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薔薇に捧げる一滴(ひとしずく)―BL編―

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薔薇に捧げる一滴(ひとしずく)―BL編―
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※注意※
こちらの作品はBL編となります。
男性同士の恋愛描写が苦手な方の閲覧はお控え下さい。
また、1日目であるNL編の続き物として作成しております。
お時間に余裕がありましたら、そちらと合わせてお楽しみ下さいませ。

プロローグ

 夏の終わりに、ルドルフ・メンデルスゾーン(るどるふ・めんでるすぞーん)が残したあの言葉。
『薔薇の美しい季節になったら、自慢の庭園に招待しよう』
 次に来るその季節を心待ちにし、あの日目に焼き付けた自分の輝きに恥じぬ行いをした者たちに嬉しい知らせが届いてから数日後。
「待たせたね。2日目の解放日が決定したよ
 ――ついに、自分たちも参加できる!
 公に出来ない思いだと知ってはいても、この気持ちに嘘はない。
 同じ悩みを抱える者同士が集う、数少ない気持ちを公言できる場所。
 どうどうと隣を歩き、他人の視線を気にすることなく相手を見つめる。そんな些細な幸せを感じられる時間となるだろう。
 参加希望者が詳細の告知を確認すると、ルドルフが提示する物は1日目と同じ、生涯愛すると誓った者、もしくはその相手に渡せる物
 公言出来る場所を用意されたと言っても、ひっそりと思いを抱いている人がいるのも事実。
 予想が付いていた者もいたからか、前回ほどではないとは言え驚きを隠せない一部の生徒たちはひっそりとため息を吐く。
 自分は生涯の愛を誓えても、相手には重いかもしれない。
 まして、幸せを願うのなら同性の自分は……と弱気な考えを巡らしてしまう人もいたことだろう。
 同じように弱気な……いや、もう諦めたような顔をして、ジェイダス・観世院(じぇいだす・かんぜいん)も溜め息を吐いている。
「あれは、貴重な物なのだ。あまり他の者に使われたり、無駄にされてはあやつに――」
 ――あれって、確か愛の雫?
 やはり効果までは話してくれませんが、噂によれば勇気がもらえたり素直になれる効果があるのだとか。
 ルドルフが用意しろと提示した物を考えると、誰もが幸せになれるチャンスをくれたのかもしれないと小さな希望を抱くのです。

 特殊な恋愛事情、深い絆を確信出来る友情。そんな様々な思いを秘めている人の元へ届いたお茶会の招待状。
 このお茶会に誰と参加するのか、何を持っていくのか。
 あの人に伝えたい大切な言葉……

 数日前の噂話にも耳を傾け、雫が目的の参加者たちは入念な策を立て、それが関係ないという人はデートコースを企画したりと開催前から楽しそうにしています。この様子だと、きっと当日も幸せな顔を見せてくれることでしょう。
 噂と言えば、1日目に防犯装置を作動させられてしまい大変なことになったということもあり、不安になる参加者もいるようです。
 しかしそれは、参加者たちの度量を計りたいという校長の試練。
 1度クリアしているので今回はないだろうと思う人もいれば、今回はさらに凄いことが起こるのではと不安な人もいます。
 けれど、事前に出来る対策などほとんどありません。今回こそは平穏なお茶会となるようにと参加者は祈るばかりでした。



たった1つの想い

 前回と同じく、高台に集う面々はジェイダスにルドルフ、そして真城 直(ましろ・すなお)ヴィスタ・ユド・ベルニオス(う゛ぃすた・ゆどべるにおす)の4人。そして、各エリアに数人の警護がつくものの、今回は女性招待者が居ない分、若干手薄となっているようだ。
 今回こそは大人しくして貰わなければとジェイダスに目をやるルドルフと直に、彼は呆れ顔で返す。
「立て続けに私が何かをするとでも?」
「……校長なら、やりかねませんよね」
 よりにもよって体育祭に実力考査を盛り込む人だ。
 きっと、以前と同じ手を踏むことはないだろうが、違った手で生徒を試すに違いない。
 3人がそう思っていると、ノックもそこそこに来客がやってきた。ジェイダスのストッパーとして招待したラドゥ・イシュトヴァーン(らどぅ・いしゅとう゛ぁーん)だ。
「一体なんだと言うんだ。こんなところで茶会など……」
 不満そうな表情をするラドゥに校長の隣の席を勧めて、3人は若干後ろに下がる。気を利かしてのことなのだが、にこやかなジェイダスとは違い人前を気にするラドゥの眉間には皺が寄るばかり。
「全く、揃いも揃って何が目的だ……しかし、今日はこんなにも霧が濃かったか?」
 晴天とは言い切れない天気だったはずだが、視界が悪くなるほどの霧が発生していた記憶はない。身を乗り出すようにルドルフと直は園内を見る。
「この霧は……!」
「それにこの感じ……あのときと一緒じゃないか!」
 濃霧と呼べるまでに酷くなる霧は、薔薇園ごと包み込む。これでは、薔薇を見下ろしてお茶を楽しむことはおろか、肝心の高台から参加者の安全を確認することは出来やしない。
「こちら側で操作出来ない分やっかいだな……3人とも、様子を見てきてくれないか」
「はっ!」
 颯爽と駆け下りる3人を見て、ジェイダスは爪を噛む。雫の噂が広まってしまった以上、この状況になることも想定出来たはずなのに、なぜ対策を取っておかなかったのかと悔いがあるのだろう。
「普段、特別庭園に人は集まらぬと怠っていたからか……」
「この異様な空気、そう簡単には対処出来ないだろうな」
 晴れることのない薔薇園を見つめ、眉間に皺を寄せる2人。この原因は、数十分前に遡る――。



 前回の参加者から情報を集めていた雫が欲しい参加者は、真っ白な薔薇に仕掛けがあるらしいと目星をつけ、その作戦会議はさながら宝探し。特に雫に興味がなかった人も「楽しそうなことがあるのなら」とうっかり加わってしまいそうなものだったのだ。
 もちろん、参加者が多いエリアを選んでしまった人は、手に入れられる可能性は薄いのでゆっくり向かう人が多数を占めるが、参加者が少ないエリアを訪れた者は自分が手にする可能性もあるのではと意欲満面だ。
 その中でも、桃のエリアを選んだのはパートナーを合わせても8人。10人満たないその人数の中で雫に興味を持ったのは、たった2人だけだった。もっとも、入り口での作戦会議を見て「勝負には絶対勝ぁああつ!」と闘志を燃やす者と、お茶会の参加理由自体が面白そうだと思っていたことから「イベントには参加しなきゃ」という程度で探し始めたので、不思議な薔薇という以外には宝物が何であるかは、実のところ良くわかっていない。
 パートナーを巻き込んで、4人は真っ白い薔薇の奥地へと向かうのだが、その先頭を歩くテディ・アルタヴィスタ(てでぃ・あるたう゛ぃすた)皆川 陽(みなかわ・よう)の手をしっかり握ってなんの目印も付けずに進んで行く。
「テディ、どこまで行くの? ボクたち、お茶会に来たんだよね?」
 この間は女性も招待されると聞いて、2日目の今日なら空いているだろうとやってきたのに。その空いているテーブルを通り過ぎ、普段立ち入ることの出来ない場所に来ているのにゆっくりと見ることも叶わず、ただひたすら歩くだけ。
「なんかわかんないけど、僕が見つける! ジャマする奴は超ウルトラスーパーやっつけるし!」
 今にも噛みつきそうな勢いで振り返った先には、佐伯 梓(さえき・あずさ)カデシュ・ラダトス(かでしゅ・らだとす)がのほほんとした顔で付いてきていた。と言っても、同じ物を探しているのだから方向が同じになってしまうの不可抗力だ。
「おおー、なんかちっこいのに凄いな。俺たちやっつけられちゃうって」
「ちっこくない! 今にオマエなんか追い抜いて僕が勝つんだからなっ!」
 ずんずんと進んで行くテディに苦笑しながら、カデシュも手を差し出してみた。
「このままでは、あの子に先を越されそうですね?」
「なんだよその手。俺、女じゃねーし」
 転けるかよ、と1人進んで行く梓の後ろを歩きながら、行き先を失った手を顎に当てて考え込む。
(あのアズサから素直な答えを聞き出せる物なら、是非とも手に入れて欲しいですが……)
 所詮噂は噂、謎な物に頼るよりも2人でゆったりと過ごせればと思ってやってきたのに、梓は面白い物に興味を持ってしまい宝探しが始まってしまった。あんなに嬉しそうにされては引き留めることも出来ず、大きな子供を持つ親のような顔で見守るしかない。
 そうして、4人の目の前に広がる真っ白い薔薇と、突き刺さるような冷たい風。不思議な薔薇が隠れていたという状況にぴったりのその環境が揃ってくると、気分が高まってきたのか皆が必死に探し出す。
「あれ?」
 同じような薔薇が並ぶ中で、何かが見えた気のする陽が一点を見つめていると、次第に3人もそちらが気になって目をこらす。
 千切れた雲に隠された太陽が再び顔を出したとき、やはり何かが煌めいた。白い薔薇の中でも一際白く凜とした輝きを放つ不思議な薔薇が姿を見せたのだ。
(――あれだ!)
 手に入れる気がなくても、目の前に現れれば気になる物。4人は一目散にたった1つの薔薇を目指す。が、雪で出来た薔薇には持ちこたえることが出来なかったのだろう。四方から手を伸ばした瞬間、存在したのは夢だったかのように溶けて消え去り、それは霧となって空を舞う。
「あー! 僕の薔薇がっ!!」
 心底悔しそうにテディが空を眺め地団駄を踏む。誰かに負けたわけではないけれど、勝利出来なかった悔しさは意気込んでいただけに人一倍大きい。
 ゆったりと風に乗り、もう姿を現すことはないかと切なげに見守っていると、その霧はまるで仲間を呼び集めるようにゆるゆると広がっていく。輪を描いて遊ぶように回り出したかと思えば、薔薇園中を包むかのように急成長してしまった。
 それが、全ての始まりになるとも知らずに――