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伝説の教師の新伝説~ 風雲・パラ実協奏曲【3/3】 ~

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伝説の教師の新伝説~ 風雲・パラ実協奏曲【3/3】 ~

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 視点を変えてみよう。
 ウィスタリアからいくつものイコンが飛び出していったほんの数分前のこと。
 先に停泊していたガーディアンヴァルキリーからは、笠置 生駒(かさぎ・いこま)の操るジェファルコン特務仕様が目的の人工衛星に向けて出撃していった。
 今回、生駒たちも事件を聞きつけて宇宙へやってきたのだ。
 一人ぼっちで行くのもアレだし、どうせなら大きいほうがいいだろうと言うことで、ウィスタリアではなくガーディアンヴァルキリーに同乗して、衛星近くまで運んできてもらっていたのだった。
 母艦は作戦領域に最接近し、停泊していた。宇宙空間へと飛び出したジェファルコンと組む仕様も作戦行動にしたがっげ、他の志願者と合流することになるだろう。
「え、ちょっと待って? 衛星って爆破しちゃだめなの?」
 母艦から離れ、人工衛星へと向かっている最中、改めてオペレーターから作戦の説明を知らされて生駒は慌てた。人工衛星を爆破解体すると聞いていたから、ありったけの爆弾を持ってきていたのだ。いや、実際には聞いていなかった。彼女は勘違いしていたのだ。
「だって、こんなにあるよ? 解体っていうから、爆弾いっぱい持ってきたのに!」
 生駒は愕然とした。一体、何のために自分たちはここへ来たのか。全く無意味ではないか。
 彼女だって、今回の事件の重大性は認識できていた。作戦は絶対に成功させなければならない。そのために重装備のイコンにありったけの爆弾を詰め込んできたのだ。
「イコンで人工衛星押し戻すんだと思っていたのに!」
 爆破させた人工衛星をイコンで片付けるつもりだった生駒は、裏切られた気持ちになった。
「いや〜、なんか核積んでるとか言っとったで。爆発させたらあかんやろ」
 パートナーのシーニー・ポータートル(しーにー・ぽーたーとる)のほうがよく話を聞いて事態を把握していた。
 普段から酒ばかり飲んで酔っ払っているシーニーが、ここぞとばかりにプギャー! した。いつものようにコックピットで酒瓶を抱えながら、酔いに任せて指をさして笑う。
「アホやの〜! ぷぎゃーーーーはははははははーーーーー!」
「ちくしょう。どいつもこいつもワタシをばかにしやがって」
 世間の風の冷たさに酷く傷ついた生駒は、落ち込みながらも復讐を誓った。
「ひーひひひひっひひぃーー、腹いてーーーーー!」
 シーニーを見ていると特に思う。こんな世界は間違っている。いつかぶっ飛ばしてやる! 生駒は、真剣な顔になってイコンの速力を上げた。なんだかむしゃくしゃして、スピードでも出していないと怒りに任せて何をしでかすかわからない。
「うま〜、あまとろろん〜」
 シーニーは小麦粉に切り替えてスーハーやりだしていた。それは放っておこう。
 ほどなく、ジェファルコン特務仕様のレーダーが謎の人工衛星を捉えていた。近い……。
 生駒がそのまま人工衛星へと突入しようとした時だった。
 コックピットに警告音が鳴り響き、次の瞬間爆音と共にイコンが大きく揺れる。
「話に聞いていた、護衛衛星だね!」
 写楽斎が打ち上げた人工衛星の他に、武装した人工衛星が2機、付近を警戒していると言う。それが、攻撃してきたのだ。
「もう、爆弾は必要ないんだ。ここで全部使い切ってやる!」
 人生を否定された気分の生駒は、積んでいた爆弾を惜しげもなく辺りにばら撒き始めた。
 イコンの武装なら一撃で破壊できる貧弱な衛星だ。だが、あたらなければ意味がない。照準も発射装置もついていない爆弾では狙っても命中しなかった。
 ピーピーピー! 護衛衛星までもが生駒をばかにしたように挑発的な動きで翻弄する。
「ちくしょう。当たれ! 当たれぇぇぇぇ!」
「いや、レールガン撃てや」
 シーニーは、小麦粉をナメナメしながらまともに突っ込む。
「当たれ! 当たれぇ! ……やったぁ、当たった!」
 ドドドドーーーン! 
 爆弾は、命中していた。
 ウィスタリアから出撃してきた志願者の乗ったイコンに。
 護衛衛星は、ひらひらと爆弾をかわすと遠くへ行ってしまった。
「あれ?」
 生駒は思わず固まった。今、何かいけないものを爆発させてしまった気がする。
 よほど当たり所が悪かったのか、イコンは損傷していた。小破レベルだが、作戦行動に支障を来たしそうな壊れ方だ。
「逃げよう!」
 我に返った生駒は、慌ててジェファルコン特務仕様を反転させた。
「逃がすか!」
 追ってきたのは、柊 真司(ひいらぎ・しんじ)バイヴ・カハだ。
 こいつはちょっとまずい。真司は天学のエースの一人なのだ。腕前も機体性能も折り紙つきだった。
「いや、違うんだ。人工衛星を爆発させようと持ってきた爆弾が」
 生駒は、何とか事情を説明しようとした。悪気はなかったのだ。ちょっと手が滑って……。
「なんだと!?」
 生駒の事情を知らない真司は、彼女のセリフを額面どおりに受け取った。
 人工衛星を爆破しようとしていた……?
「破壊工作員か!」
「違う!」
 生駒の落胆は激しかった。誰も自分をわかってくれない。
 ゴォォ!
 バイヴ・カハの放った【エナジーバースト】がすれすれをかすっていく。当たると死ぬ。真司は本気だった。
 さらに悪いことに。
 ドドドドドドドドドド!
 生駒がばら撒いた爆弾に、さらに何機かのイコンが引っかかったのがわかった。
 経費削減のため、機晶爆弾ではなく原始的な固体爆弾を使ったため、レーダーには感知されにくいのだ。目視でしか発見できずに、しかも宇宙空間は暗い。機雷と同じ働きをしていた。
「ヒャッハー! ようわからんけど撃ったれやー!」
 シーニーが勝手にイコン装備の【バスターレールガン】をぶっ放していた。適当に撃ったはずなのに、これまた、ウィスタリアから出撃してきたイコンに命中しそうになった。怒った相手のイコンが反撃してくる。
 たちまちにして乱戦になった。他のイコンも援護のためにこちらにやってきた。どうやら後からやってきたイコンたちの共通認識では、生駒は破壊工作員扱いのようだ。
「終わった……」
 生駒は、ははは……虚ろに笑う。誰にも理解されず、多勢に無勢で宇宙の藻屑と消えるのだ。
「あのサルと同じ運命やな〜」
 シーニーも粉を吸いながら言った。 
「あんたたち、なにやってるのよ!?」
 ルカルカのレイが、騒ぎに気づいてこちらにやってきた。
 とりあえず敵ではない、と判断して他のイコンたちに攻撃をやめさせる。
「またお前らか」
 レイのコックピットで、淵が小さくため息をついた。
 先日の農場決闘の時も生駒とシーニーのコンビに絡んだことのある淵は、彼女らを覚えていたのだ。
「むしゃくしゃしてやった。反省はしている」
 生駒は、こうなったいきさつを簡単に話した。確かに、爆弾を撒き散らしたのはやりすぎたかもしれないが。
「爆弾の後片付けしていきなさいね!」
 ルカルカはぷんすかしながら生駒に言った。こんな予想外のトラブルが起こるから油断できないのだ。
 宇宙空間を漂う爆弾は、小さく黒いので目立ちにくい。放っておくと機雷のような効果を発揮してしまうので放置しておくわけにはいかなかった。
「……で、なにがどうなって、こうなってんの?」
 騒動と辺りの惨状に気づいた酒杜 陽一(さかもり・よういち)が、特製武装の【守護の闘気】と【漆黒の翼】でこちらに近づいてくる。敵と遭遇していないのに、モブイコンが破損して引き上げてくるのはどういうことだろう。
「もうしわけない。あんた、小回りが利きそうだから、爆弾拾うの手伝って?」
 生駒は陽一に頼んだ。
「全然申し訳なさそうじゃないんだが、まあいいか」
 何のメリットもなさそうな申し出だったが、陽一は頷いた。こんなところで損とか得とか言っている場合じゃない。出来ることがあれば、全員が協力し合ったほうがいいのだ。
「小破のモブイコンは、もう今回は役に立たないね。修理はしておくから撤収させて」
 ウィスタリアに残っていた柚木 桂輔(ゆずき・けいすけ)が呼びかけた。こんなこともあろうか、と彼は出撃しなかったのだ。この後も、整備の仕事をすることになるだろう。それはそれで、重要な役柄だ。
「じゃあ、後はよろしくね」
 ルカルカは、必要な指示を出しておいてから、人工衛星に向かった。
 早い人は、もうついているだろう。我先にと勝手に突入したら、またあらぬトラブルを引き起こしそうだ。
「いよいよね」
 レイは人工衛星に迫る。

 ちなみに、護衛衛星は二つとも、イコンの一撃で簡単につぶれたのだった。真剣に戦うまでもなかった……。
 ここまでは、まあ順調だったのだ。ここまでは。