を行う。魚雷群を探知した。砲撃準備を」
「了解しました!」
ローザマリアは機晶支援AI、シューニャと共にレーダーに映る密集して接近する魚雷群を確認した。すぐに付近で迎撃を行うイコンへ通信を開く。
「これよりテレメーアによる砲撃を行います。座標F32―867付近の機体は、速やかに退避を行ってください!
繰り返します……」
退避が完了したのを見届けるや、ローザマリアが澄んだ声で砲撃命令を下す。
「テレメーア、第一射撃用意――コンディション、オールグリーン、僚機の全機退避を確認――ファイア!」
ホークアイで魚雷群の動きを追い、行動予測で動きを予想、エイミングとスナイプで標的を狙い、シャープシューターとトゥルー・グリットを併用した射撃だ。発射後即座にローザマリアは弾着情報を元に発射時との誤差がないかのチェックに入った。
藤色の貴婦人の異名を持つウィスタリアは繊細な翼を持つ美しいフォルムの淡い藤色の機動要塞だ。艦長のアルマはウィスタリアとリンクし、艦の性能を最大限に引き出しているが、その代償として艦に損傷があれば、それは痛みとしてアルマを襲うことになる。リスクはあるものの大きな利点もある。またアルマはこの艦を心から大切に思っており、その痛みを共有する覚悟を持っていた。彼女のパートナー、ウィスタリアの整備士である柚木 桂輔(ゆずき・けいすけ)は着艦前にトリアージプログラムで小破、あるいは補給が必要というイコンのみ受け入れの通信を行ない、着艦後すぐに該当する区画に受け入れたイコンを誘導するよう整備メンバーに伝えた。併せてやはり目視によるトリアージを行い、着艦した機体の状態を区分――青=問題無し、緑=損害軽微、黄色=小破、オレンジ=中破、赤=大破、黒=修理不能――にあわせて分類してゆくよう念を押す。
「残念ながらウィスタリアには、整備、修理の人間が少ないし、大規模修理行えるドックもない。
規模の大きめの修理を必要とする機体は、土佐に回ってもらわざるを得ないな……。
事前の通信で中破以上の機体は土佐に回ってもらうように伝えてくれ。
対応はプログラムと目視によるトリアージに従い、損傷度の低い機体から優先的に修理、補給を行っていけ。
イコンを少しでも早く前線に返し、手がかからないものを先に処理することで、回転は速くなる。
パイロットのケガが重いようなら、連絡の上加賀に回してくれ」
スタッフに指示を与えると、桂輔はドック内の待機場所へ移動し、戦況を知らせるモニターを注視した。
「引き続き水中戦闘か。やれやれ、レーザーは水中だと火力が落ちるからなぁ、新しい装備調達しないと」
亮一が呟いた。土佐は今回も戦闘被害による浸水に備えて艦の指揮は梓、航海長、航海科分隊、砲雷科分隊、通信化分隊ともども水密対策済みの艦橋基部装甲区画内のCICで行なうことにしていた。整備分隊と甲板分隊も前回同様イコンデッキ外側の扉と格納庫側の内扉の間を水密区画として利用し、万一の浸水に備えてPSを着用した上でイコンへの修理、補給を行える体制を取っている。、
梓はオペレーター席で通信科分隊、支援AIと協力しながら通信管制と索敵を行っている。レーダー、赤外線探知、外部カメラによる目視確認を併用し、部隊の機動要塞と通信ネットワークで他の機動要塞とも情報交換を行う。
「テレメーアの砲撃でさきほどの魚雷群はほぼ全滅。遊撃隊が個別撃破に向かっています。グラビティキャノン発射準備は完了しています。いつでも砲撃可能」
「了解」
そこにウィスタリアのアルマから通信が入った。
「先ほどの2波より大規模な魚雷群がこちらに向かっています。2機共同での艦砲射撃が必要そうです。
同時砲撃の連絡と許可はテレメーアに確認済みです」
「了解。こちら土佐。グラビティキャノンでの砲撃はいつでも可能です」
「座標をテレメーアと当艦から送信します。ウィスタリアも砲撃準備オーケーです」
送られたデータと土佐のレーダー、センサーを確認し、即座に梓が共通チャネルで周囲のイコンへの警報を発する。亮一が発射準備に入った。
「土佐……グラビティキャノン発射準備オーケー」
「こちらウィスタリア。グラビティキャノン、エネルギー供給安定しています……コンディションオールグリーン。
……発射準備完了」
「オーケー。風穴を開けてやろう、土佐ッ! グラビティキャノン発射!!」
「ウィスタリア、グラビティキャノン、発射します!」
2機の機動要塞から重力波が発射され、直撃を逃れた周囲の魚雷も巻き込み、押し潰してゆく
「着弾位置データをテレメーアに送信します」
アルマと梓がシンクロしているかのように同時に言った。
「抜けて射程圏内に入った敵には弾幕射撃を展開。同時に直掩隊のイコンを発進!
ウィッチクラフトライフル、ソニックブラスターでの迎撃準備を併せて行え」
亮一が命令をくだす。
「了解しました」
土佐の格納庫ではアルバート・ハウゼン(あるばーと・はうぜん)がソフィア・グロリア(そふぃあ・ぐろりあ)とともに蒸気傾奇者、整備分隊への最終確認を行っていた。土佐は中破以上の損傷機体受け入れ態勢がある。可能ならば修理し、再びイコンを前線に送り出さねばならない。そのためにも混乱はもっとも避けねばならない。整然とした対応が必要なのだ。
「今回もここは忙しくなりそうですな。
着艦時に可能な限り水を入れないよう、扉を開く前に排水が完了しているかの確認を徹底してくれたまえ。
それと、機材類は予備を含めて多めに見積もってある。こういう場合は余計にあるくらいでいい。
登録したトリアージプログラムと目視チェックを併用し、機体のチェックを行うように。
くれぐれも片方だけということがないよう、注意して当たってくれたまえ」
ソフィアは忙しく格納庫を飛び回っていた。修理に必要な資材のチェックを行い、格納庫と弾薬庫、燃料保管室、資材庫の在庫のチェックも行う。必要そうなものがあれば、依頼するのも彼女の仕事だ。ナーシングのスキルも併せ持つソフィアはパイロットたちのうち軽傷のものの対応も行う予定だ。
加賀は土佐同様、R&Dで改造したレールガンを装備している。万一の浸水対策として今回も龍一は防水対策を採った艦橋基部装甲区画内のCICで艦の指揮を執っていた。イコンの発着デッキも2重扉を利用し、同様に浸水しない対策を採っている。天城 千歳(あまぎ・ちとせ)が構築されたデータリンクでの他艦からの情報をあわせ、レーダー、赤外線探知、外部カメラによる目視を併用して索敵を行う。
「区画D4方向から魚雷群が接近中です。あのルーク……巨体の全方位から発射が可能なのでしょうか……」
「さあな、僚機があれをぶっ潰せばわかるだろう。しかし間断なく撃ってくるな……」
「エリア付近の僚機に警報を発令します」
「ああ、頼んだ」
千歳が僚機に向けて警戒を呼びかける合間に、龍一は忙しく各種計器、レーダー、センサーのデータを元に射撃準備に入る。
「主砲発射準備オーケー。当艦はこれより主砲を発射する。主砲発射用意――撃てッ!」
加賀の砲撃衝撃波を伴って赤い水中を駆け抜けてゆく。レーダーに映る魚雷の光点が明滅し、相当な数が一斉にふっと消えた。
「色々と出て来た可能性の芽を勝手に潰されてたまるかってんだ。
もし遊撃隊を抜けてきたやつがあればウィッチクラフトライフル、冷凍ビームによる対空砲火を食らわせてやれ」
「了解いたしました」
千歳が言い、各種センサーや僚機の情報のほか、赤外線探知、外部カメラによる目視を併せてで艦の周囲を探る。近接する魚雷への迎撃は味方機を巻き込まないよう慎重に行わねばならない。千歳は緊張した面持ちでデータをチェックし続けている。加賀の格納庫は今回も小規模ながら整備、簡易な修理と補給を行える体制を取っていた。守護天使エドガー・パークス(えどがー・ぱーくす)は衛生兵として軽傷のパイロットの受け入れ準備を行っていた。重傷者は医務室へ搬送し、そちらで治療を受け持つ。
「消毒薬、傷の保護パッド、消炎剤に化膿止め……。
万一重傷者がでた場合医務室へ搬送しながらも適切な措置を取れるだけの薬品とスタッフの体制を確保致しませんとね」
必要品をリストアップし、漏れがないかのチェックをスタッフに指示する。千歳や龍一らにも極度の緊張下からくる異常がないか、バイタルチェックを併せて行う。ジュリア・グロリア(じゅりあ・ぐろりあ)は整備兵の手伝いとして、帰還したイコンへ燃料、補給用弾薬のと修理パーツの運搬作業を行いながら、エドガーの指示に従い、薬品や医療用品の確保やスタッフへの伝言も行っていた。ジュリアが今度は片手にバスケットを持ち、エドガーの元へやってくる。
「雑用係、がんばりまーす! はい、エドガーさん、飲み物をどうぞ」
エドガーは水分やミネラル分を効率良く補給できる機能性飲料のボトルを手に取り、目を細めた。
「ありがとう。緊張しているとき、脱水症を起こしやすいというこの前の話を覚えていてくれたのですね」
「えへへ〜。まあ、まだこのくらいしかできませんけど」
「案外見落としがちなことですが、大事なことです。よく覚えていましたね」
グロリアは嬉しそうに笑い、スタッフに順次飲み物を配っていった。
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