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新年交流会に出すおせち料理を考案せよ!

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新年交流会に出すおせち料理を考案せよ!

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「うーん、困ったな。せっかくの美味しいイベントなのに肝心の料理が決まらねえ……」
 湯浅 忍(ゆあさ・しのぶ)は一人で悩み、神妙な顔つきで蒼空学園の校舎前を行ったりきたりしていた。
 もちろんその姿や身に纏う重苦しい空気は、このお祭り気分の生徒達とは遠くかけ離れていたので、周りから遠巻きに見られていることをまだ本人は気づいていない。と言うかそんな余裕すらなかった。
 原因はもちろんこのコンテストにあった。
 忍はコンテストの告知が発表された当初から、その賞品の魅力にひかれて参加を決意していた。が、あいにくと忍自身に周りを驚かせるほどの調理スキルを持ちえていなかったので、コンテスト当日となった今でもこうやって頭を悩ませ、何かうまく賞品を手に入れる方法はないかと一人で模索していたのである。
「材料なら俺が端正込めて作った家庭菜園の野菜がいっぱいあるんだけどな。ん、あれは……」
 忍がふと校舎の前に視線を向けると、そこにはイベントの告知を眺めている男子生徒の姿が目に入った。
「ふむ、『創作おせち料理考案コンテスト』ですか。なかなか面白そうですね」
 リュース・ティアーレ(りゅーす・てぃあーれ)は偶然花を卸しに母校である蒼空学園を訪れたのだが、興味深そうなイベントが行われていることを知り、こうしてイベント会場の方まで赴いてきていた。
「なあ、そこのあんた、このイベントに興味あるのかい?」
 背後から声をかけられたリュースは、忍の姿を一瞥してから答える。
「はい、ですが今日偶然所用で学園を訪れた身なんで、残念ながら何の食材も用意していないんですよね」
「だったらちょうどいい、俺と協力しないかい?」
 リョースの参加意思を確認した忍は、内心でガッツポーズをしながら提案を持ちかける。料理ができて食材を用意していない相手はまさに理想の協力者候補である。
「協力ですか?」
「ああ、俺も賞品を狙っているんだけど、残念ながら料理の腕には自信がない。だけど、俺には家庭菜園で育てた自慢の野菜があるからこれを利用しない手はないと思ってな」
「なるほど、誰かにあなたの野菜を使った料理を作らせて、グループとしてコンテストに参加しようって魂胆ですね」
「ご名答。どうだ、あんたも一枚噛まないか?」
 リョースはすぐ忍の思惑を理解し、おまけに反応も自体もそこまで悪くない。これは早くもチャンス到来の期待が高まっていく。
「面白いですね。確かにオレも久々にコック長の料理を食べてみたいですからね。ふむ、なら気軽に作れる料理の方がいいでしょう。作り方を学ぶのも交流になるでしょうからね、栗とさつまいもはありますか? 栗きんとんのパイ包みなんてものを作ってみましょう」
 話が決まれば早速リョースは頭の中でレシピの組み立てにとりかかり、あれよあれよという間に材料までも決定していく。
 その気持ちのいいくらい素早い行動力と的確な判断力の完璧さ、これはもしやと忍の期待は高まる一方だ。
「栗とさつまいもだな、任せな!」
「ねぇ、そこの君。もしよかったらワタシにもさつまいもを譲ってくれないかい?」
 予め用意していた材料を取りに宿泊寮に戻ろうとした忍に声がかかる。
 先ほどまで少し離れたところから二人の話を聞いていた佐々木 弥十郎(ささき・やじゅうろう)が、今度は忍に協力を持ちかけてきたのであった。
「お、あんたもかい? 構わないけど、だったらそっちにも一枚噛ませてもらうぜ?」
 思わぬ協力者の登場に、表面上では冷静に対応しつつも、忍の頭の中はまさにフィーバー状態だ。
 この調子でどんどん協力者を増やせば、もはや食券は目前だろうとよからぬ画策まで企てる始末である。
「商品目当てかい? だったらもちろん構わないよ」
「よし、交渉成立だな。じゃあ二人とも少し待っててくれよ、この前収穫したばかりのとっておきの食材を持ってくるからよ」
 まだまだ時間には余裕があるものの、忍はあえて全力で走って宿泊寮にむかった。
 忍は走る、食券のために。忍は走る、約束された三ヶ月を手にするために。


「先生、材料の確保が出来たよ」
 忍から受け取ったさつまいもを抱えた弥十郎が、先に調理室で準備をしていたパートナーである『先生』こと真名美・西園寺(まなみ・さいおんじ) と合流する。
「おかえりなさい、早かったね。で、今日は何を作るつもりなの?」
「いいさつまいもが手に入ったからねぇ、これと枇杷の種を使った創作料理に挑戦してみようかなぁ」
 弥十郎は予め用意していた枇杷の種に熱湯を注ぎ、そのまましばらく待つ。その間に別鍋に新たに水をはって、火にかけ始める。
「こほん、まあそれは置いといて。枇杷仁(枇杷の種)と蓮子(蓮の実)を使うみたいだね」
「そうですねぇ」
 十五分ほど熱湯に漬け込んだ枇杷の種の皮をむきながら答える。真名美と話しながらも淡々と作業にこなすあたり、弥十郎の料理の腕前がなかなかであることがうかがえた。
「枇杷仁は薬効が強いみたいだから、量には十分注意してね」
「はい、もちろん。香り付け程度に使うだけですから」
 蓮の実と皮を向いた枇杷の種をフードプロセッサにかけ、そしてその傍らで先ほど費にかけて沸騰したお湯にさつまいもを入れて軽く煮る。
「ならいいけど。しかし何でミドリムシなの?」
 弥十郎の作業を監督しながら、真名美は苦い表情を浮かべた。
 その視線の先には、弥十郎が用意した緑色の粉末――乾燥させたミドリムシを粉末状にした物が異常な存在感を醸し出していた。
「いやぁ。緑色は縁起がいいかなぁ。そんな感じだねぇ」
「緑色の金団か……悪くないけど、ねえ」
「あぁ、そのままだとゲンナリすると思うんで、こうやって茶巾絞りで整えますよ」
 ミドリムシの粉末をまぶした布巾で茹で終えた材料をひねるように潰して小皿に乗せる。確かにこれではパッと見た感じでは緑色が鮮やかな和菓子に見えるだろう。
「ほらできた。うん、見た目もなかなか」
「うーん、確かに見た目は綺麗だけど、材料は黙っていたほうがいいかもね。で、名前はどうするの?」
「名前かぁ。緑色だし、みどり、ミドリ、グリーン……グリーンといえばアクリト……そうだ、『アクリトン』なんてどうだい?」
「あはは……なかなか奇抜なセンスだね」
 おそらく彼の指す某数学教師の顔を浮かべた真名美は、顔を少しだけ引きつらせた。
「そこが狙いです。いかにもチープって感じがするでしょ。『アクリトン?(笑い)』みたいな」
 パートナーの反応にも臆することなく、弥十郎はのんびりと笑いながら仕上げに取り掛かった。