リアクション
05 第二次防衛線 精神世界でサルヴァにダメージを与えたその結果が、現実世界にも反映されていた。 突如として防衛機構の動きが乱れ始めたのである。 具体的には、一瞬動きを停止する。あるいは攻撃があさっての方向に逸れるなどという効果が見え始めたのである。現実世界で戦う契約者たちにとって見ればそれは突然の出来事だったが、予測済みの出来事でもあり契約者たちの対応は早かった。 「スター1より各機、今がチャンスだ!! 【スターダスト小隊】に支援要請。スター2のウィンダムを大樹まで辿り着かせるぞ!!」 シリウスの指示により、【星小隊】を支援すべく【スターダスト小隊】が動き出す。 まずはロレンツォ・バルトーリ(ろれんつぉ・ばるとーり)とアリアンナ・コッソット(ありあんな・こっそっと)の搭乗するソプラノ・リリコが動き出す。 「朋美サン、あなたもまたイコン乗りとしてプリマの一人ネ! 強い相手には、強い人が当たって、弱い雑魚い相手には、弱い雑魚ぃ者で十分ヨ! もっと強い敵、この先、居る。アナタ方、そっち向かうのコトあるよろし。適材適所、どこの国、どこの世界でもコレ同じヨ!」 高崎 朋美(たかさき・ともみ)の搭乗するスター2ことウィンダムを戦場にて見つけたロレンツォは、防衛機構に足止めを受けているウィンダムの背後に位置取るとウィッチクラフトライフルを発射する。 移動後にも撃つことができるウィッチクラフトライフルの特徴を最大限に活かし、ロレンツォは動きを止めずに射撃をし続ける。 「ありがとう……ロレンツォさん!!」 朋美はロレンツォに礼を言うと、騎兵球を新式ビームサーベルで切り裂いて加速を始める。 その奇跡は、まっすぐと大樹に向かっていた。 「朋美はん、進路上の敵はバンデリジェーロに任せてや!」 そんなふうに叫ぶのは大久保 泰輔(おおくぼ・たいすけ)で、それをパートナーの一人で情報中継専門オペレーターとして乗り込んだレイチェル・ロートランド(れいちぇる・ろーとらんと) が、同じくオペーレーターとしてウィンダムに乗り込んでいる高崎 シメ(たかさき・しめ)に伝える。 「……ということですわ朋美。あちらさんは、ワープが使えますからね」 「そうだね! シマック……!」 「応!!」 朋美とウルスラーディ・シマック(うるすらーでぃ・しまっく)は【精神感応】で100%のシンクロを行い、旧式となりつつある第2世代イコンの性能を限界以上に引き上げるのだった。 「あなたがたは良く斬れる切っ先を持った剣です。途中で余分な敵に対して振りまわして、肝心の斬って捨てなければならない敵に当たれなくなっては、僕たちにとっての損失になります。及ばずながら、先導相務めさせていただきます。肝心の敵の御本尊にこそ、あなたがたの力は振るわれるべきです!」 通信回線上でそんなふうに声を張り上げるのは堀河 一寿(ほりかわ・かずひさ)だ。ロレンツォのソプラノ・リリコとロッテを組むサージェント・ペパーのメインパイロットである。 「足手まといにはならないように気をつけます。私たちは、我々の勝利を確実にするためにここまでやってきたのです。希望の星は、あなたがた―――幸運を、御武運をお祈りします」 そして言葉を続けるのはサブパイロットのヴォルフラム・エッシェンバッハ(う゛ぉるふらむ・えっしぇんばっは)だ。 増設したオペレーター席には、機械類に頼らずガンマンとしての経験と勘で敵味方の動きを把握し、敵にとって「守りたい」あるいは「ここを守らなければ危ない」というポイントを割り出してそれを一寿に伝えるダニー・ベイリー(だにー・べいりー)と通信や情報の整理を担当するランダム・ビアンコ(らんだむ・びあんこ)が乗っている。 一寿はサージェント・ペパーを駆り、ソプラノ・リリコとともに覚醒持ちのイコンが進む道を開けるべく、防衛網を突破していく。 「敵? 周りに、いっぱい。でも心配ない。私達、弱くはない。敵も、弱すぎはしないけど、大丈夫」 ビアンコは各種センサーを確認しながら、一寿にそう話しかける。 実際、敵は無数だった。落としても落としても次々と生産され補充されていく防衛機構の球体は、気が遠くなるくらいに湧いて出ていた。 「やるしかないだろ? 実際、いっとう強い敵に相対せるほどの力や技量は、悔しいけど僕にはない。―――ないんだ! だったら、少しでも『我々』にとって勝ち目が多くなるように準備を整えるのが、僕たちの役割って事になる、そうだろう?」 己の力量不足に歯噛みしながら、それでも一寿は諦めずに戦う意志を見せる。 迫り来る歩兵球に対して射程外からスナイパーライフルを叩き込み破壊すると、ダニーの言葉に従って和久はサージェント・ペパーを操縦する。 「俺のカンを信じてくれよ、俺はそれで生き延びてきたんだ―――最後、ドジって後ろから拳銃ありったけ撃ち込まれて死ぬまではよ」 「信じるさ……僕達だって、そのおかげで生き延びてきたんだ!」 そんな風にしながら、一寿は闘いぬいていった。 そして、サージェント・ペパーとロッテを組むソプラノ・リリコも奮戦を続けていた。 サージェント・ペパーと互いにカバーし合いながらも、次々と敵を撃ち落としていく。 「ビッグ・スターには、ビッグ・スターに当たってもらうヨ! 星クズ相手には、スターダストで十分ネ。一寿、演習問題にあたるつもりで、当たって当たって当たって行くネ!」 ロレンツォの励ましを受け、サージェント・ペパーは肉薄する歩兵球に牽制のための部位バルカンを発射する。 動きを止めた歩兵球に対してソプラノ・リリコからの支援射撃が飛び、歩兵球は撃墜される。そんな風にして、戦局は進んでいった。 時折、暴走しそうになるロレンツォの動きをパートナーのアリアンナが制御しつつ、【スターダスト小隊】は朋美を前に進めるために戦い続けるのだった。 リカインは二次防衛線に到達したことで一つ試したいことを試してみた。それは【咆哮】を用いての敵の音声センサーの破壊である。 以前コープスに使用した時には、集音装置を破壊されたコープスが、センサーが無事な他のコープスの耳を使うことで咆哮を実質無効化していたのだが、今回はデータリンクをしている様子はなく、咆哮によって範囲内に存在する一部の防衛機構の音声による情報収集を阻害することは出来たのだった。 『ウィスタリアより各機へ。これより荷電粒子砲を発射します。射線上のイコンは直ちに退避をしてください』 全軍にそんな通信が入り、イコンたちは戦いながらもすみやかに射線軸上から退避を始める。 「進路クリーン……」 ウィスタリアの艦長であるアルマ・ライラック(あるま・らいらっく)に、オペレーターからのそんな言葉が聞こえてくる。 「荷電粒子砲発射準備開始。エネルギーライン全段直結、チャージ開始……」 「了解。チャージ開始!」 アルマの指示を復唱しながら、荷電粒子砲の発射準備が進められる。 「フィールドシェル安定、エネルギーバレル生成。チェンバー内、正常加圧中。エネルギーチャージ発射可能レベルへ到達……」 「荷電粒子砲、発射します!」 アルマが、発射の指示を出す。 「荷電粒子砲発射!」 そして撃ちだされた光条は、戦場を一瞬白に染める。 圧倒的な一撃が過ぎ去ったあと、そこには回廊が出来上がっていた。 その一方で柚木 桂輔(ゆずき・けいすけ)は整備班αとともにイコンを状況に応じてトリアージしつつ整備・補給を行っていた。 「全軍、突撃!!!」 そして、そのタイミングを見計らって、大統領からの命令が下されたのだった。 |
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