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伝説の教師の新伝説~ 風雲・パラ実協奏曲【3/3】 ~

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伝説の教師の新伝説~ 風雲・パラ実協奏曲【3/3】 ~

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 彼の活躍も忘れてはいけない。
 場面は、再び分校へと戻る。
 パワードスーツ隊ネフィリム三姉妹と別れて単独で作戦行動中の湯上 凶司(ゆがみ・きょうじ)の戦いはまだ続いていた。支援機に装備されているコンピューターを操り、施設を占拠するオリュンポスと数時間に及ぶ電子戦が繰り広げられている。
 時間がかかっているのは、オリュンポスからの攻撃が超高速で複雑で果てしないからだ。
 敵が使っているコンピューターは、裏工作をつかったとはいえ、一時的にでもXルートサーバーをダウンさせたこともある筐体だ。反応が想像以上に速く、使い手も巧妙だった。
「起爆プログラムだけでも書き換えられないかと思っていたが、近づくことすらできないとは」
 凶司は小さく舌打ちする。これほど手間取るとは思っていなかった。
「邪魔するな。巻き込まれるぞ!」
 別の場所から作戦を支援しているダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)も電脳空間から呼びかけてくる。
 宇宙空間での仕事はルカルカたちに任せ、彼は彼で特命教師たちの計画を叩き潰すために活動していたのだ。
 ダリルの保有している端末は【シャンバラ電機のノートパソコン】に過ぎなかった。しかし、それはただのネットワークへの入り口なのであって、スペックの平凡さは足かせにはならない。
 人の速度の限界を超えるためスキル【電子変化】してコンピュータに合体し、【電脳支配】で教導団のメイン思考機械にアクセス。空京大学のシステムの力も借りて、同時に電子攻撃を仕掛けていた。
 専用スキルの【電脳支配】と【機工マスタリ】の効果でネットワーク全体に彼の力を広げていた。高速思考操作するために【ダリル専用籠手型HC光条零式】を装備しており、この戦いのために惜しみなくありったけの力を注ぎ込んでいる彼が優位なのは間違いなかった。
「大丈夫だ、後は俺に任せておけ。素人が下手に手出しすると大怪我するぞ?」
「誰が素人だって?」
 凶司は、聞き捨てならない、と反応した。
「まあ待て。俺の言い方が悪かったかもしれないな。俺の波状攻撃に巻き込まれて痛い目に遭わないよう、離れたところから見ているのがいいだろう、と言いたかったのだ」
 ダリルとてここで争うつもりはなかった。彼も真剣に事件解決に取り組んでおり、分校のコンピューターを沈黙させるために大規模攻撃を行っているのだ。これまた専用スキルの【万象解読】で敵のプログラムを解読し敵に逆攻撃させるつもりでもあった。思わぬ飛び入りで一瞬の好機を失いたくないし、一緒に攻撃してしまいかねない。
「つまり、俺が足手まといになる可能性があるって言いたいわけか。それほど生ぬるくないぞ」
 凶司は、強引に先に進もうとする。オリュンポスの放つ悪質ウィルスはすでに見切っていた。
「それだけのスキルがあるなら、空の連中の航行を補佐してやれよ。こんなところで特命教師たちの相手をしているのはもったいないぞー」
 ほれほれ、さっさと向こうへ行け、と凶司はダリルに指示する。彼としても、横から別の人に手を出して欲しくなかった。そもそも、この事件は彼が最初に手がかりをつかんだのだから。
 ダリルは答える。
「これが俺の役目だから任せておけと言っている。【ウィザード級ハッカー】と言えば、どれくらいの力かわかるだろう」
「ウwイwザwーwドwクwラwスwハwッwカwーwwwwwwwww」
 凶司は思わずネットスラッグ風の笑い声を上げてしまった。ダリルは真面目に名づけたのだが、凶司的には、コンピューターを触り始めたばかりの悪ぶりたい中学生が名乗るネームに思えた。
「ネット上で厨ニネームを名乗るやつにロクなのはいないんだぜ。専門外が、機能の多さだけで勝てるほど甘くねえんだよ」
「専門外、だと?」
 ダリルもピクリと反応する。あらゆる理系知識に精通し、これまで多くの事件を知識面からサポートしてきた万能思考体を自負しているダリルを、専門外だと? 彼にとってはネットワークは庭のようなものだ。
「『機械神』であり、『電脳空間を支配する者』の名すら知らないとは、お前はやはり素人のようだな。もういい。巻き込まれても恨むなよ」
「wwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww」
 凶司は、ネット笑いをした。自分を抑え憮然とするダリルを指差して言う。
「腹いてぇwwww。いいギャグ持ってんなー、あんた。でもまあ言うだけならいいんじゃね? どっちが電脳空間を支配する者かわからせてやんよ!」
 彼もまた、天才だった。そして、天才の例の漏れず色々とゆがんでいた。
 個性の際立った者は、総じて孤高である。お互いは相容れがたいのだ。
 他人が見れば、どうしてこの状況で一緒に力を合わせて仲良く戦うことができないのか、少し疑問に思うだろう。その質問そのものがナンセンスなのだ。
 この俺が、どうして他人に合わせなければならないのだ? 仲良く? なにそれ? 自分は唯一の存在。誰かと組んでもメリットはない、と。
 なぜなら、自分は天才なんだから!
 そう自覚する二人が、同時に仕掛けた。
 電脳空間が破裂し逆流してくるほどの膨大なデータパケットが噴出し、敵へ向けて一点集中する。0と1の羅列が嵐となって吹き荒れた。意識まで押し流されそうな濁流が、ところかまわず押しつぶし始める。ネットワークの許容範囲を大きく超えていた。
「さあ、俺の前にひれ伏せ!」
 ダリルは高笑いをあげる。敵の放出したウィルスが書き換えられ逆攻撃を開始していた。
「ひれ伏す? 案外やさしいんだな。そんな程度で済ませるわけないだろう」
 その凶司は、あれっ? と思った。写楽斎を倒しに来ただけなのに、長時間の電子戦をする羽目になろうとは。
 しかし、彼も笑みを浮かべて宣言した。怒涛の攻撃が敵を包み込む。
「踊り狂え、悪党ども! 正気を保ったまま現世に戻れると思うなよ!」
 二人の電子攻撃はエスカレートしていく……。