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聖なる森の豚汁パーティー

2031年、東京。

日本の首都の中心である東京。

その中心部に酒杜 陽一(さかもり・よういち)は居住していた。
高根沢 理子(たかねざわ・りこ)と結婚し、高根沢家に入っていたのだ。

(この森の中に住むことになるとはな……)

陽一は感慨に耽る。

この森は理子とアムリアナ女王が出会った場所だ。
いわば日本とシャンバラの絆のきっかけとなった場所でもあるのだ。

「陽一さん、この10年、色々あったよね……」

「ああ」

理子の言うとおりシャンバラを、世界を揺るがす事件はいくつもあった。
それでも、この森がそのままであり続けたのは
そこに住む住人が、古来から連綿と続く、
日本の代表である聖なる家柄であったためであろう。

陽一は蒼空学園の教師として、その後はパラ実の生徒として
日本とシャンバラを愛し、奮闘してきた。

その結果の、現在である。

「お父さん、シャボン玉しようよ!」

「しようしよう!」

明るい声で息子と娘が声をかけてくる。
その言葉に顔を綻ばせつつも逡巡した陽一に、

「公務は午後からだからまだ大丈夫よ」

と理子が優しく声をかけた。

■□■


親子がシャボン玉で遊ぶのを空中からみている魔女がいた。
陽一のパートナーフリーレ・ヴァイスリート(ふりーれ・ばいすりーと)であった。

フリーレは全身血まみれであった。
たった今、5000年を超えた復讐相手との死闘を終えてきたのだ。

(復讐を果たした今、命を捨てるつもりでいたが……。
今はまだその時でないというのか)

自ら命を断てば、陽一にどのような影響があるかわからない。

どうせ5000歳を超えた命なのだ。
陽一の命が尽きるまで生きていてもいい。

飛んできたシャボン玉を見ていたら、そう思えたのだ。

その時、明るい声が森に響いた。

「みんな〜、あったかい【チョコバナナ豚汁】持ってきたわよ〜!」

兄を訪ねてきた酒杜 美由子(さかもり・みゆこ)であった。

かつては陽一と理子の婚約を知って海に身を投げた美由子であったが、
海溝に落ち、地球の中心部まで落ちた後、日本の反対側のブラジルまで這いあがったのだ。

(あの時は辛かったわ〜)

だが、それだけの根性がある美由子である。

ブラジルで豚汁(ぶたじる)のチェーン店を成功させ、
こうして兄の元に凱旋したのだ。

「美味しいね!」

「おばちゃんの豚汁、最高だよ!」

「コラ、お姉ちゃんでしょ!」

チョコバナナ豚汁を喜んで食べている時点でいかに出来た子供たちかと分かる。
その後、陽一のかつての教え子たちも尋ねてきて、豚汁パーティーとなった。

聖なる森に笑い声が響いた。

(妻や子供、それに多くの仲間。
日本とシャンバラのため、これからも皆で力を合わせていかなきゃな)

幸せの中で、陽一は決意を新たにした。