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リアクション
★ ★ ★
しばらくは変な人たちが廊下を走り回っていそうなので、小ババ様は大階段から枝の方へと逃げることにしました。ここは、寮の枝の一つのようです。
何か面白い物はないかなとのんびり箒で飛んでいくと、一つのドアが半開きになっていました。よく見ると、ぬいぐるみがおいてあって、それが邪魔でドアが閉まらなかったようです。
ちょっと好奇心にかられて、小ババ様はドアの陰からそっと中をのぞいてみました。
「まあ、予想していた通りの原因というか、まんまなわけなんだが。もうちょっと推理の楽しみとか、俺を呼び出したかいというものを感じさせてはくれないもんかな」
笹野 冬月(ささの・ふゆつき)が、奈落人の笹野 桜(ささの・さくら)が憑依した笹野 朔夜(ささの・さくや)を前にして言いました。
「いったい、朔夜さんは私に黙って、どういうお話をしたんです?」
ちまちまとビーズアクセサリーを作りながら、笹野朔夜(笹野桜)が言いました。
「ん、見ろ」
そう言って、笹野冬月が笹野朔夜(笹野桜)に携帯電話の画面を見せました。そこには動画メールで、笹野朔夜が切々と助けを求めている姿が映し出されていたようです。もちろん、小ババ様からは見えませんし、笹野朔夜(笹野桜)は笹野朔夜にしか見えませんから、ちまちまとビーズを編んでいる変なお兄さんとしか感じません。
『……というわけで、僕が意識を取り戻す度に、部屋にぬいぐるみやビーズアクセサリーが増えていくんです。このままじゃ、いつ女の子部屋に改装されてしまうか……。別に、桜さんが僕に憑依するのはいいんですよ。でも、知っていますか? 最近の僕は周囲の人たちから、男の娘にクラスチェンジした、お姉ちゃんをしょっちゅう呼び出すシスコンということになりつつあるんですよ』
ボリュームを最大にしてちゃんと笹野朔夜(笹野桜)に聞こえるようにしていたので、音だけは小ババ様や廊下をたまさか歩いていた人たちにも聞こえます。
「男の娘はだめです!!」
突然そう叫ばれて、驚いて小ババ様は振り返りました。
遠くを、神和綺人が走り去っていったような気がしましたが、その姿はすぐに見えなくなりました。
「まあ、いいんじゃないのか。いろいろと誤解が嫌なら、ちゃんと桜に憑依されているということを周囲の人間に説明……」
家族会議(?)はまだまだ続いているようですが、神和綺人に驚いた小ババ様は、別の場所へと移動していきました。
★ ★ ★
「まったく、世界樹をなめちゃだめなんだよ。毎年何人も迷子になって行方不明になっているんだよ」
「でも、こっちの方からいい匂いがしたの〜」
何やら言い合いをしながら、エンデ・マノリア(えんで・まのりあ)とオーフェ・マノリア(おーふぇ・まのりあ)が歩いてきました。どうやら、迷子になっているようです。小ババ様としても、他人事ではありません。
「あっ、小ババ様、いい所に。ここはどこなの?」
「こば? こばば、こばあ」
聞かれて小ババ様が答えますが、小ババ様語が通じません。
「うっ、困った。なんだかドアがたくさんならんでいるから、適当なドアを開けて道聞いてみるか」
このまま「七不思議 悲観、開かずの通路」などに迷い込んだら大変だと、エンデ・マノリアが決意しかけたときです。
「こば?」
小ババ様が、小さな鼻をクンクンとさせました。つられるようにして、オーフェ・マノリアも鼻をクンクンとさせます。
何か、甘い匂いがしました。
「いこっ」
「こばぁ」
どちらからともなく顔を見合わせると、オーフェ・マノリアと小ババ様が駆け出しました。
「こら、待てよ、また迷子になるよ。こらあ」
あわてて、エンデ・マノリアが後を追いかけました。
甘い香りに誘われて、三人が飛び込んだのは寮の調理室でした。
「えーっと、暖めながら、バターと砂糖を混ぜていくと……。わっ、なんで黒く焦げていくのー。煙、煙!!」
高峰 結和(たかみね・ゆうわ)が、マジックコンロの上に載せたスチール製のボールを、鍋つかみを填めた手でつかんで、あわててキッチンの上に下ろしました。
エンデ・マノリアの頭に、湯煎という言葉が浮かびましたが、あえてここは指摘しないことにしたようです。
「あら、小ババ様、こんにちは。ええっと、今、フルーツバウンドケーキ作っているんですが、よろしければ味見します? 多分、味は普通ですよー」
高峰結和が、焦げていない生焼けの部分を削り取って、小ババ様に渡そうとしました。さすがに、エンデ・マノリアが止めに入ります。
なんで邪魔するのとバタバタしていた小ババ様ですが、そこへ焦げた臭いがどっと漂ってきたものですから、悲鳴をあげて逃げだしていってしまいました。
「ああ、小ババ様にも見放されるなんてー」
高峰結和がしょんぼりします。
「あのー、手伝おうか? いや、オーフェも食べたそうな顔してるし……。ところでさあ、ここってどこ?」
エンデ・マノリアが、そう高峰結和に言いました。
★ ★ ★
さて、逃げだした小ババ様は、反射的に空いていた部屋に飛び込みました。このあたりは、寮のレクリエーションルームがまとまっているブロックのようです。この部屋は、畳が敷いてあって、和室のようですね。
その和室の中に、四人の男女が正座していました。もっとも、男の子は一人だけでしたが。その彼が、懇々と女の子たちに説教されています。
「いいかな、なぜ貴公がそこに座らされているのか、ちゃんと分かっているのであろうな」
最年長のイグナ・スプリント(いぐな・すぷりんと)が、正座している非不未予異無亡病 近遠(ひふみよいむなや・このとお)に言いました。
「はい。重々承知しておりますです」
しょんぼりとうなだれながら、非不未予異無亡病近遠が答えました。どうやら、無断外出してお花見をしたので怒られているようです。
「でも、途中で出会った、パラ実の人たちも親切だったんだんです。お花も綺麗だったし……」
なんとなく、非不未予異無亡病近遠が口答えしました。
「近遠ちゃんはそう言いますが、それは、今回出会った人たちが、たまさか親切だっただけですわ。もし同じことをして、次に出会ったのが、恐ろしい追いはぎや、アンデッドのような魔物だったらどうするのです」
心配そうに胸の前で手を握りしめつつも、強い調子でユーリカ・アスゲージ(ゆーりか・あすげーじ)が言いました。思わず、うんうんと小ババ様もうなずきます。
「ユーリカの言う通りなのだよ。我々は契約者なのだ。その心は強く結びついている。だから、もし、貴公に何かあれば、我らもだだではすまない。これは、我らの保身に聞こえたら困るのだが、それでも言わせてもらおう。貴公の身は、もう貴公一人のものではないのだよ」
イグナ・スプリントが、懇々と非不未予異無亡病近遠に言い聞かせます。
「うん、だから、次にどこか行くときは、アルティアも連れていってほしいのでございます」
畳の上をずっとすべって非不未予異無亡病近遠に少し近いてからアルティア・シールアム(あるてぃあ・しーるあむ)が言いました。
「ちょっと待ってください、なぜ、アルティアちゃんだけですの。納得がいきませんわ」
「うん、行くときは、みんな一緒だ」
口をはさむユーリカ・アスゲージにイグナ・スプリントがうなずきました。
「うん、そうでしたわね。アルティアは、どこに行くのにも、ユーリカさんとイグナさんと、そして、近遠さんと一緒です」
「分かりました、皆さん。今度からは、ちゃんとそうします」
アルティア・シールアムに念押しされて、非不未予異無亡病近遠が、ぺこりと三人に頭を下げます。
なんだか丸く収まったようです。ちょっとはらはらして見守っていた小ババ様ですが、一安心すると、気づかれないようにその場を後にしました。
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