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夢は≪猫耳メイドの機晶姫≫でしょう!?

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夢は≪猫耳メイドの機晶姫≫でしょう!?

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第三章 廃墟にて〜静寂〜

「ちょっと、サボってないで少しは手伝いなさい!」
 ≪首なしの豪傑騎士≫の剣を捌く東 朱鷺(あずま・とき)の声が、天井の高いホールに響き渡る。
「別にこれだけいるんだから大丈夫でしょう。むしろ、一匹に大勢で向かう方が邪魔になって仕方ないと思いますよ」
 朱鷺の言葉に答えたのはパートナーのルビー・フェルニアス(るびー・ふぇるにあす)だった。
 ルビーはホールの壁に寄りかかりながら、他の生徒が≪首なしの豪傑騎士≫と戦う様子を眺めていた。
「それとも、彼女のように果敢に挑んで欲しいと?」
「彼女?」
「おらおら、どけどけぇぇ――!!」
 一瞬、≪首なしの豪傑騎士≫が身を引き、朱鷺との間を戎 芽衣子(えびす・めいこ)が走り抜けていった。
 芽衣は続けざまに≪首なしの豪傑騎士≫にブージで斬りかかる。
 弾かれ、避けられ、なおも距離を開けず、強引に、捻じ込むように、ひたすら斬りかかる。
「いや、さすがにあそこまで要求しないというか、キミがあんなのだと困ります」
「ですよね」
 芽衣の猛攻に誰もが近づきがたい状況だった。
 それでも、≪首なしの豪傑騎士≫に決定的な一撃を食らわせられない。
「ちぃ、なかなか落ちなっ――」
 突如、聞こえてくるエンジン音がした。
「……どい――」
「ぐはぅ!?」
 芽衣が振り返る前に、彼女の身体はフィオナ・グリーン(ふぃおな・ぐりーん)によっていきなり空へと飛ばされていた。
 芽衣を吹き飛ばして、≪首なしの豪傑騎士≫に突撃したフィオナは、そのまま拘束し、扉から外へと連れ出した。
 フィオナは≪首なしの豪傑騎士≫から離れると、廃墟内では不可能だった銃弾の嵐を浴びせる。
「……集中砲火。お願い」
「我、加勢する」
 フィオナの銃弾が止んだ瞬間、全長5メートルの第七式・シュバルツヴァルド(まーくずぃーべん・しゅばるつう゛ぁるど)が巨大な手が振り下ろす。
 バキボギと金属が砕ける音。
「……完了」
 どかされた拳の下にできたクレーターの中央には砕けた金属片が散乱していた。
 フィオナが再生に備えて、銃口をクレーターに向けつづける。
 すると、背後から頭からの落下した衝撃で気を失っていた芽衣が怒声を浴びせる。
「てめぇ、いきなり何しやがんだ! あやうく昇天しかけだぞ!」
「注意し――」
「してない! 注意してない! 言い終わる前に人様を引いて行っただろうがっ!!」
「……」
 ガルルと唸り声をあげながら睨みつける芽衣をフィオナはあっさり無視した。
 その時、金属片が動きを見せる。ドロドロと液体化し、土の溶けてしまったのだ。
 どんなに粉々にされても、何度も再生してきた≪首なしの豪傑騎士≫がこんなにあっさり倒されてしまったことに驚き、生徒達は呆然としていた。
 それはクリアンサ・エスパーニャン(くりあんさ・えすぱーにゃん)も同じで、だからふいに彼女を覆った黒い影に反応が遅れてしまった。
「しまっ――!?」
 慌てて振り向いたクリアンサは、バランスを崩して尻餅をついてしまう。
 目の前には溶けて消えたはずの≪首なしの豪傑騎士≫。
 ≪首なしの豪傑騎士≫はすでに自身の身長より大きな剣を振り下ろそうとしていた。
 クリアンサは死を覚悟し、目を閉じた。
 ――だが、死は訪れない。
「ふぅ〜、間一髪」
 クリアンサと≪首なしの豪傑騎士≫の間には神野 永太(じんの・えいた)が立っていた。
 永太は≪首なしの豪傑騎士≫の攻撃を止め、押し返す。
「大丈夫ですか?」
 永太は≪首なしの豪傑騎士≫から視線を外さず、クリアンサに片手を差し出す。
 クリアンサは永太の手をとり、顔を背けて起き上がる。
「べ、別にわたくしだってこれくらい自分一人でどうにかできましたわ。余計なお世話ですわ」
 永太はクリアンサの言葉にきょとんとした表情をしていたが、すぐに人の良い笑みを浮かべた。
「私は頑丈なのが取り柄ですから、クリアンサさんの盾にでも使ってください」
「ふ、ふん。そうさせていただきますわ。せいぜいわたくしのために働いてくださいな」
「かしこまりました」
 永太は一歩、クリアンサを守るように前に出た。
「……うぅ、やりずらい人ですわね」
 永太とクリアンサが連携を組んで≪首なしの豪傑騎士≫に挑みかかる。
 その様子を離れた所から見ていたトマス・ファーニナル(とます・ふぁーになる)は顎に手を当てて悩んでいた。
「どういう原理なんだろうか……?」
「ん、何がですか? もしかして……恋の悩みですか!?」
 朱鷺の思いがけない一言にトマスは慌てて否定した。
「そ、そういうことじゃなくて……ご、ごほん! えっと、あの≪首なしの豪傑騎士≫はなんで頭がないのかなと思ったんだよ。もしかして、金がなくて質に入れたのかなとか?」
「いや、さすがにそれはないのではないでしょう」
「だよね。……それとどうやって僕らを感知しているのだろうとか考えていたんだ。目も耳もないのにどうやって……」
 トマスはこの疑問が戦いを切り抜けられるヒントになるような気がした。

「皆さん、見つかりましたか?」
 ミスティ・シューティス(みすてぃ・しゅーてぃす)は先ほどまで廃墟内で≪ご奉仕の機晶石≫を捜索していた生徒達に尋ねるが、皆が首を横に振った。
 分担して廃墟を一通り探し回ったが、肝心の≪ご奉仕の機晶石≫は見つからなかった。
「あえて言うなら、この怪しげなレバーだけです」
 鬼龍 貴仁(きりゅう・たかひと)が目の前の壁に設置された、如何にも罠が作動しそうなレバーを指さした。
「怪しいので調べてみたのですけど、何が起こるのかさっぱりなんですよ」
「確かに何かありそうだな。いい意味でも悪い意味でも何か起こりそうだ。そう、俺の直観が告げてるぜ」
 ロア・ドゥーエ(ろあ・どぅーえ)の言葉に皆が発言を止めた。
 いい意味は隠し部屋へと通じるものだろう。悪い意味は間違いなく罠だった。
 不用意な発言をすれば責任を追うことになる。
 沈黙が流れ。そして――
「……だけどさ。いつまでもこのままじゃだめだよ」
 皆がその発言を待っていた。
 耐えかねたマリィ・ファナ・ホームグロウ(まりぃ・ふぁなほーむぐろう)が口にしていた。
「私達の仕事はとにかく素早く≪ご奉仕の機晶石≫を見つけて帰る。それだけだよ」
 否定する言葉はない。やらねばならないことはわかっていた。一言、背中を押してくれる言葉が欲しかっただけなのだから。
「じゃあ、動かすぜ」
 ロアが仲間の顔を見てからレバーを降ろした。
 次の瞬間。――廃墟全体を悪寒が走った。