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リアクション
茶を淹れる静香から一番近いテーブルにも、白百合団員が沢山集まっていた。
「マッサ〜ジしますか?」
百合園のヴァーナー・ヴォネガット(う゛ぁーなー・う゛ぉねがっと)が、功労者である百合園のロザリンド・セリナ(ろざりんど・せりな)の肩を揉む。
「ふふっ、ありがとうございます。ヴァーナーさん」
「今日はいっぱいいっぱい楽しんでください」
主に正門前で戦った白百合団員を労わりながらテーブルを回って、ヴァーナーはブルーベリーマフィンを配っていく。
「美味しいっ!」
真っ先に手をつけたのは、通りかかった蒼空学園のミーナ・コーミア(みーな・こーみあ)だった。
「こらミーナ、団員の方より先に食べたらダメですよ」
「だって、美味しいんだもん。葉月も食べて食べて!」
苦笑しながら、軽く注意する菅野 葉月(すがの・はづき)の口に、ミーナがマフィンをつっこんでいく。
「んぐ……。あ、本当です。やわらくてとても美味しいです。ヴァーナーさんの手作りですか」
「はい。よろこんでもらえて、うれしいです」
ヴァーナーは嬉しそうな微笑みを浮かべる。
生ブルーベリーを使った、ふんわりさわやかマフィンだ。
香ばしいクランブルをトッピングしてある。
「お茶ももってきます」
ヴァーナーはぱたぱたと走り、校長が淹れたお茶をトレーにいれて、帰りはゆっくりと持ってくる。
淹れたのは校長だが、茶葉はヴァーナーが用意したものだった。
ヴァーナーの故郷のデンマーク王室ご用達の紅茶葉、王女のブレンドだ。
「はいです」
ヴァーナーは皆にティーカップを配って回る。
「ありがとうございます」
仄かにレモンの香りがする紅茶だった。
「レイちゃんもどうぞ。お砂糖いれますか?」
ヴァーナーは小さな女の子……の姿をした子供、レイル・ヴァイシャリーにティーカップを渡す。
「ありがと」
お礼をいったレイルに、手を伸ばしてヴァーナーはぎゅっとハグしてあげる。
「いっぱいたのしんで下さいね」
「うんっ、へへへっ♪」
抱きしめられてレイルは嬉しそうな笑みを浮かべた。
「こんにちは、元気そうでよかったです。よろしければこちらも食べて下さいね」
葉月は袋の中からクッキーを取り出して、レイルの前に置いた。
ツァンダの有名菓子店で購入したものだ。
「いただきまーす!」
「いただきまーす!」
レイルとミーナが同時に言い、ミーナも手を伸ばしてクッキーを食べ始める。
「ミーナの分は、別に用意してありますから」
「むむ、それじゃ次いこー!」
「あ、中庭から出たらダメですよ、ミーナ。……ヴァーナーさんや皆さんも是非召し上がって下さい。お茶戴いていきますね」
葉月は袋をテーブルの上において、ティーカップを手にミーナを追って他のテーブルに向かっていく。
「ありがとです」
ヴァーナーは頭をぺこりと下げて、2人を見送った。
「全員にお茶は回ったようですし、桜井校長もこちらにいらして下さい」
百合園の橘 舞(たちばな・まい)が静香の元に歩み寄って、一番近いテーブルへと誘った。
「ありがとう。それじゃ、僕も少し休ませてもらうね。でも、お茶のお代わりが欲しい人は遠慮なく言ってね」
「校長、是非こちらの席へ。……先日はすみませんでした」
隣の席の椅子を引き、静かを招いたのはイルミンスールのオレグ・スオイル(おれぐ・すおいる)だ。
一連の事件中は女装をして静香の傍にいたオレグだが、今日は中性的な服装でミステリアスな美しさを漂わせている。
「ん? 何のこと」
「肝心な時に傍にいてあげられませんでしたから。ひとまず、お疲れさまでした」
「うん。オレグさんも、他校の皆も本当にありがとうございました」
腰掛けた静香が頭を下げる。
「良い経験になったわ。そして、このような場に招いていただいたことに、深く感謝いたします」
そう言ったのは、イルミンスールのメニエス・レイン(めにえす・れいん)だ。ティーカップを両手で掴み、柔らかに微笑んでいる。
その後には静かにメニエスを見据えるパートナーにして従者のミストラル・フォーセット(みすとらる・ふぉーせっと)の姿もあった。
ミストラルは座らずに、後で必要に応じて世話をしながら、メニエスと……静香を見ていた。
「実家から取り寄せたアールグレイとイチゴのケーキです。校長はどちらになさいます?」
舞は箱の中のケーキを静香に見せる。
「私はイチゴの方で」
舞のパートナーのブリジット・パウエル(ぶりじっと・ぱうえる)が手を伸ばして、イチゴのケーキを自分の皿に乗せた。
ちらりと舞はブリジットを軽く睨む。
(舞、まーだ根に持ってるのかしら? ま、お茶会が終わった頃には機嫌なおるでしょ)
怪盗舞士の事件について、ブリジットの推理に多少の誤差が存在したことはブリジット自身認めてはいるけれど。負のオーラを纏わせ続けているパートナーの姿にいい加減疲れてきたところだ。
「僕もイチゴの方で」
「イチゴですね。寧ろ2つとも食べていただいても構いません。想像も出来ないほどの苦労をされているのでしょうから、美味しいものくらい沢山召し上がって下さい」
舞は静香の皿に、イチゴのショートケーキをおき、自分の皿にアールグレイケーキを乗せて、それも静香の方に差し出した。
(ふむ。……ちょうどいい鴨、もとい、気苦労多そうな桜井校長を手伝ってあげたら? と言ったら妙にやる気になってるし……ちょっと美化しすぎてる気もしないではないけど)
ケーキを食べながらブリジットは舞を観察する。
「いや、僕なんて……何の役にも立てなくて」
「そんなことは断じてありません」
舞がきっぱりと言う。
「お疲れのはずですのに、周囲への心配りも忘れないなんてとても立派だと思います。誰にでも真似できることではありません」
「あ、ありがとう」
舞の尊敬の眼差しと言葉を受けて、静香は照れくさそうに笑った。
「ホント大したことじゃないんだけどね、ただ、皆に楽しく過ごしてもらいたいと思って……元々はロザリンドさんの案なんだけど」
「いいえ、私が想像していたお茶会より、ずっと大きな会となりました。本日はお招きくださり、本当にありがとうございます」
ロザリンドが静香に頭を下げる。
「ううん、来てくれてありがとう。怪我はもう平気なの?」
「はい、完治しました」
明るく、笑顔でそう答えたロザリンドだが、実際は消えていない傷があり、化粧やショールで隠している。
傷が見えてしまったら、静香が悲しむだろうと思って……。
「よかった。本当に。皆無茶しすぎだよ……」
心配げに微笑む静香に、「白百合団は大丈夫です」と、ロザリンドは答え。
それから、副団長とパラ実の四天王の戦いについて、皆に話すのだった。
「敵は匕首みたいな武器を持ってて、こうやって攻める攻める」
隣に座っていたロザリンドのパートナーテレサ・エーメンス(てれさ・えーめんす)が、立ち上がり、四天王だった人物――陽炎のツイスダーの攻撃を真似る。
「副団長は華麗なステップで躱されて、ついにはご自身の身を犠牲に攻撃に転じられたのです。ギリギリまで防御に専念されていたのは、私達白百合団を逃がすための時間を稼いでいたのだと思います」
テレサの演技とロザリンドの言葉に静香が軽く身を震わせる。
「な、なんか……想像を絶するな……怖かっただろうな、ロザリンドさんも優子さんも、白百合団の皆も。百合園を守ってくれて、本当に本当にありがとう」
「……はい。ですが……私は今回、途中で倒れてしまいました。不甲斐無さと、未熟であることを痛感し、ここを護りたいと強く感じました」
ロザリンドは、その場に集まった人々を見回し、最後に静香を見て凛とした声を発する。
「ロザリンド・セリナ、白百合団員として、また班長として、強くなり皆を護る剣と盾になることをここに誓います」
騎士として強くなることに悩みがあった。だけれど、ロザリンドは、迷いを捨て一歩、前へ進むことを決意した。
「えっと、テレサ・エーメンス、団員としてあまり怒られないよう頑張ります」
ロザリンド、そしてテレサも集まった人々と静香の前でそう宣言をした。
拍手、が響いた。
手を叩いているのは近くのテーブルについていた白百合団の団長、桜谷鈴子だった。
続いて、静香も。
「でも、無理はしないで。皆、1人1人とっても大事だから」
集まった人々から拍手が沸いていく。
「ありがとうございます」
ロザリンドは皆に頭を下げる。
テレサはきょろきょろとしながら、ロザリンドを真似て頭を下げた。
「出来ました」
少し椅子を引いていたオレグが椅子を戻し、静香にスケッチブックを差し出した。
そこには、ロザリンドと演技をするテレサ、見守る人々、そして静香の横顔が描かれていた。
「今日の記念に差し上げます」
「うわっ、ありがとう。校内新聞と一緒に掲示板に飾っておくね」
微笑む静香に、オレグは目を細めた。
「ありがとう」
「え?」
オレグの礼の言葉に静香は不思議そうな目を見せた。
くすりと笑って、オレグはこう言うのだった。
「他人に優しくすることも優しくされることにも慣れていませんので、静香さんと出会えてなんとなく……なんとなく、ですけれど、優しいということが分りかけてきましたよ」
「……オレグさんは、最初から僕に優しかったよ」
そう言って嬉しそうに笑う静香に、オレグも微笑みを向けた。
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