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【真相に至る深層】第二話 過去からの螺旋

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【真相に至る深層】第二話 過去からの螺旋

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4:歩む足、手招く影




 時間は僅かに遡って数分前のことだ。
 契約者達が封印が脱出か、或いは顕現か、とそれぞれが異論をぶつけあっている中で、行動あるのみ、とばかり動いた者達もいた。
「さて、こっちはこっちで、やることやっちゃおう」
 小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)の言葉にコハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)が頷き、新風 燕馬(にいかぜ・えんま)もそれに同意する。特に燕馬にとっては、クローディスもディミトリアスも個人的な接点は何も無い相手だ。そんな自分が彼等に対して何か口にするべきとは思えなかったし、もっと彼らと親しい者達が、その意志を貫けるよう手助けに回るべきだ、と感じたためだ。
「早くパズルのピースを集めきらないと、取り返しがつかなくなる」
 そんな中「能書きはどうでもいい」と鼻を鳴らしたのはテレジア・ユスティナ・ベルクホーフェン(てれじあゆすてぃな・べるくほーふぇん)、正確に言えばテレジアに憑依した奈落人マーツェカ・ヴェーツ(まーつぇか・う゛ぇーつ)だ。他の契約者の例に漏れず、何度も見る夢に誘われるようにしてここに合流を果たしたのだが、マーツェカの場合は困惑よりも尚強い「気に喰わない」という憤りが、その根幹にあるようだった。
(何が気に食わねぇかって、我が夢などという不確定的なものを見ていたっていう事実だ。あんな物に意識を掻き乱されたんじゃたまったもんじゃねぇ)
 そんな心中は、言葉に出さずともその苛立った表情から見て取れる。
「さっさとこの気に食わねぇ夢を終わらせてやるぜ!」
 かのごとく、思惑はそれぞれだが目的は同じだ。情報を集めること。そのために手を尽くすこと。そんな彼等を送り出すために、神殿の軒下ギリギリに陣取った大熊 丈二(おおぐま・じょうじ)は、普段より随分手に馴染む不思議な感覚を武器に覚えながら、一同を振り返った。
「神殿を出たら、くれぐれも用心をお願いするであります」
 先の戦闘で幾らか数は減っているだろうが、半魚人達は総数も不明だ。それに、現状を考えれば何時どんな異変があるとも限らない。救出も脱出も出来なくなる事態だけは避けて欲しい、と言う丈二の言葉に、都市へ向かう面々が頷くと「勿論」と続く。
「今の所神殿内に半魚人達が入り込もうとする気配はありませんし、出来る限り防ぐつもりではありますが、何があるかわかりません。警戒をお願いするであります」
「判った」
 燕馬が頷いたのを合図に、丈二の弾幕が、飛び出す美羽たちの行く先を作ったのだった。



 だが、異変が起こったのは、その直ぐ後の事だった。
 とは言え都市全体に対する異変ではなく、丈二個人に対してのものだ。
(…………何で、ありましょうか、これは)
 美羽達がそれぞれ調査に向かうために飛び出していく背を見送り、騒ぎによって近付いて来た半魚人達を、半ば引きつけるようにして戦闘を繰り返していたのだが、引き金を引くより早く足が動き、銃口はまるで突きでも行おうとするかのように距離を詰めて、中心への一撃を放った。それは、普段の自分ではない戦い方で、銃ではなくもっと近接武器を持った時の戦法だ。だがそれでいて、頭はそれを違和感として処理しない。まるで馴染んだ武器であるかのように、丈二は銃を槍のごとく扱い、銃もまたまるで自身が槍だと錯覚しているかのように「そう」機能した。それが、丈二と夢で繋がる誰かの武器が呼応しているからだと、誰が気付けただろう。
 一匹、二匹、三匹。後から沸いて出てくるような半魚人たちの光景に、その侵攻を防ぎながら丈二は眉を寄せた。彼等は神殿には近付いてこない――だがそれは、今は、だということを知っている。
「……ッ!」
 一瞬意識が揺れ、小柄な半魚人ががむしゃらに向けた槍が、びっと額を掠めていった。傷は浅いが、血の勢いがあって、ほんの僅かに視界が濁る。群れ成す敵と、足元に広がる紅い血。どくりと嫌な心臓の音に、丈二は顔を顰めた。

(そうだ……知っている。この光景を……知っている)

 それは、遠い、遠い記憶。都市に刻まれ、残されてしまった魂たちの記憶だ。
 丈二の意識、そして「夢」に繋がる他の契約者達の意識は、ある者は夢の中へ沈むように、ある者は記憶の中に記録が滑り込むように、一万年前にこの海中都市ポセイドンで彼等が見ていたその遠い光景へと近付いていく――……