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天気晴朗なれどモンスター多し

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天気晴朗なれどモンスター多し

リアクション




教導団は腹を空かせている 


「……なんなんだ、これは」
 浪 飛燕が口端を引き攣らせながら呻いた。
 その小島の浜辺には、潮風に混じってやたらと美味しそうな匂いが溢れていた。
 飛燕の目の前にあったのは、あちこちでタコやイカを調理する生徒達と、その料理を楽しむ生徒達や水着姿で海水浴を楽しむ生徒達の姿だった。 
「いいんじゃない? 無事に一人も欠けずに訓練も終わった事だし」
 楊 明花が浪の隣に立って、何やらモグモグと口に物を含みながら言ってくる。
 飛燕は憮然と眉を怒らせ。
「当たり前だ。訓練で生徒を死なせてたまるかッ……いや、例え実戦であろうと一人として――」
 で、飛燕は明花が持っているのが、プラスチックの容器に入れられたタコ焼きだと気付いた。
「……なんだそれは?」
 ヒクン、と片眉を揺らしながら明花へと問い掛ける。
 明花はタコヤキをパクと口にほうばってから、爪楊枝の先を、ついっと滑らせて言う。
「売ってたわよ」
 その爪楊枝の先を見れば、確かに『たこ焼き』と書かれた看板が掲げられている。二つも。
 片方の看板には『失った栄養補給にプロテイン配合』とでかでか書かれていた。
「訓練を何だと思っている!!」
「まあまあ」
 完全に目の端を吊り上げた飛燕の口へと明花はタコ焼きを一つ放り込み、後ろで、こちらの間を待っていたらしいクレーメックの方へと振り返った。
「それで?」
「筋力増強スーツの回収は終了しました。それから、こちらはスーツの使用について生徒に行ったアンケートです」
 クレーメックが言って、リストと紙束とを明花に手渡す。
 明花は口端で爪楊枝を揺らしながら、リストとアンケートとにザッと目を通して、それから、クレーメックの方へと視線を返した。
「ありがとう助かったわ。――ところで、あなたって確か参謀科でしょ? 馬鹿にサービスが良いじゃない」
 明花が片目を細めながら問い掛ける。
 クレーメックは爽やかな笑みを浮かべ。
「技術科の皆さんには、いつもお世話になっていますから。これぐらいは当然の事ですよ」
 愛想の良い調子で続けた。
「御用があれば、いつでも声をお掛け下さい」
 そんなクレーメックを見やって、明花は薄く笑みを浮かべながら小首を傾げた。
「クレーメック・ジーベック」
 タコ焼きを飲み下した飛燕が呼びながら、クレーメックへと振り返り。
「――返却された水中銃の数が足りなくてな」
 言って、飛燕がクレーメックへとリストを手渡す。
「そこにある名前に、後で俺の所まで来るように言っておいてくれ」


「……営業妨害だ。向こうへ行け」
 綜司はジュウジュウと焼けるタコヤキを手元でひっくり返しながら、目の前に店を構えるネイトの方を見た。
 その目元が、ひくっと揺れている。
「俺達の方が先に焼き始めたじゃねぇか。おまえが向こうへ行くってのが筋だろう」
 ネイトが口先の煙草を揺らしながら、やはり手元でタコヤキをひっくり返しつつ、綜司の方を冷ややかに見返した。
「看板を立てたのは俺の方が早かっただろうが。それに、なんだプロテイン配合って。邪道だな」
「看板立てりゃ誰でもそれになれるってのか? 甘僧が。夢見てンじゃねぇ。寝惚ける前に、素のたこ焼きなんざ時代遅れだってことに気付け」
「おいおい、貴公らよぉ。そんなギスギスとしておったら客が来ないぞ」
 冷ややかに交わされる会話の中で、坊ノ丸が朗らかに笑って、プロテイン入りたこ焼きを口に入れた。
 味わい、飲み込み。
 にぃっと笑む。
「うむ、旨い」


「イカ、ソーメン?」
 黒いビキニを着た月夜の前には、ライゼと垂が調理したイカソーメンや、ほこほことしたゲソ焼きが並べられていた。
「美味しいですよ」
 刀真が月夜に微笑み掛けながら、イカソーメンをつるるっと啜る。
「でしょー! だって垂が味付けしてないからねっ!」
 ライゼがキャッキャ騒ぐ横で垂が眉を顰めた。
「……味付けったって、使うのは醤油とワサビだけだぜ? 少しくらい……」
「駄目だよっ!! 絶対っ!」
 ライゼが本気のテンションで真剣に垂の方へと振り返った。
 その真剣さに。
「そんなに壊滅的なの?」
 翔子は呆れたように小首を傾げた。
 ライゼが、コクリと頷き。
「辛いとか、薄いとか、そういうレベルじゃないんだよっ!」
「そこまで言われると、どんなものか一度食べてみたい気もしてきますね」
 瑠璃が、火に炭にかざした串イカに醤油を塗り付けながら言う。
「醤油とワサビでそこまで味を崩壊させるとなると……もはや特技ですわね」
 鈴が、まだ船酔いを残した虚ろな表情で微笑みながら、ぱたぱたと炭を団扇で扇いでいく。
 醤油とイカの香ばしい匂いが漂って……
「あ、イカ焼きだー!」
 皿一杯のタコ焼きを抱えたアリシアが、ひょいっと覗き込んでくる。
 反対に月夜がアリシアの皿を覗き込み。
「……たこ焼き?」
 それから、二人は顔見合わせて――
「ギブ アンド!」
「……テイク」
 互いのブツを交換した。

「ユニー! 遥遠ー! イカ焼き貰ったよー!」
 皿を抱えたアリシアが浜辺を駆けて来る。
「あ、アリシアさん。ああ……そんなに急いだら」
「転ぶ――」
 とユニと遥遠の予感は的中し、砂に足を取られたアリシアが盛大にずっこける。
 てりてりに焼けたイカ焼きが青空を舞う。


「ルミナ」
 ユウに呼ばれて、浜辺に腰を降ろして海を眺めていたルミナは振り返った。
 近づいてきたユウが、タコ焼きワンパックを差し出してくる。
「お疲れ様でした」
「君こそな」
 ルミナは差し出されたタコ焼きを受け取りながら、彼へと小さく笑みを向けた。
 ユウが笑みを返して隣に座る。
 そして、彼は少し頬を掻き。
「あと……その……さっきは、すいませんでした」
 言葉を濁す。
 言われて、ルミナは、ク、と赤くなってしまった。
 ルミナは、先ほどユウの着替えを誤って覗いてしまっていた。
 脳裏にユウの艶っぽい着替えシーンがリプレイされ――
「い、いや、君が謝る事では……」
 むしろ逆だろう、色々と。
 ともあれ、ルミナは誤魔化すようにタコ焼きを開いて、一つ食べ、ユウの方にも勧めた。
 だが、ユウの顔の方は、まだ見る事が出来なかった。


「レオンハルト」
 イリーナが真剣な表情で、レオンハルトの方へと爪楊枝に刺したタコ焼きを向けていた。
「何だ?」
 レオンハルトは突き出されたタコ焼きに怯む事無く、憮然とイリーナを見下ろした。
 イリーナは、ごくっと喉を鳴らし……しかし、レオンハルトの視線を果敢に見返し、言った。
「あーん」
 獅子小隊の面々が固唾を飲んで見守る中。
「それは俺に対する命令か?」
 レオンハルトが片眉を薄く上げる。
「……いや」
 言葉を受けて、イリーナは視線を落として溜め息を付いた。
 と――。
「ふん」
 レオンハルトが鼻を鳴らして、イリーナの突き出していたタコ焼きを食べた。
 ハッ、とイリーナは顔を上げてレオンハルトの方を見やり、それから、その目に悪戯気な光を浮かべた。
 レオンハルトが口の中のタコ焼きを乱暴に噛み砕いている姿を、じぃっと眺めながら彼の反応を待つ。
 そして、レオンハルトがタコ焼きを飲み下し。
「まあまあだな」
 と、表情を変えずに一つ言った。
 聞いて、イリーナは、肩透かしを受けた気分で、がっくりと肩を落とした。
 その向こうでは、やはり獅子小隊の面々が嘆息を洩らしていた。
「ですから、アレにそういう所を期待しても無駄なんですよ」
 シルヴァが相変わらずの微笑を口元に浮かべながらクスクスと笑う。
 彼の手元は鉄板の上のタコ焼きをひっくり返していた。
 彼の手元で焼かれていたタコ焼きの具はタコだけでは無かった。
 チーズ、生姜、大蒜、山葵、キャラメル等のいわゆるロシアンタコ焼きだ。
 そして、イリーナがレオンハルトの口に入れたのは、このロシアンたこ焼きだった。
 シルヴァがロシアンワンセットを紙皿に盛りながら、隣に立つ亮司の方へと視線を向ける。
「しかし、よく見つからずに機材と材料を運べましたね」
 その横に立つ亮司が、こちらはまともなタコ焼きをひっくり返しながら、
「まあな。護衛艇にちょうど良い場所があったんだ……つか」
 亮司はタコ焼きから他の生徒達の方へと視線を巡らせた。
「他にも俺と同じように機材や食材やらを隠している連中は結構居たな……まさか、本物のタコ焼き屋が混ざってるとは思わなかったが」
 そして、亮司は、ふと、じっと己を見下ろす視線に気付いて、顔を上げた。
 サミュエルが亮司の手元を、見詰めながら、
「タコ焼き、作りたいナ……」
 と、亮司の恐れていた言葉を発する。
 亮司は、皿に手早くタコ焼きを盛り、ソースと青のり、鰹節を乗せ、サミュエルの前へと突き出した。
「喰え」
 それをサミュエルは見下ろし、しばしの後――
「ありがと……」
 皿を受け取って、亮司の隣でタコ焼きを食べ始めてくれる。
 その様子を見上げて、亮司は軽く息を付いて、小さく笑った。
 ひとまずの危機は去った。
 その向こうは『イリーナ、サミュエルの立ち入りを禁ず』と書かれた紙が立てたアサルトカービンの先に揺らめいており、クリスフォーリルが串に刺したタコを焼いていた。
「串焼きですか」
 いつの間にか後ろに立っていたソフィアが問い掛けてくる。
 クリスフォーリルは串を返しながら頷いて。
「……浅漬けではありますが……タコのシャシリク風であります」
「シャシリク?」
「……ロシア料理であります」
「ロシア、ですか?」
「……地球の国……私の故郷であります」
 言って、クリスフォーリルは振り返り、焼きたてのタコ串をソフィアの方へと差し出した。
 ソフィアは、礼を言ってそれを受け取り、端を齧りながら周りをなんとなしに眺め――遠くでルカルカをナンパしているルースを見つけて肩を落とした。
 嘆息一つ。
 ともあれ、気を取り直すように視線を巡らせて。
「このタコ……何人前になるんでしょう……?」
 未だその身を大量に余らせた巨大なタコ足を見詰めた。


「……勝負は一回」
 鉄平が厳かに言う。
「問題なし」
 輝が真剣な表情で答え、
「当然だ」
 フィルドが頷く。
 彼の顎が熱い砂を擦った。
 三人は砂浜に腹這いになっていた。
 そんな三人を見やって、メリッサが首を傾げる。
「何を……やっているのでしょう?」
「ビーチフラッグだそうですよ」
 三人を眺めて浜辺に座っていたシエンシアがのんびりとした声で答える。
「妙に真剣ね」
 唯が目を細めながら言って、シエンシアが楽しげに笑う。
「ああ、それは――」
「タコ焼きを賭けての戦いですからな。自然と熱が篭るというもの」
 後ろから楽しげなツークの声が聞こえて、彼女達は振り返った。
 彼はタコ焼き一皿とイカ焼き三本とを器用に持ち運んでいた。
「ロシアンたこ焼きなどというオツなものを頂きましてな」
 彼は彼女達にイカ焼きを渡しながら言って、たこ焼きの皿を刺し出す。
「お好きなものをどうぞ」
 と、ツークが促すのとほぼ同時に、鉄平が合図の弾丸を指で宙へ弾き飛ばした。
 クルクルと回った弾丸が、砂の上に落ちて三人が三者三様、身体を跳ね上げる。
 彼らの目指す先には、砂に付き立てられたカルスノゥト。


 護衛艇。
 未だ、カタカタとスーツのデータを入力していたアリーセの背を見て、グスタフは息を零した。
「他の連中は遊んでるってのに」
 アリーセがデータ入力を続けながら、笑う。
「私も遊んでいるようなものですよ」
「ったく」
 ふいに、アリーセの目の前にタコ焼きが差し出される。
 鼻先に香る美味しそうな匂い。
 アリーセはグスタフの方へと顔を上げて。
「これは?」
「たこ焼きだ。見りゃ分かるだろ?」
 グスタフが両手に一つずつタコ焼きを持ったまま、軽く片眉を傾ける。
「奮発して、プロテイン入りと普通のヤツとで二種類も買ってきちまった」


 教導団の海開きは、つまり、そんな感じだった。


担当マスターより

▼担当マスター

村上 収束

▼マスターコメント

 タコ大人気――
 ということで、シナリオへの御参加ありがとうございました。
 そして、アクションの作成お疲れ様でした。
 今回のリアクション……場面があちこちに飛び回って、大変読み辛かっただろうなと思います。
 次回、似たようなシナリオをやる時は書き方を変えようと誓いつつ……。
 戦闘後のタコぱーちーへのアクションが多くてビックリしました。
 教導団では、今そういったイベントが求められているのだろうか、とか(笑)


 さて。
 各モンスターのスレイヤー称号をゲットしたのは以下の方々でした。
 各条件達成への貢献度で決めさせて頂きました。

<敬称略>
■イカスレイヤー
ロブ、小次郎、リース

■サメスレイヤー
ゴッドリープ、ルカルカ

■クラゲスレイヤー
ユウ、ルミナ、カルフェイド

■タコスレイヤー
風次郎、遙遠、亮司、クリスフォーリル


 そして、水中銃を捨てた方々。
 訓練で備品を紛失してしまったという事で、楊技術主任教官の雑用係を命じられました。
 なので、お手伝いに徹してくれたクレーメックさんに加え、
 正義さん、ルースさん、桜さん、刀真さんには【楊技術主任の雑用係】の称号を贈らせて頂きました。
 この夏は実験やらテストやらに付き合わされるが良いでしょう(笑)
(ゲーム的に何かが制限されるとか義務が課せられるという事はありません)
 正義さんはイカ戦闘の貢献度が高かったのですが、水中銃捨ててたのでこっちの称号にさせて頂きました。
 後は護衛艇関係の人やタコ焼き屋さんやらにチラホラと贈らせて頂きました。

 そんなこんなで
 ありがとう御座いました!