First Previous |
1 |
2 |
3 |
4 |
5 |
6 |
7 |
8 |
9 |
10 |
11 |
Next Last
リアクション
「あたっ、なんだこれは……」
休憩用のテントの中で、ゼスタ・レイラン(ぜすた・れいらん)は、ぺっぺっと口の中から何かを吐き出した。
そして、じろりとリン・リーファ(りん・りーふぁ)を睨む。
「なんだってパチパチキャンディーだよ! 美味しいでしょ」
リンは笑みを浮かべながら答える。
「チョコは辛いし、飲み物は苦いし……俺に恨みでもあんの?」
ゼスタは口を押えて不満気に言う。
いつもゼスタ好みの甘い物をプレゼントしてくれるリンだが、今回彼女がゼスタに勧めたのは、香辛料を隠し味にしたチョコに、健康に良い青汁だった。そして口直しにと渡したのは、パチパチキャンディー。
「あるかもしれないね〜」
「不満があるなら、言ってみろ。単なる悪戯と判断した時には、楽しい仕返し♪が待ってるぜ?」
「いいよー、仕返ししても。10倍返しするけどね!」
リンはそう言って笑った後、じーっとゼスタを見る。
「可愛い悪戯なら歓迎だけどな」
ゼスタは今度こそ口直しにと、リンと一緒にリーアの店で買ってきた、苺ミルクと、アイスコーヒーを一口ずつ飲む。
「ふむ」
そして。
「……リンちゃんはこっちだな」
『アイスコーヒー』をリンに渡す。
「飲みかけ? カフェオレがいいな」
「それじゃ混ぜよう」
言って、ゼスタは苺ミルクをアイスコーヒーのカップに入れて、リンに差し出した。
「強引な作り方だね! どんな味なのかな……」
ストローでかき混ぜて、リンは苺カフェオレを飲んでみる。
「結構美味しいかも」
「それは良かった」
ゼスタは微笑んで、肘をテーブルに立てて手で自分の頬を支え、意味ありげにリンを見る。
「で、言いたい事があるのなら、言ってごらん」
「……あのね」
リンはちょっとふて腐れたような顔になる。
「普段、どれだけ手を抜いてるのって思ったの」
「……? あ、魔導砲の件で、神楽崎と一緒に来た時のことか。痴話喧嘩に巻き込んだことは悪かったと思ってる」
「痴話喧嘩?」
「うん、俺らはいつもあんなカンジ。たまにああやって戦り合うけど、大抵最後には俺が負けるし、まぁいーじゃん」
「それだけじゃないよ……。『シャンバラにとって不利益だ』なんて言い方じゃなくて、総長さんも水仙のあの子もいなくなっちゃったら『ぜすたんが』さみしいって、言えばいいんだよ」
リンの言葉に、ゼスタの顔から一瞬笑みが消えた。
僅かな間。僅かな戸惑いが顔に表れた。
「寂しい……それは違うな。俺は神楽崎がいなくなっても寂しくはない」
その言葉は、真実のようだった。
「アレナ・ミセファヌスがいなくなったら……残念かもな。彼女、可愛いし」
にやりとゼスタは笑う。
「で、リンちゃんは何で膨れてるんだ?」
「それは……わからない」
ぷっくり、リンは膨れたまま俯いた。
もやもやしているのは何故なのか。
怒っているのか、拗ねているのか、ヤキモチを焼いているのか……。自分でもわからなかった。
気を紛らわせようと、リンはごくごく苺カフェオレを飲んでいく。
「そうかそうか、嫌なところを見せて、悪かったな」
それから彼はリンの腕を引っ張って、引き寄せて。
「リンちゃんがいなくなったら……きっと寂しい」
間近でリンを見つめた後。
「って言ったら、俺のものになってくれる?」
悪戯っぽい笑みでそう続けた。
「ぜすたんのものって?」
「俺はキミを自分の物として大切に守り、キミは俺がキミが欲しくなった時、どんな状況下にいても、すぐに俺の元に飛んできてくれる、でどう? ま、血をくれないんじゃ、意味ねーけどな。てゆうか、キミは関谷のものだし」
「血はまだあげられないよ。でもそれは、みゆうが理由じゃないよ」
何故だか、リンの口から、言葉がするすると出てくる。
言いにくいことも。
「血をあげないって決めてるのは最初はみゆうが理由だったけど、今は『心が先』を証明するため」
彼女のその言葉に、ゼスタは軽く眉を顰めた。
「……ふふふ。そんな顔ばかりしてちゃダメだよ」
突然、リンは笑いだしたかと思うと。
間近にあった彼の顔――頬にちゅっと口づけした。
それから彼の顔を頭を抱き寄せて、わしゃわしゃ髪をかき混ぜる。
「わ……髪が抜ける」
言って、ゼスタは笑いだして、抵抗する。
「ぜすたーん、なんだか心がくすぐったい〜」
そう笑うリンの手を掴みあげて、ゼスタは彼女から離れて。
髪の毛を整えながら呟いた。
「リンは……わからないところがある。お前、俺のこと」
「ん?」
「いや、なんでもない」
ゼスタは自嘲気味な笑みを漏らした。
今の彼女の本当の気持ちは、本当とは限らないから。
「涼司くん、このミルク甘くて美味しいですよっ」
賑わっている場所から少し離れた辺で、山葉 加夜(やまは・かや)は、山葉 涼司(やまは・りょうじ)と一緒に、夜空を鑑賞していた。
屋台で購入した苺ミルクはとても甘くておいしくて、そのせいか心が高揚していた。
「交換して飲んでみますか?」
加夜は涼司に苺ミルクを差し出す。
「それじゃ、少しだけ。俺のも甘くないけど、美味いぞ」
涼司が飲んでいたのは、アイスティーだった。砂糖は入れていないようだった。
交換して飲み物を飲んだ後、ふと、二人は顔を合わせる。
「加夜……」
髪をアップにし、紺色の浴衣を纏った加夜が……いつもより可愛く見えて。
涼司は照れてしまい、目をそむけた。
「どうしたのですか? 涼司くん」
「いや、星が綺麗だなって思って」
涼司は空に目を向けた。
「……はい、綺麗ですね」
加夜も、夜空に視線を戻す。
またしばらく、二人は飲み物を飲みながら夜空を眺めていた。
「彦星さんと、織姫さんも、私達と同じように過ごせていたらいいですね」
「そうだな」
……いつの間にか、二人の距離は縮まって。
手をつないで、寄り添っていた。
「七夕の日にこうして一緒に居られるなんて幸せです……」
加夜はしみじみと言った。
「ああ、去年の七夕は、忙しかったしな」
「いつも、ですけれどね。たまにこうして2人で出かけられることが、とても嬉しいです」
加夜は涼司の腕に自分の腕を絡めて、頬を寄せた。
そして彼に目を向けると、彼もまた、加夜を見ていた。
しばらくの間、2人は見つめ合う――。
「涼司、くん」
加夜の彼への気持ちが膨れ上がって、堪えきれなくなり彼の名を呼んだ。
「屋外でよかった、人の目があってよかった……」
涼司はそんな言葉を漏らして、加夜を抱きしめた。
傍にいるのに、触れ合っているのに。
もっともっと、互いを欲しいと感じる。
星々に見守られながら、二人はしばらくの間、抱きしめ合っていた。
「……なんだか、こうして二人で過ごすのも久しぶり……だよね?」
セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)の声は、控えめだった。
隣には、恋人、のセレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)がいる。
2人は飲み物を手に、華美を観賞していた。
自分が提供したアイスバーも、既に打ち上げられて、皆の手に渡っていた。
喜ぶ人々を、微笑ましげに見守っていた2人だけれど。
自然に顔が合った途端――ぎこちない笑みに変わってしまって。
そっと、目を逸らして、次の華美や、夜空に目を向けてしまっていた。
セレンフィリティとセレアナは恋人同士だ。
紛れもなく、互いに互いを愛している。
だけれど、このところずっと2人はすれ違ってしまっている。
心は、遠ざかる一方だった。
このままではいけないと、このサマーバレンタインパーティに、セレアナを誘ったセレンフィリティだけれど……。
(今までなら、話の花が咲くのに。今は……やっぱり、だめ。セレアナの顔も硬くて、私の顔も……多分。会話が、続かない)
不安に思いながらも。
それでも、セレンフィリティは隣に彼女が、セレアナがいることを幸せに思う。
(セレアナ、でもあなたは、どう思っているの……)
ちらりと、セレアナを見た。
彼女の表情は、硬いままだった。
ごろんと寝転んで、空を見ると。
セレアナも自然に同じ姿勢になる。
(そう、これが自然なの……。セレンと一緒に、こうして過ごすことが)
セレアナもまた、幸せを感じては、いた。
会話が続かないこと、互いの距離が遠くなってしまったことに、歯がゆさを感じながらも。
(それでも、今こうして二人でいられることが、やっぱり私は何より幸せ……)
それなのに。
脳裏に、別の女性が浮かんでしまった。
セレアナは、クリスマスに寂しさから逃れたくて――同じ教導団の少女と、行きずりの恋に落ちてしまった。
今も時折、彼女のことがこうして頭に浮かんでしまう。彼女と、セレンフィリティへの思いとの間で苦しんでいた。
(結局、皆を深く傷つけてしまっている)
後ろめたい気持ちに、苦しさに囚われそうになる。
ふと、セレンフィリティの手が、セレアナに触れた。
ピクリと震えたセレアナだけれど……自分からもちょっとだけセレンフィリティの方に手を近づけた。
小指と、小指が重なり合い、僅かに指をからめあった。
(今は……今はせめて、セレンとの時間を大切にしたい……っ)
セレアナは目を閉じて、僅かに感じるセレンフィリティの温もりに、神経を集中する。
(セレアナ、あなたはどう思ってる……?)
隣で、セレンフィレティも。セレアナに尋ねたいと思いながらも、何も問うことが出来なかった。
怖くて、今は聞けなかった――。
長い間、2人は言葉少なく、広大な星空を見ていた。
今日、7月7日はパートナー古井 エヴァンズ(こい・えう゛ぁんず)の誕生日だ。
普段は、パートナー達に振り回され気味の本宇治 華音(もとうじ・かおん)だが。
今日は彼女の方から、エヴァンズに花火を見に行こうと誘った。
傍目には普通のカップルに見える2人だけれど、恋人同士ではない。
華音がエヴァンズを誘ったのも、彼の誕生日を祝いたいから。それだけで他意はない。
「花火も見れるし、星空も見れる。あそこにしよっ!」
華音はエヴァンズの腕を引っ張って、花火をする人々や、打上げ華美、そして夜空も観賞できる場所にやってきた。
そして、シートを敷いて腰かけて。
鞄の中から取り出したプレゼントをエヴァンズに差し出す。
「誕生日おめでとう!」
「うーん……」
エヴァンズの方はといえば、あまり楽しそうではなかった。
そもそも、エヴァンズに自分の名前以外の過去の記憶はほとんどなく、本当の誕生日も知らないのだ。
古井という名字と、7月7日を、エヴァンズの誕生日と勝手に決めたのは、華音であり、こんな風に強引に祝われても嬉しいとは思えなかった。
しかし……。
「おっ!?」
渡された包みの中身は、UV加工された濃紺の帽子だった。
エヴァンズは日光に弱いため、日焼け止めやパーカーで常に防御している。
今は夜だから必要はないけれど……日中は、こういった帽子を被れば、もっと気楽に外出が出来るかもしれない。
色も、形もとても気に入った。
「さんきゅ」
と、エヴァンズは軽く礼を言う。
「うん、使ってね。パーカーより日光防げると思うよっ」
華音は得意げに言う。
エヴァンズのことをよく知るパートナーだからこそ、選べた代物だ。
くすり、と密かにエヴァンスは笑った。
「そうそう」
「ん?」
「今日ってあれだよな、打上げ華音やるんだろ?」
「え……」
一瞬何のことかと思った華音だけれど。
「う、打上げ華美でしょ! なんで私限定で打ち上げられるの!」
そう突っ込むと、エヴァンズはおかしそうに笑う。
「何笑ってんのよーっ。もうっ!」
ぺしぺし華音がエヴァンスを叩く。
「あれ? 違うのか。てっきりそうだと思って、見物に来たのに」
「違うもん。今日は誕生日のお祝いの為に誘ったんだよ!」
「そうか、メインイベントが『打上げ華音』というわけか!」
「違うって。もぉっ」
向きになって言う彼女と、笑う彼はとても楽しそうで。
周囲の人々には、仲の良い恋人同士に見えていた。
First Previous |
1 |
2 |
3 |
4 |
5 |
6 |
7 |
8 |
9 |
10 |
11 |
Next Last