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第21章 後半――応援団長は語る

《果敢にシュート攻勢を続ける紅チーム。後半からは分身ボールまでが登場しましたが、全て止めるキーパー赤羽》
《キーパーさんは防具持ち込みアリって事でしたけど、何かステキ装備でもあるんですかいな?》
《さぁ、それはどうでしょうね。そう言えば、最初に持ちこんでいたタワーシールドをいつの間にか放り捨ててますね?》
《手にモノ持ってたら、キャッチはできませんやろからなぁ》
《思ったんですが、前半終了間際の痛恨の失点時、タワーシールドを地面に立てて片方を止めて、もう片方をセービング、という方法はなかったのでしょうか?》
《所詮は結果論ですわ。それに、あの時撃たれたどっちのシュートも、ただ突っ立っている板っきれじゃ止められやしませんやろ?》
《さて、一方の白は紅ゴール手前約1200メートルエリアで入り乱れております。相変わらずめまぐるしいパスワークを続けつつ、じわりじわりと進軍しています》
《紅のマークも厳しゅうなっとります。紅4番四条はうっとうしいくらいに白15番にまとわりついとりますなぁ、ありゃあやりにくそうです》
《それではここで、両チーム応援席の方にマイクを移してみたいと思います。えー、紅応援席ロドリーゴさん?》

《はい、こちら紅応援席、ロドリーゴです。後半開始より、シュート攻勢の続いている紅、応援の方も大いに盛り上がっております。
 ここで、応援団長を自認されてますルイ・フリードさんにお話を伺おうと思います》
《どうも! 紅応援団長、ルイ・フリードです!》
《(暑っ苦しいおっさんだな)》
《は? なんでしょうか?》
《いえ……後半も紅の猛攻が続いていますね》
《はっはっはっ! 当然ですな。イルミンスール武術部は、攻めに徹する事はあっても、守りに徹する事はありません!》
《前半終了間際のカウンターは実に見事でした。完全に白の隙をつきました。如何でしたか?》
《失点の衝撃からの回復と、相手の虚を突いた速攻! メンタルな強さは申し分ありません! さすがは部長、マイト・オーバーウェルムが率いるチーム! 不屈の闘志はメンバー全員に伝わっております!》
《ズバリ、この試合勝てますか?》
《正直、負ける要素が見当たりませんな! 白チームの方々も相当手強いですが、残念ながら、試合はこちらのペースでしょう! 兵法巧遅より拙速を好むともいいます!》
《紅は〜、絶対〜、勝つのです〜、押忍〜》
《(「押忍」って台詞が全然似合わねぇ)》
《兄さまー、姉さまー、がんばってぇ!》
《以上、紅応援席でした》

《紅応援席は、盛り上がっていますね》
《盛り上がっているというか、盛り上げてますな。いい仕事してますわ、ホンマに》
《では替わって、白応援席を見てみましょう》

《はい、こちら白応援席のイル・プリンチペです。応援団長の椎堂紗月さんにお話を伺いましょう》
《はぁ、どうも》
《チア衣装、似合ってますね》
《あー、そうすか? ウチの身内がどうしても着たいみたいなこと言ってて、まぁつきあいでって感じで》
《さて、前・後半通じて白は苦戦を強いられているように見えますが?》
《何言ってるんですか、先取点はウチの方です。大器晩成、粘り強く攻めていくのが白の勝ちパターンですよ!》
《しかし、その後すぐに点を取り返されましたねえ》
《……得点したって事で舞い上がっちゃいましたね。仕方ないっちゃあ仕方ないんですが……ボール2個とかの特別ルールがなけりゃあ……》
《後半では、プレイヤーのほとんどが攻撃に参加して守備はキーパーひとりに一任しておりますが、観客の立場から危うさは感じませんか?》
《まぁ……点数許したって言っても、たった一回だけですし》
《サッカーでは、1点というのは大変な重みを持ちますが?》
《だ、大丈夫! ウチらの攻撃陣がちゃんと紅のゴールに決めてくれますって!》
《その前に、白のキーパーが消耗してしまう可能性はどうでしょう?》
《……いや、まぁ……そうだ、そのためにヴァーナー・ヴォネガットって選手がいっしょについてるんでしょ? 多少の疲れや疲労なんて……》
(あーっ! またチューされたーっ!)
(キーパー! 俺と替われーっ!)
《……何やら観客席の一部が騒がしいようですが?》
《あぁ……ヴァーナー選手がキーパーに、「アリスキッス」するたびにあんな風になるんですよ》
(うわぁぁっ! 嫌だぁ! 俺の、俺のヴァーナーたんがぁぁぁぁっ!)
(黙れこの野郎! 彼女がいつから貴様のものになった!? ヴァーナーは俺の嫁だ! 俺が今決めた!)
(脳内妄想吐くのはやめてよね! 百合園生が汚らしいオトコなんかのモノになるはずがないでしょ!?)
(やかましい! オトコとオンナがくっつくのは生物学的に保証された権利だ!)
(愛は性別を超越するのよ!)
(そいつはエゴだ! エゴなんだよ!)
《あー、盛り上がってますねぇ……》
《はぁ、そうなんですよ……って、これはちょっと盛り上がりすぎかなぁ》
(……私、ヴァーナーちゃんとあのキーパーならアリだと思うけどなぁ)
((((何か言った!?))))
(いや、何でもないです)
(ダメだ! 俺は確かに聞いた! ヴァーナーが俺以外のモノになるなんざ神が許しても俺が許さん!)
(聞き捨てならんな……貴様如きがヴァーナーさんを幸せに出来るはずがあろうか、いやない! 反語形で強調してやるぜ!)
(黙れ! 俺は古文は嫌いなんだ! 平家物語とバトルもしねぇ源氏物語なんざヘタレだ畜生!)
(あなた、私の紫式部様をディスったわね!? もう勘弁ならないわ!)
(……古典文学同士ってどうやったらバトルできるんだ?)
(知らないよ、そんなこと)

《こちらリカイン・フェルマータ。白応援席で異変を確認。これより鎮圧に向かいます》
《リカさん! その席には女の子もいるんです、穏便に済ませて下さい!》

《うわぁ……なんかとんでもない事になって来たなぁ》
《以上、白応援席でした》

 前半で、互いに相手の出方は分かった。
 とはいうものの、自分の方が前半に取ってきた戦術も、お互い大幅に変えられない。
 かくして、後半は相手の戦術への対策を取りつつも、前半の戦術を同様に継続して行う、という戦況になる。
 白は紅の陣地に進入し、じっくり時間をかけて進撃する。射程距離に入るまではとにかく地味なパスとドリブル。
 紅は白のゴール前に肉迫して、シュートを連発。後半になったらそこに分身魔球なんてオマケもついた。けど、キーパーが鉄壁なものだから、得点の気配は全くない。
 後半突入後、こんな状態がエンエンと続いている。
 ――飽きてきたなぁ。
 彼女はそう思った。
 スキルありのサッカー試合なんだから、お客さんはもっとド派手な展開を望んでいるだろう。ちょっとこれは、華に欠ける状態。
(仕方がない。ちょっと華を添えてみましょうか)
 彼女は息を吐くと、観客席を降りて実行委員本部のテントに向かった。
「乱入したいんだけど、いいよね?」
「……でもあなた、実行委員じゃないですか?」
 浅葱翡翠の問いに、彼女はニヤリと笑う。
「実行委員が飛び入り参加しちゃダメだなんて、聞いてないけどね。えーと、チームは……」
 答えながら、装備を外し、手近なゼッケンを勝手に取る。紅の21番。それならまずは紅でやるとしますか。
(ま、どっちでも良かったんだけどね)
「空京大学、騎沙良 詩穂。いっきまーす」