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リアクション
第2話 その後の話
宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)は、空京のシャンバラ王宮へ、女王護衛騎士、『女王の絶対なる盾の騎士』として、配備されたゴーレムの操縦訓練に訪れていた。
マニュアルは熟読していたが、やはり実地での訓練が必要だろうと思う為だ。
盾の騎士団員に与えられた各々のゴーレムは、通常、王宮の、専用の施設に格納されている。
ゴーレム作成者であるオリヴィエ博士は、現在服役中の為、その指南役は、盾の騎士団団長が主に担っていた。
「イコンだけではなく、このようなものまであるのだな」
パートナーのヴェロニカ・バルトリ(べろにか・ばるとり)が、その巨大なゴーレムを見て、感心して言った。
「このゴーレム、どれくらいカスタマイズが可能なのかしら?」
「色を塗り替えるくらいだな。
イコンではないのだし、基本的に改造はできない。
下手に手を加えようとすれば、動かなくなることも有り得るぞ。
博士の修理が不可能となっても、別のゴーレムを支給することはないから、この一体を大事に使うことだ」
壮年の騎士団長が、祥子の問いに答える。
現時点でこのゴーレムは量産できず、数は有限だ。
ゴーレムの数だけの団員はまだ揃っていないが、一人に複数与えられるものではないのである。
「私にも動かせないか?」
ヴェロニカの言葉には、不可能だ、と答えてから祥子を見た。
「貴殿のゴーレムは、既に主を貴殿と定めた。
普通のゴーレムであれば、主人設定の書き換えは容易いが、このゴーレムの書き換えを出来るのは、オリヴィエ博士だけだ。
他の者には動かすことは出来ない」
「戦闘訓練の相手をしてくれる、ヴェロニカ」
祥子が言った。
「自分の体を動かすように、慣れることだ。
そして、血気に逸って忘れがちになるが、くれぐれも、戦おうとするな」
「でも、剣は持てるんでしょ?」
「博士の言葉をそのまま言うなら、剣を持てるようにしたのは、『式典などの時に格好をつける為』だそうだ。
だが、それを武器として使おうとすれば、ゴーレムは動かなくなる。
万一の、大事な場面で働けなくなるぞ」
「もしもその式典で襲撃を受けたらどうするのよ」
「まず真っ先にすることは、剣を投げ捨てることだな。
戦うことは、このゴーレムの役目ではない」
このゴーレムは、イコン等とは、根本的に使い道が違うのだ。
「難しいわね……」
とにかく、慣れて行くしかない。祥子はゴーレムに乗り込んだ。
面会は、監視の下でなら許可された。
アキラ・セイルーン(あきら・せいるーん)とパートナーのゆる族、アリス・ドロワーズ(ありす・どろわーず)は、オリヴィエ博士と面識がないということで不審がられたが、丁度、騎沙良 詩穂(きさら・しほ)と居合わせた。
詩穂もまた、オリヴィエと面識はなかったのだが、ロイヤルガードということで特別に面会が許可され、身元がしっかりしていることで、アキラも一緒に面会が許された、という経緯である。
二人は、王宮の騎士に、オリヴィエの工房に案内され、入り口を入ったエントランスに通された。
待っていると、監視の騎士を伴って、オリヴィエが現れた。
「どちら様かな」
「初めまして。お元気でしょうか?」
詩穂が名乗り、挨拶する。
彼に会うのは初めてだが、全く縁が無いわけではない。
オリヴィエが女王殺害を企てたあの事件の時、詩穂も王宮の警備についていたからだ。
「お陰様で」
「刑罰というか……お仕事の方は順調ですか?」
「まあまあ、といったところかな」
オリヴィエは肩を竦める。
「今日は、差し入れを持ってきたんです」
勿論事前にチェックをされたが、ロイヤルガードなら間違いは無いだろうと許可された。
詩穂は、持ってきた『パラミタンC』を差し出す。
「徹夜とかカンヅメとかする人の必需品かと思って」
「ふうん?」
オリヴィエは、物珍しげにそれを見、ありがとう、と受け取る。
「あんまり、無理はしないでね☆」
「……そうするよ」
オリヴィエは、苦笑しながらそう答えた。
アキラがオリヴィエに面会を希望したのは、ゴーレム技師しての彼に興味を持ったからだった。
「実は俺も、ゴーレム職人なんだぜ。見習いだけど。
本格的なゴーレムの作成には、2、30年修行が必要だとかって、今は、観賞用のゴーレム作成を教わってるんだけどな」
「成程」
オリヴィエは頷いた。
「私も、最初はそれくらい修行させられたような気がするな」
「気がするって?」
持参のクッキーをぽりぽりとかじりながら、アリスが訊ねる。
オリヴィエが淹れたらしい、出されたお茶は、正直飲めたものではなかった。
勿論嫌がらせではなく、単に下手なのだろう。
「何しろ昔のことすぎて。
ゴーレムは普通、魔法技術も併用して作るものだけど、私の場合、そちらの才能が全くなかったから、更に自己流が加わって、試行錯誤に、それなりの年月がかかったよ」
「今もゴーレム作成してるのか?」
「本職を自由にやらせてもらえるようでは、刑罰にはならないだろうしね」
「そっか、残念。
弟子入り、まではいかなくても、色々手ほどき受けたりしたかったのにな」
残念そうなアキラに、オリヴィエは苦笑した。
「師事している人物がいるのだろう。私は、弟子は取らないよ」
「どうして?」
きっぱりと言ったオリヴィエに、アリスが訊ねる。オリヴィエは軽く肩を竦めた。
「人にものを教えられるような、真っ当な人間じゃないからね」
一方、リカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)とパートナーのヴァルキリー、シルフィスティ・ロスヴァイセ(しるふぃすてぃ・ろすう゛ぁいせ)は、女王殺害未遂事件でのオリヴィエ博士の共犯者、巨人アルゴスへの面会を求めた。
アルゴスは、破壊された礼拝堂の復旧作業の人足となっていた。
どうやら、刑罰として強制労働をさせるにしても、その特異な巨体さから、すぐに受け入れ場所が決定されず、当座破壊された王宮の修復の人手に充てている、ということらしいが。
「勿体無い……」
と、リカインは思ってしまう。
「お前達か。前の時より一人少ないな」
「……やっぱりコイツ、ロリコンなんじゃないの?」
今回は置いてきたミスノ・ウィンター・ダンセルフライ(みすのうぃんたー・だんせるふらい)を気にしているあたり、と、シルフィスティはリカインに囁く。
「フィス姉さんと二人並べると、色々喧しいから今回は置いてきたの。
めげずに説得にきたのだけど」
「説得?」
「とぼけないでよ。色々教えて、って言ったじゃない!」
シルフィスティが肩をいからせた。
「負けた、とかなんとか、悔いは無いみたいなこと言ってたけど、あの状況でどんだけMなのよ。
まだ隠居を決め込むような歳でもないでしょ」
シルフィスティは、アクセルギア全開で、巨人の後頭部めがけて蹴りをかまそうとしたが、巨人はヒョイっと頭を傾けてそれを躱した。
「色々?」
「例えば、ニルヴァーナなんかでは、イコンが使えなくて苦戦したし、随伴歩兵の有用性を考えれば、生身での戦闘力向上は、まだまだ重要なことなのよ」
リカインが持論を説明した。
「巨人のあなたと同じことはできなくても、その戦闘技術は大いに学ぶべきところがあると思うの。
そういった指南役を引き受けて貰えないか、って思うのだけど」
巨人は、リカイン達をじっと見下ろす。
「往生際が悪いわね。
これ以上渋るなら、『女王殺害未遂犯はロリコンだった!』画像をばらまくわよ。
事件の時、あなたが肩に幼女を乗せて歩いていたのは、大勢に目撃されてるんですからね」
シルフィスティが、念写写真を突きつける。
「ろりこんとは何だ」
巨人は不思議そうに訊ねてから、
「お前達、根本的なところを忘れているぞ」
と言った。
「え?」
「俺には確かに、ラウルとは違って、罪を償うとか、そういう感覚はあまり無いがな。
むしろ、借りは返す、という感じに近いか。
だが、軍門に下る、と決めた以上は、そうする」
現在、その身の振りを決めるのは、巨人自身ではないのだ。
「だから、そう決めてるのがどうなのって話なんだけど!」
憤然とするシルフィスティに、巨人は苦笑した。
「何とでも言え。俺の使い方に案があるのなら、上に掛け合うのだな」
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