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ロック鳥の卵を奪取せよ!!

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ロック鳥の卵を奪取せよ!!

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第二章 来襲、ロック鳥!!


「さて、問題はどうやってロック鳥を肉部隊に引きつけるか、だな」
 一向に降りてくる気配をみせないロック鳥に、闇咲 阿童(やみさき・あどう)はどうしたものかと悩んでいた。
「この距離じゃ、奈落の鉄鎖の重力コントロールも効かないしな……」
 たしかに、肉部隊のうち何人かは奈落の鉄鎖で重力をコントロールすることができた。それに、この人数での奈落の鉄鎖ならロック鳥を地面に引き寄せることができるかもしれない。
 しかし、そのためにはある程度までロック鳥に近づくか、ロック鳥がこちらに近づいてくる必要があった。
「それなら、お兄ぃ! ワタシがスナイパーライフルで撃ち落としちゃおっか?」
 阿童のパートナー後光 葉月(ごこう・はづき)が嬉しそうにスナイパーライフルを取り出すが――
「やめておけ。この距離じゃ弾丸は風に流される。仮に当たったとしても、あの巨体を落とすのに何発の弾丸が必要かわかったもんじゃない」
 すぐに止められてしまう。
「もぉ! それならどうすればいいの!? このままじゃ日が暮れちゃうよ!?」
 たしかに、葉月の言うとおりだった。
 このままでは日が暮れてしまう。
 学校で色々と準備を整えてくれている生徒達のためにも、今日中にロック鳥を倒して卵を手に入れなければならない。
「しょうがない……」
 アシャンテ・グルームエッジ(あしゃんて・ぐるーむえっじ)が、スッと皆の前に立つ。
「私とザイフォンが、ロック鳥と直接戦ってここまで誘導してくる。お前達は、ロック鳥が近くまできたら奈落の鉄鎖で援護してくれ」
 そう言って、アシャンテは巨大甲虫――カブトムシのザイフォンの背に飛び乗る。
「それじゃあ、いくぞ」
 アシャンテは、ザイフォンに乗りロック鳥へと向かって行った。
 そして、この隙に卵部隊も巣へ向かって移動を開始した。


「……甘いですね」
 ロック鳥と空中戦をはじめたアシャンテを見て、燦式鎮護機 ザイエンデ(さんしきちんごき・ざいえんで)が小さく呟いた。
「ん? 甘いって何が甘いんだ?」
 パートナーのザイエンデの言葉に、神野 永太(じんの・えいた)は不思議そうに首を傾げる。
「あの女性、おそらく永太と同じビーストマスターなのでしょうけど、ロック鳥への攻撃が生ヌルすぎます。あんなのじゃ、誘導なんかできません」
 厳しい目つきでアシャンテを睨むザイエンデ。
 だが、永太は同じビーストマスターとしてアシャンテの気持ちがよくわかっていた。
 なので――
「いや、彼女は進んで囮の役を引き受けてくれたんだから感謝しなくちゃダメじゃないか。それに、彼女の攻撃が本気じゃないのは、ビーストマスターとして動物を思う優しい心がそうさせるんだよ」
 と、アシャンテを見たままそう言ってしまった。
 そしてその瞬間――ザイエンデの目つきが変わったことに永太は気づかなかった。
「ふぅーん……それなら、彼女のお手伝いをしなくちゃいけませんね」
「へ? ザインさん?」
 ふと、永太がザイエンデへ視線を移すと、ニッコリと微笑む彼女の手にはロープが握られていた。
「私に良い策があります。協力してくださいね」
「え!? ぬぅお!? は、離しなさい!?」
 目にもとまらぬ神速で、永太は縛り上げられる。
 そしてそのまま縛った永太を持ち上げたザイエンデは、ロッケットブースターで一気にロック鳥の巣へ向かったのだった。


「ど、どういうことでありますか!?」
 巨大なロック鳥の巣に辿り着いた草刈 子幸(くさかり・さねたか)たち卵部隊は、全員が驚きの声をあげた。
「いったい……ここで何をしているんですか?」
【黒服狩猟団】だが卵部隊に同行する浅葱 翡翠(あさぎ・ひすい)が、警戒して巣の奥にいる人物たちに声をかける。
 すると――
「あたし達は、卵の保護に来たんだよ!」
 巣の奥にいた茅野 菫(ちの・すみれ)カレン・クレスティア(かれん・くれすてぃあ)、そしてそのパートナー達がロック鳥の卵を守るようにして立つ。
 どうやら、卵部隊が見る限りではロック鳥の卵は巣に一つしかないようだ。
「あんた達がエリザベート校長とミリアの依頼でここへ来たことは知っている」
 菫が巣の奥から卵部隊の眼の前までやって来る。 
「……ならば、そこをどいてもらおうか?」
 卵部隊の一歩前に出て、万願・ミュラホーク(まんがん・みゅらほーく)が菫を睨む。
「いや、それはできない!」
「なに……?」
 ミュラホークの鋭い目が更に鋭く菫を射抜く。
「あんた達にいくつか聞くけど、あんた達は本気でロック鳥の卵を食べようと思ってるわけ?」
「……無論、そのつもりである。そのために、ここまでやって来た」
「それじゃあ、もう一つ。あんた達が食べるつもりの卵。それだって、立派な命だって自覚してる? あんた達はこれから一つの命を奪おうとしてるってこと、わかってる?」
 菫の凛とした物言いに、卵部隊に一瞬の動揺が走る。
 ――たしかに、菫の言うとおりだった。いくら卵といえども命は命だ。
 卵部隊の面々に迷いの色が浮かぶ。
 だが――
「ふんっ。詭弁であるな!」
 ミュラホークは菫の意見を一蹴する。
「命を奪おうとしている? 当たり前だ。それが人が生きるということであろう! それが、『食』というものであろう!」
 彼はパン屋といえども、一料理人として日々たくさんの命を奪っている自覚があった。
 しかし、そうやって命をもらった上で、たくさんの笑顔と幸せが生まれるということもわかっていたし、命を捧げてくれる食材達への感謝も忘れていなかった。
「食での幸せは、命による恵み。俺様は引き下がるつもりはない!」
「ふんっ……」
 向き合ったミュラホークと菫の間に、一触即発の雰囲気が流れる。
 その時――
「こ、ここで戦ったらダメだピヨ! 卵は一個しかないのに割れちゃうピヨ!」
 むくむくしたひよこ――の着ぐるみに身を包んだミレイユ・グリシャム(みれいゆ・ぐりしゃむ)が、妙に甲高い声で巣に参上した。
「卵はワタシが守るピヨ〜!」
 必死に羽をパタパタさせながら、ミレイユが卵部隊に向かって突撃してくる。
 しかし、いくつもの巨木を重ね合わせて作られた巣の上は、人間が歩くにはかなり不向きな場所だ。しかも、ミレイユが着ている着ぐるみは誰がどう見ても動きにくそうで――
「ぴ、ピヨ〜〜!?」
 当然、ミレイユは躓く。
 そして、そのまま一気に巣の奥へと転がっていった。
「「…………」」
 唖然とする卵部隊と菫達。
 そしてミレイユの去ったあとには、微妙な雰囲気が辺りを包み込んだ。
 なんとなく、さっきの話しを再開させるのも気まずい……ここにいる誰もがそんな気分になっていた。
 すると更に――
「は、離せぇえええ!!」
 またもや新たな人物が巣へとやって来る。
「今この高さから離してもいいなら、いくらでも離しますよ?」
「い、いや……やっぱり離さないでくれ!」
 ロープで雁字搦めにされた永太と、彼を抱えて飛行するザイエンデだった。
「て、ていうか、ザイン! どこに行く気なんだ!?」
「大丈夫です。もう、着きましたから」
「つ、着いたって……ここはロック鳥の巣じゃないか――って、ぐふぇぇ!?」
 おもむろに卵の真ん前へと放り出される永太。
「卵は……一つしかないみたいですね。狙いやすくて好都合です」
 そう呟いたザイエンデは、いきなり六連ミサイルポッドを展開させると――永太が止める間もなく一気にミサイルを発射した。
「ちょ、ちょっと!? そんなことしたら卵が割れちゃうよ!?」
 慌てて卵の元に駆け寄るカレン。
「このままでは危険なのだ! 卵を安全な場所に移動するのだ!」
 カレンのパートナージュレール・リーヴェンディ(じゅれーる・りーべんでぃ)も、急いで卵の運搬準備に取り掛かる。
 しかし、彼女達の危惧とは対照的に、ザイエンデは落ち着いた様子だった。
「大丈夫です。狙いは外してあります。それよりも皆さん、ロック鳥が来ます。注意してください!」
 ザイエンデがそう言った瞬間――

 グゥウウウウエエエエエエエエ!!

 空気を裂く咆哮と共に、怒り狂ったロック鳥が巣に向かって急降下してきた。
「作戦どおりですね」
 彼女の狙いは、永太を卵の周りに放置して更にその周辺を攻撃する。そうすることによって、ロック鳥に永太が卵を攻撃したと勘違いさせ、そのまま彼を囮にするというものだった。
 そして、作戦を成功させたザイエンデは――
「では、永太。健闘を祈ります」
 と言い残して、再び肉部隊のいるほうへ飛び去っていってしまった。
「ざ、ザインさん!? 嘘だろう!? 来てる! 来てるよロック鳥!?」
 永太の目には、こっちに向かって来るロック鳥がしっかりと見えている。
 しかし、ロープで縛られている彼にはその場を動くことができない。
「た、助けてぇえええ!」
 思わず眼を瞑り叫ぶ永太だったが――
「うぉ!?」
 彼は再び浮遊する感覚を受ける。
「ひ、姫子!?」
 彼が眼を開けると、ザイエンデが密かに呼んでいた巨大甲虫の姫子が助に来てくれた。
「よ、よかった、助かった……」
 思わず安堵の溜息が漏れる。
 こうしてザイエンデの作戦はみごと成功して、なんとか永太も助かったのであった。


「何っ!?」
 アシャンテは、突然急降下しはじめたロック鳥への攻撃を思わず外してしまう。
 巨大甲虫のザイフォンに乗ったまま戦うことは容易ではないうえに、いくら任務のためとはいえ、動物を攻撃するというのは無意識のうちに彼女の攻撃の手を鈍らせていた。
 そのせいで、ロック鳥をなかなか肉部隊の方へ誘導できないでいたのだが……まさか巣へ急降下するとは思ってもいなかった。
「くっ……」
 しかも巣を見ると、誰かが縛られたまま放置されて囮になっているようだ。
 このままでは……まずい。そう思った瞬間、彼女もロック鳥を追うように急降下をはじめた。
「はぁあ!」
 巨体なぶん動きの鈍いロック鳥を、一気に追い越す。
 そして、ザイフォンの背中から空中へ飛び出すと――
「てやぁああ!」
 轟雷閃を応用した強力な蹴りをロック鳥の頭部に叩き込んだ。
「まだだっ……!」
 アシャンテの攻撃は更に続く。
 蹴り込んだ反動を上手く利用してロック鳥の背に駆け上ると、轟雷閃――爆炎波――則天去私――様々な技を応用した必殺の蹴りを、ロック鳥へと叩き込んでいった。
「ザイフォン、お願い!」
 アシャンテの声を受けて、駄目押しとばかりにザイフォンがロック鳥へ突進しはじめる。
 すると――


「来たっ! みんな、今すぐ準備するんだ!」
 アシャンテの活躍で、ついにロック鳥が肉部隊の方へと誘導されてきた。 
 そして、彼女の戦いを見守っていた肉部隊は、夜薙 綾香(やなぎ・あやか)の声で戦闘態勢に入る。
「イイかみんな? 私が合図したら、一斉に奈落の鉄鎖でロック鳥を引き寄せるのだぞ!」
 綾香がそう言うと、彼女の周りに集まった数人の生徒とパートナー達が意気込む。
「わかりましたぁ。でも、マスターもタイミング外さないでくださいねぇ?」
 綾香のパートナーアポクリファ・ヴェンディダード(あぽくりふぁ・う゛ぇんでぃだーど)が奈落の鉄鎖の準備に取り掛かる。
「あぁ、任せろ。まぁ……落とせたら運がよかったって程度で、楽しくやろう」
 闇咲 阿童がのんびりと頷く。
「そうですね。失敗しちゃったときは仕方な……志方ないですよね♪ でも、みごと唐揚げをゲットしてみせます!」
 志方 綾乃(しかた・あやの)には、早くもロック鳥が調理された姿で見えているようだ。
「それじゃあ、シーリル。俺は狙撃ポイントに向かうから、あとは頼んだぜ!」
「えぇ、こっちは任せて。武さん、怪我だけはしないようにね」
 国頭 武尊(くにがみ・たける)とそのパートナーシーリル・ハーマン(しーりる・はーまん)は互いに頷き合って別れを交わした。
「あぁ……早く焼きたいし、斬りたいし、叩き潰したいです!」
 藤原 優梨子(ふじわら・ゆりこ)が愉悦に浸った表情で迫り来るロック鳥を見る。
「ふふふっ。ロック鳥……たしかに、倒しがいがありそうだ。なんとしてでも、引き摺り落とすのだぞ?」
「はい、任せてください! とにかく、肉でも卵でもいいから色々な料理を沢山食べてみせます!」
 毒島 大佐(ぶすじま・たいさ)のパートナープリムローズ・アレックス(ぷりむろーず・あれっくす)も、絶賛食欲増進中のようだ。
「ノルンちゃん! エリザベートちゃんのためにも、頑張ってですぅ!」
「わかりました。全力でいきます」
 神代 明日香の言葉を受けて、パートナーのノルニル 『運命の書』(のるにる・うんめいのしょ)の周りには、絶対闇黒領域を発動させた影響で黒渦のような闇がたちこめる。
「みんな、構えるんだ!」
 綾香がサッと右手を上げる。
 ロック鳥がこちらへ向かってきた。
 そして、数秒の時が流れ――
「今だ!!」
 右手が一気に振り下ろされた。


「シーリル達……苦戦しているみたいだな」
 肉部隊から少し離れた高台で、ロック鳥を狙う国頭 武尊は思わず呟く。
 どうやら、奈落の鉄鎖の重力コントロールを一斉に発動させたのはよかったが、さすがにロック鳥の巨体を引き摺り落とすのはなかなか難しかったようだ。まるで綱引きのような拮抗した状況になっている。
「しょうがない。二人とも、自分のパートナーが頑張っているんだ。援護してやろうぜ」
 武尊は後ろを振り返る。
「うん! お兄ぃ……今、援護するからね!」
 武尊の言葉を受けて、ロック鳥を狙撃するためにここまでやって来た闇咲 阿童のパートナー後光 葉月は、スナイパーライフルのスコープを急いで覗き込んだ。
「ヒヒヒ。まぁ、元々お嬢からロック鳥を狙撃しろって言われてここまで来たからなあ」
 藤原 優梨子のパートナー宙波 蕪之進(ちゅぱ・かぶらのしん)も、スナイパーライフルに唐辛子弾を装填して構える。
 偶然この場所に居合わせた三人のスナイパーが、ロック鳥へと狙いを定められた。
「!! 今だ、撃て!」
 武尊が引き金を引いた瞬間、三つの銃声が一つに重なり合う。
 そして――予め示し合わせていたかのように、音速を超えた弾丸達がロック鳥の頭部へと命中した。

 グゥウウウウエエエエエエエエ!!

 ロック鳥の咆哮が辺りに響き渡る。
 一斉に頭部へ弾丸を受けたダメージと七人による奈落の鉄鎖の重力コントロールで、ロック鳥の巨体は、ついに地響きをたてて地面へと沈んだ。

「あ! ロック鳥が落ちましたよぉ」
 ベースキャンプで肉部隊の戦う姿を見ていたミリアが、驚きの声をあげる。
「ミリア殿! あまり外に出ないほうがいいネ! 危険だヨ!」
 自分はロック鳥との戦闘では役に立てないから。と言って、ミリアの護衛役をかってでてくれたタピ岡 奏八(たぴおか・そうはち)
 しかし彼は、意外と行動的なミリアにかなり振り回されていた。
「ハハハ、大丈夫だ。今のところ蛮族はここには来てないから安心しろ。な、メティス?」
「えぇ。まだこの周辺に蛮族は来ていないので大丈夫です。それよりも、プリンと茶碗蒸しと出汁まき卵と親子丼と焼き鳥と唐揚げと鶏肉のステーキはまだですか?」
 ベースキャンプの奥にいるレン・オズワルド(れん・おずわるど)とパートナーのメティス・ボルト(めてぃす・ぼると)は、奏八とは百八十度真逆の緊張感ゼロだった。
「ん? レン殿は、さっきから何を作っているネ?」
 振り返った奏八がレンの手元を見ると、彼は日曜大工セットと様々な種類の木切れを使って何かを作っている。
「ん、これか? これはなぁ、卵やら肉やを運ぶための背負い籠さ」
「セオイ籠?」
「あぁ。最初は奏八が軍用バイクで卵を運ぶって言ってたからいらないかと思ったんだけどな。よく考えてみれば肉も運ばないといけないかもしれないだろう? ここら辺は火山地帯なのに材料も豊富だから、一応作ってる。備えあれば憂いなし。ってな」
 そう言って、レンは手際よく背負い籠を作っていく。
「なるほどネ……ん? そうだ、レン! 拙者いいこと考え付いたヨ!」
「お、なんだ?」
「実は拙者、卵を運ぶときのクッション剤として、ダンボールをたくさん持って来たんだヨ! しかも、そのダンボールは禁猟区を掛けてあるから、籠の底に引けば万事OKネ!」
 奏八がイルミンスール魔法学校を出発する際、パートナーのプリ村 ユリアーナ(ほふまん・ゆりあーな)は――
『がんばってね、ソーハチ! 一ヶ月ぶりのご馳走、期待して待ってるから!』
 と言って、ナイフとフォークの準備に取り掛かてしまったので、奏八たちには同行しなかった。
 ところが、奏八は持参したダンボールを見てみると――ダンボール全てにユリアーナの禁猟区がかけてあったのだ。
「なるほど、禁猟区をかけたダンボールか……そいつは使えそうだな!」
「それじゃあ、拙者も手伝うヨ!」
「お、そうか? それじゃあ、まずはな――」
 こうして、レンの指導により奏八は背負い籠作りを立派にマスターするのだが、それはまた別のお話し。


「えい! これでどうだ!」
 【黒服狩猟団】の久世 沙幸は、空飛ぶ箒の機動力を活かしてながらロック鳥に一気に近づくと、大量のしびれ粉を浴びせかけた。
「よしっ! 今だ!」
 沙幸のしびれ粉が炸裂するのと同時に、肉部隊が攻撃を開始する。
 だが――ロック鳥へのしびれ粉は、その巨体のせいで完全に作用しきっていなかった。
「キャッ!?」
「うぉ!?」
 巨大な翼を一度羽ばたかせると、嵐のような強風が巻き起こり肉部隊は進撃できなくなってしまう。
 そしてロック鳥は再び翼を大きく広げるが――
「レイス、ロック鳥の視界を奪ってください!」
 神代 明日香のパートナー、ノルニルは、レイスを七体出現させるとロック鳥の視界を遮った。
 突然のことに混乱して動きを止めるロック鳥。
 更に――
「大きさだけが強さじゃないよ! くらえ!」
 五条 武のパートナートト・ジェイバウォッカ(とと・じぇいばうぉっか)が遠距離からサンダーブラストを仕掛ける。
 小さな身体から放たれたとは思えない巨大な雷が、ロック鳥の左翼を貫き、その動きを麻痺させる。
「今だ! 左翼を狙うんだ。そうすれば、羽ばたくことができなくなる!」
 【黒服狩猟団】の橘 恭司は一気にロック鳥へ近づくと、巨大な太刀を左翼へと叩きつけた。
 そして――恭司の攻撃を皮切りに、肉部隊の一斉攻撃がロック鳥の左翼へと炸裂する。
「恭司! 下がって!」
 【黒服狩猟団】のアルメリア・アーミテージの声に、恭司は素早くその場を離れた。
 次の瞬間、爆炎波を纏った数本の矢がロック鳥の左翼に突き刺さり、その羽を瞬く間に燃やし始めた。
「やはり、鳥の羽は脂っこいから燃えやすいようですね」
 火のついた羽を見て、藤原 優梨子は嬉しそうな笑みを浮かべた。
「あぁ……羽が焦げていく匂い……最高ですね。私もお手伝いします」
 笑みを浮かべたまま、優梨子はファイアストームでロック鳥の左翼を焼き始める。
「よ〜し! 私も、エリザベートちゃんのためにファイアストームですぅ!」
「私も手伝うわ!」
 優梨子の活躍を見ていた神代 明日香とシーリル・ハーマンも、全力のファイアストームをロック鳥の左翼へと炸裂させた。
 しかし――
「しまった!? みんな避けるんだ!」
 肉部隊の誰かが叫ぶのと同時に、ロック鳥はありったけの力を振り絞り、燃え盛るままの翼を大きく羽ばたかせた。
 すると――
「キャァ!? 熱い!?」
「くっ……なんて熱さだ!」
 先ほどの強風が、今度は強力な熱風をに変わり肉部隊に襲い掛かった。
「ファック! その程度で轟音と呼べるか! ギターさえありゃ黙らせてやるのによォ!」
 鼓膜を貫く羽ばたきの爆音に、五条 武は思わず舌打ちする。
「ロック鳥が逃げるぞ!」
 熱風の奥のロック鳥は、再び飛び立とうとしていた。
 このまま空中に避難されれば勝ち目はない。誰もがそう思った瞬間――【黒服狩猟団】の如月 正悟が後方から叫んだ。
「みんな! 頭を伏せるんだ!」
 ほぼ条件反射で、その場にいた肉部隊の全員が頭を下げた。
 すると――

 ヒュゴォオオ!!

 耳を劈く風切り音と共に、正悟の仕掛けていたバリスタが巨槍を投擲し、ロック鳥の左翼に大きな穴を穿った。
「ど、どういうことなの正悟!? すごい! 部位破壊じゃない!?」
 アルメリアが後ろにいる正悟を振り返る。
「みんなが戦っている間に罠を仕掛けていたんだ。ロック鳥が一定の距離を離れたら、簡易型のバリスタで槍を発射する罠を」
 まぁ、ゲームからヒントを得たんだけどね。と言う正悟だったが、彼の活躍は大きかった。
 翼に大穴を空けられたロック鳥は、もう飛ぶことができない。
 このチャンスを活かすために、熱風の中を肉部隊は駆け抜けた。
「くらえ!」
 熱風渦巻く中、夜薙 綾香は氷術で作り上げた巨大な氷刃でロック鳥の左翼へと斬りかかる。
「仕方ない……じゃなかった。志方ないですけど、唐揚げになってもらいますよ!」
 そして、綾香が斬りつけた反対側から志方 綾乃が封印解凍した全力の斬撃を繰り出す。
「「でやあああ!」」
 乙女二人の気合と刃が重なり合った瞬間――

 グゥウウウウエエエエエエエエ!!

 再び、ロック鳥が咆哮をあげる。
 ついに数メートルもある巨大な左翼が切り落とされたのだった。