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【サルヴィン川花火大会】花火師募集!?

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【サルヴィン川花火大会】花火師募集!?

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第1章 花火師の下

 花火大会より数日前。
 エメネア・ゴアドー(えめねあ・ごあどー)の誘いに乗って、集まった学生たちは、花火師の工房を訪れていた。
「オレが作るとしたら超巨大な花火ですね。夜空を彩る超巨大な華を咲かせてみたい」
 ルース・メルヴィン(るーす・めるう゛ぃん)が告げる。
「大きな玉を作るなら時間が掛かるぞ?」
 大会まで時間はあるけれど、不慣れな初心者なら尚更のこと。花火師はそれでも大丈夫かと訊ねた。
「時間はいくらかかっても良いから挑戦します!!」
 ルースが覚悟を見せると、花火師は深く頷いた。
 彩りよく華の色が変わっていくようにしたいと花火師に告げると、それぞれの色のついた火薬玉を内から外に向かって順に並べればいいと教えてくれる。
 目指すは大きいと言われる三尺玉よりも大きな玉だ。
(……折角だからあいつに送るか)
 ルースと共に工房を訪れたウォーレン・アルベルタ(うぉーれん・あるべるた)は、送る相手のことを考えてから、早速作業に取り掛かる。
 打ち上げたいのは感謝の言葉。赤色で文字が描かれるように、火薬玉を並べていく。
(黙ってるの、我慢できない……)
 伝えられぬ思いをいっそのこと、花火に込めて打ち上げて、壊してしまえたらと、一人、工房へと訪れた城 紅月(じょう・こうげつ)
「紅月じゃないか」
「おまえも花火を作りに来たんだな」
 彼が入り口に立ったのに気付いたルースが声を掛けると、傍のウォーレンも話しかけてくる。
「あ……」
 思わぬ顔が居たことに、紅月が一瞬、言葉を失った。
「一緒に作りましょうよ」
「……、しょーがないなあ」
 ルースの手招きに、紅月は苦笑いを浮かべて、彼らの傍へと近付いた。
「何を作るんだ?」
「それは……内緒っ」
 問いかけてくるウォーレンに答えると「それは仕方ない。ワクワク楽しみにするか」と、言葉どおり楽しみだという顔を浮かべた。
(シャンバラ王国の分裂状態は、一刻も早く終わらせなければならない……)
 マーゼン・クロッシュナー(まーぜん・くろっしゅなー)は自分で作るのではなく、花火師に自分の考えた花火を作ってもらおうと、そのデザインを伝えた。
 3段式の花火で、それぞれにマーゼン自身の考える思いを込めてもらう。
 大会当日には自身も打ち上げに参加することを伝えて、その日は去っていった。
 パートナーたちと共にやって来たのはリカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)だ。
「火気厳禁っ!?」
 工房の出入り口に、大きく書かれたその一言に、サンドラ・キャッツアイ(さんどら・きゃっつあい)は驚き声を上げる。
「まあ、火薬を扱うのだし当然だと思うわよ?」
 リカインがそう答えれば、サンドラは肩を落とした。
 魔法とは違う火や光の技術に興味津々でやって来たのだが、火術を繰り出すことが出来る自身が「ついうっかり……」なんてことを起こしてしまえば、大惨事になりかねない。
 サンドラはそうならないよう工房内での見学を諦めた。外でただ待ちぼうけなのもつまらないので、祭りに向けて浴衣に着替えるために戻る。
「顔型……は難しいようね。そうなると、トレードマークのメガネかしら?」
「あなたも酷いことをされる。ほんの一時大きく花開いたと思ったらすぐに散り消えてしまう……まるで行く末を暗示しているかのようではありませんか?」
 リカインが作ろうとする者から連想した男のことを思い、空京稲荷 狐樹廊(くうきょういなり・こじゅろう)は扇で隠した裏側で笑みを浮かべながら訊ねた。
「そんなことはないわ。確かに、花火は短い間輝いてすぐに消えてしまうもの。でも本物の涼司君にはそうあって欲しくないの」
 反論するリカインは必死な口調で言う。
「今の花火は所詮偽物、だから本物はもっともっと長く輝き続けて……そう想いを込めて、作るのよ」
「あなたの想いに応えてくれるといいですね」
 告げれば、狐樹廊は花火を作り始めたアレックス・キャッツアイ(あれっくす・きゃっつあい)の元へと向かう。
 アレックスはというと、自分の思いを新たにするための文字を夜空に描くために花火を作っていた。
「ッ!?」
 そんな彼の背後から、おぞましい気配が近付いてくる。
 思わず落としそうになる火薬玉をしっかり手にして、振り返れば狐樹廊の姿があった。
「お……脅かさないでくれっス!」
「そんなに怖かったですか?」
 震える声でアレックスが言えば、狐樹廊は笑みながら答えた。それから、手伝います、と彼と向かい合う。
「どのような文字を?」
「『イチニンマエ』って言葉っス」
 答えながら、アレックスが思い描くのは、自分との契約を快諾してくれた師匠――リカインと、今も故郷を守っているであろう憧れの人、そして、別れの挨拶もせず家を出るという自分のうっかりから追いかけ探しに来た姉貴――サンドラの3人だ。
 彼女らの思いに答えるため、報いるために『イチニンマエ』という言葉の玉をきっちりと仕上げて、夜空に描く。
 気合を入れ直したアレックスは、狐樹廊に手伝ってもらいながら、時におぞましい気配を放たれて脅えながら、花火玉を作っていった。
「もしこれが打ち上げられたとき、同じような人が居たら軽く引くかもしれませんね」
 作りかけの花火玉を手に、天代火法 心象以南(あましろかほう・しんしょういなん)は呟く言葉と共に、苦笑を漏らした。
「どんな花火なんだい?」
 彼女が漏らした言葉を聞きとめた花火師が訊ねる。
「打ち上げるまで内緒です」
「それは残念だ」
 彼女の答えを聞いた花火師はからからと笑った。
 引くかもしれないけれど、同士を探す道しるべにはなって欲しい。
 そう思いながら、天代は花火を作業を続けた。