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リアクション
【イリヤ神輿】VS【プレジデント・ミコーシ】
「こ、これはなんと言いましょうか……」
【イリヤ神輿】と【プレジデント・ミコーシ】の御輿を見たロザリンドは、言葉を詰まらせた。それも無理はない。片やレッサーワイバーンの乗っかった御輿、片や馬が引くミコーシである。
「正々堂々勝負だ! 勝つのは俺たちイリヤ分校だぜ!」
お祭り騒ぎが大好きな和希は、 【イリヤ神輿】の上で生き生きと宣戦布告した。
(和希はまた、露出度の高い恰好を……恥じらいをもてとは言わんが、せめて胸などはもう少し隠せ)
ガイウスは御輿を担ぎながら、そんなパートナーを見つめる。
「これがあたしのデコレーションさあ!」
御輿の後方に乗った弁天屋 菊(べんてんや・きく)は背中の紋々を見せつけていた。彼女は褌に晒という格好だが、極力背中を隠さないようにしている。
「この紋々がついてりゃあ、インパクトも勢いもありがたみもひと味違うぜ!」
【プレジデント・ミコーシ】側は、テイラーが和希に応えた。
「よかろう、この勝負、我輩、ザッカリー・テイラーが買おう! だが勝つのは我輩たちだ。何故ならば……我輩は国民の先に立つ大統領だからである!」
「HAHAHAー!! 大統領閣下はステイツのパワーをPARAMITAに知らしめることをお望みだ!」
馬にまたがったガルムが、投げ縄をブンブン回す。ミコーシを引く馬は、祭の熱気で興奮していた。
「シィィット! こいつはとんだジャジャ馬だぜ!」
アレックスは必死で馬を押さえつける。
「ふむ、馬たちも待ちきれないようだな。よし、行くぞ! 撃滅! 粉砕! 殲滅! 征圧せよ!」
ザッカリーが突撃指令を出す。【プレジデント・ミコーシ】は、【イリヤ神輿】猛スピードで発進した。
「わ、あの馬たち、正面からぶつかってくるぞ! 避けろ!」
和希の指示で、【イリヤ神輿】は【プレジデント・ミコーシ】の突進をかわした。
「いっけー! ……あれ?」
【プレジデント・ミコーシ】を応援しているたまきは、馬の様子がおかしいことに気がつく。【プレジデント・ミコーシ】は【イリヤ神輿】の横を駆け抜けると、そのまま会場内を走り回った。
「ワット!?」
「ガッデム!」
馬は最早乗り手の言うことを聞かない。この騒ぎでパニック状態になっているのだ。
「まずい!」
この緊急事態に、装飾の一部となっていたリンカーンが動いた。彼は御輿から決死の覚悟で飛び降りると、人民の人民による人民のためのガードラインで観客を守ろうとした。
「わ、こっちにくる!?」
暴れ馬は、観客席の五月葉 終夏(さつきば・おりが)の方へと進路を変えた。出店の食べ物を両手にゆったり観戦モードだった終夏は、突然のことに体が動かない。
「きゃっ!」
終夏が目を閉じた時、間一髪で社が彼女を庇った。馬は二人を掠めて通りすぎていく。
「ふー、危ない危ない。嬢ちゃん怪我は……」
「これだけは〜。これだけは〜」
社が見ると、終夏は頭につけたカエルのお面を死守していた。
「大丈夫?」
心配そうな顔で終夏のもとに駆け寄ってきたのは、ミルディア・ディスティン(みるでぃあ・でぃすてぃん)だ。彼女は救護班として祭に参加していた。
「うん、カエルさんは無事だよ!」
「いや、そうじゃなくて、あなたのことだって……良かった、見た感じただのかすり傷みたいだね」
カエル柄の浴衣の裾をめくり、ミルディアはすりむいた終夏の膝にヒールをかける。
「ありがとう」
「喧嘩御輿で怪我した人を治療しようと思ってたんだけど、まさかこんなことになるなんて」
【プレジデント・ミコーシ】の馬は、依然辺りを走り回っていた。観客たちは蜘蛛の子を散らすように逃げ出している。この事態に、空京稲荷 狐樹廊(くうきょういなり・こじゅろう)は黙っていられなかった。
「祭が盛り上がるのは手前も歓迎するところですが、いくらなんでも羽目を外しすぎです。空京の地を守るは手前の役目。かような神輿、排除させていただきます!」
狐樹廊はファイアストームを唱えた。
「しかとその目に焼きつけよ! 炎舞・鳳閃渦!」
狐樹廊は小型飛空艇ヘリファルテに乗り、人のいない方向へと馬を追い立てて行った。
「……行っちゃったわね」
あっという間にパートナーが姿を消し、残されたリカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)は呟いた。
「狐樹廊は空京の地祇だから気持ちは分からなくもないけど、もう少し抑えられないものかしら。さて、狐樹廊には追いつけそうにもないし、私にできるのは怪我人を救護班のところに届けることくらいね」
終夏の他にも、観客の中には何名か負傷者が出ていた。リカインは、彼らをミルディアのもとに連れていった。
「二人とも、手伝って」
ミルディアはパートナーの和泉 真奈(いずみ・まな)とイシュタン・ルンクァークォン(いしゅたん・るんかーこん)に協力を仰ぐ。
「分かりました。私にはヒールしか使えませんが、精一杯やらせていただきます」
「頑張るよ! アリスキッスで元気も分けてあげる!」
真奈とイシュタンは、ミルディアに加わって負傷者たちの治療を始めた。
「安心して。今治してもらうからね」
久世 沙幸(くぜ・さゆき)は、怪我人を励ましていた。
彼女は応急処置が得意なわけでも、ヒールが使えるわけでもなかったが、歩けない人に肩を貸すなどして貢献していた。
「救急セットとか、あるよね?」
「うん、今取ってくる!」
本部席で待機していたのぞみも、沙幸と共にミルディアたちをサポートした。
「……思わぬアクシデントで一時競技中断となっていましたが、ようやく事態が収拾してきた模様です。【イリヤ神輿】、勝ち残りおめでとうございます」
「勝ったのか……?」
ロザリンドに勝利を告げられた【イリヤ神輿】の面々は、素直に喜べなかった。
【イリヤ神輿】VS【プレジデント・ミコーシ】、【プレジデント・ミコーシ】の脱落により【イリヤ神輿】の勝利。
【女の子御輿】
「何で一人で着替えてたの?」
仲間のもとに戻ってきたあゆむに、SFL0021516#香奈葉}が尋ねた。
「だって恥ずかしいもん」
あゆむはそう答えたが、それは違った。あゆむは本当は男。性別を偽って女の子御輿】に参加しているのだ。
「それでは、喧嘩御輿の優勝チームを決める前に、可憐な女の子御輿をご覧ください」
ロザリンドのアナウンスで、巫女服に身を包んだあゆむ、香奈葉、郁乃、灌、兎の五人は、かわいらしい御輿を引いて練り歩いた。
観客たちは、心和むひとときを楽しんだ。